コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


【ロスト・キングダム】迷家ノ巻

 ある日、神聖都学園大学の学生たちが、青梅市の山中の廃村に探検に出掛けたまま消息を絶った。後日、かれらを探しに出掛けた別の一団は、そこで学生たちが撮影したと思われるビデオテープを発見する。その「消えた大学生たちの最後のテープ」は、ゴーストネットを通じてネット上にアップロードされることになった。
 そこには、かれらが山中に分け入るところから、山の中でキャンプ中に、あやしい物音を聞くところまでが録画されていた。

「おい、なにか声が聞こえなかった?」
 最後のパートは、テントの中での、そんなやりとりから始まっている。
「ちょっと外見てみろよ」
「おい! あれ!!」
 外は真っ暗だ。
 だが、その中に、遠くゆらゆらと揺れる火が見える。
「誰かいるのか?」
「しっ。また聞こえる」
 樹々のざわめき。風の唸り。そして、人の声のようなもの。
「近付いてくるぞ」
 ザ、ザ、ザ、ザ、ザ――

「あ、あれを見ろ!」
「なんだあれ!」
「う、うわあああああーーーーーー」

 ブツン、

 ザ――――――――――――――――。

  *

「ここだね、樹々のあいだに鬼火状の灯火が見えた場面。ここで、背後の闇の部分を拡大し、ぎりぎりまで光を拾うように処理をしてみたのがこれだ」
 河南創士郎が端末を操作すると、画面にはぼんやりと人の輪郭のようなものがあらわれる。うっすらとその目鼻立ちがわかる程度で、どことなく心霊写真じみていた。
「そして、これを見てくれるかな」
 河南がキーを叩くと、隣に初老の男性の写真があらわれた。そしてふたつの画像が重なりあう。……すると目鼻の位置や、顔の形がぴたりと一致した。
「この人物は大河原正路。7年前まで、この大学で民俗学を教えていた教授なんだ。彼はフィールドワークに出たまま行方不明になり、今に至る……」
 金髪の若き教授は聴衆を見回した。
「このテープは青梅市の山中に出現した迷家(マヨイガ)で得られたものだ。マヨイガとは、かれらの、いわば移動基地というべき小異界のようなものだとボクは考えている。青梅市のマヨイガがその後、どこに移動したかはわからないけれど、奥多摩の山中でもかれらの活動がみとめられたという情報もあるので、秩父山系が、現在のかれらの拠点ではないかという仮説は妥当だと思うね」
 そして、地図を広げる。
「なにはなくともフィールドワーク、がボクのモットーなのでね。ひとまず出掛けてみようと思うんだ。…………実は……大河原先生はボクの恩師でもある。かれの研究――、すなわち山中の異界とそこに棲む異人たちについては、ボクも大いに興味があるところだからね」

■迷い家

「このあたりでいいですかぁー? 教授?」
「…………酔った」
 マリオン・バーガンディが振り返ると、河南は後部座席でぐったりしていた。
「あらら、山道だったですからねー」
「っていうか運転が……うう」
「大丈夫?」
 三雲冴波にいたわられながら、彼は車を降りた。
 マリオンを運転手に、一同が乗ってきたのは、オフロード仕様の、大きなキャンピングカーである。
「こんな車よく持ってたわね」
「わけないのです。カタログからちょっと――」
「え?」
「さあ、日が暮れないうちに準備しましょう」
「いぇーーい、キャンプだ!」
 うれしそうに、飛び出してきたのは新座クレイボーンだった。そのあとから、いつも無表情の、亜矢坂9・すばるがつづく。
 神聖都学園大学、河南創士郎率いる、即席フィールドワークチームである。だが、冴波とマリオンは、ことの発端となったビデオを、青梅市の山中から回収したメンバーでもあった。
「飯は? 飯は?」
「本日の装備その1、炊き出し用器具。多人数の食事を効率的に準備する」
「なになに? やっぱカレー?」
「統計的にキャンプにおける炊き出しはカレーライスが一般的と判断したのでそのように暢達した」
「やりぃー! あ、肉多めね、肉多め!」
 新座とすばるのやりとりを横目に、冴波は車酔いで青い顔をしている河南に話しかけた。
「あの鬼火の群れの中に、河南教授の恩師の先生がいたのね。でもどうして……」
「いなくなってから7年も経っているのでしょう? それなのに、写真で照合できたんですか? 外見が変わってないってことですよね」
 マリオンも会話に参加してくる。
「もしや《マヨイガ》の中では、時間の流れ方が違うのでしょうか」
「さて、どうだろうか。《マヨイガ》が一種の異界なのは、間違いないが……」
「あのとき、連中は禁を破ったら殺す、なんて言ってた。でも大河原先生は、殺されずにかれらと行動をともにしているのよね?」
「…………」
 河南は思案顔だった。
 そのとき、冴波がはっと顔を上げた。
 ふいに、木々のあいだから、ぬっと姿を見せた黒い姿があったからである。
「あ!」
 それは大きな狼のようだった。
「河南教授ですね」
 狼は人間の言葉を話し出す。
「誰なの」
 冴波の誰何の声に、それは見る間にかたちを変え、雲をつくような長身の巨漢になった。
「驚かせてすみません。後を追い掛けてきました。教授のフィールドワークの話をアトラスで聞いて。……俺にも加わらせてください」
 男の黒い瞳が、おだやかな光をたたえて、河南たちを見た。
「二階堂裏社といいます」

