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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


【ロスト・キングダム】白蔵主ノ巻

 編集部の自信とは裏腹に、その記事はさほどの反響も呼ばなかった。
 麗香はすこし肩を落したが、しかし、かえって意欲を奮い立たせもしたのである。
(絶対に、この裏には何かあるのよ。とてつもなく大きな何かが。アトラスが……それを暴いてやるわ)
 その記事とはすなわち、謎のタレコミからはじまった、ある産院にまつわる奇怪な事実について、取材したものである。
 「現代の取り替え子?」と、麗香は題した。
 その産院で連綿と行われてきた、子どもの取り替えや斡旋――。赤ん坊の出どころが何者なのか、何のためにそんなことが行われているのか、という肝心なところには迫れていなかったが、ぼや騒動の混乱の中で、首謀者というべき院長父娘が失踪するに及び、裏にうごめく何者かの存在を、そこには感じ取ることができた。
 そんな中、意外なところで追加の情報が手に入った。
 草間興信所が、先日、依頼を受けたのが、まさにその産院で養い子を「斡旋」された母親だったというのだ。
 そして、さらに――

「お話したいことがあるのです」
 電話の声は、落ち着いた年輩の紳士と思われた。
「私は荻窪にございます天鳳寺という寺の住職で荒井と申します。先日の、雑司ヶ谷の産院の記事を読みまして」
「ちょっと待って。どうして雑司ヶ谷とわかったの。記事では地名や産院の名前はぼかしておいたわ」
「ですから私がそれを存じ上げているからです」
「何を知ってるというの」
「かれらの動きが活発になってきています」
「かれらって……」
「これは重大な秘密ですから、編集長であるあなたにだけ、直接会ってお話したい。ですが、このことで、私もあなたも危険な目に遭うかもしれません。ですがどのみち、あの記事が出たことで、かれらはあなたがたに目をつけているでしょうし」
「…………」
「かれらについて、私が知る限りのことをお話しましょう。私はかれらが《トケコミ》と呼ぶ、何代か前にかれらから分かれて里に降りた家系なのです。あの産院もそうでした。かれらの最近の動きが私は恐ろしい。かれらの中にも何かが起こっている。そしてよくない方向に流れが変わりつつある気がしてならないのです……」

■ディープスロート

「おいおい、行くのかよ。マジで?」
 黒贄慶太は、あきれて物も言えぬといった様子で麗香を見返す。
「そりゃあ行くわよ。行かなくてどうするの。『月刊アトラス』のポリシーを忘れたの?」
「信じらんねェ。どう考えても、あやし過ぎるだろうがよ!」
「だから頼んでるじゃないの。あなた以外はかよわいレディなのだから、ボディガードお願いね」
 こともなげに、麗香は言った。
 傍のソファに腰掛けていたふたり――、すなわち光月羽澄とシュライン・エマがくすり、と笑った。
「冗談きついッス。俺ァ今週中に仕上げる予定のレポートが……」
「もちろんバイト代は払うわよ?」
「……」
 それを言われると断れない慶太だった。ただでさえさみしい懐具合だったのに、つい先日、新しいピアスを入れてしまって、毎日を学食名物『赤貧定食』によって生き延びている状態だったのだ。 
「そのお寺のこと、すこし調べてみたけれど、特にあやしい噂なんかは聞かないみたい」
 羽澄が口を開いた。
「もちろん警戒するに越したことはないけれど……情報が手に入るなら歓迎だわ」
「その人たちは、『人間の気配』だった、ってことよね」
 シュラインが羽澄に訊ねた。シュラインは奥多摩で、そして羽澄は雑司ヶ谷で「かれら」に遭遇している。
「どうもそうらしいけれど……」
「山に棲む、異能の人間……。その一部が、人の世にまぎれている、ということ……? 《トケコミ》――。うーん」
 シュラインの頭の中で、豊富な知識と怪奇探偵の事務員として活動してきた経験でつちかわれたカンによる推理が高速エンジンのように回転してるらしかった。
「産院の人たちは言ってたわね。《トリカエ》られたり《アズケ》られた子どもの多くは《ツチグモ》になる、って」
「ええ。なにか思い当たることが?」
「《ツチグモ》……土蜘蛛でしょう……それってもしかして――」
 そのときだった、編集部にあらわれた女性が、麗香に話しかけてきたのは。
「麗香さん。話を聞いたわ。私も同行させてもらえないかしら」
「冴波さん」
 三雲冴波は、颯爽と、ライダースーツに身を包んでいた。
「アトラスの記事を読んで気になってね……。実は、このあいだ、青梅市の山奥で妙なことに巻き込まれたのよ」
「面白そうね」
 麗香は笑みを浮かべた。
「詳しく話を聞きたいわ」
 座に加わる冴波を横目に、慶太は肩をすくめた。やれやれ、アトラスに出入りする女どもはどこかネジが一本飛んだ物好きばかりだ。引き受けてしまったものの――モツ煮にごはんと味噌汁で200円也、の『赤貧定食』が恋しくもある慶太だった。

