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<白銀の姫・PCクエストノベル>


銀の泉


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 『冒険者求む』

  ジャンゴ近郊、銀の泉にて銀の採取を依頼したし。
  銀の泉周辺は最近、アサルトゴブリンが出現。
  情報によれば時には十数体で群れている模様。
  そのため、教会の聖具に使用する銀の採取が不可能。
  勇気ある冒険者の協力を切に求む。
  採取の際、モンスターの血等による汚れは厳禁。
  銀の泉はジャンゴの西、森の中にあり。
  採取した銀は鍛冶屋ベルナールまで届けられたし。
  詳細は裏面に記す。

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「どう? 敵の様子は」
 上体を傾けた拍子に金の髪がさらりと揺れる。淡い色彩の糸が、木漏れ日を柔らかく反射して煌いた。周囲の景色を映してか、常よりも緑を深くした瞳が澄んだ水の流れを覗き込む。
 モーリスに背中から問われ、シュラインは鏡代わりに使っている水面をできるだけ揺らさぬようにして頭上から見下ろしているだろう彼を手招いた。流れがあるため常に乱れているテレビを見る様なものだが、それでもぼんやりとした映像を掴む事はできる。
「ざっと十体……ってところかしらね。見えない範囲にいるとしても、せいぜい数体でしょう」
 今日はかなり好調なのだ。そう言っていた通り、シュラインの持つ花飾りは持てる能力をほぼ惜しみなく発揮している様だ。
 水面に移る映像に見入ったモーリスと入れ替わる様に、シュラインは目線を屈み込んでいた小川から周囲の森へと映した。最早都会では現実にお目にかかれないだろう緑の饗宴が繰り広げられている。緑は緑と重なってその深みを増し、空気にさえも薄っすらと色をつけているのではないかと思わせる程。吸い込み、吐き出す息すら、その内に染まってしまいそうだ。
「そのぐらいなら大した障害ではありませんネ」
 モーリスと同じく金髪、しかしこちらは森と海の対比を見せ付ける群青の双眸を持った男が側の木陰から声を放った。パーティを組む事が決定してすぐ、教会の聖具の為に銀を採取する事に興味はないと言ってのけた男――デリクは、左右の指に嵌めた金色のリングを親指の腹で軽く撫でた。
「私一人でも――」
「それは流石に危険だと思うわ。統率がとれているかどうかも考えないと」
 別の木の根元に座り込んでいた汐耶がそこで口を挟む。いくらデリクが強いのだと言われた所で、そしてそれを汐耶が例え知っていたとしても、賛成はしなかっただろう。他に戦闘要員がいない訳ではないのだから。
「見たところ、好き勝手にやっている様子ですね」
 モーリスが顔を上げて、丁度側に来ていた冴波に場所を譲る。腰に手を当てて上半身を屈め、冴波はしばし不鮮明な映像に見入った。
「私がまず風で群れを分断させる。それから二人でやればいいんじゃない?」
 戦闘を、と区切って冴波はデリクを、次いで他の面々を見渡した。
「確かに、私とシュラインは採取要員になるほうが無難ね」
「では私はお二人の護衛という事にしましょうか。銀という荷物もあることですし」
 シュラインが頷いて花飾りを元通りに髪につける。デリクは己が戦闘要員に入っていれば他は問題ではないらしい。口の端に薄い笑みを浮かべて頷いた。
「それじゃ、行きましょうか」
 誰ともなく声がかかり、五人はそれぞれに歩き出した。何をすればいいかは分かっている。それ以上の作戦は、今は必要でなかった。



