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<東京怪談・PCゲームノベル>


『遺跡探索へ行こう!』



「遺跡探索?へぇ、面白そうジャン!」
 Y・Kシティの巨大図書館でテスト勉強をしていた桐生・暁(きりゅう・あき)は、図書館の館長、山音・翠(やまね・みどり)の話を聞き、顔を輝かせていた。
 もうすぐテストだけあり、図書館では沢山の学生達が静かに勉強をしている。中には寝ていたり漫画読んでいる学生もいたりするのだが、一応はテストに備えてここへ来ているのだろう。
 暁は元から頭が切れるから、他の生徒のように切羽詰って勉強をしたりはしないけれども、今日は友人達に誘われて、ここへ来た、というわけであった。
「あら、興味あるの?遺跡調査の同行者を探しているのよねえ。ちょっと危険かもしれないので、生命保険掛けておいてって言うと、誰も来ないのよね。どうしてかしら?」
 暁から見ても、翠は30代にしか見えないのだが、本人はこの前、成人式を挙げたばかりだと言い張っている。そのあたりが、暁も変わっている女性だと、思うところなのだろう。
「行くのはテスト明けだしね、俺行ってみたいな〜。翠さん、お願い、連れてって〜」
 そう言って暁は、翠に甘えるような表情を見せる。
「ええ、いいわよ」
 翠の返事は即答であった。
「やったー、ありがとっ♪」
 暁は笑顔で翠に抱きついた。
「わたくしの研究を、若者にも知って欲しいし、それにイケメンが一緒なら仕事もはかどるという物。これが待ち合わせ場所の地図。時間も書いてあるわ」
「あ、海の中に入り口があるって言ったよね?水着とかいんの?」
 暁の問いかけに、翠はにこりとして答えた。
「そうね、バカンス気分で好きな水着を持ってくるといいわ。ちょっとまだ、寒いかもしれないけど」



「こんなに沢山の方々が、わたくしのお手伝いをしてくれるなんて。とても頼りにしているわ。やっぱり、か弱い乙女のわたくし1人では、限度がありますものね」
 翠は、揺れる船室に集まった者達の顔を見回し、嬉しそうに微笑んでいる。
「遺跡の調査なんてさ、わくわくするよね〜!それに、翠さんと一緒に探索するのって、絶対に楽しいよ〜♪」
 翠の隣りに座り、長靴の形をした島の地図に視線を落としながら、暁は皆へにこりと笑って見せた。
「俺さ、楽しそうな事には目がないんだ〜。興味本位で来たけど、どんな遺跡なのか楽しみなんだよ。それに、皆と一緒なのも」
 暁はまわりを見回し、無表情で端の方に座っている壇成・限(だんじょう・かぎる)へ目をやると、限の横へと移動をし、腰を降ろした。
「ねね、そんな隅にいないでさあ、こっちへ来ない?」
「いや、僕はここでいい」
 ぽつりと限が呟く。
「そんな事言わないでさ〜、可愛い子も沢山いるよ、ほらあ」
 翠の横で景色を眺めている女性陣、鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)とマイ・ブルーメ(まい・ぶるーめ)に暁は笑顔を送る。
「だって、僕、間違えてしまったし。本当は別の船に乗るはずが」
 その件については、船に乗ってすぐそれぞれが自己紹介をした時に、暁も聞いていた。
 普段はビデオショップで働いているという限は、本当は形の良く似た隣りの船に乗るはずだったらしい。
 職場の仲間達に誘われ、フィッシングに行く予定だったのだが、一人船室に入り、同僚を待ち続けているうちに船は出発。行き先を聞いて自分が間違えていた事に気づいた時はすでに遅し。翠と暁が満面の笑みで遺跡探索へ誘い、結局同行する事となった、ある意味でちょっと可愛そうな青年であった。
