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<東京怪談・PCゲームノベル>


Track 17 featuring モーリス・ラジアル〜なりゆき人生相談

 …ある日の月刊アトラス編集部。
 ソファとテーブルに給湯ポットが置いてある来客用の休憩スペースでの事。

 モーリス・ラジアルは静かに自分で淹れた紅茶を飲んでいた。…周囲の殺人的な賑やかさを気にもしていない。
 テーブルを挟んだ正面のソファでは学校帰りと思しき女子高生が座り、溜息を吐いている。
 この大騒ぎの中でそうやって居られると言う事は彼女もまたこの月刊アトラス編集部と言う場所に慣れている人物であるのだろう。そしてこの、人を人とも思わず無視して通り過ぎて行く編集員たちの中に居るとなると…逆にひとりきりにも近い状況、今この場は誰にも干渉されないで居られる環境とも言えるかもしれない。
 暫く彼女を観察しているに、何か悩み事でもあるようだ。
 …そうは言ってもモーリスにしてみればこの彼女、どうでもいい相手でもあり。
 ただ、自分はその場に居るだけで周囲の人物を安心させるような雰囲気へとその場の空気を変える事が出来る――つまりは精神安定剤のような効果を齎せるのもわかっている訳で、彼女はその為に自分の前に居るのかもしれないとも薄々勘付いてはいる。
 彼女当人に自覚がなくとも、その為にこの場から離れたくないと無意識下で思っている可能性はある。
 優雅に紅茶を啜りながら、モーリスはふと考えてみた。
 …彼女の悩みは何か。
 この年頃となると色恋の話でしょうか? でしたら私でもお役に立てそうな気はしますが。
 ああ、学生さんですから勉学の方でしょうかね? 部活動…友人関係や先輩後輩関係…と言った類のものも可能性としてはありますか。
 それとも、家での事か。…両親や兄弟との仲で悩む事もあるでしょうしね。
 ここは月刊アトラス編集部ですから…ただの女子高生さんとも思えませんけれど。それ故の悩みと言う事もあるでしょうか?
 さて。
 …時々は、気まぐれも起きる。
 モーリスはふと目を上げる。それは向かいの女子高生がこちらを見たのと偶然同じ時。…いや、実は狙ったのだが。…自分はかなりの美形に見られる事はわかっているから視線を呼ぶのは難しくない。
 にこりと微笑み掛けてみる。
 軽く会釈をされた。…特にそれっぽい反応はされない。
 この反応では…色恋で悩んでいるのではないか。
「…大丈夫ですか?」
「えっ」
「失礼かと思いましたが、ずっと何事かお悩みのように見えましたので」
 よく考えたら今初めて話し掛けた事になる。…テーブルを挟んでではあるが、ずっと相向かいに座っていて今まで無視だった事に全然気付いていなかった。そこにいきなり話し掛けられればそれは驚くか。
「あ、それは…」
 彼女はモーリスの科白に言葉を濁す。
「いえ、通りすがりの私などに話す事もないと思いますし、言い難い事でしたら言う必要はありませんよ」
「…」
 躊躇いながらも、彼女は何か言いたそうな顔になっている。
「…誰でもいいから話してしまいたいと言うのなら、お悩みの件、お伺いしますが?」
 そこで、モーリスは彼女に対してもう一押ししてみた。

 そして彼女――相楽まのみと言うらしい――はぽつりぽつりと話し出したのだが…曰く。
 信用していた人にずっと嘘を吐かれていた事を赦したいのか赦したくないのか考え過ぎて自分でもわからなくなって来てしまっている事。
 ずっと好きだったその、お姉さんみたいな人が、自分の…と言うか自分の親とかお世話になってる人たちの敵だとわかった時、好きになっちゃいけないと思ったけどやっぱり嫌えないと言う事。
 そんな調子で暫く話し、殆ど愚痴になってしまいましたすみません、と我に返るなり慌てて謝っている。

