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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


キング・オブ・トーキョー'05



それは繁華街の片隅で。人気のない路地で。
夕方の河川敷で。ビルの屋上で。

腕に覚えのある者たちが集い、競い合う祭典。


 それは陽の光が届かない真夜中。
廃墟に囲まれた拳を交わす彼らを、穏やかな光を放つ月だけが見ていた。

 激しい攻防が続いたあと、カンフー姿の華奢な少女が空に舞った。
少女を吹き飛ばしたのはがっしりとした青年。
冷酷な瞳で少女が放物線を描いたのを見送り、
少女が地面に叩き付けられるのと同時に大きく跳躍する。
青年の拳が少女の腹にめり込むのと同時に―――――……


 『画面』がブラックアウトした。










「いや――ん!もうちょっとだったのにーっ!悔しいぃぃぃっ!」
 頭部に大きなゴーグルのようなものをつけた少女が、どんどんと地団太を踏んだ。
少女の前には大きなテレビが設えられており、
少女のつけているゴーグルからいくつものケーブルが伸び、テレビの裏側へと続いている。
 ひとしきり喚いたあと、少女は細い両手でゴーグルを外した。
目のあたりをぐるりと回る重そうなゴーグルから開放された少女は、
犬のようにぶんぶんと髪を揺らした。
見覚えのあるその顔。このインターネットカフェの主とも言うべき少女、瀬名雫だ。
「あそこで大ガードするべきだったんだよね。
打ち合いしてると、どうしても興奮しちゃうから、冷静にならないと。
ああもう、もう少しでクリアだったのになあ…」
 雫は親指の爪を噛みながら、心底悔しそうにぶつぶつと呟いている。
重そうなゴーグルを小脇に抱えながら。
 やがて雫は、こちらの視線に気がついた。
「あ、来てたんだ?やだ、見てたの?もう、声かけてくれればよかったのに!」
 一人ゴーグルを被り、なにやら喚きながら体を揺らしていた雫に、
一体何て言えば良かったというのだろう。
 こちらの視線から鋭く感情を読み取った雫は、「たははー」と苦笑して頭を掻いた。
「ごめんねっ。ついこないだコレ借りたもんだから、ちょっと熱中しちゃってたんだよ!」
 コレ?
雫の言葉に、彼女の抱えているゴーグルと、それに繋がっているテレビとを見比べる。
大きなテレビ画面はブラックアウトしたまま、
『GAME OVER!』の文字と地面に倒れる少女の姿を写していた。
「そそ、お察しのとおり!まあ、簡単に言えば格闘ゲームなんだけどね。
『キング・オブ・トーキョー'05』って知らない?知ってる?まあいいや!
これね、2回KOで負けっていう極普通の格闘ゲームなんだけど…これこれ、これがポイントなの」
 そう言って、満面の笑みを浮かべて、今しがた自分がつけていたゴーグルを見せる。
「これをはめてプレイすると、360度体感ゲームになるんだよ!
ゲームの中のキャラと同じ感覚を味わえるの。ね、楽しそうじゃない?!」
 その言葉につられ、まじまじと雫の姿を眺めていると、その視線に気がついたのか雫がにやりと笑った。
「あ、やりたくなった?いいよ、貸してあげる。
ネット対戦も可能だからね、友達とも対戦できるよ!
ルールは簡単。さっき言ったとおり、2回KOで終わり。
ある程度攻撃を受けたら、必殺技が出せるよ。
対戦場所も変えられるから、その場所特有の必殺技も出せるの。
でもね、ひとつ気をつけてほしいことが―…」
 そう言って雫は、顔をこちらの耳に寄せ、囁くように言った。
「このゲームの開発陣の中に、ちょーっとキレてる人がいてね。
普通の人がプレイする分には問題ないんだけど、
きみたちみたいにある種の特殊能力を持った人がプレイすると―…」
 そこまで言って、顔を離してにこりと微笑んだ。
その笑みは、彼女が何かを企むときのそれで。
「ゲームのキャラと意識が一体化しちゃうかもしれないんだって!
いわゆる、『取り込まれる』ってやつ?あ、やだ、そんな心配そうな顔しないでもいいよ!
大丈夫、ゲームで負けても死んじゃうわけじゃないから。
それと、次勝ったらボス戦なんだ!あたしのかわりに頑張ってね!」
 あっはっは、と雫は堪えきれずに声をあげて笑った。
どうやら彼女は、誰かが『取り込まれる』のが本当かどうか、真相が知りたかったらしい。
そういう意味では、格好の実験材料というわけだ。