 冴波だけは自分のバイクで、あとの4人はタクシーで、その場所へと向かった。
 天鳳寺は、住宅街の中に黒いシルエットとして忽然とあらわれた。土塀に囲まれた敷地に、木造の本堂と庫裏、墓地とが共存しているようだった。
「冴波さんの話、どう思う?」
 道すがら、車中のシュラインは羽澄に振った。
「首輪を嵌めた黒装束。間違いなく、河南教授を狙った人たちだと思うけど」
「パズルのピースが一時に出過ぎね」
 シュラインは苦笑するように言った。窓の外を、ヘルメットからはみだした髪をなびかせて、冴波のバイクが過ぎてゆく。「バイクだと風の流れがよくわかるから。万一の場合も、ね」と、彼女は言った。皆、それなりに警戒心は抱いているのだ。

「ようこそおいでくださいました」
 満面に笑みをたたえて、僧形の、壮年の男が5人を出迎える。
「こんなお若い女性の方たちばかりとは。不調法な古寺で、満足なおもてなしもできませんが」
「お気遣いなく。それと、あの……」
 麗香が、きっ、と慶太を睨んだ。慶太の足元に、1匹の黒い毛並みの狼が坐っていた。
「ペットだよ、ペット。いいじゃん別に」
 慶太はそう言い張った。むろんそれは、彼が自身の刺青から実体化させたものだということを一行は知っている。
 住職はしかし、頓着せぬようでにこにこしているばかりだった。5人にくわえて1匹も、会見に参加することが認められたらしい。

