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回想
【ちょっと昔の話】
これは、ドールが世の中に現れ、深く浸透し始めた頃、マシンドール・セヴンが、最新のボディになって帰ってきた頃の話である。……と言っても、そう長い時間を遡るわけではない。セヴンの居る草間興信所は、今とほとんど変わらぬ様相だった。
この日、草間興信所には誰もいなかった。仲間のほとんどが私用で出て行ってしまっており、現在はセヴンだけが残って、一人黙々と掃除をしていた。普段は草間 零がやっているのだが、零は外に買い物に出ていたため、セヴンが作業をする事になった。ボディが変わっても、セヴンの生活は、「なな」と呼ばれていた頃とそんなに変わりはしない。
長い時間を一緒に過ごしてきたのだから、変えようがなかったのかも知れない……
「…………………」
セヴンは本当に黙って掃除をする。彼女は独り言を言うような性格ではないし、何よりドールだ。一人でブツブツ文句を言いながら仕事をするような事はなかった。
彼女は、興信所のほとんどの清掃を終えてから時刻を確認した。時刻は午後二時。まだ皆が帰ってくるまでは時間がある。予定表では、しばらくの間、自分も非番になっていた。セヴンにとって、非番というのはあまり意味がない。こう言う時には、大抵仲間のための夕飯の買い物に行っておくのだが、今日は草間 零がその役目を買って出ていた。
(では、補給に入らせて貰います)
声には出さず、机の上に書き置きだけを残しておいた。補給に入っている間は、自分でも補給が完全に終わるか、タイマーが来るまでは起きれない。メンテ部屋に行く事を書き置いてから、セヴンはゆっくりとメンテ部屋へと歩いた。
扉を開くと、そこは何とも狭くて雑然とした部屋だった。床には様々な色形のコードが伸びており、たった一つだけある金属椅子に伸びていた。その椅子には様々な接続端子があり、一目で人間が座るような物でないのが解る。
他にも、予備の部品や工具があちこちに仕舞ってあった。最小限の物品だけに絞ってあり、きちんと整理されていて雑然とは言えない気もするが、部屋の狭さから、初めて見る人は少々退くかも知れない。そこはそんな場所だった。
セヴンが最新のボディになった事もあってこの椅子も少々弄ったのだが、そしたら以前にも増してゴテゴテした物になってしまった。
椅子に座り、端末を弄る。あまり長い間休んでいる必要もない。これはお昼寝のような物であった。ボディを新しい物に換えたからか、
タイマーを一時間程に合わせてから最後のスイッチを入れる。椅子の接続端子と自分の体をカチカチと合わせて接続し、電気の通り具合を自分の中でチェックする。……問題ない。いつも通りに補給を開始する。
セヴンは外界との接続を止め、タイマーが補給の終わりを告げるまで、人間で言う深い眠りに付いた…………
【悪気はないんです】
「ただいま……誰もいないんですか?」
零が辺りをキョロキョロと見渡す。誰もいないのを確認すると、興信所の仲間達のために買ってきた夕食分の食材が入った袋を、ひとまず机の上に置いた。他にも幾つかのビニール袋を持っているのを見ると、いろんな所を見て回っていたようだ。特にセヴンの部品などを良く買いに行っている電気店の袋を、大事そうに机の上に置いた。
そこで、セヴンの書き置きに気が付く。
「えっと、『一時間程補給に入ります。14時05分』」
読み上げてから時計を見ると、まだセヴンがこの書き置きを残してからそれ程経っていない。どうやら入れ違いになったらしい。セヴンが起きると書いてある時間までは、優に三十分はあった。
それは好都合と、零は電気店の袋を持ってメンテの部屋へと向かった。足取りは妙に軽い。手に持っている電気店の袋がガサガサと揺れていた。メンテ部屋の扉をゆっくりと開ける。中では、金属椅子に座ってジッとしているセヴンが居た。目を瞑って、両手を膝の上に置いた状態で眠っている。部屋の中は、エネルギー充填とシステムの最適化のために動いているコンピューターの静かな音が鳴っていた。
