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<東京怪談・PCゲームノベル>


 【封じの大迷宮『雨玉を再封じせよ!』】

【雨玉】
 
「まあ…掻い摘んだ話、台座から転げ落ちた玉をもう一度同じ場所に戻して欲しいのだな」
 たまたま通りかかった神社と言うか、教会と言うか……兎に角、鳥居のある聖堂の前に張り出されていた一枚の張り紙を見かけ、シュライン・エマはその鳥居を潜っていた。
 現在、シュラインはその張り紙の張り出し主らしい藍星(ランシン)と言う黒猫に詳しい話を聞いているところである。
「掻い摘みすぎじゃない? もう少し詳しく説明してもらわないと、私たちも動けないわ」
「そうですね。まず、雨玉ってどんなものなのか今一…よく解らないですし」
 黙って黒猫の話に耳を傾けていたシュラインと、海原 みなも(ウナバラ・ミナモ)であったが猫の大雑把過ぎる説明に思わずシュラインが口を開いてみなももそれに言葉を続ける。
「……むう。大昔に雨の無い時期に雨を降らせるために作られた道具の失敗作らしい。降らせる雨の量を制御できないと言う事で、封印されたのだがな…何があったか知らぬが、その封が解けて封印空間で大雨を降らせていてな…その大雨が外の世界に漏れ出しかけている所だ」
 言いながら黒猫藍星は、少し離れた所でポッカリ口を開けて雨風を垂れ流しにしている謎空間、基“封じの大迷宮”を尻尾で指し示す。
「本当に、雨を降らせるだけで他に何も無いんですか? その雨玉って」
「……さて…、俺も沢山の封じの大迷宮を管理しているのでな…。何かあった様な無かったような…」
 みなもの問いに藍星は尻尾をフラリフラリとさせながら曖昧な返答。
「黒猫さんの曖昧な記憶より、出向いて確かめた方が明らかに早そうよ、みなもちゃん。百聞は一見にしかずっていうもの」
 そんな風にいったシュラインだが、いつも首にかけている眼鏡の変わりに本日は防水対策なのか水中眼鏡を引っ掛けている。
「そうですね。じゃあ…出かける前に、少し準備しましょう。えっと…ロープと、懐中電灯なんかあると便利かなって。シュラインさん、何かありますか?」
「私も懐中電灯は欲しいと思うのよね。防水加工の物で。後、雨玉が水の中に落ちてると困るから、網みたいのを用意していけば便利だと思うわ」
 下準備として互いに案を出し合ったみなもとシュラインは、言い終わった後に二人そろって黒猫へと視線を向けた。
「やれやれ、厄介ごとを解決してもらうと言うのだ。それくらいは用意させていただくさ」
「あ、藍星さん。私服が濡れると色々大変なんで、良かったら何か濡れてもいい服を貸していただけませんか?」
「ん? 別に構わんが……そんな事にも気を使わねばとは、毛皮を着ない人間は大変だな」
 みなもの申し出に、耳をパタと動かした藍星。その再に左耳にピアスの様に着けられた鈴がリンと音を鳴らす。
 暇をしていた長い尾で横の石畳を何度か叩いて其処にポッカリ謎空間を空けていた。
「ロープに懐中電灯、網と…濡れても大丈夫な衣装な。…こんなもので良いか?」
 穴に頭を突っ込んだ黒猫が、ズルズルと何やら引きずり出してきたのは二人が欲しいと言ったその品々であった。

「ねえ…今、みなもちゃんに渡した服って……水着?」
「さあ、わからぬ。人の娘が着る濡れても大丈夫な装束だと言う事しか頭になかった……なんだ、シュライン、お前も欲しかったか?」
「……いらないわよ」
 着替えてくる。と言ってこの場を去ったみなもの後ろ姿を見送ったシュラインだったが、猫がみなもに渡した風呂敷包みの中身が、うっすら透けてシュラインには見えていたようだ。
 真面目に聞いてきた藍星に、シュラインは音速で却下を下すと、どんな反応をしてみなもが戻ってくるかを少しだけ楽しみにして待つことにした。

【封じの大迷宮へ】

「な……なんで、よりによってスクール水着なんですか!!」
「あら、いいじゃない。別に誰か見るわけじゃないし。似合っているわよ?」
「だったらシュラインさんだってっ」
「私は着替え、持参しているから」
 支度の整ったみなもとシュライン。
 雨玉の迷宮入り口の側でそんな他愛の無いやりとりが指し示す通りに、濡れてもいい服を所望したみなもは白いTシャツ一枚纏ってはいるものの、確かに水着姿である。
「濡れるって事前からわかってたんだし、これくらい用意はしなくちゃよ。さて…みなもちゃんが着替えてる間に、藍星さんから雨玉の大体の場所は聞いたし。そろそろ行きましょ?」
「うー……。…わかりました…行きましょう」
 顔を赤らめて恥ずかしがるみなもに、笑いつつもサラリと言い渡したシュライン。
 そんなみなもとシュラインであったが、早くしろ。と訴える様な黒猫の視線に気付くと、懐中電灯やその他のものを手にし、気をつけろよ。と言う猫の言葉に頷きながら、二人はポッカリ穴を開けた雨風叩きつける灰の迷宮入り口へと足を向けた。