■山人絵巻

「さて、と――。なにからお話すればよろしいやら」
 床の間のある畳敷の部屋に通され、お茶が出された。
 なかなか小奇麗にととのえられた枯山水風の庭を、縁側から望むことができる部屋だ。慶太の狼は、縁側の板の上にねそべっていた。
「まず、『かれら』は、そもそも何者なのですか」
 単刀直入に、麗香は訊いた。
「左様」
 荒井住職は、腕を組み、言葉を探した。ややあって、その口から、ついにその名が語られたのである。
「『風羅(フウラ)』――。そのように呼ばれることもあります。もともとかれらはかれら自身を指す名を持ちませんでした。『風羅』族という名は近世になってからです。ともあれ今では、かれらも自分達が『風羅』であると認識しています。風羅族は、はるかな古代より、この国の山地に住み着いていた……特殊な血統なのです」
「血統――」
「荒井さんは、そこから分かれた一族だとおっしゃいましたね」
 シュラインが促した。
「左様です。それを《トケコミ》と呼びます」
「ですが、荒井さんはつまり、その……」
「おっしゃりたいことはわかりますよ。私はごく普通の人間に過ぎません。それは今も山に棲む風羅族も同じです。なかには特別な力をもつものもいるにはいます。ですが、同じ人間であることには、変わりはありません」
「それではつまり」
 勢い込んで、シュラインは言った。
「かれらは山間に住む――日本における……日本人とは違う異民族、ということなんですね!」
 思えば、このときすでに、シュラインの頭の中には、意識するにせよしないにせよ、あるひとつの見取り図が浮かび上がっていたのかもしれなかった。
「そのとおりです」
「雑司ヶ谷の産院の人たちは、奇妙なことをしていたわ。あれは何なの」
「《トリカエ》、《アズケ》、それから《ツナギ》。そんなことを言っておられましたね」
 羽澄が、その聞き慣れぬ言葉をそらんじた。住職は頷く。
「《トリカエ》《アズケ》は、かれら特有の、子どもの育て方のことです。風羅族は、里人……一般の人々をこう呼びますが、里人に一種の寄生関係を持ちます。かれらの子どもは里で育てられるのがしきたり。これは山よりも里で育つことが、子どもにとって安全だからです。このとき、かわりに里人の子を山にひきとる場合を《トリカエ》、そうせずにただ山の子を育てさせるだけの場合を《アズケ》と称するのです」
「里の子どもたちはどうなるんです」
「返されることもありますし……あるいはそのまま、山で、風羅族の使役する一種の奴隷階級の存在となることもあります。それが《ツチグモ》です」
 羽澄とシュライン、そして冴波は目を見交わした。
「それってもしかして、首輪を嵌められた……」
「よくご存じだ」
 荒井は笑ったが、冴波は憤慨したような表情を隠そうともしなかった。
「随分なしきたりね」
「そう思われるでしょうな」
「雑司ヶ谷の須藤クリニックはその手引きをしていたんだわ。……荒井さん、あなたもかれらのような《トケコミ》なのでしょう」
「《トケコミ》は、もともとは風羅の集団に属していたのに、今はそこを離れた血筋を言う言葉です。《トケコミ》といってもいろいろあって、一時的に、理由があって里で生活しているだけのものから、わたしのように完全に縁が切れてしまったものまでいるのです。里で暮らしながら縁を切らない《トケコミ》が、須藤家のようなものです。かれらは《ツナギ》――すなわち、なんらかの形で山のものたちの、里における便宜をはかるのです。かれらの場合は、《トリカエ》《アズケ》の手助けということですな。わたしはもう、なんの《ツナギ》もしていませんよ」
「美佳さん……産院の娘さんは、でも、そんなしきたりに心を痛めてらっしゃったわ」
 羽澄の言葉に、シュラインが頷く。
「荒井さん。あなたは……なぜ私たちにかれらの情報を? 《ツナギ》をおこなっていないなら、あなたは、かれらには否定的な《トケコミ》なんですか? それとも」
 意識的に、シュラインは言葉を切った。
 女たちの視線が、住職に集まる。
 慶太だけは、縁側で狼の腹をなでていた。ただ、その目だけは油断なく部屋の中に向けられてはいたが。
 ふふふ、と、荒井は笑う。
「私は。かれらについて、みなさんによく知っていただきたいのです」
 微笑を浮かべた。
 僧形だからだろうか、それはどこか、穏やかな仏の笑みを思わせる。しかし、仏の浮かべるアルカイックスマイルは、なにかしら得体の知れなさもつきまとうものだ。
「……どうぞこちらへ。みなさんに、お目にかけたいものがございます」
 促され、一同は立ち上がった。

 そして案内されたのは本堂だ。
 仏像に見下ろされながら、住職が持ち出してきた桐箱を、一同は取り囲む。中に納められていたのは巻き物のようだ。
「相当、古いものみたいですね」
 羽澄が、骨董も扱う店の店員らしく目を利かせた。
「江戸中期の品です。ご覧なさい。これが風羅です」
 巻き物を開く。墨で絵が描かれていた。
 山だ。そして森。背の高い木々。
 ふもとに村と田畑を見下ろす丘に、幾人かの人々の絵が描かれている。
 山伏に似た装束が見てとれた。
 木の上に登っているものもいる。
 そして中には……、あやしい炎を空中に描き出しているものや、まるで鵜飼いの鵜のように、人の首に縄をつけて従えているものもいる。
「これが《ツチグモ》ね」
 冴波が指した。
「この人たちは? 服装が違うわ」
 シュラインが指摘した部分については、荒井が解説を加えた。
「それは里人です。この時代は、里と山のあいだには、一定のルールをともなった交渉があったのです。山の民は細工師でもありました。山でつくった品々をもって、里人と交易を行っていたのです。まだ両者の関係は良好だった」
「……今は良好ではないと?」
 シュラインは顔をあげた。
「それはそうよ。あの山に迷い込んだ学生たちは、かれらに殺されたんだわ。『禁を破ったら殺す』って言ってた」
「山には山の領域があります。それを越えて踏み込むものに、かれらは罰を与えます」
「殺すことないじゃない」
「そうしなければ、かれらのほうこそ、殺されるかもしれない歴史を、風羅は歩んできたのです」
 荒井の言葉に力がこもった。
「荒井さん」
 シュラインの青い瞳が、彼を見つめる。
「かれらの情報を漏らしたら、あなただって危険なのでしょう。それなのにずいぶん、いろいろと教えていただけるんですね。第一、あなたはとても落ち着いてらっしゃるし。それに……」
 そのつづきは、冴波がひきついだ。
「山と縁を切ったとか言いながら、かれらの肩を持ってるわ」
 ……にいっ――、と、男の顔に、また、あのアルカイックスマイルが浮かんだ。
 そのときだった。
 どこかで大きな音がしたのは。
「……? 彼はどうしたの?」
 麗香がふいに声をあげた。
 黒贄慶太の姿が、なかったのである。

