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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


サムズアップ!
●オープニング【0】
「まあ、あんたたちには色々と世話になったりすることもあるしね」
 そんなことを言って、アンティークショップ・レンのオーナーである碧摩蓮はこんな話を持ちかけてきた。珍しい品物が手に入ったから、それを賭けてちょっとしたゲームをしないかというのだ。
「ジョーカーを抜いたトランプ52枚を各々が用意して、まず一斉に分かるように表を向けて出す。それからこっちは裏向けにカードを出してからダイスを振る。奇数だったらあたしのカードより強い方が、偶数だったら弱い方が勝利。そしてあたしがカードを表にして、勝負と。念のために言うけどさ、スペードのAが一番強くて、クラブの2が一番弱いんだよ」
 ふむ、ダイスを使うことによって偶然性を持ち込むということか。となると、単純に強いカードばかり出しても勝てるとは限らない訳だ。
「あたしと同じカードなら無条件で負け。1度使ったカードはもう使えない。これを15回繰り返して、一番勝ち数の多い奴にその珍しい品物をプレゼントしようかね。ああ、複数居た場合はダイス勝負で決めるから、そのつもりで」
 15回戦……結構な長期戦である。全部勝つというのは難しそうだ。
「まあ、参加した奴にはもれなく参加賞があるからさ。損はないんじゃないかい?」
 ニヤッと笑みを浮かべる蓮。
 珍しい品物というのもちょっと気になるし、参加してみよう……かな?

