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Fairy Tales 〜美しい手〜
【フラグ1:試練】
「妖精の眼<グラムサイト>覚えるんでしょ?」
白銀の姫ゲームマスターだった黛慎之介は、ニコニコと話しかける。
「俺が連れてってあげるよ。ガレスの元まで」
どうやら妖精の眼を覚えさせてくれるエルフはどうやらガレスと言うらしい。
流石ゲームマスター、実際の3Dとなっても迷う事無くガレスが居るらしい街へと案内され、丁寧にも庵の前まで案内してくれた。
「じゃぁがんばってね」
庵の入り口で慎之介はヒラヒラと手を振って帰って言ってしまった。
そして、そんな慎之介を見送り、庵の中へと入る。
「…塗り薬、妖精の指輪…力が、欲しいのか?」
とんがった耳のエルフ―ガレスの問いかけに頷くと、彼は顔を上げ、その金色の瞳で見据える。
「我が試練にクリアして、みせよ」
ガレスのその一言で、画面がフィードアウトした。
【フラグ2:Open your Heart】
あぁ、何処だろう此処は。とても懐かしい。
暗い部屋の中は、文字で埋まった紙が散らばり、床には辞書が積まれ、視線を移動させればまだ白い紙も散らばっている。
目の前の机の上の灰皿には捨てられず積み重ねられたタバコの吸殻がたまり、その一つにまだ火が付いて紫煙を天井へと伸ばしていた。
まるで数日ほったらかしにした武彦の灰皿みたいだ。
ここは若いころの自分の部屋。
ゲームの世界の癖に粋な事をしてくれる。
自分が一番荒れていた時の記憶の再現なんて。
そう、ゲームなのだ。
シュライン・エマは、はっと思い出したように口元に手を当てた。
自分は他の人たち同様、黛・慎之介に連れられガレスの元へと来たはずだ。
それがいきなりどうして過去と向き合っているのだろう。
(試練……)
そこでシュラインはガレスが言っていた言葉を思い出す。
『我の試練にクリアしてみせよ』
それはつまり言葉の通り『試練を越えろ』と言うこと。
だとすれば、これが試練か。
どうしてこんなものが自分に見えているのだろう。
部屋の中へと踏み出すと、全身が映る姿見に意識を取られる。
そっと顔を上げれば、
「……っ」
短く切られた金の髪。まだ幼い顔立ち。
そういえばこの頃はこの黒い髪が嫌いで、よくこんな風に短く切り込んでコロコロと色を変えていた。
そして、どちらかといえば男物に近いユニセックスの服装の下で、女性らしく変化していく体に嫌悪していた自分。
その、全てが懐かしい。
そっと口を開く。
「〜―――…」
声が、出なかった。
心だけをそのままに、姿だけが過去に戻ってしまった。
そうだとしても、今の自分は自分だ。
シュラインは乱雑に散らかされた部屋にふんっと息を吐き、やれやれととりあえず消し損ねているタバコを消す。そして、散らばった紙をまとめ始める。
辞書を本棚に並べようと手に取ったシュラインの手が、ふと止まった。
(あれ…?)
私はどうしてこんな事をしているんだっけ?
シュラインは手にした辞書をそのまま広げると、その場に座り込む。そして、束ねたはずの紙を無造作に手に取り、辞書に並べられた単語をそのまま紙に書き写し始めた。
カリカリカリ……
ペンが走る音だけが部屋を支配していく。
ただ一心不乱にペンだけを握り、辞書のページをめくり、文字を書き連ねる。
紙を1枚文字で一杯にするたびに、何かが自分の中から落ちていく。
知らずに新しいタバコに火をつけ、口に加えていた。
最初に落ちたのは、今の目的。
次に落ちたのは、今の時間。
そして――――…
もう何枚目のかの紙が文字で一杯になろうとしていた瞬間、
「ダメ!!」
シュラインは叫び、立ち上がる。
違う。
ここに今いる自分は、今の自分ではない。
私は立ち直れたはずだ。
沢山の人たち、大切な恩人…その人たちに背中を押されて、私は立ち直れたのだ。
こんなところで立ち止まる訳にはいかないのだ。
思い出せ。
今私が何をしていたのか。
気が付けば、シュラインの服装はアスガルドへ導かれた際の格好へと戻っていた。
髪をまとめるように頭についている妖精の花飾りが耳に当たる。
それでも、カリカリとペンを走らせる音は絶えずし続ける。
ゆっくりと顔を伏せれば、若い頃人やその台詞が信用出来ず人を避け、一心不乱に諸々の国の単語を書き連ねてた昔の自分が居た。
――――いいの?
知らない声が問いかける。
――――煩わしいものに取り囲まれた世界
ぎゅっと手を握り締める。
目の前で机に向かっていた自分が立ち上がり、シュラインをじっと見つめた。
そして、薄らと口を開ける。
――――そんな世界に戻っても、いいの?
小さく動いたその口は、そう問いかけているように思えた。
――――好きでしょう?こういうの
ずっとここにいましょう?と、私が手を差し出す。
「そうね……」
シュラインの答えに、私はうっすらと満足そうに微笑む。
「でも、私はもうそこには戻らない。やるべき事もあるし、大切な人もいるから」
私がこの答えに瞳を大きくする。
「確かに、あなたも私だわ。それに、私はこの世界が好き。誰にも煩わされない世界が」
――――なら…!
シュラインは諭すように薄らと微笑み、しょうがないと言わんばかりの口調で答える。
「今の私には、それが全てじゃないもの」
その言葉を聞き、残念そうに顔を伏せた私が霧のように消える。同時に、懐かしい空間も消えうせた。
そして、一つ残る先ほど火をつけたタバコ。
タバコの紫煙はゆっくりと立ち昇り、何かを指し示すように流れていく。
シュラインは導かれるように紫煙を辿ると、そこに自分の姿がすっぽり収まる鏡が立っていた。
そう、鏡に映る今の自分。
迷いはない。
シュラインが鏡に触れると、ギィっと小さな音がした。
一瞬きょとんと瞳を瞬かせるが、何かに気が付いたようにシュラインは優しく微笑み、鏡の扉に手を開ける。
光に、包み込まれた―――――
【フラグ3:ガレスの紋章】
「帰ってきたか…」
落ち着いた声音が耳に響く。
ゆっくりと眼を開くと、ガレスがやれやれといったような表情で自分を見ていた。
「妖精の眼<グラムサイト>は取得できたようだな」
ガレスは杖ですっと自分の手の甲を差した。
つられて視線を落としてみれば、手の甲に幾何学模様の紋章が輝いていた。
next 〜吠える獣〜
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■ 獲得アイテムとイベントフラグ詳細 ■
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ガレスの紋章獲得
よって『妖精の眼<グラムサイト>』習得
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/魔法使い】
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業/今回のゲーム内職付け】
*ゲーム内職付けとは、扱う武器や能力によって付けられる職です。
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■ ライター通信 ■
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Fairy Tales 〜美しい手〜にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧です。今回は完全個別という事でかなり自由度の高いシナリオ加えてプレイングがなければ話が進まないという事もあり、凝ったプレイングありがとうございました。
シュライン様、毎回のご参加ありがとうございます。昔の自分と今の自分の会話という形と取らせていただきました。楽しんでいただければ幸いです。毎度毎度有言不実行ライターでしたが、もう直ぐFairy Talesシリーズも折り返しの時を迎えあと一息です。
それではまた、シュライン様に出会えることを祈りつつ……
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