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<白銀の姫・PCクエストノベル>


機械魔法使いとニワトリ

 君たちが、冒険を終えたときだった。
 酒場でうわさ話を、自警地域を持つメカニックアーチメイジが居ると聞いた。
 名前は、サラドフェン・アイフェンタール
 この世界に相応しく機械類と魔法に長じた存在だ。
 強力なアイテムなどを提供や色々な情報を手に入れることができるかも知れない。
 ただ、世捨て人っぽいかビジネスライクらしいので好印象を持つ必要があるだろうし、堂々と中に通してくれるわけはないだろう。
 テストとして、彼を守護するモンスターと一戦交えるかも知れない。
 しかし、見返りは凄いものかもしれない。
 一部の冒険者は盗人よろしく潜り込んで死んだとも言う。

 と、彼の元に行くことを決めたわけだが、旅の途中、ちょこちょこ近づくニワトリがいる。
 村からはぐれたのか? イヤこの近辺はそんなモノはない。

「助けてくれコケ!」

 喋った!
 と、喋る謎生物は色々いるが、まあその辺は置いておこう。

 彼の話では、前に持っていた魔法のアイテムで呪いを受けたそうで、元に戻れないらしい。
 やっとこと、呪いを解くために君たちが向かうアーチメイジの所に着いたそうだ。
 じつは、このニワトリ、ラオリル・タッカートという過去、サラドフェンの弟子というのだ。

 コレはあなたにとって喜劇か悲劇か、どうするか?


〈“旅は道連れ世は情け”とはいうけれど〉
 このけったいな状況に出くわしたのはシュライン・エマとササキビ・クミノであった。
「あらら、そう言うことなの?」
 ニワトリを抱きかかえて言うシュライン。
「本当にそうなのか?」
 あまり感心がなさそうに喋るが、もののついでという感じのクミノ。
 ラリオルの正体がどうであれ、目的地が一緒であれば放っておくのも悲しいものだ。
 それぞれの思惑はあるだろうが、このニワトリを荷物にしてもさほど問題はないだろう。

「さて、サラドフェンの弟子というならば、彼がどういう風にトラップや護衛モンスターを配置しているか大体判るだろう? ニワトリ」
 クミノがニワトリに聞く。
「ラリオルというしっかりした名前があるコケ! イヤその辺は良いコケ……現にニワトリだしコケ」
 ニワトリはコケコケ叫ぶのでうるさいが、
「知っての通り、此処は機械仕掛けと魔法の世界の具現化というだろコケ? コケ。普通の生物にもサイバー化されているなら大抵の人造も其れだコケ」
「では、回路をショートする武装で十分か?」
「大抵は其れで住むかも知れないコケ。ただコケ」
「ただ?」
「電撃系統を無効化するモノもいるッてことコケ。それ以外はよく分からないコケ。なにぶん弟子だったのは……かなり前だったし……」
「む……役に立つのか……分からないやつだな」
 クミノは遭遇する敵の効率よい武装を思い描く事にした。
 何となくであるが、元から“これ”は“冒険者”なのだろうか?
 クミノは考えている。ここ〜アスガルド〜に来ているのは両世界の守護である。最終的にアスガルド自体は消滅することが望ましい、と。
 ラリオルが白銀のクローズドテストでHNのまま幽閉された可能性があるとしたら、サラドフェンはゲーム内の人物にせよ、このラリオルは囚われた人間かもしれないか、考えているのだ。
 何度も不正終了し、全てをリセットされ、記憶が摩耗して、本当の名前も忘れてしまったら不憫であるし、本当なら放ってといても良いのだが、それでも解放出来るなら、してやりたいがと思うクミノ。
 彼女は考えて思っているだけで、口にしていない。