●参加者ぞくぞく【1】
「カードで戦わせようなんて、レンさんも人が悪いなあ」
 バリトンの響きのごとき低音でそう言って蓮に視線を向けたのは、それまで店内の品々を眺めながら話に耳を傾けていた落ち着いた雰囲気のある男性――城ヶ崎由代である。
「おや、こういうのは嫌いかい?」
 蓮がくすりと笑みを浮かべた。明らかに、由代の性格を知った上での問いかけである。
「またまた人が悪い。こんな、とても面白そうゲームを用意しておいて、そんなことを言うなんてね」
 苦笑する由代。好奇心を突かれるような物事がそばにあると、抗うことが出来ないのは由代の性であろうか。
「へえ、確かに面白そうだよなあ」
 などと言って、とことこと蓮のそばへやってきたのは、なかなか洒落たサングラスをかけた青年――幾島壮司だった。久々に店を訪れた所、蓮に捕まってこの話を持ちかけられたのだ。
「でもそれ、もしクラブのAとスペードのKがあれば、どっちが強いんだ?」
 素朴な疑問を口にする壮司。蓮はすぐに答えた。
「数字優先だね。だからクラブのAが強い、と」
 確認しておこう。数字の強弱はAが一番強く、それからK・Q・J・10……一番弱いのは2となる訳だ。
「なるほど。とすると、ダイヤのAとクラブのAだったなら」
 いつの間にやら蓮のそばに来ていた真名神慶悟が口を挟んだ。慶悟自身は理解していたが、蓮の口からきっちりとしたことを言わせて確認しようとしていた。後々に揉めぬことのないように、だ。
「もちろんダイヤのAが強いさ。数字が同じなら、スーツの強弱で決定だよ」
 こちらも再確認。スーツの強弱はスペードが一番強く、次いでハート、それからダイヤ、一番弱いのはクラブである。なので、カード全体で言うならば、先に蓮が言った通りスペードのAが一番強くて、クラブの2が一番弱いことになるのだ。
「それにしても珍しい品か。……ここに珍しくない品があるのか?」
 店内をぐるり見回し言う、もっともな慶悟の言葉。そんな店のオーナーたる蓮が珍しいと言うのだから、よほどの品物なのだろうか?
「それは勝ってのお楽しみだねえ」
 ふふっと笑みを浮かべる蓮。やはりそう簡単には教えてくれないようだ。
「そう言われると余計に気になるかも……」
 と、ぽつりつぶやいたのはシュライン・エマである。どうやら、分からないと気になる質のようだ。
「勝った人しか、その珍しい品物は分からないのかしら?」
 そうシュラインが尋ねると、蓮は首を横に振った。
「いーや。皆の前で渡すさ。その時に、それが何なのかも言うつもりだから」
 さらっと答える蓮。それなら……ということで、シュラインは参加に前向きな姿勢を見せ始めた。
 その時、蓮の携帯電話が鳴り始めた。発信者の確認をする蓮。発信者はササキビ・クミノだった。
「おや、何の用だろうねえ。またテーブルでも仕入れてくれって電話かねえ……」
 ぶつぶつと言いながら、電話に出る蓮。すると店内に、少女の声が響き渡った。
「ねーねー、カードゲームだって!」
 見ると、店内に居た年の頃なら13、4辺りの小柄な少女が、傍らの青年の服をくいくい引っ張っていた。
「だーっ、服が伸びる! 引っ張らなくても分かってる!」
 青年が少女の手を服から引き離す。
「カードゲームって、あれだよねトーマ? 『オレのターン、ドロー!』とか」
 少女が自分の知っている知識を、あっけらかんと披露した。が、青年――夜崎刀真は呆れたように溜息を吐いた。
「瑠宇、種類が違うぞ」
「えっ、違うのっ?」
 少女、龍神瑠宇が刀真の言葉に目を丸くした。瑠宇が言ってるのはあれだ、きっと前世の記憶がどうたらこうたらなどという感じのカードゲームのことだろう。
「そっかー……うん、でも、何かたのしそーだねー♪ やろやろー」
 気を取り直し、またしても刀真の服をくいくい引っ張る瑠宇。
「だーっ、だから服が伸びる!」
 刀真は再度瑠宇の手を服から引き離した。とは言うものの、ゲーム自体には刀真も興味を持ったようで――。
「……ま、暇してたし景品貰えるなら一つやってみるか」
 と、参加するつもりであるらしい。
「やったぁっ! じゃあ2人でガンバろー、おー♪」
 意気揚々と瑠宇が右手を上に突き上げた。
「ひぃふぅ……全部で6人参加?」
 シュラインが蓮を除いた人数を数えた。と、クミノとの電話を終えた蓮が横から口を挟む。
「もう1人追加で7人だよ」
「え?」
 思わずシュラインが聞き返した。だって、蓮の他はシュラインたち6人しか居ない訳で。
「……このゲームの話したら、参加するってさ」
 苦笑して携帯電話を指差す蓮。そこにまた電話がかかってきた。発信者はまたもやクミノである。
「ほらね」
 蓮は電話に出ると、液晶画面をシュラインに見せた。動画モードとなった液晶画面には、カードを手にしたクミノの真正面の表情が映っていた。
「まだ……?」
 ぼそっとつぶやくクミノ。ゲームの開始を今か今かと待ちわびているようである――。

●最後の1人【2】
 トランプカードを選ぶなどした一同は、そのまま円卓へと移った。蓮がクミノの映っている携帯電話を置いて座ると、他の皆もそそくさと腰を降ろした。
「さあ……」
 蓮が口を開いたその時である。店に1人の青年がふらりと現れたのは。
「すみませ……!」
 青年はそこまで言うと、はたと言葉を止めた。視線が蓮に釘付けになっていた。
「あのっ!」
 バタバタバタと、青年が駆けてくる。向かったのは、言うまでもなく蓮の前だった。
「うん?」
 青年を一瞥する蓮。間髪入れず、青年が蓮に向かって言った。
「僕とデートしてくれませんか!!」
 ――いきなり何を言い出しますか、あんた。
「……はあ?」
 蓮が怪訝な表情を青年に向ける。他の者たちも似たようなものである。それに気付いたか、青年は慌てて自分の名を名乗った――風宮駿、と。
「名前は分かったけどさ……だからっていきなりデートしてくれって言われてもねえ」
 当然の反応だ。よく分からない相手にデートに誘われて、普通はほいほい受けたりしないだろう。例え、相手が自分に一目惚れしたとしても。
「……せっかくだし、あんたもやってくかい?」
 けれども、このまま追い返すのも何だと思ったのか、蓮は駿をゲームへと誘った。すると駿は少し思案してから、こう蓮に言った。
「分かりました。じゃあ……このゲームで僕が勝ったら、今度デートしてくれませんか?」
 食い下がる駿。こんな提案を持ちかけるくらいなのだから、よほど惚れたのであろう。
 だが、蓮はさほど考えることもなく、このような返事を口にした。
「面白そうだねえ。なら、あんたが一番になったらデートの約束しようかい?」
 おおっと、思わぬ展開! ともあれ当人同士の合意が出来た所で、ゲームへの参加者がもう1人増えることとなった。