「《マヨイガ》について簡単におさらいしておこうか」
 夕闇が降りはじめた頃だ。すばるの用意したカレーを盛った紙皿がテーブルに並んでいる。一座を見渡して、河南が口を開いた。
「『遠野物語』などにみえる、山中に突如としてあらわれる怪屋――、それが『迷い家(マヨイガ)』だ。豪奢な屋敷だが人の気配はなく、ここからひとつだけ、なにか品物を持ち出せば、その人間はしあわせになるという。『隠れ里』の一種とも考えられるが、僕はこれを、ごく小規模な従属異界だと見ているんだ」
「従属異界とは何なのです?」
「この世界をベースとして成立する異界で、この世界がなければ存在しえなくなる異界だよ。界鏡現象によってあらわれた異界の多くはこの従属異界だ。例の蓬莱館などもそうだね。対して、もともと別の世界線として存在していたものと、たまたまこの世界とつながりができてしまった、というだけの異界は、お互いに本来個別に成立した世界ということで、独立異界と呼んで区別している」
「例の山に棲む人たち? かれらが、そのマヨイガをつくったような話だったけど」
「そのとおり。人為的に従属異界を成立させることもできないわけではない。封印結界だって暴走すれば異界化することがあるそうだからね。かれらは小異界をつくることで、遠距離を高速で移動したり、索敵されずに潜伏したり、といった用途に使用していると思われる」
「『迷い家』に入ったものが、なにかひとつの品物を授けられる、というのは?」
 裏社――最後にメンバーに加わった青年が、うっそりと発言した。彼の腕の中には、ペットなのだろうか、猫に似た奇妙な動物(黒い毛並みに白い虎縞、しかし、翼を持っていた)が、あるじの顔を見上げている。
「私たち……それで、あのビデオを手に入れたんだわ」
 冴波が言った。マリオンも頷く。
「あのとき、誰かが言っていたのです。『しきたり通り、ひとつだけ、授けものをする』って」
「あれが……大河原先生だったのかしら」
「なにか機能的な意味があるのか、単なる習慣的なものなのかは、よくわからないね。僕の勘では後者だ。先生は――それが先生だったとして、そういう口実でこちらに手がかりを渡したとも考えられる」
「何のために?」
 河南は肩をすくめた。
「とにかく、そのマヨイガっつーのを探して、中から何か取ってくればいいんだなー?」
 新座が、おおざっぱに要約して、彼なりに理解したようだ。
「ってか、お代わりくれ!」
 差し出された皿にカレーをよそってやりながら、すばるが、言った。
「ここまでの経緯から、かれらの標的が現在の日本国家権力であることは間違いがない」
 冴波とマリオンは、あのとき、吹きすさぶ風の中で聞いた声を思い出す。

『おまえたちの国は何も知らない』
『この島の土地に住むのが自分たちだけだと信じて疑わない』
『だがそうではないのだ』
『山には山に棲むものがいる』
『里を治めるだけの国が』
『山を御しきれるものか』

「かれらは奪回を主張していると思われるが……、ほぼ譲る必要はナシ、というのが判断である。彼らの不足不満はつまるところは彼らの選択の結果に他ならないからだ」
「奪回って……つまりかれらは山を完全に自分たちで支配しようとしているってこと」
「『山から降りろ』、とあのとき言っていたのです。かれらの領域に私たちが入り込んだので、追い出そうとしたのでしょうか」
「もっとも」
 すばるは付け加えた。
「かれらとの交渉方法などを忘却した国家側の責もあるわけだが」