「こんな時に限って、携帯電話忘れるし」
 限はからっぽのポケットに手を当てて呟く。
「どっちにしても、このような海の上では、無線ぐらいしか通じないと思いますわ。せっかくご一緒したのも何かのご縁でしょう。それに危険な目には、このわたくしが合わせませんわ」
 デルフェスは一見、どこにでもいるような若い女の子に見えるが、古風なドレスを着、その貫禄すら感じる雰囲気が、まるで中世の絵画の中から飛び出してきたような貴族の女性のようにも感じる。
「えっ、でも」
 その優雅な姿を見て、限が戸惑ったような表情を見せている。
「ご安心下さいませ。わたくしは中世の時代に作られたミスリル製のゴーレムでございます。この身体を、ダイヤモンドよりも硬くする事も出来ますから。信じられないかもしれませんが…ともあれ、わたくしはこの鑑識眼を翠様に買われて、この探索に参加致しました。わたくしの役割は、きっちりと果たそうと思っておりますので」
「大丈夫、限さん♪皆いるんだしさ!」
 暁が不安そうな顔をしている限に、笑顔を返して見せた。
「そうですね、私も治療をする事が出来ますし。罠が多そうですしね」
 食い込みの激しい、胸を強調した水着をすでに着ているマイの身体は、目のやり場に困るのだが、それでシスターだというのだから、世の中わからないものである。
「私に任せて下さい。危険な罠でも大丈夫ですから」
 優しい口調で、マイは皆へと笑いかけた。
「何となく、女性の方が逞しいわね」
 そう言って翠が、口元に笑みを浮かばせた。
「そろそろ、島に上陸するわ。準備はいい?今日はよろしく頼むわね」
 やがて船は、長靴島と名づけられた島の小さな入り江に到着した。
「この入り江の下に、遺跡の入り口があるの。水着を持ってきた子はいいとして、持ってない人には貸してあげるわ。こんな事もあろうかと、用意したのよ」
「準備がいいんだね?」
 限が翠から、眩しい程のピンク色の海パンを受け取りながら、苦笑を浮かべているところを、暁は見逃さなかった。
「水着持ってきて良かったですね」
 暁にそう言うマイは、キワドい水着を着ているものの、平然とした顔をしている。水着の事はあまり気にしていないのかもしれない。
「その他の荷物や着替えは、この防水用のケースに入れて持っていくのよ。肺に自信がない人には、酸素ボンベも貸してあげる。ラジオ体操に合わせて準備体操が終わったら、海へ潜るわよ」
 何故か、船の上でラジオ体操をする5人…マイやデルフェスは、その体質上、準備体操も必要なさそうであるが、皆に合わせてという事なのだろう。
 体操を終えると、暁達は翠の指示に従って、1人ずつ、順番に船から海中へと飛び込んで行った。



(うわあ、いいね♪)
 メガロポリスであるY・Kシティから船で2時間足らず。それにも関わらず、この島の周辺には珊瑚の海が広がっている。通常ではありえないが、それが異界の不思議なのかもしれない。
 暁は戦闘を泳ぐ翠を追いかけながら泳ぎつつ、好奇心なのか寄って来る色とりどりの魚の動きを目で追いかけたり、珊瑚の形を美術品のように眺めながら、やがて小さな洞窟へと入っていった。
 急に視界が狭くなり、光も閉ざされていく。その時、前方から一筋の光が暁の方へと走ってきた。翠が水中用のライトで、後続している4人へとライトを照らし、道を記しているのだ。光に当てられて、限のピンクの海パンが異様に光っている事は、本人には言わないでおこうと暁は思っていた。
 とは言え、その海中の通路は一本道だから、そんなに通るのに困る事はなかった。
(出口?)