●ダイスでトライ【3A】
「けどこれ、かなり運の要素が強いゲームだな」
 何気なく刀真がつぶやいた。それに反応したのは由代である。
「ええ。強いカードを出したからと言って、必ず勝利の確率が増加する訳ではない……そうですね?」
 由代が蓮をちらっと見た。蓮は笑みを浮かべて答えない。
「何せ、最終的にダイスで勝利条件そのものがランダムに逆転する訳だろう?」
 再び刀真が言う。その通り、ダイス次第で見事に結果がひっくり返る訳だ。その確率は1/2である。
 そんな会話が交わされている間、シュラインはせっせと表を作っていた。参加者の名前も表に書き込み、結果が分かりやすくなるようにするつもりらしい。恐らく勝てば、その回の自分の欄に印がつくのだろう。
「ん、完成。それじゃ、後はお茶とクッキーを用意して……」
 表が完成したと思ったら席を立ち、今度はお茶の準備を始めるシュライン。ちょうど差し入れの新茶と、ドライフルーツのクッキーを持ってきていたのだ。
「あ、瑠宇のオヤツみんなに分けたげるねっ☆」
 シュラインの言葉を聞いて、瑠宇がバラバラとキャンディーを円卓の上にばら撒いた。刀真から今日のおやつとしてもらった物である。
「オヤツ食べながらゲームしたらたのしーよね、きっと♪」
 にこにこと笑いながら瑠宇が言うと、隣の刀真が苦笑してこう言った。
「まあ……よかったら」
 何となく、日々色々とあるのだろうなと思わせる刀真の様子だった。
「……おっと、忘れる所だった」
 壮司は思い出したようにつぶやくと、蓮に向き直って言った。
「悪いが、サイコロを1度振ってほしい。実際の勝負だと思って、手抜きなしでだ」
 どういう意味合いでの壮司の発言だろうか。しかし、蓮はそれを拒みはしなかった。
「いいとも。じっくり見るといいよ」
 蓮は壮司に言うと、クリスタルのダイスを1個カップへ入れて回し始めた。カラコロとカップの中でダイスが転がる音が聞こえる。
「ほっ」
 カップの中からクリスタルのダイスが飛び出して、円卓の上をコロコロと転がってゆく。壮司はそれをじっと見つめていたが、やがてダイスは3の目を上にして止まった。
「どうだい?」
「……ああ、ありがとうな。いいサイコロだ」
 どうやら壮司は納得したようだった。何をどう納得したのか、本人しか分からないけれども。
「当たり前さ。このカップから飛び出すダイスは、いかさま出来ないようになってるからねえ」
 笑って言う蓮。本当かどうか分からないが、ひょっとしたらと思わせる所がこの店である。
「……まだ始まらないのか……?」
 携帯電話からクミノのやや不満そうな声が聞こえてきた。いい加減、待ちくたびれてきたらしい。いやまあ実際、液晶画面の中のクミノも不満顔だったのだが。
「悪いね。じゃ、そろそろ始めようか」
 蓮が皆の顔を見回した。そしてシュラインがお茶を用意して戻ってくるのを待ち、ようやくゲーム開始である。