 ふむ。
 特に難しく考える事はないと思いますけれど。
 周囲は周囲、自分は自分で。
 思うように行動すれば良いのではと。
 私ならそうやって悩んでいる時間が勿体無いと思いますけどねぇ、とだけ告げ、モーリスは再び紅茶に口を付けている。
 まのみは相変わらず悩んでいる。
 彼女のその姿を相変わらず観察しながら、モーリスは自分の予想した悩みの内容と、彼女から聞いた悩みの内容を照らし合わせてみる。

 …予想は、半分当たりで半分外れ、と言ったところになりますか。



 …そして暫し後、相楽まのみが去ってから。
 何やら再び似たような状況になっている。
 今度はテーブルを挟んだ相向かいのソファ、溜息を吐いているのはキリスト教系の僧衣らしい黒い長衣を着た男。
 いったい何だと言うのか、妙に殺気立っている。
 別に月刊アトラスの編集員ではなさそうなのに。…ここの編集員であるのなら、まぁ、ある程度殺気立っていてもそれは特に気にするような事でも無い。まったく普段通りの事。碇麗香女王様…もとい月刊アトラス編集長から容赦無く檄を飛ばされれば簡単にそのくらいの精神状態になるのだから。
 ここは休憩用に取ってあるスペースとは言え、目の前のテーブル上に原稿でも広げていたとすれば――例え外見がそう見えなくとも、その実、バイト員や外注のライターが緊急のデスク代わりにしていると言う事は充分有り得る話で。
 が、この彼は別に原稿を広げてはいない。となると、殺気立っている理由が編集部のお仕事関連とは考え難いか。
 ただ黙してテーブルに両肘を突き、祈るように両手を組んでいる。その手に額を任せるように俯いてもいる。…何かを待っているようでもある。
 そして何故か、彼は極力自分を無視しているとモーリスは気付いている。
 …ええそれはもう、わざとらしいくらいに。
 そうされてしまうと、却ってこちらに興味を向けさせたくもなるのだが。
「…つかぬ事を伺いますが、神父さん、ですか?」
 おかわりの紅茶をテーブル上に置いてから、ぽつりと声を掛けてみる。
 それでもやっぱり彼は無視。動かない。
「…」
「あの?」
 小首を傾げて再度声を掛けてみる。
 と。
「…俺に話し掛けないでくれ…」
 今度こそ――何処か情けないような声を出し、はぁ、と息を吐く彼。途端、殺気が消えている。…ああ、無視していたのはこちらの雰囲気に呑まれないようにしていたと言う事なのでしょうか? …残念ですが無駄な努力だと思いますけれど。それより、私に影響されないように居たいと言うのなら、この場を離れる事――私の側から離れる事こそ有効に感じるのですが…何かここから離れたくない理由でもあるのでしょうか?
 私が魅力的に感じたと言う事でもあるのでしょうかねぇ? もしそうなんでしたら、お付き合いしてみるのも吝かではありませんが。
「…最前まで随分と尋常でない殺気を感じましたけど」
 どうかなさったんですか?
「…ここはアトラス編集部だろう」
「ええ」
「ここにはあの女吸血鬼が来る可能性がある」
「吸血鬼さんがどうかなさいましたか?」
「…俺の仇だ」
「それは…穏やかでないお話のようですね」
「…貴様も止めようとするクチの人間か」
「いえ別に。貴方にもその吸血鬼さんにも特に思い入れはありませんし」
「…」
 さらりと言うと、彼はそのまま黙り込む。何処か、複雑そうな顔もしていますか。…こちらの反応が意外だった…のでしょうかね? ああ、アトラス編集部は何だかんだでお優しい人が多いみたいですし。そんな中にあれば突き放した言い方のように感じられますか。
 ただ。
 よくよく彼を観察し直して見れば。
 どうも人のような気がしない――と、言うより。
 吸血鬼と言う言葉が先程出されましたが、この彼の属性は――まさにその系統の闇の眷族にしか見えず。