 上の方に、わずかに光が漏れる部分が見えてきた。翠はまっすぐにそこへ向かい、足だけになった、と思うと水中から見えなくなった。そしてしばらくして、上からライトの光が差し込んできた。暁は皆と一緒にその部分へ入り、水面から陸へと上がった。
「うわぁー、本当に遺跡ジャン!」
 暁の目に、薄明かりの中、石造りの大きな扉と、そのまわりに描かれた古代の祭りのような壁画が飛び込んできた。
 写真ではわからなかったが、その壁画もかなり色あせており、そのうち消えてしまうかもしれない。
「皆、お疲れ様。ここが遺跡の入り口よ」
 翠が最後に顔を出したマイの身体を、手を引っ張りあげながら言う。
「まずは、この扉を開けないといけないのですけれども」
「石で出来てるんだな、これ。普通に押してもびくともしない」
 限が身体で扉を押しているが、扉はまったく動かない。
「ちょっと待ってよ。何か違う方法があるのかもよー?」
 暁はそう言うと、扉に抱きついて見せた。
「何をしていらっしゃるのですか?」
 背中で、不思議そうなデルフェスの声がした。
「やっぱさ〜、親しみをこめて?ってヤツ?コレが文献に合った、門番じゃないかなあって思って」
「そうなのでしょうか?」
 デルフェスが暁のすぐ隣りに来て、扉を手で触っている。
「ホラ、客を迎える時ってこうしない?だから迎えられる側の役をやってみたんだけど」
 暁はそう言って、扉を優しく撫でるが、扉はまったく動かなかった。
「動きませんね」
 何時の間にかマイも隣りへ来て、扉のあたりで視線を漂わせている。
「こじ開けた方がいいんじゃないのか?出来るならの話だが。僕はあいにく、そういう道具は持って来てないのだが」
 後ろから限が言う。
「えー、乱暴だなあ。でも、開かないならそれしか方法はないかな?」
 扉から少し離れて、暁は答えた。
「では、わたくしがやらせて頂きますわ。皆様、少し後ろへお下がりくださいませ」
 デルフェスが握りこぶしを作り、扉にパンチを食らわす。その腕からは想像もつかないのだが、ミスリルで出来てるというのは本当なのだろう、扉の、デルフェスがパンチを食らわした部分を中心にひびが入り、もう一発デルフェスがパンチをすると、扉はあっという間にバラバラになってしまった。
「凄いな」
 限が目を丸くして砕けた扉を見つめている。
「さあ、皆様先を急ぎましょう」
 デルフェスに続き、暁達は遺跡の中へと足を踏み入れた。
「中へ入るのは初めてだわね。さて、何があるやら。わくわくしてきたわ!」
 翠がぐぐっと握り拳を作ってみせる。
 暁は遺跡を見上げた。高さは2階建ての建物ぐらいだろうか。天井が少し高めに感じる。入り口と違い、ここは正方形の四角い、殺風景な部屋であった。
 だが、その中央に翼の生えた悪魔のような、おかしな石造が置かれている。その奥に通路があるので、遺跡はさらに奥へと続いているのだろう。
「何だあれ!?」
 限がその石像を見て叫んだ。
「お静かに。おそらくは、あれが門番、という物なのかもしれません。ガーゴイルのような怪物と考えていかと。翠さん、文献には何と書いてありましたかしら?」
 デルフェスが翠の方を振り向いた。
「『客人を出迎えよと門番に命を授ける。門番を恐れる者は排除し、毅然とする者は受け入れよと命ずる』だったわね」
 翠が小声で答える。
「それなら、毅然としていなければなりませんわね」
「堂々としてればいいのですね?客人って私達の事ですよね。どんなお出迎えをしてくれるのかしら!」
 マイがにこりとして答える。
「お出迎えと言うのは、遺跡の中にすんなりと入れてくれる事だと思いますわ」
 デルフェスが石像を見つめながら言った。
「じゃあさ、皆で胸を張って行こうよ。手でもつないでさ、楽しくしてれば、俺達の事、恐れているなんて思わないんじゃない?」
 暁のアイディアに従って、一行は手をつないで胸を張り、楽しく石像の真横を通り、奥へと向かった。
 暁は、何となくその石像の目が、こちらの動きに合わせて動いているような気がしたのだが、恐れなどは一切見せずに、通路へと入った。
「とりあえず、何事もなく通れたな」
 限が部屋の方を振り返りながら、ほっとして息をつく。ブロックを積み上げられて作られた通路を進むと、今度は先ほどの部屋よりも小さな部屋に出た。
