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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


図書館のお茶姫【狩野 宴】

【OP】

「お茶姫?」
 西日射す神聖都学園職員室。
 授業や講義を終え疲れた顔をした教員達が続々と戻ってくる中、何故かワイングラスを片手に女性教員へと暢気ヘラリと片手を振っていた非常勤講師、狩野 宴は珍しくも男の声に反応をした。
 この狩野 宴、見た目は眉目秀麗、甘いマスクの青年だが無類の酒と女性好きのフェミニスト、心理学博士であって、催眠研究家の男勝りな長身の彼女は女性層から圧倒的な支持があるも、やはり学園内では少々と変わり者の位置に属されている様だ。
 そんな宴から男に声をかけるなど、次の日は槍が降るのでは…と周りに囁かれても仕方ない。
「あ、ああ…狩野先生。それが図書館にお茶に誘ってくる女性の幽霊が出るって最近生徒達の間で噂でして。余りに騒ぐんで、真相を突き止めよ……って、何処いくんですか、先生」
 宴の後ろで話をしていた二人の男性教員は、先ず宴が声をかけてきたその事実に驚きつつも、話の詳細を宴へと説明し始めたのだが、話が終わる前に宴は椅子から立ち上がって歩き始めている。
「何処へ? 愚問だよ。当然、私を待っている図書館の素敵な姫のもとへさ」
 もう君達には用は無いよ。振り向きもせずに言うが早いか、宴はその白い衣の裾を優雅に揺らし、レディーのもとへと行くためのその足取りは軽やかに宴は職員室から姿を消していた。
「っえ……あ、じゃあ先生! ついでですから、真相を突き止めてきてください!!」
 果たして、男性教員が軽やかに去っていった宴の背に投げた真相究明依頼。宴の耳には届いていただろうか…


【1】

「さて、どんなお嬢さんかな。ふふ、美女でも美少女でも…大歓迎だよ」
 宴の前には大きく立派な図書館の扉。この向こうにいると言うお茶姫を思うと、顔が緩んで行くのを止められない。
 緩む表情を引き締め様ともせず、ちゃっかりと借り出してきていた図書館の鍵で宴は扉を開いていた。
「さあ、お嬢さん。お茶と言わずに美酒で乾杯と行こうじゃないか」
 両手で思い切り扉を開いた宴は、そんな台詞と共に広い図書館へと踏み入った。
 喜びやら期待やらその他諸々を、隠す所か惜しげもなく振りまきながら既に閉館している図書館内を宴はお茶姫を探して歩き出す。
 相手が幽霊であろうが、なんであろうが宴には関係の無い話。
 噂になる程の美女がいるならば、当然一度はお目にかかりたいわけであり、そう思ってしまった宴を止める事は既に不可能。
 何しろ宴の主成分と動力源は酒と女性と言っても過言では無い程なのだ。
「ふーむ、隠れん坊かい? 別に私は何もしないよ、ただ貴女と楽しくお茶をしたいだけさ」
 暫く広い館内を歩き回るも、宴が捜し求める姫君の姿は何処にも見当たらず、宴は本棚林の真ん中で立ち止まって、金糸の髪を一度掻き上げ辺りを見回しそんな言葉。
 何もしない。とのその発言が嘘か誠か、今一と信用できぬ点であったが、姫が居ないとなっては宴としては一大事である。
 なんとしてでもお茶姫とお茶…基、酒を飲み交わしたいと思う宴が再び歩み出そうとした時、宴の背後で小さく控えめな足音が響いた。