「…ところでそう仰る貴方もまた、吸血鬼さんのようにお見受けしますが」
 それで吸血鬼さんが仇なのですか?
 と、モーリスがあっさり疑問を呈するなり。
 彼はじろりと睨んでくる。
 そうなると。
 これは。
「…ひょっとして、仇って“お母様”ですか?」
 そう言った時の反応は――まぁ予想通りで。
 こちらに食って掛かろうとしたい、けれど抑えているような葛藤が良く見える態度で。
 ただ、少しそのままでいたかと思うと、諦めたように彼はまた溜息を吐いている。緊張は続かない。
 が、そこで安堵してしまっている自分に苦悩しているようでもあって眉間に皺を寄せている。
 …まぁ、これ――緊張が続かない――のはある意味私のせいとも言えますけれど。
 それでも、仇――仇討ちなどと言う話は、この場に於いては余計な話ではあると思いますし。
 いえ、そもそもこの方、本気なのでしょうか?
 どうも、そうでもないような気がするんですが…?
 暫く考えてみる。
 観察を続ける。
 これは、ひょっとして?
 少し思い付いた事を実行する為、モーリスは軽く身を乗り出し、彼に話し掛けてみた。
「…唐突ですが、私は調和者でもあるんですよ」
「…?」
「私はモーリス・ラジアルと申します。お名前伺っても構いませんか?」
「…キリエだ。キリエ・グレゴリオ」
 と、言われた通り名乗りながらもキリエは不審そうな顔でモーリスを見ている。
「では改めてご説明しますキリエさん。調和者と言いましたが、これは…生きとし生けるもの、形あるもの・姿形の定まらないすべての存在を調律・調和してあるべき姿――最適な姿に戻す能力を持つと言う事なんです」
 私は取り敢えずこの能力をハルモニアマイスターと名付けていますが。
「…元に戻す?」
「ええ」
「…それは吸血鬼を人間に戻す事も可能か」
「それがその『もの』にとって最適であるならば。…ですが負の存在についてもこの能力は適用されますからそうなるとも限りません。吸血鬼は大抵の場合で元人間とも言えますからねぇ…判断が付き難いところです。吸血鬼として相応しいか相応しくないか、その自分の立場を本心から望んでいるかいないかが基準になりやすいでしょうか…はっきりしませんけどね。何にしろ、この能力の前では意地や建前は関係無くなりますよ。何も飾らない素の本当の自分――そう、貴方自身として最適な状況に戻る訳です。あまりに自分を飾って過ごして来た方や、心に強固な鎧を確りと着込んでいる方ですと…場合によってはがらりと『変わって』しまうとも言い換えられるかもしれませんねぇ?」
 思わせ振りにモーリス。
 と、キリエは苦虫を噛み潰したような顔になる。先程話の途中、ハルモニアマイスターの能力について説明した時点で見せた、少し興味が湧いたような表情とは対照的な。…やっぱり先程の思い付きは正しいようですねとモーリスは確信。貴方はその“お母様”に当たる女吸血鬼さんへの気持ちを隠したいが故に仇と思い込もうとしている――そう自分に言い聞かせているんでしょう?
 そうでもなければ、今の説明の上ならばハルモニアマイスターを使ってくれ、と普通に言ってきておかしくない。
 仇だと言う言葉通り、それがすべて本心だと自分で信じられるのならば。
 少なくとも、苦虫を噛み潰す必要はない。
「…誰も俺の事とは言っていない」
 キリエは予想通り、否定の言葉をぼそりと呟いてくる。
 外見だけで言うなら私より多少年上に見えるのですが、何だか素直な反応ですねぇ。
「…おや。そうでしたか? …このハルモニアマイスター、貴方に使って差し上げても構わないと思っていたんですが? キリエさん」
 何の気なく――とは言っても多少の含みは感じられてしまったでしょうが――そう提案してみた途端。
 キリエはと言うと警戒して毛を逆立てている猫の如き態度になっており、顔を逸らしてこちらを見ない。