「翠さーん、次はどんな事が書いてあったっけ?」
 暁が、本当に何もない部屋に視線を漂わせて翠に尋ねる。
 いや、何もないのではない。部屋の壁に無数の穴が開いているのを見て、内心これは無事に通れるかな、とも思っていたのだ。
「『部屋を進めばその身を多くの剣が貫くであろう。死の剣の奥に扉あり』ちょっと、怖い記述よね?」
 不安そうな表情で、翠は暁を見つめた。
「おそらく、あの穴から剣や槍が飛び出してくる罠ではないでしょうか?」
「ああ、そうかもな。よく映画なんかで見かけるトラップ。雨のように降ってくるんだっけか。だが、そうだとしたらあんなに沢山の穴があるんだぞ、通るのは無理なのでは?」
 限が腕組みをしてそう言うと、デルフェスが少しだけ笑って一歩前へと進んだ。
「あいにく、わたくしはミスリルゴーレムですので、同等の強度を持つ武器でなければわたくしは傷つきませんわ」
 先程、硬い岩の扉を砕いたのだ。ここはデルフェスに任せた方がいいかもと思った暁は、デルフェスに笑顔を見せた。
「うん、頼りにしてるからね〜♪」
 デルフェスは静かに部屋を進んだ。とたんに、鋭く尖った金属で出来た槍の様な物が音もなく穴から飛び出し、デルフェスの体へと命中した。
 しかし、デルフェスのその強靭な体に弾かれ、金属の槍は金物の音を立てて地面へと落ちる。
「デルフェス様、凄いですね。万一怪我をされたら、私の力で治療をと考えていたのですが、その必要ないかも」
 マイも驚いたような顔でデルフェスを見つめていた。
 穴から次々と槍が飛び出すが、それらがまったくデルフェスの体を傷つける事はなかった。しばらくすると、壁から飛び出す槍が少なくなり、やがて一本も槍は出てこなくなった。
「弾切れか?」
 床に散らばった槍を見つめながら、限が問い掛ける。デルフェスはすでに次の部屋の入り口へと到着していた。
「槍が投げられて。これこそやりなげ、だね?」
 暁が思いついたシャレを言うが、誰も笑わなかった。
「まあ、とにかく、今のうちに渡るっきゃないね!」
 暁はまわりをみまわしながら、部屋のさらに奥を目指す。
「おい、だけど、もしかしたらそれが罠かも」
「大丈夫だよ、マイさんもいるしね♪」
 限の心配をよそに、暁は部屋を進んでいく。金属の槍を踏まないように気をつけながら進んだが、もう槍が飛んで来る事はないようだった。いざとなったら得意のカポエラを使い、槍を避けようとしたが、その必要もなさそうであった。
 暁の行動で安心したのか、限と翠、マイも暁の後へと続く。
「さてと、次は『永遠なる廊下は死への道か生への道か。廊下に無数の天罰が降り注ぐ』だわね。これもさっきと同じパターンかしら?」
 槍の部屋を出ると、細くて狭い廊下が続いていた。
 翠がそう言うのを聞いて、暁は天井を見上げるが、今度は何かが出てくるような穴は見当たらない。
「無数の天罰とありますから、今度は天井から何かが降ってくかと思ったのですが」
 デルフェスも不思議そうな顔をして天井を見上げている。
「でも、道はここしかないですし、先に進むしかないですよね」
 マイがそう言ったのを聞いて、デルフェスが再び廊下に足を進ませる。
「では、またわたくしが参りましょう」
 足音だけを響かせ、デルフェスが通路を進んでいく。
「何もないのかな?」
 限が首をかしげている。デルフェスが通路の真ん中あたりまで行っても、特に変わった様子はない。
「あ、ちょっと待ってください!あれは何でしょう?」
 急に声を上げて、マイが天井を指差した。見ると、半透明の動く塊が、石を敷き詰められた天井の隙間から染み出してくる。それはあっという間に無数の塊が天井から現れ、暁達のすぐ上にも出現した。
「動いている!あれ、生き物です!」
 マイが叫んだ。
 半透明の生き物、俗にそれはスライムと呼ばれている生き物だと暁は思った。次々に染み出してくるスライムは、拳ほどの大きさの物から、中型犬ぐらいの大きさのものがおり、中には人間の大人ほどの大きさのものまでいた。
 暁のそばに、サッカーボールほどの大きさのスライムが落ちてきた。それはわずかに暁の服のすそをかすったのだが、かすった服の部分が強い酸の薬品をかけられたように、繊維が縮まっていった。
「このスライム達、触るとマズイみたいだよ!」