「すごいっ……風……、ですねっ!!」
 中へと入った瞬間、凄まじい風にシュラインとみなもは後ろへと飛ばされそうになるのを踏ん張って耐えた。
 風の強さで殆ど目など開けられぬ状態で、周りの様子などまったくわからない。
「風と雨はっ、強くなったり弱くなったりするらしいからっ! 取り合えずっ、あの木陰に非難、して……風が落ち着くの、を…待ちましょっ」
 言ったシュラインは、首に引っ掛けていた水中眼鏡を目元に持ち上げて目を守ると少し先にあった大きな木を指差した。
 それに頷くみなも。二人はどうにかこうにかと木陰へと非難に成功した。


 風が比較的落ち着くまで木の幹にしがみ付いて耐え抜き、漸く風が収まったと思えば今度は大粒の雨が降り出してくる。
「これじゃあ、結局進めない…」
 呟いたみなもは、木陰から激しい雨の中へ歩き出すとおもむろに片手を雨へと差し出した。
 その次の瞬間。みなもの手に触れた雨粒達がスルリと長い紐状になってみなもの周りを踊り出した。
 人魚の末裔であるみなもは、水をコントロールする力を持っているのだ。
 踊り始める紐状になった雨水『ライン』がさっとみなもの周りを取り囲み、次第にその円にそって振り落ちてくる雨水がみなもを包む様に球体『水の鎧』を作っていく。
「シュラインさんっ、こっちに来て下さい!!」
「え?」
 木陰にて今後どうやって進むべきかと思考していたシュラインがそう声をかけられる頃には、みなもはもう水の球体の中。
「あら、面白い事出来るのね。もしかして、この中に居れば雨に悩まされなくて済むとか?」
 小さな驚きを見せたシュラインは、笑いながらみなもの待つ水の球体の中へと入った。

「なかなか見つからないですね、雨玉」
「まあ、根気良く……っていってもねえ…流石に疲れちゃうわよね」
 みなもが作った水の鎧のお陰で、雨は何とか耐えるものの吹き付ける風が薄い水の膜を破壊したりとトラブルが絶えない。
 そこはシュラインの案で、点在する木や岩などの陰に隠れて何とか凌いでいる状態。
「硝子玉みたいな物で出来てそうだから、こうやってれば反射くらいしそうなんだけど」
 風が止んだ隙を狙っては、二人して手にした懐中電灯をあちら此方と翳す。
「……あっ!! シュラインさん、今あそこで何か光りませんでした?」
「ほんと、やっぱり懐中電灯の光ってのは当たっみたい」
 少し先を照らし出していたみなもの懐中電灯の光が、何か丸いものをキラリと反射させた。
「じゃあ、急いで台座に置きなおしましょう。もう膝辺りまで水が溜まってきちゃってますし、急がないと」
「そうね、急がないと……だけど、あの黒猫さん…何かあるっていってたのよね…簡単には戻せない何かが…」
 みなもが着替えていた間に猫と話をしていたシュライン。
 その時に、黒猫が唸るようにして何かあったんだが…と首を捻っていた事が兎に角引っかかった。