 アサルトゴブリンの群れは泉の片側に集まって何かしら騒いでいる様だった。そうは言っても、泉の縁からは少し距離がある。もう少し引き離す事ができれば、安全に銀の採取が行えるだろう。
 何と言っても、その「泉」は壮観だった。
 ぽっかりとその周辺だけ木々の姿がなく、泉の姿が白日の下に晒されている。当然と言えばそうだが、金属質の音を立てて銀の粒が正に湧き出ている光景など、現実世界ではお目にかかる事などないだろう。時折、いくぶん鈍い音を立てて粒子が転がり落ちて、泉の周囲にも散らばっていた。日光を浴びて、楽しげに光を散らしている。
「本当に『銀の泉』なのね」
「綺麗……」
 囁きを交し合い、シュラインと汐耶、そしてモーリスはゴブリンの群れからは遠ざかる様にして泉を回り込んだ。敵に見つからないギリギリの所で木々に隠れているが、ここから泉に近づくとなると何も遮蔽物がないのは困る。
「向こうの出方を待ちましょう」
 いつでも泉周辺に檻を構成できるよう準備を整え、モーリスはじっと泉を挟んだ反対側を注視した。
 冴波とデリク、どうもコンビネーションは期待できなさそうだが、一体どう動くのか。
「――?」
 ざわ、と三人の周りの森がこれまでの眠りから覚めたかのごとくざわついた気がした。
 瞬間、モーリスは檻を泉の周辺に構成していた。シュラインと汐耶と促し、泉へと走る。まずは泉がゴブリンの血に汚されないように。そして泉に着けば、自分たちの保護のために。
「風よ!」
 高く、冴波の声が響き渡る。
 それまでは凪いでいた風が突如として巻き起こり、薄く緑づいた風が人のような動物のような形をとる。それはゴブリンの群れの中、あるいはすぐ側で現れ、その周囲を踊り、誘う動きを見せる。
 驚き、あるいは興味を引かれた数体が導かれるまま森の方へと歩き出し、あるいは敵意をむき出して腕を振り上げたものも後をついてくる。
 残りはその様子を見、警戒するようにその場に留まっていた。
「でハ」
 デリクが炎を喚ぶ声が静かに響き、場に残ったゴブリンらのうち一体の足元に蒼白い炎が揺らめいた。単に完全燃焼の蒼ではない。熱を持っていながらにして冷えた、闇の中で仄白く燃える炎だ。
 かちり、と指輪同士が触れ合う音がし、足元に現れた炎が瞬時に柱を構成する。
 聞くに耐えない悲鳴を上げて転げ回るゴブリンを冷ややかに見下ろし、デリクは胸の前に両手を掲げた。ぴんと指を伸ばし、そこに嵌った指輪を眺める。
「ふむ……では、これはどうですカ?」
 恐怖、という文字を彼らが知っていたら即座にそれを思い浮かべただろう。そんな表情を顔に張り付け、デリクは新たな炎を召喚した。
「剣よ!」
 呼ぶまでもなく、冴波の手に風剣が現れる。柄を感じるや否や、冴波は顕現したばかりのそれを一閃させた。精霊に翻弄されていた一体が声もなくどう、と倒れる。冴波の側に来たのは残り三体。デリクの方にはもう少し残った様だ。
 まだ他にいないとも限らない。さっさと終わらせた方がいいだろう。
「飛び道具なんて使われる前に……ね」
 ここには上手い具合に障害物が沢山ある。木々を傷つけるのは避けたいが、そこは目を瞑ってもらおう。
 呟き、冴波は剣をしっかりと構えなおした。



 鍛冶屋に無事採取した銀を運んだのは、そろそろ陽が暮れようかという頃合だった。店の奥から出てきたベルナールは赤ら顔の気の良さそうな親父で、しきりと五人に礼を述べては渡された銀を愛しげに眺めている。
 職人の目には、この銀が何かの形に変化していくところが見えているのだろう。
「礼なんだが、その前にちょっくら教会までお使いに行ってくれねぇか? 残ってた材料で作った物があるんでな」
 そこで神父さんから貰ってくれ、とベルナールは受け取ったのとは別の包みを差しだした。否と答えられる暇もなく包みを引き受けてしまった汐耶が苦笑して頷く。
「では、私はここで失礼しまス」
 教会の聖具などに興味はない、とデリクは鍛冶屋を出るとすぐに四人と別れた。まだまだ指輪の組み合わせには研究が必要だと、飄々とした素振りで夕闇の町に紛れて行く。
 彼の背中を見送って、残りの四人は鍛冶屋からそう遠くない教会へと足を運んだ。一人祈りを捧げていた神父は気の弱そうな青年で、届け物を見ると大層な喜びようを見せた。
「最近は物騒ですから、皆さんが魔除けの品を求めます。聖別に追われるのはよいのですが、何分、守護符にする銀が採れなくて……」
 神父が包みを開けると、そこにはいくつかのロザリオと短剣が収まっていた。一緒に手紙も入っていたらしく、神父は品を手に取るより先にそちらを取り上げた。
 四人にも、「ベルナール」の署名がちらりと読めた。
「――なるほど。あなた方が」
 呟き、神父はその場を一旦離れると聖書と聖水を手に戻ってきた。何事が行われるのかと見守る四人の前で、神父は厳かに短剣を聖別していく。
「銀を採ってきていただいたお礼と言ってはなんですが、どうぞこれをお持ち下さい。あなた方を闇から守り、光をもたらすでしょう」
 汐耶に、冴波に、シュラインに、そしてモーリスに。
 一つ一つ丁寧に手渡し、神父は十字を切った。
 沈む夕日の差し込む教会の中、銀で作られた短剣は闇を裂く力を秘めて眠っているように見えていた。


[END]


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2318/モーリス・ラジアル/男性/527歳/ガードナー・医師・調和者
1449/綾和泉汐耶/女性/23歳/都立図書館司書
4424/三雲冴波/女性/27歳/事務員
3432/デリク・オーロフ/男性/31歳/魔術師

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■         ライター通信          ■
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皆様、こんにちは。もしくは、はじめまして。
ライターの神月です。
この度は大変お待たせいたしました。申し訳ございません。
即席パーティでクエスト攻略している、という感じで楽しんでいただければ幸いです。

それでは、皆様の今後のご活躍を祈って。