■夜風のおとない

 山の夜は、驚くほど静かである。
 まさに森閑。
 フィールドワークとはいいながら、しかし、何のあてがあるわけでもない一行である。件の《マヨイガ》があらわれるまでは、ただ山中にキャンプを張ったというだけのことなのだ。
 新座に裏社、それにマリオンはテントにもぐりこんでいる。
 すばるは、
「本日の装備その2、サーチアナライザ。物体の組成の解析を行える」
 と、付近の捜索に勤しんでいた。
 そして、冴波は、
「大河原先生は、何を研究していたの?」
 明りの下で、何かノートを書き付けている河南に、水を向ける。
「山中の異人、っていうのが、例の連中のことなんでしょ」
「冴波さんは、山人というものについて何かご存じかな」
「特には」
「これも『遠野物語』に頻繁に記述のある、山に棲む人々のことだね。里の人々を、はるかに凌駕する力を持っていたといい、ときに、里の人を攫ったともいう」
「それが、あの人たちなの?」
「大河原先生はそう考えていたようだね。7年前……ぼくたちは、歴史の闇に隠れ、連綿と山に生きつづける人々のあることを知った。ぼくたちはかれらの痕跡をもとめて山々をめぐり、かれらに接触をこころみた」
「会えたの」
 河南はかぶりを振った。
「皮肉にも、ぼくがかれらをはじめて見たのは、つい先日のことだよ。ぼくが手元に置いておいた資料も奪われてしまった。先生は、より詳細な資料や、論文も所持していたはずだ。行方不明の直前に書き上げた論文は、どこかにコピーがあるはずですが見つかっていない。まあ、それはだいたい見当はつくけれど……。ぼくは先生はもう生きていないものと思っていたんだ。かれらについて知り過ぎたために消されたのだと。だが、そうでないのだとすれば……」
「空間の歪みを察知」
 ふいに、すばるの声が闇にひびいた。
「《マヨイガ》出現の徴候と推察される」
「きたか!」
「新座くん、マリオンさん、裏社さん!」
「なんだ!?」
「はいはい」
「起きてます」
 それぞれがテントから顔を出したとき。

 ザ、ザ、ザ、ザ、ザ――
 山をゆるがす、風の音。そして……、
 土中から、生えるように突き出してくる、それは……柱に、障子に、梁に、襖に……、かれらの目の前で、まるで逆回転再生のビデオ映像のように、家が、組み立てられていく!

「面白ぇ! これが《マヨイガ》か!」
「こちらへ来ます」
 ズズズ……、と、それはまるで生き物のように、組み上がり、家の形をとってなお、ぐずぐずとあちこちが歪み、まるで息づいているかのようなのだ。あまつさえ、這うようにしてそれはかれらに迫ってくる。
「よし、一番乗り!」
「あ、新座くん、ちょっと――、教授……!?」
 新座につづいて、河南もが、飛び出して行った。
 続いて、裏社とすばるが無言で。マリオンは好奇心に目を輝かせ。
 最後に、冴波が、仕方なしに後を追う。
 かれらを迎え入れるように、《マヨイガ》は入口を開いた。それは、巨大な怪物のあぎとのようにも見えた。


「ここが……《マヨイガ》」
「よし、じゃあ探そうぜ」
「なにを探すのか、わかっているのですか」
「…………えっと」
「本日の装備その3、ドリルハンド」
 すばるが、手に、ドリル状の機材を装着する。
「《マヨイガ》は敵の前線基地との情報だ。充分に注意を要する」
 そう言い置いて、すたすたと歩いていくすばるに、新座と裏社がつづく。
「従属異界……、この世界にできた、小さな異世界、ということですね」
 裏社が誰にともなくつぶやいた。
「世界は、こんなにも多重におりかさなっている……、俺は世界から世界へと旅してきたけど……」
 続く言葉は、内心だけの呟きになった。
(兄貴も、この寄木細工のような世界の何処かにいるのだろうか。世界から世界へと、境界を越えて旅して、そして――)
 中は、外から見たよりも、ずっと広かった。
 と、いうよりも、あきらかに不自然な広がりと奥行きを持っていた。
 長い板張りの廊下が、つづら折りに続き、襖から襖へと、開ければ次々と、何十畳もある畳敷の広間があらわれ、ふいに天井が高いと見上げれば、無数の梁が複雑に組合ってはるかな闇に溶けていた。
 そして、まったく人の気配はなく、耳が痛いほどにしんと静まり返っているのだった。
「誰もいませんね……」
「つまんねー」
「本日の装備その4、サイレントヴォイス。空気震動を関知し、解析する」
 すばるが気配を探った。
「そういやさ、さっきからずっと思ってたんだけど」
 すばるの仕事の成果を待つあいだ、新座が、裏社の顔を見上げていった。
「誰かに似てる気がするンだよなァー」
「え。俺ですか。……俺に似た人を、知ってるんですか!」
「おい、うわ、ゆ、揺らすな。ここまででかかってたのに、忘れただろー!」
「あ。す、すいません。実は俺、ずっと兄――」
「発見。6時方向、18・7メートルの地点に、成人2名の呼吸音」
「え?」
「本日の装備その5、スプリングヒール」
 すばるは、跳躍した。
 ドリルハンドが回転し、天井板を破る。
 それが、合図ででもあったかのように、
「……!」
「こいつら」
 ばん! ばん! ばん!
 周囲の襖が、次々と開き、黒装束のものたちが、転がり出てきた。