●前半戦【4】
 第1回戦――蓮を除く全員がカードを出した。携帯電話にて参加のクミノは、ちゃんと見えるようにカードをカメラに向けている。

 シュライン:〈ハート  8〉
 慶悟   :〈クラブ  K〉
 クミノ  :〈ハート  7〉
 由代   :〈ダイヤ  2〉
 駿    :〈クラブ  2〉
 壮司   :〈ハート  5〉
 刀真   :〈クラブ  2〉
 瑠宇   :〈スペード A〉

「トラップカード発動!」
 そんなことを言いながら、カードを捲ったのは瑠宇である。もちろんトラップなど発動しないし、そもそもそれは別の種類のゲームだと(以下略)。
 どうやら第1回戦は初回ということもあり、傾向は3つに分かれたようだ。強いカードを出す、弱いカードを出す、中間辺りを出す、と。そうでなければ、3人が2を出すはずもなく(おまけに、うち2人はクラブの2だ)。
 蓮は裏向きにカードを置くと、ダイスを振った。カップから飛び出し、転がったダイスが示した目は3。奇数だから、蓮より強いカードを出した者がこの回の勝利者だ。
「さあ、捲るよ」
 蓮がゆっくりとカードを表に向けた。

 蓮    :〈ダイヤ  J〉

「こりゃ、今回勝ったのは2人だけかい?」
 場のカードを見比べながら蓮が言った。この回の勝利者は、慶悟と瑠宇の2人だけだった。
 こんな感じで、あと14回繰り返される訳だ。
 第2回戦、ダイスは偶数の2。蓮のカードはハートの3だった。勝ったのは、駿とまたもや瑠宇の2人だけ。
 第3回戦、ダイスは奇数の5。蓮のカードはクラブの7。勝利者は1人増えて3人、慶悟と由代と刀真だ。ここに至って、まだ勝ち星がないのはシュライン、クミノ、そして壮司の3人となった。
 しかし第4回戦、勝ち星のなかった3人に女神が微笑んだ。ダイスは前回と同じく奇数の5。蓮のカードはハートの6で、何と勝ち星のなかった3人が揃って勝ったのだ。この他、慶悟と瑠宇も勝っていたので、今回の勝利者は5人だった。
 絶好調なのは慶悟と瑠宇、この時点ですでに3勝していた。他の6人はいずれも1勝ずつである。が、まだまだ勝負は分からない。
 第5回戦、カードを出す一同。

 シュライン:〈ハート  J〉
 慶悟   :〈クラブ  2〉
 クミノ  :〈ダイヤ  K〉
 由代   :〈スペード K〉
 駿    :〈スペード A〉
 壮司   :〈ダイヤ 10〉
 刀真   :〈クラブ  A〉
 瑠宇   :〈スペード 2〉

 今回は2極化、それも強いカードの方に偏っていた。だが、問題はそれではない。
「わあっ、かわいいねっ♪」
 由代の出したカードを見て、瑠宇が声を上げた。それもそのはず、由代のスペードのKには、懐中時計を手にして駆けているうさぎが描かれていたのだから。
「うん? ひょっとして、それは……」
 蓮が由代のカードを覗き込んだ。
「アリスですよ、不思議の国の」
 ふっと笑みを浮かべる由代。由代が用意したのは、『不思議の国のアリス』に登場するキャラクターが人物札に描かれているという物だった。
「また珍しい物を持ってきたもんだねえ。さ、ダイス振るよ」
 蓮の振ったダイスは、何と3度連続となる奇数の5! 蓮より強いカードが勝利である。そして蓮がカードを表に向けた。

 蓮    :〈スペード 6〉

 強いカードを出した者たちは大正解。慶悟と瑠宇を除く6人が揃って勝利だ。さあ、これで勝負が面白くなってきた――。

●巻き起こる波乱【5】
 回は進んで、ついに2桁突入――第10回戦。
 ここで波乱が起こった。
 ダイスは偶数の6、つまり蓮より弱いカードが勝利となる。そして蓮が開いたカードは……。

