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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


桐鳳誘拐事件!?

 それはいつもと変わらぬ賑やかな午後のことだった。
「……おまえら、いつも言ってるが、ここは溜まり場じゃないんだぞ?」
 相変わらずも我が物顔で事務所に居座っている顔馴染たちにギロリと睨みつけてもみるけれど、そんな程度で怯む輩はここには一人もいなかった。
「良いじゃないですか。賑やかな方が楽しいですし」
 穏やかに微笑む零に、武彦はハアと大きな溜息をつく。
 と、その時だった。
 突如電話のベルが鳴り響き、依頼を期待し武彦はパッと受話器に手を伸ばす。
「はい、草間興信所です」
「……あんたんとこの子供を預かっている」
「は? ……人違いじゃないのか? 俺に子供はいない」」
 どうやら聞き耳を立てていたらしい。周囲でざわりと空気が変わる。
 しかしそれは緊張感を孕んだものではなく、むしろ面白がっている空気だ。
「いいや、確かにあんたんとこの子供だよ。あんたの子供かどうかまでは知らないがな」
 そして男が告げてきた子供の特徴は……――。


 一通りの話を終えて、武彦は受話器を下ろした。
「…………」
「あの、大丈夫ですか……?」
 零の言葉は聞こえていなかったらしい。武彦は、スウッと大きく息を吸いこんで。
「神様のくせに何をやっているんだ、あいつはあああああっ!!」
 そう。
 誘拐犯らしき男が告げてきた子供の特徴は、間違いなく、桐鳳のものだったのだ。


◆ ◆ ◆


 いきなり叫び出した草間の様子に、偶然この場に居合わせた二人――榊船亜真知と鍋島美寝子。そして興信所事務員シュライン・エマは、思わずその場で動きを止めた。
 神様という単語に思い当たるところのあるシュラインは、そういえば今日は朝から桐鳳の姿がないことを思い出す。
 彼はよく探し物のために出掛けていて、時に数日姿を見せないこともザラなのだけれど……。普段は大人しそうな態度でいるくせに、本人が必要と感じれば現代常識に適わぬこともして見せる。
「桐鳳くんがどうかしたの?」
 外で騒ぎでも起こしたのだろうかと問い掛けたシュラインの方へと視線を向けて、武彦はがくりと肩を落として溜息をついた。
「脅迫電話だ。桐鳳を預かってるんだと」
 真剣というよりは呆れの方が強い風情で告げてくれる。
「脅迫電話……ですか?」
 飲みかけのお茶が入った湯のみを手にしたまま、亜真知が不思議そうに呟いた。
 確かに。外見こそ十歳そこそこの少年であるものの、桐鳳の実年齢は少なくとも普通の人間よりはずっと上だ。
 そんな彼がまさかそこらの子供のようにお菓子につられて捕まりましたなんてないだろうし、不意をつかれたにしたって対処のしようはいくらでもあるだろう。
「あの……。その、桐鳳さんってどんな方なんですか?」
 テーブルを挟んで亜真知の正面にあたる場所のソファに座っていた美寝子のふいの問いかけに答えたのはシュラインだった。
「そうねえ。ひとことで言えば、子供……かしら」
 外見ももちろんのこと、常の行動にしてもよく見ればきちんと考えて行動していることが多いのだけれど、その見た目はやっぱり子供っぽい。
「まあ!」
 シュラインの言葉を聞いて、途端に美寝子の瞳に憤りの色が生まれた。
「力のない子供を狙うなんて卑怯です」
「力がない相手だからこそ狙うのでしょうどね」
 美寝子の言うことは正しいのだけれど、子供を狙う方が楽なのは浚う側には当然だ。とはいえ、それをあからさまに言う気はなかったので呟いた言葉はぽつりと小声。
 しかしそれはあくまで一般論。桐鳳は、外見通りの力ない子供などでは決してないのだから。
「まずは真偽を確かめるのが先決ですわ」
 桐鳳が本当に捕まっているのか、それとも嘘をついているだけなのか。
「ああ。とにかく今は情報が欲しい。悪いが、手伝ってくれないか?」
「もちろんよ」
「ええ、お手伝いいたしますわ」
「わたくしも協力します」
 と、三人の返答を待ってから、武彦はソファ付近まで歩いていき、ちょいちょいとシュラインに手招きをした。
 ちら、と零の方に一瞬だけ目線をやって、苦い表情でこっそりと告げる。
「自称誘拐犯の目的は、どうも、零らしい……」
 それは、相手が金品目的の一般人ではないこと。それなりの力を持っている者である可能性が高いことをも示す。
 知れれば優しい零は責任を感じて落ち込んでしまうかもしれない。これは彼女には内緒だと無言で確認しあうのだった。