■大河原博士

 足早に、襖から襖へと。
 しかし、開けても開けても、すぐに次の襖があらわれる。
 先をゆく河南のあとを、冴波とマリオンが追う。
「待って、教授、不用意に動いては危険だわ」
 河南の様子がいつもと違う。つきあいがさほど深いとはいえない冴波にもそれはわかる。むろん、風の精霊たちに、それとはわからぬよう河南を護らせてはいるが、彼の先走りを許すわけにはいかなかった。
「先生ーーーっ」
 河南が、呼ばわった。
「どこです。ここにいるのでしょう。大河原先生!」
 その呼び声に、応えたのだろうか。
 次の襖を開けた先は……、果てが見えぬほどの広間だった。視界の先は闇に沈んでいる。そしてその暗闇の中に、ぽつ、ぽつ、と、青白い鬼火が灯りはじめるのだった。
「先生……?」
 かれらは、そこに、人影をみとめた。
 闇の中に、さらに黒々と浮かび上がるシルエット。
 子細な容貌まではわからない。だが、それが、山高帽にインバネスコートをまとい、ステッキをついた姿であることだけは、ぼんやりと見てとれた。
「大河原博士なのですか?」
 マリオンも呼び掛けた。
『きみたちは青梅で会ったね。山から降りろと言ったはずだが』
 いんいんと響く、低い声。
「先生! 本当に……」
『河南くん。きみはとうとう……こんなところまで来てしまったのかね』
「生きていらしたとは……思いませんでした」
『生き長らえてはいるようだ。それがよかったのかどうかわからないが』
「ぼくの持つ資料を回収させたのは、あなたの指示ですか」
『…………』
「先生」
「大河原先生。……あなたはなぜ、かれらと……?」
『わたしがかれらを理解し、かれらがわたしを受け入れてくれたからだ。元来、山とはそういう場所でもあった』
「なにかを知ってしまって、捕らえられているとか、そういうことではないのね」
『わたしはわたしの意志でここにいる。知るべきでないことを知ってしまっているのも本当だがね。……お嬢さん。警告通り、山を降りなさい。きみたちにはもう、授けものをしたはずだ』
「先生。あなたはかれらに与した、と。そういうことなのですね」
『かれらのことを理解した、というだけのことだ。それはイコールではない』
「そこに、永遠につづくものはあるのですか!」
『河南くん。永遠のものなどない。どこにもね』
 室内なのに、闇の彼方から風が吹き付けてくる。
 鬼火がゆらゆらと揺れた。
「誰かいます」
 マリオンが、冴波にささやいた。彼女は無言でうなずく。
 大河原博士だけでない。闇の中には無数の人間たちが、じっと息をひそめ、彼らに視線を注いでいるのだった。
『山を降りたまえ。きみたちを傷つけることを、わたしは望まない』
 そしてその影は、きびすを返し、闇の中へと歩み入ってゆく。
 なまぬるい風は、しだいに強くなってくる。
「先生ッ! しかしかれらは……」
『河南くん。学者は平等な目を持たねばならん。今ひとつ警告しておこう』
 遠くなっていく声が、風にちぎれる。