 暁が足元に落ちたスライムを踏まないように、場所を移動する。スライムは暁の方に近づこうとするが、幸いにも動きは遅いので、避けるのに苦労はしない…そう思った時であった。
 天井のいくつかの部分が崩れて、その崩れた部分から大量のスライムが雪崩込んできたのだ。
「こんなにいるのか!!」
 限の叫び声も、天井の一部が崩れる音にかき消されてしまう。
「皆様、今のうちに急いで奥の部屋に!!」
 デルフェスが暁達へと叫んだ。落ちてきたスライムが山のように重なり、ところどころの道を塞いでいる。
 暁は驚いた表情の翠の手を引き、まだ降って来るスライムを避けながら、通路の一番奥へと急いだ。
「あのスライムにまみれたら、水も滴るいい男になるかなぁ?」
 そんな冗談を言いつつも、暁は真剣になって走り続ける。
「わあっち!!」
 後ろで、限の声が響く。スライムに触れてしまったのだろうか。
「きゃあっ!」
 続いて翠の声である。そして、暁の腕にも小さなスライムが落ちてきた。まるで火傷の様な痛みを感じたが、腕を引っ込めれば翠を手放すことになる。
「ちょっと、キミには用はないんだよね〜」
 そう呟いて暁はスライムを片手で払い、両方の手に火傷を負いながらもようやく、通路を走りきって次の部屋へと駆け込む事が出来た。
「皆様、ご無事で何より」
 最後に駆け込んできた限の姿を確認してから、マイが長い息をついた。
「まさかあんなものがいるとは。お怪我をされている方もいますね。傷の手当てをしましょう」
 マイが自分の体液を使い、暁達の傷をたちまちのうちに治癒させた。
「キミは大丈夫か?」
 怪我を治したマイに、限が尋ねる。
「私は大丈夫です。私は…不死ですから。さあ、皆さんもう大丈夫ですよね?先へ進みましょう」
 通路はすっかり崩れており、まだスライムが蠢いており、帰りがやや心配になるのだが、暁達は先へ進むことにした。
「次はこれね。『死者の部屋の中にある最後の扉は、棺の中に眠る』」
 翠がノートに書いてある文献の一節を読み上げる。
「これは単純に、棺の中に隠し扉があるという事ではないでしょうか?」
「そうだね、俺もそう思う」
 暁達がついた部屋は、行き止まりになっており、他に扉や通路は見当たらない。だが、石で出来た棺がいくつか置かれており、少々不気味な部屋であった。
「それなら、棺を調べればいいんだな?」
 限が一番手前にある棺を覗いている。
「でも気をつけて下さいね。また罠があるかも」
 マイも限に続いて棺を調べている。
「後少しなのかな〜?」
 暁も棺を覗いた。バスタブぐらいの大きさの棺の中には、白骨が転がっている。いや、元々はきちんと埋葬された者なのだろうが、今はいくつかの装飾品とともに棺の底に転がっているに過ぎない。
「こんな暗いところで、寂しいかい?」
 暁は何となく白骨に話し掛けてみた。しかし、骨が何かを答える事はない。
「返事がない。ただの屍のようだ…だね」
「あったぞ!」
 暁がそう呟いた直後、限が皆に叫んだ。部屋の奥にあるその棺にだけは何も埋葬されておらず、地価へと通じる階段があったのだ。
「いよいよ最後の部屋ですわね」
 デルフェスを戦闘にして、一行は地下へと降りた。



「翠さん、最後の文献を」
 階段を降りながら、デルフェスが小さく言う。
「『全ての奥で姫が客人を出迎えるであろう。勇気を示した者に、姫が褒美を分け与える』褒美って何かしら?」
 翠がそう言い終わると同時に、皆は地下へと到着した。
「あれが、姫?」
 翠が顔をしかめた。その部屋は今までのどの部屋よりも豪華で、様々な装飾品や美術品が置かれていた。
 そして、その中央にほとんど朽ちてしまったが、長いドレスを着、沢山の装飾品を付けた骸骨がそっと、玉座に腰掛けていたのであった。
「この遺跡って、どこかの王家の墓なのだろうか?」
 姫をじっと見つつ、限が言う。
「まあ、綺麗な石像ですわ」
 デルフェスが骸骨のそばに置かれた小さな女性の像を手にした。
「あ、あれは何?」
 そう言ってマイが骸骨の横をじっと見つめた。そこに、白いもやのような物が立ち上がり、みるみるうちにそれは、頬はこけ、髪は乱れ、歯はぼろぼろに抜け、体の肉は腐りその部分から骨が見えている、無気味な姿の女性の幽霊が現れた。
「よくここまで辿り着いたね。けど、残念だね。ここの宝は私のもんだ」
 地底の底からうなるような声であった。