 …凄くわかりやすいですねぇ。
 随分と可愛らしい反応をしてくれる方です。



 …更に後。
 キリエさんに呼ばれたように長髪美形の落ち着いた佇まいの方が何も無い空中から忽然と現れて、彼と共にキリエさんは何処かへ忽然と消えてしまったのですが――それから、後。
 そろそろ既視感も甚だしいが、一応同じ時間を繰り返している訳ではない状況での事。
 再びテーブルを挟んだ相向かいのソファにひとり現れている。
 ただ、今度は――先程のキリエ・グレゴリオがここに居た時にふと考えてみた可能性こと、原稿を前に緊急のデスク代わりにこの場所を使っている――と言うのが正しい状況で。ただ、それをしているのが小学生らしい年頃の少年と言うのは少々不思議でもある。
 少年はノートパソコンを時々操りつつ、その横でかりかりかりと何か書き物もしている。…本格的だ。
 いったい何をしているのか少し興味を抱き、モーリスは覗き込んでみる。
 と。
「…さっきまのみさんとキリエさんとお話ししてましたよね」
 そのタイミングで、原稿とパソコンから目を離さず手も止めないまま少年はぽつりと呟いている。
「申し遅れました。僕はイオ・ヴリコラカスと申します。まのみさんはお姉さんみたいなもので、キリエさんはお兄さんみたいなものになります。…血縁は無いんですけど」
 そう言いながらも、ちょっと手が離せないので申し訳ありませんがこのままで失礼させて下さい、またいつか改めて御挨拶させて頂きます、と断り、イオはモーリスの方を見もしない。
 まぁ、それでも構いはしないが。
「アトラスの原稿ですか」
「はい。資料の翻訳です」
 言いながらもイオはぱたぱたぱたとキーボードを叩いている。…指捌きが鮮やかだ。
「それより、まのみさんとキリエさんの事なんですが…お願いがあるんです」
「?」
「またお時間があって、良かったらですが…また相談に乗ってあげて下さい。お願いします」
「それは構いませんけども。と言いますか少しお話はしましたが…相談と言う程の事は何もしていませんが? …特にキリエさんの方は相談と言うよりからかってみた、と言うのが正しい気もしますし」
「それでいいんです。…まのみさんもキリエさんも思い詰め易い方ですから、どんな形でも良いんで、時々ガス抜きしてあげないと…傍で見てる方が大変になってくるんです」
 本当にお願いしますね。…そこまで残すと、イオはノートパソコンをぱたりと畳み、書いていた原稿の紙束を揃えると、ソファから立ち編集長の元へと駆けて行く。

 元気ですねぇ。
 それに、お忙しいんでしょうに…お姉さんとお兄さんの事を気に懸けて私のところまでいらっしゃるとは。
 …小さいのに確りしてらっしゃる方のようで。



 …ここまで何度もあるとさすがに慣れて来る。
 二度あることは三度ある、では三度ある事は四度もあるのか。
 とにかく月刊アトラス編集部の来客用休憩スペースでの事。
 そろそろ打ち止めだったりすると嬉しいが、取り敢えずそこまでは口に出さない。

 そして更に言うなら今度は、テーブルを挟んだ相向かいに座るのは、ふたり。
 一緒に居るのが奇妙に思えるくらい、全然印象が違う。
 片方はやはりキリスト教系の黒の長衣――僧衣らしい服を着た、二十歳前後の神父風の、だがやや険呑な印象を与える人物。そしてもう片方はこんな場所では場違いと言えそうな赤いドレスを纏った妙齢の貴婦人風の人物。やや顔色が青白い。が、だからと言って別に元気が無いと言う訳でも無さそうで。
 彼らふたりはモーリス同様手ずから自分たち用の紅茶を淹れると、お互いに何事か話し出す。