『宮内庁には気をつけろ……』

 だん!
 ふいに、傍の襖が吹き飛んで、人が飛んでくる。
 見れば、黒装束の人物が、投げ飛ばされたのか、昏倒している。
 そのあとから、あらわれたのは、新座、裏社、そしてすばるだった。
 そこへ、天井から、あるいは足元の畳を返し、さらに黒装束がわきだしてくる。
「きりがねーな、こいつら!」
 手近なひとりを蹴り飛ばしながら、新座が叫んだ。
「教授!」
 冴波が河南を促す。
 苦り切った表情で……彼は告げた。
「撤収しましょう。先生の生存と、所在が確認されただけで成果とします」
「聞いたでしょ、撤収よ!」
「了解」
 一番早く反応したのがすばるである。
「サイレントヴォイスにより、音声信号を撹乱する」
「あ、なんだ、この音?」
「すばるさんが……?」
 耳をそばだてたのが、新座と裏社だけであったところを見れば、それは常人の耳には聞こえぬ音だったのだろう。
 しかし、黒装束たちには効果があったようだ、戸惑ったように、そこに立ち尽くしている。
(ィィィィイイイインンンン)
 どこかで、笛のような音が鳴った。
 ぐらぐらと、足元が揺れる。
 そして、畳がめくれてゆく!
「ま、また!」
「《マヨイガ》が解体する。あるいは……ぼくたちを残して移動するのか」
 冴波が風に命じた。うずまく旋風が、かれらを護る。
 その中で、マリオンは持参したデジカメで去りゆく《マヨイガ》を撮影していた。


 数分後には、そこはがらんとした夜の山である。
「消えてしまいましたね」
「あー、なんにももらってねーぞ。なんかくれるんじゃなかったのか!?」
 そこに広がっていた屋敷の痕跡はどこにもなく、もとのとおり、山の夜は森閑としていた。
「写ってた?」
 冴波が、マリオンのデジカメをのぞきこむ。
 彼は、金の瞳を、画面の中の闇へとじっと向けていた。
 マリオンの視線は、絵画や写真の先にある世界を見つめる。その過去も含めて。
 だから彼が見たのは、あの《マヨイガ》の過去の光景である。
(事を急ぎ過ぎではないのかね)
 闇の中にいるのは、大河原博士に違いない。
(われわれは何百年も待った)
 別の声が応える。暗中の二人物の、会話の一幕なのだ。
(そういうことではない。東京には思うよりも、さまざまの人間がいる。里人にも力を持つものはいるぞ)
(おぬしの言葉とも思われぬな。現在の《マヨイガ》の創造技術が整ったのは、おぬしの――)
(彼女の言葉を鵜のみにするのは危険だと言っているのだ)
(それは承知している。だがオオヤゾウさまの意向はかわらぬぞ)
「……」
 垣間見た過去の情景から、マリオンは顔をあげた。
「大河原さんは……やはり、かれらに協力をしているように思えますけれど」
「ふん」
 河南は鼻で笑った。
「それならそれで構わないさ」
 いつのまにか、彼の顔は普段の、傲慢な教授のそれに戻っているのだった。


(迷家ノ巻・了)

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【2748/亜矢坂9・すばる/女/1歳/日本国文武火学省特務機関特命生徒】
【3060/新座・クレイボーン/男/14歳/ユニサス(神馬)・競馬予想師・艦隊軍属】
【4164/マリオン・バーガンディ/男/275歳/元キュレーター・研究者・研究所所長】【4424/三雲・冴波/女/27歳/事務員】
【5130/二階堂・裏社/男/428歳/観光竜】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

お待たせいたしました。
『【ロスト・キングダム】迷家ノ巻』をお届けします。

>亜矢坂9・すばるさま
またのご参加ありがとうございます。今回もすばるさまの素敵装備の数々(特に炊き出し)が役に立ちました。

>新座・クレイボーンさま
依頼でははじめましてですねー。ありがとうございます。
新座さまにとって楽しいキャンプ(笑)になりましたでしょうか。

>三雲・冴波さま
お世話になっております。河南教授を気にかけてくださってありがとうございます。おかげさまで、なんとか無事にキャンプは終えられたようですが……。

>マリオン・バーガンディさま
お世話になっております。すっかり車両係をお願いしてしまっておりますが、マリオンさまのおかげで追加情報を出した部分も。今後もよろしくなのです。

>二階堂・裏社さま
弟さまでははじめましてー! ひそかにチェックさせていただいていたPCさまだったのでうれしく思います。弟さまでも御贔屓にどうぞー。

それでは、機会がありましたら、今後ともおつきあいいただければさいわいです。
ご参加ありがとうございました。