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<東京怪談・PCゲームノベル>


Calling 〜炎魅〜



「さ〜ってと」
 ぱんぱんと自分の手から砂を落とし、鷹邑琥珀はにっこり笑う。
「仕事はこれで完りょ……ん?」
 ぴりっと痛みのような感覚を感じた。琥珀は足をそちらに向ける。

「ここ、か……」
 怪しげな気配を辿った先には、大きな屋敷がある。
「……しかし、でかい屋敷だなぁ」
 門は錆びているうえに、右半分はとれていた。覗き込むと庭は荒れ放題になっている。
 ん、と琥珀は気づいた。
 屋敷の玄関の大きな扉を開けている人物がいるではないか。
 黒い髪と、黒の制服。見間違うことはない、あの後ろ姿は。
(あれ……もしかして、遠逆さん?)
 どうしてこんなところに?
 不思議そうにするものの、合点がいく。
 彼がいる理由は一つしか思い当たらない。
 憑物、だ。
 そう考えれば自分が感じた気配のことも説明がつく。
 す、と入って行く和彦を追って琥珀も足早に歩を進めた。



「遠逆さん!」
 呼ばれて振り向いたのは、やはり和彦だった。
 扉を閉めている琥珀に気づき、彼は呆れたような目をする。
「なんだあんたか。こんなところで何をしてる?」
「そんな邪険にしなくてもいいじゃないか。あ、と……あのさ、遠逆さんって言い難くない?」
「…………勝手にそう呼んでるのはあんたじゃないか」
「和彦って呼んでもいいか? 差し支えなければ」
「……差し支えなどしない。勝手にどうとでも呼べばいい」
 面倒そうに言う和彦は玄関先の調度品から手を離す。
「怪しい気配に気づいてきたんだけど…………やっぱり憑物?」
「そうだ」
 彼ははっきりと言い放ち、黙々と何かを探している。琥珀は首を傾げた。
「何を探してるんだ?」
「屋敷全部がヤツの支配下らしいからな。一つずつ調べている」
「…………要になってるものを、か?」
 そう言われてみればなんだかこの屋敷はおかしい。全てが怪しいのだ。
 どこか強い波動を感じるというわけでもなく、ただ平坦に……どこも同じように異臭を放っているように感じるのだ。
 原因、がわからない。
 ふいに和彦のすぐ後ろの壷が浮かび上がった。あ、と琥珀が声をあげる。
 壷が和彦目掛けて勢いをつけて飛んだ。それに気づいた彼が振り向いて拳を振るう。
 壷が派手な音をたてて砕けた。
「うわ……。だ、大丈夫か、拳……?」
「これくらいなら問題はない」
 と。
 周囲の物が次々に浮かび上がる。
<カエレ……>
 屋敷に低く響くその声に、琥珀は周囲を見渡す。まるで屋敷そのものの声のような錯覚さえ、ある。
 だが必ず本体があるはずだ。
<カエレ……カエレ……>
「うるさいっ!」
 和彦が一喝した。思わず琥珀はびくりと反応する。
(び、びっくりした……。和彦ってこんな大きな声、出せたのか……)
 屋敷の声は一瞬押し黙るが、すぐに言ってきた。
<ジャマダ……カエレ……オマエラハ……ジャマ……>
「こちらにとってはおまえが邪魔だ!」
 またもはっきりと言い放つ。
「お、おいおい和彦……」
「小者の分際で、偉そうに言うな!」
 琥珀を無視して和彦は怒鳴るように言う。さすがにまずいだろ、と琥珀が天井を見上げた。
「か、和彦……?」
「…………」
 無言で様子をうかがっている和彦だったが、屋敷が低い唸り声をあげたのにニヤリと笑う。
 疑問符を浮かべる琥珀に視線を遣り、彼は言った。
「これで見当をつけやすくなっただろ?」
「え? そ、そうか?」
「怒りの波動は感知しやすい」
 びっ、と琥珀の頬を何かが掠める。手をやると痛い。血まで流れている。切り傷だ。
「???」
 何で攻撃されたのかと琥珀はきょとんとするが、目を見開いた。
 皿だ。壊れた皿で攻撃されたのである。
 浮いた皿が琥珀の頬を掠めたのであった。
「怒らせたのは逆効果だったんじゃ……!」
「さて。それじゃあな」
 さっさと駆け出す和彦に、琥珀は声をかける。
「ど、どこ行くんだよ!?」
「探しに」
「えっ、あ、俺も手伝うって!」
 じゃあ俺こっち、と琥珀が和彦と反対方向に指を向けた。それを肩越しに眺めて和彦は目を細める。
「勝手にすればいいだろ」
「相変わらず……冷たいヤツ」
 苦笑する琥珀のことなどお構いなしに、和彦はドアを蹴破って行ってしまった。
 残された琥珀は周囲を一瞥して言う。
「さーてと……じゃあ、こっちも行きますか」

 浮かんでは襲い掛かって飛んでくる物を、琥珀は片っ端から避け、叩き落していく。
 彼の召喚した式神が彼を護る。
「一階はそろそろ終わりか……。次は二階だな」
 琥珀は元の道を戻り始めた。その際に、壊れた写真立てが目に入って思わず足をとめる。
「……ここに住んでた子かな……」
 庭のバラ園を背に笑っている少女。すでに写真は色あせ、擦り切れていた。
 ひやりと背筋が寒くなる。
<たすけて……>
 声がきこえた。琥珀は振り向く。
 だがそこには何もない。誰もいなかった。