 蓮    :〈ハート  2〉

 何と! 勝利者0となったのだ!!
「あうぅ……」
 悔やんだのはシュラインである。シュラインは一同の中で、一番弱いカードを出していた。だが、それは蓮と同じくハートの2だったのだ。
 蓮と同じカードなら無条件で負け。このルールにシュラインは涙を飲むこととなった。
 しかし、これだけで波乱は終わらない。
 第11回戦、ダイスはまたもや偶数の6。蓮のカードは――。

 蓮    :〈ダイヤ  2〉

「連続かよ……」
 やれやれといった様子でつぶやく壮司。
「……今回も全員負けか?」
 場のカードを見比べ、刀真が言う。その通り、今回も勝利者0だ。
「ああ、案の定だね。そのカードは、当然それだろうと思ったよ」
 蓮が由代の出したカードを見て笑った。由代の出したカードはハートのQ、描かれていたのはもちろんハートの女王であった。
 この後、第12回戦、第13回戦は勝利者が出たが、ラスト前の第14回戦――三たび波乱が起こる。
 ダイスは奇数の3、表になった蓮のカードは……。

 蓮    :〈ハート  A〉

 何としたことか、三たび勝利者0!
 惜しかったのは由代だった。由代が出したのはクラブのA、残念あと1歩及ばず。
 そして勝負は、ラスト第15回戦を迎えた――。

●オーラス【6】
 泣いても笑ってもこれで最後。一同が最後のカードを出した。

 シュライン:〈スペード 9〉
 慶悟   :〈スペード A〉
 クミノ  :〈クラブ  2〉
 由代   :〈クラブ  2〉
 壮司   :〈クラブ  7〉
 刀真   :〈スペード A〉
 瑠宇   :〈クラブ  2〉

 最後だからだろうか、3人もクラブの2を出していた。また、スペードのAを出したのも2人。どちらも、明らかに勝負に出たという感じである。
 そんな中、駿だけが全く違うカードを出していた。駿が出したのは、何故かタロットカード。それもフール――愚者であった。
「しまったああぁぁぁぁあ!」
 頭を抱え、叫ぶ駿。この時、ようやく自分が何故ここに訪れたのかを思い出した。このカードを含むタロットカードを鑑定してもらうために、アンティークショップ・レンを訪れたのだと……。
「あああああああああああ……」
 頭を抱えたまま駿は顔を伏せる。一目惚れなどしている場合ではなかった訳で。
「えーと……1人負け確定だね」
 しれっと言い放つ蓮。当然だ。
 ダイスは奇数の5。蓮が最後の1枚を表に向ける。

 蓮    :〈スペード 3〉

 クラブの2を出した者以外が勝利!
 シュライン、慶悟、壮司、刀真の4人が最後勝利者となったのである。
「裏目に出たか……ふう」
 携帯電話からクミノの悔しそうなつぶやきが聞こえてきた。ちなみにダイスで奇数が出た時点で、クラブの2を出した者の勝ちの目は消えていたりする。理由は……言わなくとも分かるだろう。

