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Fairy Tales 〜美しい手〜
【フラグ1:試練】
「妖精の眼<グラムサイト>覚えるんでしょ?」
白銀の姫ゲームマスターだった黛慎之介は、ニコニコと話しかける。
「俺が連れてってあげるよ。ガレスの元まで」
どうやら妖精の眼を覚えさせてくれるエルフはどうやらガレスと言うらしい。
流石ゲームマスター、実際の3Dとなっても迷う事無くガレスが居るらしい街へと案内され、丁寧にも庵の前まで案内してくれた。
「じゃぁがんばってね」
庵の入り口で慎之介はヒラヒラと手を振って帰って言ってしまった。
そして、そんな慎之介を見送り、庵の中へと入る。
「…塗り薬、妖精の指輪…力が、欲しいのか?」
とんがった耳のエルフ―ガレスの問いかけに頷くと、彼は顔を上げ、その金色の瞳で見据える。
「我が試練にクリアして、みせよ」
ガレスのその一言で、画面がフィードアウトした。
【フラグ2:I and I】
単純だと、思う。
綾和泉・汐耶は投げ込まれたような闇の中で、両腕を組む。
前後左右上下、まったく判別が効かないだけのただの闇。
もし彼が言っていた試練がこの闇の攻略ならば、こんなものどこにでもある物で、試練のようには思えない。
「やっぱりゲームだからかしら?」
ガレスはこの試練がどんなものだという事は一切口にしなかった。
ただ、我が試練をクリアしろ。と言っただけ。
実際どんな試練だって彼が作った試練なのだから、自分はただ従いクリアするだけ。
手短にさっさと終わらせて、さっさと帰ろうと汐耶はもう一度辺りを見回した。
「…?」
コツコツ…と足音を響かせて、何かが…たぶん誰かがこちらへ近づいてくる。
(他の誰かかしら?)
この試練を受けているのは自分一人だけではない。黛・慎之介に案内された全員が一度にこの試練を受けた。
ならば、もしかしたらこの闇の中で出会う事もあるのかもしれないと、汐耶はその足音の方へと意識を集中させる。
徐々に露になる輪郭に、汐耶は瞳を見開いた。
「こんにちは」
肩をすくませる様にくすっと微笑んで、挨拶したのは――私。
でも、今の汐耶の格好とは違う、現実世界でのパンツスーツのセキヤ。
「誰…?あぁ、いいえ、いいわ」
あまりの驚きに、誰?と口にしてしまったが、目の前にいるのは紛う方なき自分。誰と聞くほど自分の顔を知らないわけじゃない。
(ゲームの中だもの。私がもう一人居たっておかしくはないわ)
精巧に出来たコピーだとしても、誰と問われ「アヤイズミ・セキヤ」と答えるのは眼に見えている。そんな事を聞くこと自体不毛だ。
「理解力が高くて助かるけど、私は別にコピーでも何でもなくてよ?」
見下すように微笑むセキヤは、汐耶の考えを一蹴する。
「私はあなた。あなたは私。私たちは二人で一人。ふふ…便利だわ。この世界」
くつくつと笑いながらセキヤはゆっくりと汐耶の周りを歩き出す。
「ところで汐耶、此処から出る方法は見つかったの?」
全てを見透かしたような声で、セキヤは問いかける。
「いいえ」
自分に嘘をついても仕方がないし、実際見つかっていないのだから汐耶は素直に答えた。
「そう、じゃぁ私は戻るわ。またね」
来た時と同じようにコツコツとヒールの音を響かせて闇の中を歩いていく。
戻るとは、どこへ戻るのか。
「待ちなさい!」
汐耶は思わず駆け出すと、完全に背を向けていたセキヤの肩を掴む。
「放してくれる?」
「私の質問に答えたらね」
「仕方ないわね」
ふーっと息を吐いてセキヤは、どうぞ?と言葉を促す。
「戻るって何処に戻ると言うの?」
「そんなの、私の体に決まってるじゃない」
それ以外に戻るなんて、何処があるの?とでも言わんばかりの表情でセキヤは汐耶を見る。
予想通りといえば予想通りの答えだが、それはそれで困る。
「ダメよ」
「質問に答えたら放す約束でしょ。放さないなら力ずくで行くけど?」
怪訝そうな眼差しのセキヤと、睨み付ける汐耶。
力ずくとは言ったが、どちらも同じ汐耶であることに変わりはなく、その体が持っている体力も知識も能力も同じ。
もしかしたら狡猾さだけは違っているかもしれないが。
自分の力を理解している事は、同時に弱点も防ぎ方も分かっている事と同じ。
口ではそう言いつつも、安易に行動に移れるほど簡単な事でもない。
「貴女が体に戻ったら私はどうなるか聞いてもいいかしら?」
「今までの私みたいになるだけだと思うけど?」
投げかけた疑問を疑問で返してくる。
質問をしているのも、答えているのも私。
基本となるモノが違ったとしても私で在る事には変わりない。