零はセヴンが確かに眠っているのを確認すると、電気店の袋の中から一枚のDISCを取り出した。買い物の時、偶々寄った電気店で抽選会をやっていたために引いてきたのだ。
結果は三等賞、ジャンクパーツになるかならないかという微妙な商品群から持ってこられたそのDISCは、他の仲間が見たら(そしてたぶんセヴンも)使う事を拒みそうな程薄汚れていた。しかし、折角のドール用DISCを使う事もせずに捨てるのも気が引けたため、こうしてこっそりと使用する事にした。
何より、これは零が初めて手に入れたドール用のDISCだ。使ってみたくなるのも、仕方ない事だろう。
カチッと、セヴンの耳元にあるスイッチを入れる。そうしてロックを外してから、アンテナを開けた。三枚入っているスキルDISCの内一枚を抜いて、新しい(新しい物ではないが)DISCを、開いたソケットに挿入する。DISCが挿入されると、自動的にロードが始まったことを告げる表示が、椅子に接続されている端末のモニターに表示された。そのままダウンロード、今度は入れたDISCを引き出し、また元のDISCを挿入する。こうしておけば、入れられているDISCそのものは以前のままなので、セヴン本人も、自分の中を詳しく検索しない限りは気が付かないだろう。
まさに完全犯罪が成立していた。零は、悠々と問題のDISCを持って、その場を後にする。
「それじゃ、材料を冷蔵庫に入れて、後で説明書を読んでおきましょう」
そんな、不穏なセリフを残して………
【ばれなかった………】
「おはようございます。零様」
セヴンが眠りから覚め、興信所の居間へと戻ってきた。零は買ってきた物を既に冷蔵庫等へ仕舞い込み、ソファーに座って、先程のDISCの説明書を読んでいた。セヴンが居間に入ってきた事で、出来るだけ自然に説明書をポケットに仕舞い込んで隠す。
「ぁ、おはよう。よく眠れました?」
「はい、零様。お待たせいたしまして、申し訳ございません」
「依頼の電話もありませんから、大丈夫です。それより、もうそろそろ兄さんも帰ってきますから、夕飯を準備いたしましょう」
零が、ソファーから腰を上げる。「はい」と返事をするセヴンと一緒に、食事の用意を始める。零は、いつもとほとんど変わらないように見えたが、もし武人が見たら「何かしたのか?」と言って、僅かな挙動の不審さを指摘してきただろう。
少し間をおいてから、不自然にならないように、何気なく零はセヴンに訊いた。
「ねぇ、明日ってアリーナに出場するんでしたっけ?大丈夫?」
「はい。明日はアリーナへ出向する予定です。無差別級選抜戦の、第一戦に出場します。このボディとなってから、大会に出場するのは初めてですが、戦闘スキルの数は十分です。これならば善戦は出来るでしょう」
「そうでしたか。頑張って下さいね。明日は観戦に行きますから」
「? ありがとうございます」
機嫌が良さそうに言う零に、少々訝しげにセヴンは頷いた。
零は機嫌良さそうに夕食の準備に勤しみ、セヴンはそんな零が自分に何をしたのかに気が付かぬまま、試合当日を迎える事になった………
【そして伝説へ……】
その翌日。つまり試合当日、零は兄と一緒に試合の観戦に来ていた。ドール同士が戦うアリーナは非常に人気があり、特に無差別級ともなると、客席は満員となり、熱狂的なファンで埋め尽くされていた。歓声だけで鼓膜が痛くなる。
「すごい人ですね」
「まぁ、こういう場所だからな。…セヴンが出て来たぞ」
慌てて試合場を見渡す零。言われた通り、会場の端っこからセヴンが静かに入場してきている。いつもよりも雰囲気が危ないような気がするが、それは戦闘前だからそう感じるだけだろう。周りの殺伐とした環境が、いつもとあまり変わらないセブンの印象をも塗り替えようとしていた。
一方、反対側から相手選手が出て来る。背丈だけでも、優にセヴンの二倍はある。筋肉質の大柄レスラーと言った感じで、最新のボディではないが、武装面ではセヴンを上回りそうだ。自分よりも小柄で貧弱そうに見えるセブンを見下ろし、小声で笑っている。