 ―…仕方ない。乗りかかった船だ。



 ――――――Do you continue? 













「ふぅん、やっぱりかあ。噂は本当だったんだね―・・・」
   よいしょ。
雫はブツブツと何かを呟きながら、床に力なく横たわる華奢な少女の体を抱き起こす。
少女の頭には、先ほど雫がつけていた無骨なゴーグルがすっぽりと収まっていた。
雫は少女の腋の下に手をやり、ずるずると床を引きずり、ネットカフェの壁にもたれさせた。
カクン、と首を折って脱力しつつも、少女がちゃんと壁にもたれていることを確認すると、
改めて大きなテレビ画面の前に目を向けた。
そこに横たわっているものは、雫の労働がまだ3人分残っていることを示していた。
「やれやれ。こんなことなら、ちゃんと隅っこでやってもらうんだったなあ。
意識がないって言っても、誰かに蹴られたり踏みつけられたら可哀想だし―・・・」
 仕方ないなあ、と呟きながらも、その顔にはにんまりとした笑みが浮かんでいた。

そして雫の前のテレビ画面には、新たな参入者が現われたことを示す文字が、大きく点滅していた。







               ▼ROUND1:  海原・みなも VS 浅海・紅珠








「あー、ずっるいなあそれ!俺もそんなのが良かったなー」
「え、え?でも恥ずかしいですよ・・・これは」
 舞台は建設途中の工事現場。
現実では昼間だったはずが、一気に昼夜逆転したようで、辺りは闇に包まれている。
 他人より柔軟に物事を受け入れることが出来る―・・・ある意味で言えば現実主義な少女、海原みなもと、
その外見と同様に活発で、また至極直線的な少年のような少女、浅海紅珠(あさなみ・こうじゅ)は、
この事態に慌ても騒ぎもせず、彼女たちらしく自然体で対峙していた。
それは今から誘い合わせて買い物にでも行くような空気で、とてもこれから拳を合わせる二人には見えない。
 それもそのはず、戦うといっても憎しみあっているからではなく、
ただ単にこれがゲームで、”そういうもの”なのだから。
唯一普通のゲームと違う点はというと、これが虚構であり、また現実でもあるということ。
第三者から見ると、二人の姿はテレビ画面の中で構え合っているように見えるだろう。
だがその中の二人の意識は、本来ならばそのキャラクターを動かしている自分自身のもの。
 つまり。
「初めはなんだか違和感あるかなって思ったんですけど。
いざ入ってみると、大して変わりませんね」
「だね。取り込まれる瞬間はびっくりしたけどさ、実際こうなってみると、夢の中って感じ?」
「そうですね、あたしもそう思います。・・・痛さまでリアルに伝わると、ちょっと厭ですけど」
 みなもが苦笑してそう言うと、紅珠はプッと噴出して笑った。
「あっははは。そうだね、俺もすっごい痛いのはイヤ。
でも大丈夫じゃん?雫の話だと、死ぬことはないっていうし」
「そうですね・・・あんまり痛いとショック死しちゃいますしね」
 うんうん、と頷くみなも。
紅珠はそんなみなもを見て、ふと悪戯心を起こしたのか、にやりと笑って言った。
「でもさ、実際に死ぬことはないとしても―・・・。
”死ぬほどのダメージ”は負うかもしれないよな?ただ単にそれが現実に反映されないだけでさ」
「―・・・!怖いこと言わないでくださいよ」
 紅珠の言葉に思わず震え、みなもは自分の肩を掴んだ。
現実ではしっかりとした肉感を持って伝わるそれは、今は何だかあやふやでしかない。
それは仕方のないことで、今のみなもの身体は、彼女とゲームのキャラクターが融合したもの。
その風貌はみなものものだが、身体は半透明で水のように透き通っている。
 ちなみに、先ほど紅珠が羨ましがっていたのが、みなものこれだ。
「でさでさ、それって何?あんた、現実でもそんな身体してるわけじゃないよな?」
「ええ、ゲームの選択画面で”ウンディーネ”を選んだらこうなっちゃいました。