【水の怪魚】

 雨玉を見つけた二人は、そのもとへと急いで向ったが古めかしい石の台座が視界に入った瞬間、二人を雨水から守っていた水の鎧に大きな振動が走った。
「きゃっ!!」
「な、なんなの!?」
 何かに体当たりをされた様な衝撃に水の鎧は形を崩し、みなもとシュラインは雨水の中へと投げ出される。
 一瞬の事に状況把握の出来ぬ二人だったが、ずぶ濡れになりながらも立ち上がると其処には、巨大な水の魚が空中に浮きながら二人目掛けて大口を開けていた。
「藍星さんが言ってた何かって、もしかして……この魚さんの事じゃないんでしょうか?」
「……きっとね。雨玉の護衛みたいなもの…って考えて間違いなさそうよ」
 雨水を吸い込んだ衣装が、大分重く感じるがそんな事を気にする事もなく、ただ髪を伝って落ちてくる雫だけを片手で拭うシュラインは、現れた怪魚に厳しい視線を送る。
 水で出来た不安定な体を揺らしつつ、現在進行形にて雨水を吸収して大きくなって居る魚に視線を細めると、この魚を如何料理したものかとシュラインは思考し始めていた。
 数十秒、魚と二人の睨みあいは続いたがその睨みあいに先に折れたのは怪魚の方であった。
 まるで雨の中を泳ぐような勢いで魚は猛突進を仕掛けてくる。
 みなもやシュラインが両手を広げてもまだ足りぬと言う程のサイズを持つ巨大魚だ、あんな物に生身で体当たりをされたら、怪我どころの話では無い。
「みなもちゃんっ、下がってっ」
 怪魚が突進を仕掛けてくると、シュラインがみなもの前へ出て両手を広げる様にし、その場でスっと深い深呼吸をする。
「―――っ!!」
 シュラインが大きく呼吸をし、その口から声…であって声で無い「音」を発する。
 まるで巨大な音叉を叩きならしたかの様なその音に、足元の水が振動し突進してきた怪魚も動きを止めて多少だが、水の体を崩している。
 シュラインはその能力、ありとあらゆる音を再現できるボイスコントロールの能力を用いて、水を振動させる音を作り発したのだ。
 その隙を狙うように、みなもが躍らせていたラインを怪魚へと走らせる。
 怪魚にラインが触れると、その触れた箇所から魚の表面が薄っすらと凍り始め更に怪魚の動きを封じていく。
「今のうちよっ、ほんの少しだけど時間稼ぎにはなるはずよ! 雨玉を台座にっ」
「はい!!」
 波紋が広がるようにシュラインの作り出した音が響く中を、二人は台座目掛けて走り出した。
 走り出すみなもとシュラインの背後では、薄氷を体に纏わせた怪魚がパリパリと音を立てて体の氷に亀裂を走らせ始めている。
 その音に危険を感じるみなもが、素早く振り返り形成させなおしていた水の鎧に怪魚を閉じ込め氷結させると、魚の足止めを測ろうとする。
「もう、走ってなんからんないわっ。これで一か八かよ!」
 雨玉まで後数メートル。短いはずの距離が兎に角長く感じられ、シュラインは肩に引っ掛けていた網を解くと、雨玉目掛けて投網の様にして投げていた。
 網は風に煽られる事も無く、見事に雨玉の上へ落ちシュラインは手早くそれを引いて回収を開始。
「シュラインさんっ、早くっ…!」
 音と薄氷の呪縛から解けた怪魚が、みなもが作り上げた氷の檻の中で大暴走を引き起こしている。
 切羽詰ったみなもの声を聞きながら、シュラインは急ぐ気持ちを抑え網から硝子玉にも見える雨玉を取り出し、それを慎重に石の台座の窪みへと置いた。
「置いたわ……これで、雨も魚も大人しくなるはず、よね。話によると…」
 小さな音を立てて台座に収まった雨玉。
 それを見た後、氷の檻の中で暴れていた魚の影が小さくなってゆくのを見ると、みなもとシュラインは、顔を見合わせ笑顔を作っていた。


【解決】

 雨玉を台座に安置し終え、雨が収まってくると台座の真横にポッカリと亀裂が現れ、黒い猫が現れていた。
「おやおや。ご苦労だったな、二人とも。この通りだ、恩に着る」
 台座に腰を据えた藍星が、ペコンと頭を下げて鈴を鳴らす。
「いえ、やっぱり困ってる人は放って置けませんし。それに、放っておいたら外の世界まで毎日雨になっちゃたら、皆まで困っちゃいますしね」
 お役に立ててよかったです。と微笑むみなもの横で、シュラインは雨玉を見つめて考える素振り。
「如何して台座から落ちちゃったかも気になるけれど…、あんなに嫌がってたのを無理やり封印って言うのもね……。たまには、あんな風に息抜きさせるってのは…やっぱり無理?」
「……ふむ…、偶にはそういうのも必要かもな。こいつ等も好きで封じられているわけでなしな」
 台座上の玉に、ポムっと前脚を置いた藍星は深く一つ頷いてそう返していた。
「さて…戻るか。濡れて寒かろうよ。風呂を焚かせてある、苦労させたせめてもの礼さ」
 何処から取り出すか、タオルを二人へと藍星が渡すともとの世界へ戻るための入り口を藍星が開きなおし、二人と一匹は封じの大迷宮より脱出したのだった。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1252/海原 みなも/女/13/中学生

(NPC)
藍星/男/5?/鳥居聖堂の飼い猫・大迷宮六代目管理人

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■         ライター通信          ■
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シュライン・エマ 様

お初にお目にかかります。ライターの神楽月アイラです。
さっそくですが、雨玉の探し方、網を持っていく等のプレイングで今回の物語大分変わってまいりました。
プレイングを拝見して、思わず、おー。と言ってしまったくらいです(笑)
最後に雨玉への息抜き発言も、シュラインさんならではかと思いました。
話の方、お時間戴いてしまった上、長いものになってしまいましたが、
少しでも楽しんでいただけると幸いです。
今回はご参加、本当に有難う御座いました。また機会があればお会いたしましょう。