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<東京怪談・PCゲームノベル>


獣達の啼く夜sideβ

オープニング

誰か、あたしを助けて。
そうずっと願っていた。
だけど、誰も助けてくれる人はいなかった。
あの時以上の地獄なんてあるわけないと思っていた。
だけど、あの時の出来事は地獄の始まりに過ぎなくて
更なる悪夢があたしに襲い掛かってきた。
だから、あたしはもう助けを待たない。
待っても救いの手を差し伸べてくれる人なんていなかったから。
地獄がくるなら来るがいい。
あたしは全てを受け止める事にしてやる。
今のあたしに怖いものなどない。
だから、あたしは後ろを振り返ることなく前に進む。
その先に何があるのかは分からないけれど。


※※始まりの第一夜※※


その日は激しい雨が降りしきる夜だった。
尭樟生梨覇(たかくす おりは)と雪沢海斗(ゆきさわ かいと)は公園の前で震えながら座っている少女を見つけた。
その少女の瞳は闇夜の中でもはっきりと分かるくらいの赤い瞳。
「あなた、どうしたの?」
なにやら普通ではなさそうな少女に生梨覇が問いかける。
「家出少女にしては変だな」
海斗も少女の顔を覗きこみながら言う。
だが、その瞬間、少女の身体がグラリと揺れ前のめりに倒れこんできた。
「お、おい!」
水溜りに倒れこむところを海斗が抱きとめる。
「…おい、こいつ…牙がある…」
苦しげに息を吐く少女から見え隠れするのは肉食動物のように尖った牙、犬歯にしては鋭すぎる。
「どうしたものかしらね」
生梨覇が困ったように言うと暗闇の中一人の人影が二人の視界に入ってきた。
「あら、お久しぶりね」
「何だ、あんたか。そういえば…あんたの家がこの近くだったよな。行き倒れの人間見つけたから連れて行ってもいいか?」
こうして一人の少女を拾ったのだが、キシキシと軋む運命の歯車の中に巻き込まれたことなどこの時の自分は思いもしなかった…。