■幾星霜を経て

 彼はそもそも、本堂には立ち入らなかった。
 その手前で、黒狼が、ふと足を止めたからである。
「…………」
 とてとてと、狼は板張りの廊下を歩いていく。慶太は無言でその後につづいた。
 廊下の先は、住居になっているようだった。
 畳敷の部屋にあがりこむ。狼は、押し入れの前にちょこんと坐って、首だけで慶太を振仰いでいた。
 そして慶太は見た。じわり、と赤黒い液体が、押し入れの敷居のあたりに沁み出してきているのを。
「と、こいつぁ」
 ガタン、と押し入れを開ける。
 ぐう、と慶太の喉が鳴った。
 ごろりと転がり出たのは、かッと白目を剥いて絶命した、男の屍体だったからである。
 ウウウ……と、呼応するように、狼が唸った。
 はっと振り返る。
 寺の庭を風が渡り、木々を揺らした。
「いやがるのか。……隠れてないで姿を見せろ、コラァ!」
 ガァウ、と狼が奔った!
 迎え撃つように、庭の地面の中から、そのものが土を破って飛び出してくる。黒装束が全身を覆い、ただその目だけがぎらぎらと血走る。そしてその首に嵌められた首輪――。

 だん、と障子が吹き飛ぶ。
 風が吹き込んでくる。そして、板張りの床に転がった黒装束のものと、その喉笛に食らいつくようにして抑え込んでいる狼の姿。
「慶太くん、あなた――」
「おいコラ、奥の部屋の屍体は誰だ!?」
「屍体ですって!?」
 くくく、と低い含み笑い。
「荒井さん」
「荒井は死にました」
 羽澄と冴波が、さっと、身を盾に麗香を護る位置に動いた。
「たとえ《トケコミ》となって里で暮らすことなっても、われら風羅の同胞のことを口外しないのが掟です」
 音を立てて、本堂の天井を破り、黒装束のものたちが降ってきた。荒井――いや、そう名乗っていた何者かを取り囲む位置に控える。
「なぜ!」
 シュラインが叫んだ。
「なぜ私たちと話をしたの」
「申し上げたはずですよ。かれら……いえ、われわれのことを知っていただきたいと。……かつては共存していた山と里との関係はくずれ、われわれは歴史の闇へと追いやられた。そしてこの国は里人が支配するところとなったのです。だが幾星霜を経て、ついに、われわれが目覚めるときがきた。山から吹く風をとどめることはもうできない」
「勝手なことを!」
 慶太の命じるままに、狼が躍りかかった。一斉に、黒装束の《ツチグモ》たちが動く。
 冴波が風を放った。生じた真空が、《ツチグモ》たちの何人かを切り裂く。
「警告――」
 麗香が、挑むように口を開いた。
「これはそういう意味なの?」
「とんでもない」
 なにが可笑しいのか、男は満面の笑みを浮かべた。
「時とともに、里の人間は皆、われわれのことを忘れ去ってしまった。もういちど、思い出していただきたかったのですよ」
「わたしは載せるわよ。アトラスの誌面で、あんたたちの陰謀を全国に暴いてやるわ」
「どうぞご随意に」
 悠然と、男は笑った。
「もうすこしお話したいこともあったのですが、本日はこれまでと致しましょう」
 じりじりと、摺り足で間合いをとろうとする。
「待てよ、コラァ」
 慶太が、狼とともに飛び出した。
 ひらり、と墨染めの衣が身をかわす。
「あわてるでない、若者よ。いずれ、そのときがくれば存分に殺りおうてやるゆえな!」
 びゅう、と常人ならざる跳躍を見せて、男は本堂の端まで一息に移動すると、そのまま庭へと飛び出してゆく。ばらばらと、黒装束の連中がその後につづいた。
「くそ!」
「深入りは無用だわ」
 憤る慶太を、冴波が制した。
「引き際は見事よね」
「河南教授を狙ったときもそうだった。一気に急襲して、撤退もすみやかに……っていうのが、あの人たちの基本パターンみたい」
 羽澄が、ちょっと肩をすくめて言うのだった。