水の精霊らしいんですが―・・・」
   これは少し恥ずかしいです。
 そういって、ほんのりと頬を赤らめて俯く。
その身体は現実のみなもより、少しばかりボディラインがくっきりとしているが、
精霊というだけあって、服装はほぼ半裸状態。
ゲームであれば納得の出来る服装だが、現実に着るとなると少しばかり勇気を必要とするだろう。
 大しての紅珠はというと、少々露出の高い和服を元にデザインしたような服。
腕や太ももはむき出しで、大層動きやすそうだ。
みなもと同様、露出は高いが、もともとの紅珠の身体がまだ発育不十分であるせいか、
やはりボーイッシュな少女、もしくは年若い少年という印象は否めない。
「俺もぼん、きゅ、ぼんが良かったな。次からはそうしよーっと」
 ゲームセンターのアーケード台に陣取り、これからいざボタンを叩き始めるような口振りで言う紅珠。
みなもは苦笑を浮かべ、
「あなたの服もかわいいと思いますけど。動きやすそうですし」
「あ、そう?あんがとね。まあ、馴れ合いはこれぐらいにして―・・・」
 そう言うと、笑みを浮かべていた紅珠の顔が一気に引き締まる。
「まだ名前聞いてなかったよな。俺は浅海紅珠。紅珠でいいよ」
「・・・はい、紅珠さん。あたしはみなも、海原みなもです」
 そう名乗りあうと、どちらからともなく、構えをとる。
「・・・お手柔らかにお願いしますね」
「はは、やるならガチのマジ勝負だよ。いい試合、させてくれよな!」

 そして、天高らかにゴング代わりの電子音が鳴り響いた。























 一陣の風が吹き、紅珠の短い漆黒の髪と、みなもの透き通るような青い髪をなびかせた。
二人の少女は互いに構えをとったまま、微動だにしない。
紅珠のそれは、柔軟だがはっきりとした固さを持ち、両腕を少し曲げて顔をかばっている体勢。
その構えからは、相手の動きに反応して即座に拳を繰り出すことが出来るだろう。
腰を浅く落とし、重心を下に置いている。
 対するみなもはというと、闘気を纏っているような紅珠に比べ、全くの自然体で立っていた。
そんな彼女を取り巻くのは、シルクのベールのように薄い透明な水。
みなもの身体に密着するように張り付き、みなもを守っているように波打っている。
 工事現場のライトが水に反射して煌き、紅珠は面白いものを見るように笑った。
「なあ、それもウンディーネってやつの?」
 みなもはゆっくりと首を振り、楽しげな笑顔で答えた。
「いいえ。これは私の”力”です―・・・」
 そしてみなもの手がさっと胸の前に上がったのと同時に、紅珠が動いた。
「はっ!」
 牽制とばかりに、紅珠の堅く握られた拳がみなもの腹をえぐる―・・・と思いきや、
紅珠の拳はみなもの身体の中に深く沈んでいた。
「・・・っ!?」
 その感触に驚き、その場を飛びずさる紅珠。
目を丸くしている紅珠に、みなもは楽しげに笑って言った。
「ですから、これがあたしの力なんです。”水の鎧”って言います」
「そっか、さっき変な感触がしたの、ありゃ水かあ・・・って益々ずっこい!
そんなんじゃ、俺の攻撃あたんないじゃん!」
 紅珠はぷぅ、と頬を膨らませて地団太を踏む。
自分の水の身体に満足気な表情を見せていたみなもは、紅珠の悔しそうな表情に思わず眉を八の字にさせた。
「え、ええと・・・あの、所詮ゲームのガード技ですから、どこかに隙があると思うんですよ!
だから、そんな泣きそうな顔しないで下さい」
 と、当の紅珠よりも表情を曇らせるみなも。
紅珠は顔を覆った手の隙間からニヤリと笑い、
「そっかあ・・・・・じゃあがんばろーっと!」
 そんな台詞と残像を残して、びゅん、と風を切る速さでみなもの眼前に立つ。
「え、え!?」
 慌てふためくみなもの瞳には、ニッと笑う紅珠の口の端だけが残っていた。
 そのときみなもの背後では、深く腰を落とし構えを取る紅珠が居た。
紅珠は浅い息を吐き、力を込めて拳を繰り出す。