「うわ……アレと戦うんですか?」
「そうだろうな。無差別級だし」
兄が呟く。零は相手選手を見て、初めて不安感を覚えるのだった。
(でも、あのスキルなら大丈夫ですよね)
零は、リングに上がるセヴンと相手を見ながら、そう心の中で祈り続けた………
「では、試合開始のカウントを始めます!5、4、3……」
実況がカウントを開始する。セヴンは、相手の選手を見据えながら、どう戦うかを思考の中で計算した。相手の質量は自分の倍以上ある。ならばブースターの類を付けていたとしても、初撃を回避する事はまず無理だ。その一撃で相手の戦闘力を削げなければ、こちらが危ない……
そう判断し、武装を展開する。カウントが「1」と読み上げられた時点で自身の中にある戦闘スキルを高速再検索。もっとも相応しい物を呼び起こす。
「始め!」
実況が叫ぶと同時に、セヴンは反応していた。相手がこちらに向かって走り出そうとするのに向かって、一発の弾丸を放った。いつもならば実弾系回転式機関銃の「ガトリングフレア」を使って滅多撃ちにするのに、今日は不思議と一発だけ………直前になって再検索した時に引っ掛かったスキルだ。
(こんなスキルは)
無かったはずだと、セヴンはようやく気が付いた。自分のスキルがいつの間にか一つだけ増えているのだ。これには、流石のセヴンも内心焦る。自分が使ったスキルの詳細を検索し、一瞬で調べ上げる。だがその間に、弾丸は相手選手に突き立った。
こんなたった一発の弾丸、躱す必要もないとばかりに突っ込む相手選手。弾丸は丈夫そうな腹部に向かって伸び……
大爆発を起こした。
観客達の鼓膜を響かせる爆音。消える歓声。唖然としながら、爆風で後退するセヴン。零も流石にここまでの威力は予想外であったため、隣の兄と全く変わらず呆然としていた。
相手選手に突き立った弾丸は、その直後大爆発を引き起こし、その上半身を粉々に砕いてしまった。相手を動かしていたエネルギーが、弾丸の爆発に引火して更に強大な威力を引き出したのだ。
『マグナムバレット』。それがセブンに組み込まれた、新しいスキルである。内部から爆発させるこのスキルは、当たってしまえばそれまでの大技であった。
ガチャッと、相手選手の残ったか半身が倒れ込んだ。もはやスクラップとなったそれは、どう見ても修復不能。この試合の続行など論外だ。
倒れ込むのを合図に、歓声が戻ってくる。実況は叫き立て、まだ自分自身でも状況が掴み切れていないセヴンの勝利を宣言した。
セヴンの勝利を見て零は小さく「やった。使えた」と呟いていたが、それを聞き止めた者は、誰も居なかった……
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4410 マシンドール・セヴン 女性 28歳 スタンダート機構体
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■ ライター通信 ■
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初めまして、メビオス零です。
今回のシチュエーションノベルのご依頼、ありがとうございます。自分としては一生懸命書いたのですが、たぶん(たぶんじゃなくても)セヴンさんが動き切れてないです。結局零さん頼みになりました。
一人だけでのシチュエーションって難しいですね、やっぱり。まだまだ修行不足にも程があります。
やはりシリアス物にはならなかったし……(どんなジャンルでしょうかね?これ)
反省点や直した方が良い、こうした方が良かったとか言う事は、どんどん言ってきて下さい。お便りを読むのは怖いですが、それでも参考になります。私のレベルアップに繋がるので、よろしくお願いします。詳しい設定でも可。
では、改めまして、今回のご依頼、ありがとうございました。
またお会い出来れば幸いです。(・_・)(._.)
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