 普段の宴であれば、そんな些細な物音など綺麗に聞き落としていただろうが、自分以外に誰もいないと解っているこの館内での物音は、探すお茶姫意外何者でも無い宴は確証していた。そして、逸る気持ちを抑えつつゆっくりと振り返っていた。
「ご歓迎が遅れてしまって申し訳ございませんでした。宜しければ、わたくしめとお茶を……」
「勿論だよ、素敵な姫君。お茶だけとは言わないで、もっと色々深い事まで出来たら嬉しいね」
 振り返る宴のワイン色の瞳に、本棚の影から姿を現した女性が飛び込んできていた。
 胸元まで流される髪は毛先の緩く巻いた蜂蜜色で、宴を真正面から捉えた瞳は碧玉色。
 纏った衣装は流石姫と噂されただけはあって、裾が床を隠す程のふんわりとした形をしたオールドローズの中世のロココ調を漂わせるアンティークドレスであった。
 その彼女が言葉を全て紡ぐ前に、宴はほんの少し開いていた彼女との距離をその長い脚の一歩にて一瞬で縮めると、彼女の白い片手を掴んで得意の乙女キラースマイルを無意識に浮かべている。
「ま、まあ……積極的なお誘い、ですこと」
 そんな一連の動作は正に神業。
 女性がらみとなると、男相手とは勝手が違って何もかもに問答無用でキレが発動する宴である。
 しかし、宴に手を掴まれたお茶姫からしてみれば宴がどんな人物であるかなど当然だが知る由もなく、手を取った動作と言葉に驚いた表情をするも、宴の整った顔が側にあるからか、さっと頬に朱を走らせてから、微笑み直している。
「ふふ、女性から誘いを掛けられるのも好きだけれどね。貴女の様な美しいレディー相手だと、言われる前に誘ってしまいたくなるんだ。今日は貴女の様な魅力的な女性(ひと)に逢えて、光栄だよ」
 白い姫の頬に朱が刺した事にもとより良かった機嫌を更に良くする宴は、そんな甘い言葉を囁き落として、掴んでいた彼女の手へとそっと唇を落としていた。
 その際に、彼女の手が薄っすらと透けている事に気づいた宴であったが、宴にはそんなもの微塵も気に掛かる事では無い。
 目の前に自分のためだけに微笑んでくれている女性がいる。何があろうとそれは紛れもしない事実であって、宴にはそれ意外を気にかける必要もつもりもまったく無かった。
「それじゃあ、お茶にしようか? なんなら、今日は私が年代物のワインをプレゼントしてもいいな」
 お茶姫の手を離したと思えば、離れた手は何の迷いもなく姫の細い腰へ回されている。
 流石と言うべきか、呆れるべきなのか。女性の扱いは本当に手馴れたもので、まるで硝子細工を扱うようにして宴は彼女をエスコートして図書館の中央、長テーブルの置かれる方向へと向い始めた。

【2】

「まあ、申し訳御座いませんでしたわ。わたくし、てっきり殿方かと…」
「はっは、そんなの関係ないさ。別に私は女と言う事に不自由を覚えていないし、男と間違われる事にだって抵抗は無いしね? 酒と女性が側に居てくれれば、そんなのどっちでも良い話さ」
 席に着いた後は、宴の見事な話術にお茶姫からは終始笑顔が絶えず、花の様な笑顔が宴へと向けられている。
 姫が魔法の様にテーブルに出した紅茶セット。
 鼻先を擽る茶葉の良い香りに、酒意外の香りに珍しくも宴は目を細めてその香りを楽しんだ。
 可愛らしい形に抜かれた焼き菓子の甘い香りも、なんとも言えない。
「宴様は、面白い方ですのね。お茶にお誘いした皆様…お茶には誘われてくれるのですけど、余りお喋りになってくださらなくって」
「おや、それは皆失礼だね。私なんて、毎日此処に来て姫のお茶と話し相手になりたいくらいなのに」
 ワインを混ぜてもいい?と紅茶が差し出された所で尋ねれば、お茶姫は小さくと微笑んで頷き返してくれていた。
 故に、今宴が傾げるティーカップの中身は、ワインティー。もとより赤い紅茶が、ワインの色を含んで更に更に渋く深い赤になっていた。
 お茶姫が誘った相手達が皆余り楽しそうでは無かったと語れば、宴は誘われた者達―当然全員男だと勝手に決めつけ―に鼻を鳴らして失礼だと言うが、誰とていくら美人であろうと薄っすらと透けている得体の知れないモノから誘われれば、楽しくお茶を飲み交わすなど簡単に出来るものではない。
 が、宴には透けていようが浮いていようが何だろうが女性は女性。
 素敵なレディーからの誘いならば、なんだって受けるのが狩野宴、その人だ。そんな常識は通用するわけが無かった。
「本当です? そんな事、言われた事も無いですから…嬉しいです」
 ティーカップを桜色の唇へと運んだお茶姫であったが、宴の言葉に驚いた様にそう言葉する。
「勿論、女性には嘘は言わない主義さ」
 そんな姫の反応に肩を揺らした宴は、ティーカップを片手に笑んだり驚いてみたりと、表情を良く変えるお茶姫の表情をそれは楽しげに見つめるのだった。