  *

「では整理するわ」
 白王社に戻った一行は、会議室のテーブルを囲んだ。
「まずかれら……このところ、アトラスや興信所で確認している事件の背後には、『風羅族』という、民族が関係しているということ」
 シュラインから、今日の会見でわかった情報を並べてゆく。
「『風羅族』は私たちと同じ人間。でも異能力をもつ人もいる」
 と、羽澄。
「《トリカエ》《アズケ》なんていう、特殊な習慣を持っていて、山に棲みながらも、都市と接点を持ってきた。山を離れて街に降りたひとたちは《トケコミ》と呼ばれる」
「交換した街の子どもを《ツチグモ》に変えて操っている。……あの首輪に秘密があるのか、それとも思想的な洗脳なのかはわからないわね」
 思案顔の冴波。
「やつらの秘密をバラしたり、やつらの領地に踏み込んだやつは容赦なく始末される、と。血の気が多いやつらだな」
 ピアスをいじりながら、慶太がつけくわえた。
「わかったのはこのくらいかしらね?」
 要点をホワイトボードに書き出しながら、麗香がメンバーを振り返る。
「あいつの言ってたことが全部本当とは限らないぜ」
「……嘘を言っていたようには思えなかった」
 慶太が言うのへ、シュラインが返す。
「でも情報をわざわざ話しにあらわれるなんて。やはり一種の警告なのかしら」
「気にくわねぇな。それならあの押し入れに押し込まれてたおっさんでもよかったわけだ。あいつの口からは喋らせたくはなかった、ってことだぜ」
「そうよ。秘密を口外した《トケコミ》は殺す。無断で自分たちの領地に入った人間も殺す。なのに、私たちには秘密をべらべら喋って生かしておくだなんて」
 納得いかない、といった顔で、冴波も慶太に同調する。
「それに、まだ謎があるわ。肝心な謎」
 シュラインの声に力がこもった。
「今まで、ずっと潜伏してきた『風羅族』が、なぜ今になって、急に動きだしたのか、よ」

 風に乗る声そのもののように、かれらの意識の中を、『風羅』なる集団の一員と称した男の言葉が、ぐるぐると回っているのだった。

(ついに、われわれが目覚めるときがきた。山から吹く風をとどめることはもうできない――)


(白蔵主ノ巻・了)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1282/光月・羽澄/女/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【4424/三雲・冴波/女/27歳/事務員】
【4763/黒贄・慶太/男/23歳/トライバル描きの留年学生】

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
『【ロスト・キングダム】白蔵主ノ巻』をお届けします。
かなり重要な情報が続出! 大開放中です!!
しかし、展開的には地味〜ですが……。

>シュライン・エマさま
おそらく、おぼろげながらも、今回のストーリーの全体像がご想像の範囲に入ってきたのではないでしょうか。このあと、どんなスタンスで臨んでいただけるのか、楽しみにしております。

>光月・羽澄さま
もしかすると、現時点でいちばん多く「かれら」を目撃されているのは羽澄さまでしょうか? いつもいつも、さぁーっと逃げちゃう連中ですが。今後のさらなるご活躍を期待しておりますよ。

>三雲・冴波さま
地味な展開のため、ライダー姿やバトル部分を充分に見せ場にできませんでしたが……。冴波さまをはじめ、今回はアクティヴな女性PCさまに恵まれ、チャー○ーエン○ェルズ結成できそうだと思ったのはヒミツです。

>黒贄・慶太さま
ハーレム状態(見かけ上)の編成になってしまいましたー(実情はともかく)。ちょっと大人しくなってしまったかもしれませんが、新しい穴をお開けになったばかりだったからかも(ホントかな・笑)。

それでは、機会がありましたら、今後ともおつきあいいただければさいわいです。
ご参加ありがとうございました。