        ―――ドンッ!

「・・きゃあっ!」
 背後から予想になかった衝撃を食らい、みなもは思わず前につんのめった。
「ふっふっふ、やっぱり意識集中してないと発動しないんだね。あんがとな、みなも!」
   教えてくれて。
 そういって紅珠は満足気に笑った。先ほどのみなものような笑みで。
 みなもは背中をさすりながら体制を整え、紅珠と向かい合う。
その表情は先程よりも幾ばくか真剣なもので。
「やっぱり痛いですね・・・もう、痛いのは厭なので、真剣に行かせてもらいます!」
「オーケイ、どっからでもかかってきな」
 紅珠が立てた中指をくいっと曲げると、それが再開の合図となった。



 紅珠は素早さはあるものの、華奢な体格のせいか腕力は余りない。
よって、いくら攻撃を当てることが出来ても、決して致命傷にはならない。
 みなもは元来の反射神経の違いか、紅珠ほどの素早さは無いものの、
己の攻撃に水の鎧の力を借りて、ダメージを増やすことが出来る。
 そんな二人の攻防は、軽やかで鮮やかなものだった。
みなもの攻撃は通常では紅珠には当たらないが、水の鎧が形を変え、
寸前で避けた紅珠に追撃を与えた。
「ったあ!」
 回避能力が高い分、体力に自信がない紅珠はみなもの水の攻撃で大きくダメージを受ける。
みなもが操る水は、水と思えないほど重く、堅かった。
「ごめんなさい、これもゲームですから!」
 みなもの蹴りが紅珠の顔面に迫り、それと同時にみなもを取り巻く水の凶器が紅珠を襲う。
「そう何度も何度も・・・食らってたまるかっての!」
 紅珠は身を捻り、高くジャンプすると鋭い水が紅珠の身体を掠めた。
そしてみなもが体勢を整えている間に、彼女の背後に回り拳を叩き込む。
「っつう!」
 みなもは背後からの衝撃に歯を食いしばり、耐えた。
紅珠がそのまま攻撃を叩き込もうと腕を大きく後ろに引いた瞬間、みなもがくるりと紅珠のほうを向き、
そのままザッと後ろに飛びずさる。
みなものその素早い反応に紅珠は一瞬目を見張るが、彼女にとってはそれが命取りとなった。
「これ以上長引くと、あたし自身がへばっちゃいますから。
ここらへんで、ケリをつけさせてもらいますね・・・!」
 みなもはそう言うと、両手を前に突き出して、独特の構えを取った。
そして彼女の手の前に溢れ出て、まるで無重力空間にいるように宙に浮かぶ水の塊。
紅珠は本能的に、「ヤバい」と悟った。
「いきます。水爆――ッ!」
 みなもの叫ぶ声が届くか届かないか。
その一瞬の間に、紅珠の左腕のあたりで何かが”弾けた”。
「―――――ッ!!?」
 紅珠はその激痛に、思わず仰け反って腕を押さえた。
腕を押さえた右の掌に、じとっと触れる感触。
 此処はあくまでバーチャルな空間だから、いくら意識が取り込まれているといっても、その身体は電子世界に在る。