「…少なくとも今ここにはキリエ・グレゴリオの姿は見えないようだな?」
「行き違いになったのかしらね? …イオに訊くのも忙しそうだから止めとくけど」
「…卿らの関係は相変わらず複雑と見える」
「貴方もいつかわかる時が来ると良いけどね」
「…『仕事』でない限りそんな厄介は御免だ。勘弁してくれ」

 妙齢の貴婦人の方、話している口端からちらりと牙が覗いている。
 と、なると。
 お話にも名前が出てらっしゃる事ですし、先程のキリエさんの“お母様”なんでしょうか。イオさんの名前も出ていますし。
 何にしろこちらもまた、関係者になるようですね。
 …少し黙って聞いていてみましょう。

 と、思ったら。

「貴方はここで見掛けなかった? 正教会系の僧衣着た、ちょっと目付きと顔色が悪い、三十前後のギリシア人っぽい奴。ああそれと、連れに貴族っぽい長髪男と一緒に居る可能性が結構高いんだけどね?」

 いきなりこちらに振って来られた。
 思わず目をぱちくり。
 が、隠す理由も特に無いのですぐ答えてみる。
 考えるまでもなく、キリエの事だろう。

「…随分前にいらっしゃいましたけど?」
「ああやっぱり。…そろそろまた殺す! って来る時期かなって思ったからね」
「…そこでわざわざ顔を出そうと考える辺りが私にはわからない」
「だって何処かで発散させないとまた思い詰めるから」
「…卿らに市街で戦闘を行われては治安に関る。だからこそ私が今ここに居る」
「だからそんなにエスカレートする気は初めから無いって」
「…エル・レイ、卿に限ってならばその言葉が信用できるが、キリエ・グレゴリオの方はそうも行かない。そして卿はあの者には甘い。…よって卿もまた、最後にはあの者に流される可能性が否定し切れないと言える」
「うーん。…それは“息子”には多少甘くなるのは否めないけど、そこまで信用ない?」
「卿らの怪力を考えれば例え少しの間違いであっても洒落にならない被害を齎す可能性がある」

 さっくりと答える神父さんらしい人物の声。
 どうやら、この彼女と先程のキリエの間で戦闘が起きた際の安全装置のようなつもりで側に居るらしい。

「でも、今は居なくなってるって事は何かあったのかしら?」
「…あの者が気に懸けるような事柄は他にあるのか?」
「…無いわよねぇ」

 うーんと唸りつつ悩んでいる、エルと呼ばれた貴婦人。
 あまり態度には見せていないが神父さん風の人物の方もまた同じ件を考え込んでいる様子ではある。
 その様子を少し観察してから、モーリスは苦笑混じりに口を開いた。

「ここから居なくなってしまったのは私が少しからかってしまったから、かもしれません」
「あら、そうなの?」
「…いえ、あまりにもわかりやすい反応をして下さるもので、つい楽しくて」
「ふふ。確かにからかい甲斐あるのよね、あの子。…こんな事言っちゃ可哀想だけどね」
「“お母様”もそう思われますか」
「あら、“お母様”ってその言われ方ちょっと新鮮ね。…今度使ってもらおうかしら」
「…無理だろう」
「即答?」
「当然だ。…まぁ、あの者はそれを提案した時点で卿の期待通りの反応をしてくれるだろうが。私のような十五の小娘でもすぐわかるような反応でどうするんだとも思うがな…あれで元オーソドックスの導き手だろう?」

 …何だかさりげなく、幾つか衝撃的な事が言われた気がする。
 まぁ、改めて気にする程の事でも無いが。

「神の畑を耕す子羊は純粋なのよ」
「…『元』だろうが」

 はぁ、と溜息を吐きつつ、すかさず突っ込みを入れる神父風の風体をした曰く十五の少女。
 この『彼女たち』、一見正反対のようだが案外息が合っているのかもしれない。
 また気まぐれで興味が湧いてきた。