「では、いきましょうか?」
 と、シュラインはこのフカフカニワトリを抱いていた。
 この世界に来てからは、そうフカフカなモノはなく普通モンスターにせよ生物にせよ機械が埋め込まれている(食用家畜は別としてもだ……)。
 このニワトリのフカフカ具合は最上級と言っても良い。
 普通のニワトリぐらいの大きさ。
 しかし、フカフカが堪らない。
「普通のニワトリが溢れかえるイベントでも発生させようと思ったのかしら?」
 と小首を傾げるシュライン。
「……あ たしか……」
 クミノは何かを思い出した。
「日本でもニワトリを虐めるとニワトリが逆襲するというゲームがあったな」

〈居城〉
 サラドフェンの居城近くにたどり着く2人。
 荒れ果てた森林の中で、シュラインの具現アイテムで回避していく。
「別の冒険者一行が倒れているな」
 クミノが死体を見る。
「馬鹿なことを」
「あたし達もそう見られるのは勘弁だけどね」
 シュラインが周りを警戒してみる。
 敵はいないようだ。
「まったくだ」
 と、死因を見ると、近くのウォーフォージオークの武装にやられているようだ。
「足跡も見あたらないから大丈夫だろう」
 此処でも現実世界で培った経験が役に立つとはと、複雑な心境をもつクミノ。
「何のためにここに来たのかしらねぇ、装備からすれば盗賊なのかな?」
「交渉しにきたのか盗賊なのか、私達には関係ないことだが……また戻ってくるだろう」
 と先を進むことにした
 ラリオルはというと……
 道中あまりにもコケコケうるさいので、バックパックに押し込んでいる。
「ふがこけふがこけ」
 と、暴れているのであった。

 廃墟の城を様々な魔法で武装化しているようだ。
 門が開いている。
「気をつけろ」
「ええ」
 雰囲気が違った。
 生き物の気配がない。訪れるモノを拒否するかのように中は暗い。
 何かの振動が聞こえる。
「ゴーレムこけ! ゴーレムこけ!」
 なんとかバックパックから顔だけ出したラリオルが言った。
「厄介なものだなそれは」
「弱点などあるかしら?」
「電気は逆効果コケ! 分かるだろうけど全身金属とか肉とかだと……コケ」
「そうね、錆が良いかしら」
 戦闘能力の少ないシュラインは身を隠して言う。
「ああ、そう言うことか!」
 とクミノが駆け出す。
 暗闇の中でも暗視スコープさえあれば問題ない。直ぐに具現化し装着。此処の守護者はショート武装でなく、ラスティング(錆び化)にする。守護人造を視認し、ヘカトンケイレス・アサルトブレードシステムで特殊塩水弾を打ち込んだ。
「命中……」
 情報通り、相手は鉄を纏った肉人形だった。電気だと厄介なことになっていただろう。
 あの、雷で動いたフランケン=シュタインを考えれば……。
 緩慢になったゴーレムに対し高魔法金属性の弾丸で始末した。
「これ以外にも何かありそうだが……」
 周りを見るクミノ。
「ん〜 大丈夫みたいよ」
 自分の持っているアイテム妖精の花飾りで周りを確認していたシュライン。
 彼女の言葉に嘘偽りはない。


〈ニワトリと魔法使いの会話〉
「ココまで来るとはなかなかやるな」
 と、2人の来客に満足げの魔法使いが研究施設の椅子に腰掛けて満足げに言った
「ま、乱暴な接客は許せ。この世の中はどうも……」
「用心しなければならないって事ね……」
「その通りじゃ。どの世界でもな」
「じゃ、あなたも?」
 シュラインは
「もっとも、あんた等みたいに行き来できる状態じゃないがのう……昔何者だったのか忘れてもうた……」
 溜息をついている魔法使い。
「完全に魂は囚われているが、一応“冒険者”の位置に居るわけか、サラドフェン」
 クミノは訊いた。
 頷く魔法使い。普通に遊んでいて、普通に家を建てていたのが、今では魔法と機械を弄る者になってしまったと言うわけだ。黒崎のように……。
 全く厄介な異界である。
「じゃ、このニワトリのラオリル氏もそうなのかしら?」
「ラリオル?じゃと?」
 驚くサラドフェン。
「お師匠さまコケ!」
 バックパックからニワトリが飛び出した。
「お主に師匠と呼ばれたくないわ!」
「そ、そんな〜」
 しょぼくれるニワトリ
「事情を訊きたいわね」
 シュラインが溜息をついて2人に尋ねる。
 2人とも、もとはクローズテストからの普通の参加者であり、黒崎という人物同様、何らかの脱出手段を考えていた。脱出口を足で探すのか、それとも理論にもって探すのかの違いであった。何人かは完全に世界に溶け込んでしまったのだが、なんとかサラドフェンもラリオルも閉じこめられたが意識を持っているのであるという。