故に、大怪我を追うような傷を持っても、血は流れない。
ならば、この掌が濡れるような感触は―――・・・?
「・・・!大変、やっぱり危険な技ですね、これは・・・」
 紅珠の苦しそうな顔を見て、一瞬固まるみなも。
あくまで現実世界では使うことをしない技。
水素分子を反応させて行う”水爆”は、みなも自身危険すぎてまだ使ったことが無かった。
だから、良いチャンスだと思って試してみたのだが―・・・。
 だがみなもの危惧とは裏腹に、紅珠は未だに倒れる様子を見せなかった。
そのことはみなもを少しばかり驚かせる。
「水、か・・・そうだよな、みなもは水使いだったっけ?」
「―・・・あたしはこう見えても、人魚ですから。水を操るのは、あたしの十八番です」
 みなも自身、大して体力ゲージは残っていない。紅珠もそれは同じはず。
・・・もう一発、打ち込む必要があるのだろうか?
「紅珠さん、もうそろそろ寝て下さいね。あたし、あんまり痛めつけるようなこと―・・・」
「ははっ、人魚かあ・・・成る程ね」
 みなもの声が耳に届いていないのか、紅珠は水爆を受けた左腕を庇いながら、くっくっと低い声で笑った。
「みなも。甘いこと言ってないで、もう一発打ってきな。
俺はあと一発食らったら倒れちゃうよ?でも通常攻撃は効かない。だってもう間合い分かっちゃったもんね」
 そう言って、挑発するように、くいっと顎を上げる。
みなもは決して、こんな挑発に乗る少女ではない。
だが、もう体力がないという紅珠の言葉に嘘は無いだろう。そして自分の攻撃が避けられるということも。
ならば、さくっと終わらせたほうがお互いのためだ。
「仕方ありませんね。望みどおりいきますよ――・・・!」
 そう告げて、みなもは再度構えを取った。
溢れ出る水を通して、みなもは紅珠の表情を見た。そこに浮かんでいるものは、彼女特有の笑みで。
 その意味を理解したとき、全ては遅かった。
「っつう・・・!やっぱ痛いな、ちくしょー!」
 紅珠が叫ぶ。
みなもの水爆は、彼女が狙いを違えたのか、それとも紅珠がわざとそうしたのか、紅珠の足のあたりを掠めた。
みなもがそれを確認する間もなく、紅珠がみなもの眼前に躍り出る。
次の瞬間、みなもの目の前は真っ赤に染まった。・・・決して比喩でも何でもなく、唯そのとおりの意味で。
「必殺!尻尾ビンタ――――ッ!!!」
 
   バシバシバシバシッ!!!

 それはまるで、海中を叩く様に進む魚の尾のそれで。
水を掻くための尋常ではない筋肉を使って叩き込まれた無数の攻撃は、みなもが耐えられるものではなかった。

 薄れ行く意識の中で、みなもは紅珠の声を聞いた。
「・・・ごめん、俺も人魚なんだ。尻尾ビンタ、効くっしょ?」









               ▼ Happy End?