「ところでキリエさんとイオさんを御存知と言う事は、貴方はまのみさんの事もわかる方になりますか」
「…そう訊くって事は、まのみもここに来てたの?」
「ええ。キリエさんの前に。何やら貴方の事でお悩みの様子で」
「…そうなると。何だか貴方には色々とお世話になっちゃったみたいね。あの子、私にとっては妹みたいな娘みたいな大切な子なのよ。キリエの事も含めて、有難うね?」

 そんな反応をされると言う事は。
 やっぱりこの方がまのみさんのお姉さんのような方、と思っていい訳か。
 …そう言えばまのみは首から何か下げていた。…ロザリオだったのだろうか。そうなると、自分の親やお世話になっている人の敵、と言うのもまぁわかる。…彼女の言っていた『自分の親やお世話になっている人』がキリスト教系の信仰に深く関っている人間であるならば、単純に吸血鬼となればそれ以上の理由が何もなくとも既に敵である。彼女の言っていた『嘘を吐かれた』、それは昔は吸血鬼である事を隠していた、とでも言う事か。

「…私はお礼を言われるような事をしていたんでしょうかね?」
 単純に興味や遊びのつもりでお話を伺っていただけなのですが。
「それで充分なのよ。…ある程度気晴らしって言うかガス抜きできれば」
「先程イオさんにもそう言われました。お仕事中でお忙しいでしょうにわざわざここまで来られまして」
「…あらら。何だかイオの方がお兄さんみたいね。…それも『らしい』と思うけど」
「それは私も思いました。まだ小さいのに確りした方のようで」
「やっぱり。…ま、気が向いたらで良いけど、またまのみとキリエと話す事、頼んでもいいかしら?」
「…私からもお願いする。このエル・レイに関る者の場合、暴れ出すと事だからな。事前に講じれる策は出来るだけ講じておきたい。今この場にキリエ・グレゴリオが居ない事から考えて、卿のカウンセリングは効くようだ」
「そうですね、気が向いたらまた、考えておきますよ」
 取り敢えずそれだけ言ってみる。
 カウンセリングと言う程の事はまったくしていないのですが。
 思わず苦笑が浮かんで来る。

 …やっぱり何だか、面白い方々です。

【了】


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■2318/モーリス・ラジアル
 男/527歳/ガードナー・医師・調和者

■NPC
 ■エル・レイ
 ■キリエ・グレゴリオ(&セエレ)
 ■相楽・まのみ
 ■イオ・ヴリコラカス
 ■ルージュ・バーガンディ
 □碇・麗香(名前だけ)
 ※…皆、設定はNPCとして登録してあるまま通常通り特に変化無し。

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          ライター通信
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 この度は発注有難う御座いました。
 …完全お任せ&誰かNPCと遊んでみたい、と言う事でしたが……契約者さんの方同様(…?)真咲兄弟でもいいかなと思ったり、以前某アルバイトでお付き合い頂いた際のゲイバーのママとか考えたり、極端な二面性がデフォルトな悪役だか変人だかよくわからない超絶美形仙人を考えたりしてみましたが…結果、吸血鬼親子+αの連中の相談相手(?)になって頂きました。
 いえ、PC様は実際ともあれ(笑)見た目は相談に乗ってくれそうな方ですし、居るだけで周囲が和めそうな雰囲気に変えて下さる方ですし、エル・イオ・バーガンディ辺りならPC様とも何とかお付き合い出来そうですし、キリエ・まのみ辺りは遊び甲斐のありそうな相手かなと(え)
 PC様の場合、相手によって対応の変わりっぷりを出せたら面白いかとも思いまして。

 如何だったでしょうか?
 少なくとも対価分は楽しんで頂ければ幸いで御座います。
 では、また機会がありましたらその時は…。

 ※この「Extra Track」内での人間関係や設定、出来事の類は、当方の他依頼系では引き摺らないでやって下さい。どうぞ宜しくお願いします。
 それと、タイトル内にある数字は、こちらで「Extra Track」に発注頂いた順番で振っているだけの通し番号のようなものですので特にお気になさらず。17とあるからと言って続きものではありません。それぞれ単品は単品です。

 深海残月 拝