視点⇒七城・曜

 激しい雨が窓を強く打ちつけ、その音が静寂に包まれた部屋に大きく響いていた。
「様子はどうだ?」
 曜が替えのタオルと薬を盆に乗せながら部屋に入る。
 その部屋には布団に横になり、苦しげに荒々しい呼吸を繰り返しながら眠る少女の姿とその横で壁に凭れながら座る生梨覇と海斗の姿があった。
「見ての通り、眠り姫はまだ起きやしないな」
「熱も下がらないわね、薬を飲ませようにも眠ったままじゃあね…」
 生梨覇は曜からタオルを受け取り、少女の額に乗せてやる。そのタオルの冷たさに反応したのか、少女が閉じていた瞳をゆっくりとした動作で開き始めた。
「お、起きたみたいだぜ、眠り姫がさ」
 海斗がからかうように言うと、曜は少女に視線を移して「起きたか」と短く言葉を投げかけた。
「…ここは…」
「私の家だ。倒れていたのをこの二人が見つけたらしい」
 曜はちらりと海斗と生梨覇に視線を流しながら淡々と言葉を続けた。
 人の家、という事を理解したのか少女は慌てて起き上がり、出て行こうと扉に向かって走り出した――…が、熱のせいでグラリとバランスを崩して扉の手前で倒れ込んでしまう。
「大丈夫?熱があるんだから無理をしちゃだめじゃない」
 畳に顔をぶつける、というところで生梨覇が抱きとめて少女に優しく微笑みかける。
「離せ!私に構うな!どうぜお前らも追手だろう!」
 追手という言葉に曜は眉間にシワを寄せて「…どういうことだ」と短く問いかける。
 曜の様子を見て『追手じゃない』と判断したのか「…本当に追手じゃないのか…?」と怯えたように見つめてきた。
「…あいにくと人に使われるのは嫌いなんでね」
「私も同じくよ、私は尭樟生梨覇、こっちは雪沢海斗で、あの着物の人が―…」
「七城・曜だ。キミの名前は?」
「…あたしは…優、小日向…優…ねぇ、一つ聞いてもいい?あたしは『何』に見える?」
 優と名乗った少女の突然の言葉に三人は目を丸くして互いの顔を見合った。
 それも当たり前だろう。優の言い方を聞いていれば、まるで自分が『人間』ではないと言っているようなものなのだから。
「…まるで自分が人間じゃない、と言っているように聞こえるわね」
 生梨覇は口元に手を当てて、考えるような姿勢で呟く。
「そうだよ、あたしは人間じゃない。…性格には人間だった…とでもいうべきなんだろうね…」
 淋しそうに俯きながら呟く優の姿を見て、三人は優にかける言葉が見つからなかった。
「…詳しく話を聞かせてもらえる?」
「……西脇製薬会社って知ってる?その会社が警察や政府の依頼を受けて極秘に行っている…ビースト・プロジェクト…。人間と動物の遺伝子を組み合わせて最強の兵器を作るという神を冒涜するような行為、その中にあたしがいた…」
 優はそれからも言葉を続け、これまでのことを説明してきた。
 一人の実験体が暴走した隙を見て研究所から逃げだしてきたということ。
「…あたしは…逃げられない、人間にも戻れない…もう…生きていても仕方ない…もう死んでしまいたい…生きてても良い事なんてない!」
 突然、優が肩をガタガタと震わせて錯乱し始める。
「お、おい!落ち着け!」
「優?」
「いや、いやだ…触らないで、あたしはあんた達とは違う。バケモノでしかないんだから!」
 …―――パシン!
 優が叫び終わると同時に乾いた音が部屋の中に響き渡った。その音が叩かれた音だと言う事に優が理解するまでにそう時間はかからなかった。
「落ち着け、しかし笑わせるものだな。その程度で自分が本当にバケモノだと思っているのか、自惚れたものだな。人外という意味なら十分にそこの二人もお前以上のバケモノだし、私などキミより遥かに危険なバケモノだぞ」
 曜の言葉に優は目を丸くし、その瞳から流していた涙もピタリと止まった。何故なら、曜が一匹の鬼を召喚して優の前に立たせていたからだ。
「…ひっ…」
 言葉にならない悲鳴と、恐ろしい恐怖感が優を襲う。
「家も、親も、戸籍すらない輩など組では珍しくもない。しばらくの衣食住は保障してやるから家政婦仕事でもしてろ」
 それが曜なりの優しさなのだが、生梨覇も海斗も「優しいな」という言葉は使わなかった。
 なぜなら、曜は「優しい」言われる事が嫌いだと理解しているからだ、だから苦笑を漏らしながら優を説得し始める。
「…だけど、あたしがいたら絶対に誰かが追手として来る…。迷惑はかけられないよ…」
 優が申し訳なさそうに言うとベシと頭を軽く叩かれる。叩いたのは海斗で「なめんなよ」と短く呟く。
「他人に心配してもらうほど俺らは落ちぶれちゃいねぇよ」
「確かにそうだわね。人からの心配だなんていらぬ事だわ、ねぇ?曜」
「その意見に関しては同感だ、だから何も怯えることなく家政婦をしてろ」
 いいな?と有無を言わさぬ言葉に優はオズオズと首を縦に振った。
「…曜って凄いね」
 優がポツリと呟いた言葉に曜は少しだけ表情を険しくして「何が?」と短く言葉を返して首を傾げた。
「なんていうか…凄いなって…」
「…だから、何が?」
 はっきりしない優の言葉に少々苛立ちながらも曜は優が覚えないように静かな声で再度問いかける。
「やっぱり子供のあたしとは違うなぁ。貫禄があるっていうか…。大人って雰囲気があるもん」
 優の言葉に多少の疑問を感じながらも「優は何歳なんだ?」と問いかける。外見から見ても優は自分と同じか年下にしか見えない。
「え?あたしは十七歳だよ。曜は?」
「…………同じだ」
「…え。ウソだぁ…」
 曜がウソを言っていると思ってるのか、優はけらけらと笑っている。…が、曜の様子を見て「……本当に?」と聞きなおしてくる。
「…ウソを言ってどうする。サバを読むほど私は年は取ってない」
「…ご、ごめんなさい!曜って大人っぽいし、喋り方も貫禄があるし、いや、だから…その…」
 曜の言葉を聞いて優は自分の頭で思いつくだけのフォローをするが、あまりフォローになっていない事を理解したのか言葉を詰まらせる。
 曜の後ろでは笑いを堪えて肩を震わせる海斗と生梨覇の姿が見える。
「別にいい…、今日は疲れただろう。もう寝ろ」
「…うん、曜、生梨覇、海斗、ありがとう…それと巻き込んでしまってごめんなさい」
 優は小さく呟くと、横になりそのまま寝息を立て始めた。
「人の心配ばかりだな」
 曜が短く呟くが、その言葉は優には届いていなかった。
「何とかなるでしょ」
 生梨覇もニコリと笑って答える。

 だが、三人は知らない。
 優と出会ってしまったがためにキシキシと軋みだした自分達の運命を。
 そして、優すらもそのことはまだ気がついていない。
 いつしか雨は止んでおり、雲から姿を見せた丸い月だけが全てを見透かしていたように見えた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

4582/七城・曜/女性/17歳/女子高生(極道陰陽師)

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■         ライター通信          ■
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特別出演
東圭真喜愛様よりお借りしました⇒『尭樟生梨覇』
風深千歌様よりお借りしました⇒『雪沢海斗』

★★★★★★
七城・曜様>

初めまして。
今回「獣達の啼く夜sideβ」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
納品が遅くなって申し訳ございませんでした^^;
「始まりの第一夜」はいかがだったでしょうか?
個人的には気に入っている話なんですが…。
ご意見、ご感想などがありましたら是非よろしくお願いします^^
それでは、またお会い出来る機会がありましたら、よろしくお願いします^^

             −瀬皇緋澄