●結果発表【7】
「で、誰が一番勝ったんだろうねえ」
 蓮がシュラインから表を受け取って眺めた。そして勝ち数を数えた結果――。
「トップは9勝だね。優勝はあんただよ」
 蓮はそう言って慶悟を指差した。陰陽の導きか、勝率6割で慶悟は今回の勝負を制したのだった。
 ちなみに、次点は7勝のシュラインと刀真。次いでクミノと壮司が6勝で続き、残りの3人は5勝で並んでいた。
「……吉凶も勝負も己と時の運だからな。今日はそのような陰陽の流れだったのだろう」
 淡々と慶悟は言うが、そう言いつつも勝てたことは嬉しそうである。
「すみません、帰ります……」
 よろよろと立ち上がり、駿がふらふらと歩き出す。すると蓮が駿を呼び止めた。
「待った。参加賞あるから」
 蓮が何かを投げて寄越した。駿が受け取ると、手の中にはコルク製のコースターが1枚。駿はそれをポッケに仕舞うと、すごすごと店を後にした……。
「それは?」
 シュラインが尋ねると、蓮は苦笑しつつ答えた。
「ちょっと大量に作るはめになってねえ」
 コルク製のコースターを皆に配る蓮。表面には英語筆記体で『アンティークショップ・レン』と記されている以外、何の変哲もない普通のコースターであった。
「楽しませてもらったけど……」
 由代がコースターの表裏をしげしげと見つめながら小さな溜息を吐いた。
「勝てたなら、もっと面白かったんだろうね。いやはや、残念だったよ」
 と、由代は言うものの、楽しさの方が先に立っていたようである。
「ちゃんと送るよ」
 クミノにも見えるよう、蓮はしっかりとコースターを携帯電話のカメラに向ける。
「いいテーブルがあれば、それと一緒に」
「はいはい、分かったから」
 さて、蓮が皆にコースターを配り終えると、いよいよ優勝賞品の授与である。
「これが珍しい品物さ」
 と言って蓮が持ってきたのは、陶器の白い酒とっくりだった。
「…………?」
 慶悟が訝し気な目を向けると、蓮が説明を始めた。
「これはさ、『神便鬼毒酒』って酒だよ。なかなか入手は難しいんだけど、ひょんなことで今回手に入ってね。旨いらしいから、じっくり味わうといいよ」
 蓮が慶悟に酒とっくりを手渡した。中身が十分入っているからか、結構な重さである。
「『神便鬼毒酒』とは、また大きく出たものだ」
 苦笑する慶悟。『神便鬼毒酒』といえば、酒呑童子征伐の際に鬼たちに飲ませた酒の名前ではないか。そんな名前をつけるからには、味にそれだけ自信があるということだろう。
「んー……スゴイカードとかもらえなかったけど、たのしかったよねー♪」
 にぱっと微笑む瑠宇。その言葉に、大小様々に頷く一同。結果はどうあれ、楽しい時間を過ごせたことは事実である。
 そしてこのまま、一同はお疲れさまのお茶会へ雪崩れ込んだのだった――。

【サムズアップ! 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 1166 / ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)
   / 女 / 13 / 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。 】
【 2839 / 城ヶ崎・由代(じょうがさき・ゆしろ)
                   / 男 / 42 / 魔術師 】
【 2980 / 風宮・駿(かざみや・しゅん)
     / 男 / 23 / 記憶喪失中 ソニックライダー(?) 】
【 3950 / 幾島・壮司(いくしま・そうし)
               / 男 / 21 / 浪人生兼観定屋 】
【 4425 / 夜崎・刀真(やざき・とうま)
          / 男 / 青年? / 尸解仙(フリーター?) 】
【 4431 / 龍神・瑠宇(りゅうじん・るう)
             / 女 / 少女? / 守護龍(居候?) 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・最初に、私事ですが今回高原の『家庭の事情』により、今回のお話をお手元にお届けするのが非常に遅くなってしまいましたことを今回の参加者の皆様に深くお詫びいたします。本当に申し訳ありませんでした。
・さて、ちょっと変わったゲームのお話を今回こうしてお届けいたします。好評でしたら、またいずれ行ってみたいと思っているのですが……さて、いかに?
・今回の判定基準ですが、各回ごとにダイスを振り、それからこちらのカードを捲っています。カードはトランプをシャッフルし、上から順番に1枚ずつ捲りました。なので、こちらのカードの順番は完全にランダムです。ダイスともども、高原の意図は一切介入していません。そうでなければ、3回も勝利者0という事態が起こらないでしょうし……。
・ダイスの傾向ですが、奇数偶数ともにほぼ同じ確率で出ていました。奇数が7回に偶数が8回でしたから。なので、出したカードが上手くダイスの目に合致したかどうかが、明暗を分けたのではないかと思います。
・シュライン・エマさん、93度目のご参加ありがとうございます。表作りありがとうございました。おかげで分かりやすくなったかと思います。勝負の方は惜しかったですね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。