「簡単に渡すわけにはいかないね。欲しいなら、勇気を見せてみるがいいさ」
 にやりと笑ったその女性の目から、どろりと目玉が抜け落ちる。
「勇気には色々あるし、俺はどうすればいいかわからないけど」
 暁はそう言って、幽霊に少しずつ近づいた。近づけば近づくほど、幽霊の不気味さを、体全体でより感じる。
「キミ、ここのお姫様なの?ずっとこの遺跡を守り続けて来たのかな!だけど、こんなところで一人じゃ、寂しいんじゃない?」
 暁は、目だけがギラギラと輝いている幽霊に微笑みかける。
「ここの宝は凄く価値がありそうだけど、俺、本当の宝って形あるものじゃない気がするよ。勇気は見せられないけど、そんなに怖い顔しないで、優しい夢を見てみない、お姫様♪」
 幽霊にまで暁の魅了が効果があるのかはわからないが、それでも暁は人間と同じように、その幽霊に優しい笑顔を見せていた。
「優しい夢か。お前、なかなか変わっている。普通の人間なら、この姿に怯えて、言葉も出ないものだよ」
 次の瞬間、無気味な幽霊の姿が消え、美しくて若い、立派なドレスを着た若い女性が現れた。幽霊である事には違いないが、先ほどと同じ人物とは思えない。
「お前のような、優しい者を見たのは久しぶりだ。生きている頃に会ってみたかったものだ。私はこのあたりで栄えた国の姫だ。父や母は別の場所に埋葬されているが、一緒に埋葬されたこの宝物、幽霊となった私には必要ない。だが、つまらぬ者にくれてやる気もしないのでな」
 姫は暁達を見つめて、可愛らしい笑顔を見せた。
「お前ならくれてやってもいいぞ。ありがとう、若者達。これで思い残す事もない。つまらん連中に、この宝を利用されたくはなかったからな」
 姫はその言葉を残して、部屋から消えてしまった。と同時に、急にまわりが眩しく光ったと思うと、視界が真っ白になり、気づくと暁達は、遺跡の入り口、崩れた扉の前に立っていた。
「あ、何だろうこれは」
 暁は自分の指に、金のリングに青い宝石がついた指輪がはめられているのに気がついた。
「これ、あのお姫様の骸骨がつけていたものじゃ?いいのかなあ、俺がもらって」
「でも、それはあのお姫様が貴方に渡したものだわ。受け取っていいんじゃいかしらね?」
 暁の呟きに、翠は答える。見れば、皆それぞれで宝物をもらったようであった。
「とりあえず、今日はこれで終わりにしましょう!」
 翠の一声の後、暁達は船に戻り、Y・Kシティへと戻る事にした。
 姫は別の場所に父や母が埋葬されたと言っていた。恐ろしい目にもあったが、暁達のおかげで遺跡を調査する事が出来た翠が、船の中で他の遺跡はどこにあるのかしらと張り切っているのが、何とも印象的であった。
「ま、とりあえず、楽しかったかな!」
 指輪の青い宝石を見つめ、暁はにこやかに段々と近づいてくるメガロポリスのビルの影を見上げるのであった。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【0126/マイ・ブルーメ/女性/316歳/シスター】
【2181/鹿沼・デルフェス/女性/463歳/アンティークショップ・レンの店員】
【3171/壇成・限/男性/25歳/フリーター】
【4782/桐生・暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 桐生・暁様

 いつも有難うございます!新人ライターの朝霧青海です。シナリオに参加して頂きありがとうございました!
 今回は遺跡物ということで、かなりアドベンチャー風味にしてみたのですが、元々からこういったジャンルのものが好きなようで、いつもよりも文章量が多めです。しかし、長ったらしく感じるかもしれませんが(汗)
 暁君のキャラは、どこへ行っても崩さないように、遺跡の中でもほんわりしてたり、時には真面目に話してたりします。最後の、姫に語りかける部分はプレイングの最後から引っ張らせて頂いたのですが、ちょっとチャラチャラっとしている中に、物凄く真面目なところがあったりして(本当の宝は物じゃないんだ、というあたりですね)このあたりがまた一段と暁君をカッコよく見せております(笑)
 今回も視点別となっております。他のPC様からの視点からも、お楽しみ頂けたらと思います。それでは、今回は有難うございました!