 楽しい時間と言うものはあっという間に過ぎるもので。
 気付けば辺りはすっかり闇に沈んで、いつ付いたか記憶に無いのだが自分たちがいるこのスペース一角だけに灯された照明が辛うじて二人を闇から守っている状況であった。
「もう…時間ですわね。お引止めするわけにもまいりませんから、途中までお送りいたします」
 そう言って姫が席から立ち上がると、どうしたかテーブルを彩っていたティーセット達は忽然と姿を消した。
 そんなお茶姫の声に従う様、宴も席を立って図書館の出口へと彼女と共に向うが、思えば彼女から如何して現れるのか、何故お茶に誘うのか等々…肝心な事は何一つ聞いてはいなかった。
 いなかったが…もとより、そんな事をしに来たわけでは無いわけで、多分職員室を出る前に投げられた言葉も、図書館に辿り着く頃には宴の頭から綺麗サッパリ、アルコールが蒸発するかの様な速度で抜け落ちていたはずだ。
「折角話も弾んできて、これからだって時に、此処で別れるのはなんだか寂しいね。……出来る事なら、此処から連れ去っちゃいたいくらいだな」
 図書館出口。
 お茶姫に送られ此処までやってきたが、扉の取っ手に手をかけるのを宴は嫌がった。
「ふふ、本当に…お口が上手です事。わたくし、ここからは一歩も外には出れないんですよ。ですから…また、いらしてくださいね?」
「そうか…無理やりに連れ出すわけにもいかない、かな…。今日は楽しかったよ、姫。お茶も美味しかった」
 残念そうな顔を作るも、無理に彼女を連れ出すなど宴がするはずも無く。
 ただ、名残惜しいには変わらず微笑んで佇む彼女を予告もなしに抱き寄せると、そっと彼女の耳元に言葉を落とした。
「次に来る時は、貴女を此処から連れ出す方法を…考えるつもりだよ」
 そう囁くと、宴は姫を解放して顔を真っ赤にした彼女に笑みを贈ると、背後の扉に手をかけた。
「それじゃあ、また何れ」
「……ええ、また。お待ちしておりますわ、宴様」
 ぽおっと夢心地の様なお茶姫に声を掛けた宴。
 本気で後ろ髪引かれたが…と言うか、女性一人を夜の図書館に残すのと言うその行為が既に宴の独自ルールに反していて、図書館の扉を潜って一歩を踏み出した瞬間に振り返ったが…閉まりかけた扉を開けても、そこに華やかなドレスを纏った女性の姿は無かった。


【ED】

「……何か、忘れてる気がするな……」
 姫の姿が無くなった事に多少なりと衝撃を覚えた宴だった様だが、其の辺りの切り替えは早いか、また夕方に図書館に出かければ逢えるだろう。と衝撃の自己処理を既に終えていた。
 帰り支度を整えた宴は、学園を後にしつつふと首を捻った。
 何か…何か……。首を捻るが思い出せない。
 思い出すといえば、お茶姫の零れんばかりの笑顔と、鈴の様に澄んだ声。それに抱き込んだ姫の細い腰の感覚。
 そんな事しか思い出さないのだ、真相を突き止めて欲しい。と言ってきた、男性教員の言葉など、どうやったって思いだせるわけが無い。
「まあ……いいか。思い出せないって事は、それほど大事な事でも無いんだろうしね」
 思い出せる云々の前に、あの言葉を脳内に留めていたかも怪しいが。
 さっくり、如何でもいい。と割り切った宴は、機嫌の良い足取りにて白衣の裾を揺らしながら学園を後にした。

 各して。相変らずと図書館のお茶姫の噂は途絶える事は無かったが、それに加えて非常勤講師の狩野宴が、お茶姫と楽しくお茶をする姿が良く目撃される事が増えたとか、そうでないとか…。

Fin.

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

4648/狩野 宴/女/80/博士・講師

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■         ライター通信          ■
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狩野 宴 様
お初にお目にかかります、ライターの神楽月アイラと申します(ぺこり。
お待たせいたしました。この度はお茶姫へのご参加、有難う御座いましたっ!
フェミニストさん!物凄く楽しかったです、一体何処まで手を出すのは大丈夫なのかなーと思いながら(ぇ)書かせて頂いておりました。
狩野先生ですが、この話の後もちょくちょくとお茶姫と逢って楽しくお喋りしたり口説いたりしている模様です。
ご期待に添えられたものに仕上がっているかと緊張ですが、お茶姫とのお喋りお楽しみいただけてれば幸いです。

それでは、また機会が御座いましたらお逢いいたしましょう。
失礼致します。