◆ ◆ ◆


 まず始めたのは、桐鳳がどこに行く予定だったかを調べること、だ。
「武彦さんは何か聞いてないかしら?」
 探しものの気配くらいはわかるかもしれないが、それでも行き先までの道のりやその地域に関する事前調査くらいはするだろう。
 シュラインの問いに、武彦はしばらく考えてからパッとデスクの方へと目をやった。
「確か昨日の夜……」
 言いながら、がさごそと書類だらけのデスクを漁る。
「ああ、あった。この依頼書を見て、出かけて行ったんだ」
 いつもの如くと言うのもなにやら虚しい気がするが、いつもの如くの怪奇現象関係での調査依頼だ。
 場所はそう遠くではない。数年前に潰れたとある旅館を最近買い取った者が、旅館内で怪奇現象が起こるから調べて欲しいと依頼してきたのだ。
「では、桐鳳さんはここに行った可能性が高いんですね」
「ここに行く途中か、この場所でか、帰りに捕まったのかはわからないがな」
「行き帰り、という可能性はあまりないんじゃないかしら」
 武彦の言葉にシュラインが考え込む仕草で答える。ここに居る時間が武彦、零に続いて長いシュラインは、桐鳳が出掛けて行く様子を何度か見たことがある。
 肉体的な体力がないせいもあるのだろうが、桐鳳はたいがい、窓から出かけて空を飛んで行き、帰りもやっぱり窓から入ってくるのだ。
 空を飛べる人間などそうはいないし、もし相手がそんな能力の持ち主だとしても、桐鳳は鳳凰――鳥だ。もちろん相手が桐鳳以上の力の持主という可能性を捨てるわけにはいかないが、桐鳳を空で捕まえるなど容易なことではないのも事実。
「今は無人の旅館と言うのでしたら、人目はありませんし多少乱暴なこともできますね」
「ここに目的を絞っていたなら、事前に周辺状況を探ったりもしてたでしょうから、ご近所への聞き込みと――」
「それと、桐鳳さんが向かったという旅館の調査ですね」
 シュラインの後につけ足すように、美寝子が告げる。すぐに出かけようという雰囲気になり始めたその時。
「私も一緒に行きます。聞き込みくらいだったらお手伝いできると思います」
 心配をあらわにした顔で零がそう提案した。しかし、零自身には内緒だが、彼らの目的は零なのだ。いま外に出すのは危険すぎる。
「いえ、また連絡が来ると思いますから、こちらに残ってもらう方も必要です」
 至極もっともな亜真知の言葉に零はすぐに引き下がったが、やはり心配であることには代わりないようで、その顔色は悪かった。
「……もし本当に桐鳳くんが捕まってるとしたなら、案外わざとかもしれないわよ。相手の情報を集めようとしてだとか、ね」
 あえて明るい口調で告げたシュラインに、零がその表情にほんの少しだが笑みを取り戻す。
「草間さん、こちらの方はよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げた美寝子に、武彦は手伝ってもらっているのはこっちの方だからと苦笑して告げ、そして。
 武彦と零を事務所に残し、三人は聞き込みと桐鳳の足取りを追いに向かった。


◆ ◆ ◆


 向こうがいつ動き出すかわからないし、あまり時間もかけられないと、三人は別行動をすることにした。
 近所での聞き込みはシュライン担当。旅館に向かうのは亜真知と美寝子の二人だ。
 二人と別れたシュラインがまず向かったのは、零がよく買い物に行く商店街だ。どこから『心霊兵器』の話を聞きつけたかはともかくとして、零を奪うためにその動向を調べたのなら、ここで聞き込みをしている可能性は高いと思う。
 そうして聞き込みを始めたシュラインの予想は見事に正解であった。
 というか、向こうはあまり隠れる気もなかったらしい。草間興信所に依頼をしたいが不安なので、どんな人たちか教えて欲しいと言って、彼らは堂々と零や桐鳳、武彦のことを聞いていたのだ。
 おかげで大まかな背格好などはわかったものの、他愛のない日常にまぎれてしまって人相まで覚えている人はいなかった。
 一緒に、今日は桐鳳を見なかったとも尋ねてみたが、こちらは収獲まったくゼロ。
 今から旅館に向かうのもなんだし、一旦事務所に戻って亜真知たちからの連絡を待つことにした。

 誘拐犯からの連絡が来るより先に、亜真知と美寝子のほうから連絡が入った。
 どうやら旅館に桐鳳と、そして誘拐犯らしき人間が入って行ったのは確実らしい。
 敵がもう旅館の外に出ているかどうかは微妙だが、少なくとも聞き込みではそんな話は聞けなかったとのこと。できれば中の様子を把握したいところだが、敵の動向がまだ掴めていない。
 いま下手に騒ぎを起こすと肝心の部分――どこで零のことを知ったのか。そして、彼らに仲間や組織の影はあるのかどうかなどがわからなくなってしまう。
「途中まででも桐鳳の足取りが掴めただけで充分だ」
 むこうだってバカではない。それなりの警戒もしているだろう。そこで桐鳳を捕らえたとしてもそのままそこにいるとは思っていなかった。
 武彦は二人に礼を告げて、調査を終えるよう伝えたのだった。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1593|榊船亜真知   |女|999|超高位次元知的生命体…神さま!?
4696|鍋島美寝子   |女|72|土木設計事務所勤務

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         ライター通信          
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 こんにちわ、日向 葵です。
 お久しぶりです&はじめまして。
 捕獲後のプレイングを入れてくださった方もいたのですが、今回の依頼は情報収集ということで構成したため、そこまで使うことができませんでした。
 情報収集の方法もいろいろと提案していただき、ありがとうございました♪

 よろしかったらまたご一緒してくださると嬉しいですv