 走る琥珀は、階段のところでばったりと和彦に出会う。
「あ!」
「なんだその顔は」
「いや、ここで会うって思わなくて」
「…………目的は同じ二階のようだな」
 階段を駆け上がりながら、琥珀は尋ねる。
「一階にはなかったみたいだな?」
「ああ」
「あのさ……変な声、聞こえなかったか?」
「変な声?」
 琥珀は頷く。
「女の子の……弱々しい声っていうか……」
 和彦が目を見開いた。だが彼はすぐに元の無表情に戻り、二階へと足を踏み入れたのだった。



 二階へあがっても状況は一階の時と同じだった。
 ありとあらゆる物が浮いては襲ってくる。ベッドが飛んできて琥珀は式神に命じて攻撃し、破壊した。
「容赦がねぇな……こっちを殺す気かよ」
「…………」
 無言で反応しない和彦は、不愉快そうに眉間に皺を寄せている。
「おいっ! うしろ!」
 琥珀の声に反応したのは右腕だけだ。彼の刀が一閃し、飛んできたテーブルを分解する。
(鮮やか……!)
 すげぇ、と琥珀は感心した。
「? 和彦、どうかしたのか……?」
「……べつに」
「さっきから眉間に皺寄ってるぞ?」
「…………べつには、べつにだ」
 ぴた、と足を止める。
「先に行け」
「え?」
「…………俺はやることがある」
 くるりと和彦は方向転換し、歩き出した。
 琥珀は首を傾げる。

 奥の寝室。そこにも何もなくて。
 琥珀ははあ、と大きな息を吐く。
<たすけて……>
 また、だ。
 顔をあげると、湯気のような霊気を出す半透明の少女が立っている。あの写真の娘だ。
「キミは……?」
<たすけて……。ずっと、つかまってる……>
 消え入りそうな声で訴える彼女に、琥珀は近づく。
「ずっと?」
<ずっと……>
 涙を流す少女。
 すう、と消えた。ぎょっとする琥珀はさらに振り向いた。
 壁に染みができている。それがじわじわと広がっていく。じわじわと……。
 天井まで広がるそれが、垂れた。落ちてきて、琥珀は顔をしかめる。
 それは血だ。
(幻?)
 カッと目を見開き、琥珀は精神を統一する。
 こんな手に引っかかるような琥珀ではない。
「俺も……なめられたもんだ」
 式神に命令を出す。攻撃をする先は視えている……!
「…………行け!」
 琥珀の合図で彼の使い魔は駆けた――!
 壁を打ち砕くと、屋敷が悲鳴をあげる。軽い振動まで起こった。
 そして、その壁の崩れた先を見て琥珀は動きを止める。
「うそ……だろ?」
 崩れた壁の先には、人骨がコンクリートに埋められていたのだ。
 駆け寄る琥珀は、うかがう。
「これ……もしかして、さっきの女の子……?」
<デテイケ……!>
 大きな声が轟いた。琥珀が顔をあげる。
<サワルナ……! サワルナ! デテイケェェェ!>
「おまえか! このコをこんなにしたのは……!」
<ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!>
 上を敵視するように見る琥珀に、声がかかった。
「もういい」
「和彦!?」
「…………見つけた」
「は?」
 和彦がす、と出したものはリボンだ。汚い、あせたリボン。
 はらりと手から落とし……それを刀で貫いた。
 悲鳴があちこちからあがる。
「な、なんだ……?」
 琥珀の足もとに少女の幽霊が姿を現し、涙を流して首を横に振った。
「消えろ」
 和彦が冷たく言う。
「そんな言い方ないだろ!」
「…………」
 無言で巻物を開くと、幽霊の少女が消え失せた。
 咎めるように見る琥珀に、和彦は冷たく言う。
「あの娘が元凶だ」
「なんだって……?」
「…………」
「だってこれ……あのコの骨……で」
「だから、この屋敷から出られずに……歪んだんだ」
 驚愕する琥珀は、ゆっくりと…………埋められた骨を見る。



 帰り道、琥珀は無言で歩いていた。
「……なんだ。落ち込んでるのか?」
「……まあ、うん」
 横を歩く和彦の言葉に、曖昧に頷く。
「…………そういえば」
 気づいたようにぼんやりと言い出す琥珀。
「初めての時も、一人だったよな?」
「なにがだ」
「和彦がだよ。一人で戦ってた」
「…………」
「誰かと組むとか、しないのか? なにかまずい理由でも?」
「そういう理由はない。だが、誰かと組むとかそういう考えはないな」
 はっきりと彼は言う。
「どうして?」
「そういうタイプじゃない、俺は」
 素っ気なく言う和彦。
「じゃあ俺が協力するのは、どうだ?」
「……は?」
「言ってただろ? お人好しだって」
 微かに笑う琥珀を見遣り、和彦は呆れる。
「お節介に変える」
「ははは。お節介か」
「…………手伝うのは勝手にすればいい。俺も止めはしない」
「そっか」
「だが、はっきりとあんたと組むとは言えない」
「なんで?」
「…………俺は遠逆の退魔士だから」
 遠くを見るように言う和彦は、哀しく笑った。
「ありがとう。その言葉だけで……少しは嬉しいよ」
 ゆっくりと琥珀を見てから彼は足を止める。琥珀は数歩先に行ってから振り向いた。
 夕暮れの中、和彦は微笑んでいる。
「一人で戦うのは辛くないんだ」
「……?」
「これは俺の問題だから。俺だけの、問題だから」
 しゃん、と鈴の音がした。和彦の姿が忽然と消えている。
 残された琥珀は、哀しそうに微笑した。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4787/鷹邑・琥珀(たかむら・こはく)/男/21/大学生・退魔師】

NPC
【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、鷹邑様。ライターのともやいずみです。
 和彦が徐々に心を許し始めた形になっております。いかがでしたでしょうか?
 和彦の憑物封じにお付き合いくださり、ありがとうございます!

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!