「あ、おっかえりー!お疲れ様、みんな!」
 ふらふらとなりながらも、ゴーグルを外している4人に、雫が笑顔で出迎えた。
「画面から見てたよぉ。みんな、奮闘してたね!」
   かっこよかったよー!
 そういって、興奮したように腕を振る雫。
対する四人は、全員が肩で息をし、半分死んだような目で雫を見上げていた。
壁際にもたれたまま、立つ元気もないらしい。
「もう、疲労困憊って感じ?まあ仕方ないよね、精神そのまま戦ってたようなもんだし。
ま、ゆっくり休んでよ。なんなら雫ちゃんがジュース取ってきてあげようか―成功くん?」
 興奮しきっている雫はぺらぺらと早口で喋りながら、4人のうちの一人、梅成功の様子に気がついた。
成功は真っ青な顔で、口を押さえていた。
その隣にいた、たった今まで戦っていた相手の雪ノ下・正風が、成功の様子を気遣うように彼の背中に触れる。
「どうした、気分でも悪いのか?」
「トイレならあっちのほうですよ。付き添いますか?」
 不安そうな顔を浮かべる海原みなもが、部屋の隅のほうを指差す。
「そーそー、気分悪いなら吐いちゃえば楽になるって!」
 一人明るい声で言うのは浅海紅珠だ。彼女もまた疲れた顔をしているが、
その反面やり遂げたような充実感で溢れている。
「・・・・・・・もう駄目、吐く」
 成功はぽつりとそう呟き、ふらつきながらも立ち上がってダッシュでトイレのほうに向かっていった。
程なくして、苦しげな声とけたたましく水が流れる音が聞こえてきた。
 その音を聞きながら、無理もない、と納得しあう三人。
肉体があるときは大して感じない、精神だけの運動だからこその疲労。
それを分かち合えるのは、同じ体験をしたものだけなのだから。
 そして唯一人傍観者に徹していた雫は、未だに興奮しながら言った。
「見てるだけでもすんごく楽しかったよぉ!またみんなで対戦してね!
今度はビデオ取っとくよ!」
「・・・・・・・・・・!」
 雫の言葉に、絶句する三人。確かに面白くなかったとは言えないが―・・・。
「と、当分はいいです、あたし・・・」
「俺も同感。吐くまではいかないけど、これすっげえ疲れンだよ」
「だな。仕事に響く」
 うんうん、と頷きあう。
そんな様子を見て、雫が地団太を踏んだ。
「えー、つまんない!ほらぁ、ボス戦もあるんだよ?やってみたいでしょ?」
「そういえば・・・・」
 ふと気がついたようにみなもが言う。
「ボス、ってどうなったんでしょうか。紅珠さん、戦いました?」
「いんや、みなもに勝ったら、意識戻っちゃったよ。そこのおにーさんは?」
「俺も同じく。多分成功も同じだろうな」
「・・・・・・・・・・。」
 そして三人して、じとっと雫を見る。
雫は一瞬固まったが、あははははと笑って言った。
「え、えーと、ごめんねっ!ボスって、一人で10回勝ち抜かなきゃいけないんだった!
プレイヤーの対戦じゃ無理だったんだ〜えへっ」
「・・・・・えへっ。じゃねえよ・・・」
「10回・・・・強さどうこうより、動物並みのタフさが必要だなあ・・・・」
「あ、あたしには無理です。ていうかしばらくいいです、遠慮しときます」
    右に同じく。
 そう誰とも無く呟いて、うんうんと頷きあう三人だった。













         おわり。








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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧

【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【1252|海原・みなも|女性|13歳|中学生】
【4958|浅海・紅珠|女性|12歳|小学生/海の魔女見習】
【3507|梅・成功|男性|15歳|中学生】
【0391|雪ノ下・正風|男性|22歳|オカルト作家】



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▼ ライター通信
 初めまして、またはいつもお世話になっております。
今回は当依頼に参加して頂き、ありがとうございました。
そして今回もまた遅くなりまして申し訳ありませんでした;

今回は一応初の試みの真っ向バトル物ということで、
大分試行錯誤しながら書かせて頂きました。
参加者PCさん全員の特殊能力を描写できたかな・・・と思いますが
如何だったでしょうか。
普段のノベルで、特殊能力を描写することがあまりないので、
こちらとしても貴重な機会を頂きまして、ありがとうございました。
また何かの機会に活かしたいと思います。

そして当初設定で出していたボスですが、
字数の関係上、却下いたしました;申し訳ありません><
もしもこの続編(?)が出せたら、そのときこそは書いてみたいと思います。

では、ご参加ありがとうございました。
またお会いできることを祈って。