「だったら尚更手を放すわけにはいかない」
自分の中にある自分だから、この人格が狂気をはらんでいる事を知っている。
「いいじゃない、今まであなたが好き勝手してきたんだもの。今度は私が好きに生きたってかまわない筈だわ」
「私は好きな事はしてるけれど、好き勝手してきたなんて思ってない。あなたほど自分勝手に生きたいとは思ってないもの」
現実世界で生きる事は、人間関係や社会に挟まれ、数々の柵に向き合いながら生きていく日々。
確かに自由に物を見、触り、体験する事はできるかもしれないが、それだけで“生きていく事”はできない。
じっと睨み付ける汐耶と、むっとした表情のセキヤ。
沈黙が流れる。
二人は同時にすぅっと息を吸い込んだ。
「私の中で世間の荒波に揉まれた事のないあなたが生きていけるとは思えない」
「好きなものに囲まれて生きてるあなたに何が分かるの!」
高次元なんだが低次元なんだか分からない口喧嘩が延々と繰り返されていく。
言っている事は、傍から見れば遠回りで同じ事のように聞こえなくもない?
「「それに」」
二人は一度言葉を止めると、すぅっとまた息を吸い込んだ。
「あなたに体を明け渡したらこの先本が読めないじゃない!」
「あなたが体を開け渡してくれなきゃ本が読めないじゃない!」
ん??
二人はお互いの言葉を頭の中で反芻し、きょとんと瞳を大きくする。
「馬鹿ね、私たち」
くすっと笑ったのは汐耶だった。
「そうね」
その言葉に答えるようにセキヤも髪をかきあげる。
「同じ事思ってたなんて」
「当たり前よね」
二人はお互いの顔を見合わせ、真正面から立つ。
「「私はあなたで、あなたは私なんだから」」
吹っ切れたように笑うセキヤの体が薄くなる。
「別に自分で本を読むっていう行為をしていなくても、本と一緒に居なかった訳じゃないのにね」
眉を寄せて微笑むセキヤの表情は、なんだかとても暖かいものに見えた。
―――だって、私は私だもの
セキヤの言葉に、汐耶は瞳を伏せうっすらと微笑む。そして、胸の辺りを軽く押さえた。
その瞬間、降り注ぐ突然の光に顔を上げる。
光が全てを包んだ―――――
【フラグ3:ガレスの紋章】
「帰ってきたか…」
落ち着いた声音が耳に響く。
ゆっくりと眼を開くと、ガレスがやれやれといったような表情で自分を見ていた。
「妖精の眼<グラムサイト>は取得できたようだな」
ガレスは杖ですっと自分の手の甲を差した。
つられて視線を落としてみれば、手の甲に幾何学模様の紋章が輝いていた。
next 〜吠える獣〜
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■ 獲得アイテムとイベントフラグ詳細 ■
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ガレスの紋章獲得
よって『妖精の眼<グラムサイト>』習得
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女性/23歳/都立図書館司書/戦士】
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業/今回のゲーム内職付け】
*ゲーム内職付けとは、扱う武器や能力によって付けられる職です。
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■ ライター通信 ■
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Fairy Tales 〜美しい手〜にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧です。今回は完全個別という事でかなり自由度の高いシナリオ加えてプレイングがなければ話が進まないという事もあり、凝ったプレイングありがとうございました。
汐耶様、毎回のご参加ありがとうございます。正直口喧嘩にはなっても罵り合いにはしたくなかったので、二人の会話には結構苦労させられました(苦笑)僕のデータ収集不足かもしれませんが第二人格の他のノベルを探してみたのですが、見当たらなくあまり変化がなくなってしまい本当にこれでよかったのだろうかと思っています。それでも楽しんでいただけたのなら幸いです。Fairy Talesももう直ぐ折り返し地点へと到達します。有言不実行気味を体言しているライターですが、よろしくお願いします。
それではまた、汐耶様に出会える事を祈りつつ……
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