サラドフェン(皿)「しかし、こやつは……ワシの開発した大事なポータルキーを壊して逃げよった」
ラリオル(鶏)「うう……反省してます」
皿「他にもこの世界のアイテム数点を盗んで……まったく……何か暴走させたな?」
鶏「加速の腕輪です……」
皿「あれか……(溜息)」
シュラインとクミノ「加速?」
皿「別名、チキンブレーサーじゃよ」
シュライン「ああ、“臆病者”の腕輪なのね……」

 という会話……が終わって本題にはいる。
「じゃあ、彼の呪いは?」
「一応出来るがのう……この世界が……」
「想像優先世界であるから厄介なことになるな」
 クミノがボソリ、
「そうなんじゃよ」
 クミノ以外溜息をつく。
「そんなコケ〜」
 ラリオルは泣いている。
 誰かさんを彷彿とさせるような泣き方をするので、苦笑するシュライン。
「ま、何とかなる」
 と、流石長い時間囚われているのか、彼は電子レンジにしか見えない魔法機器を動かし、ニワトリを中に入れた。
「ラリオルが望む姿を強く念じれば……元に戻るが……」
 と、電子レンジみたいな箱でグルグル回っているニワトリを見て言った。
「なんとなく、ローストチキンが出来そうな予感な……」
 シュラインは不安を隠せない。
 そして、“ちーん”と良く聞く音と“ぼふっ”と言う音が同時におこり、煙が上がる。
「元に戻った〜! (コケ)」
 煙の中で人型の男が喜んでいるようだ。
「他のことは念じないように」
 サラドフェンは一応注意しておく。
「はい(コケ)!」
 そして煙が晴れると、どこかで見たような人物に似すぎていた。
 思わず、クミノとシュラインは心の中で苦笑い。
「似ている……」
「似ているな……」
 と、小声で言う。
――三下君に似ているのだ。其れの魔法使い版と言っても良い。
――最も、其れをサラドフェン達には行っても意味がない。

「ただ、まだ完全に呪いが解けてないから……人間でありたいならずっと人間でありたいと念じろ……」
「はい! その間また魔法の修行と貴方の研究に従事します(コケ!)」
 と、何とかなったようである。


〈この世界でもうまくもいかないひともいる〉
 魔法使い2名に出口まで案内されるシュラインとクミノ。
「又機会が有れば寄ってくれ。この世界にある魔法物品などは大体作れるからのう、イベント専用でなければ」
「ありがとう。その時はよろしく」
 と言う会話もされたとかいないとか。
 しかし、
「ラリオル、貴方は“ほうき”になって修行し直すというのも良いではないか?」
 と、クミノが言ったとたん、
「そんな、折角元に戻って新たに……箒だなんて……」
 その言葉があだとなったのか……
 ラリオルは煙にまかれ……
「あ……」
「ぎゃー! 箒になったー!」
 修行不足モロ分かりである。
「……」
「……」
 沈黙するしかない2名。
「コレはラリオル自身の責任じゃ……気にするな」
 サラドフェンは首を振った。


 あれからサラドフェンの地域にやたらと強い箒が掃除しているという噂が飛び交ったのだが……真偽を確かめた者は居ない。


おわり

■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1166 ササキビ・クミノ 13 女 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】

■ライター通信
滝照直樹です。
今回のクエストノベルに参加ありがとうございます。
このニワトリネタはこの世界で使ってみたかったものでした。

ではまたの機会が有れば……。