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<東京怪談・PCゲームノベル>


 おいでませ江戸の町 〜かみかくし〜


 ■Opening■


 ひとつ ひとこえ ひばりなき
 ふたつ ふたばの 古井戸にゃ
 みっつ みなもに 手が伸びる

 小さな禿の女の子が鞠をつきながら手毬歌をうたっていた。
 庭先の大きな満開の桜の木の下で小気味よく鞠をつきながら。

 よっつ 黄泉へと 手まねいて
 いつつ いくとせ まいりゃんせ

 縁側の袂で満開の桜を見上げながら、椛は小さく溜息を吐いた。
 昨日、京の島原からこの江戸の吉原の遊里へ出てきたばかりである。一妓一客制の島原の遊郭で彼女は客に逃げられたのだ。
 階級は天神だった。太夫に次いで上から2つ目は、今の東京の言葉を借りればトップモデルにも等しい。その彼女が客に浮気をされたのである。勿論その客は一妓一客の禁を犯した事により遊里の者達に私刑にされたが、彼女自身天神としてのプライドや遊里自体の体裁もあって、この江戸の吉原に移されたのであった。
 桜の木の下で毬をついて遊ぶ禿――遊女の世話をする子ども――楓を伴って。

 いつつ いくとせ まいりゃんせ

 ふと、穏やかな春の風に混じって冷たい風が吹いた。
 その風に誘われるように椛は楓を振り返った。
 鞠が寂しそうに落ちている。
「楓はん?」
 不審に椛は辺りを見回しながら縁側を降りた。
 鞠を拾う。
「楓はん?」
 しかし、辺りから彼女の姿は忽然と消えていた。
「梅はん、どないしよ。楓はん、いんなってしもたぁ〜」



 ◇◇◇



 それが見えた者はこの東京でも限られていた。
 突如、東京上空に現れた謎の飛空挺は爆煙を巻き上げ、まるで今にも墜落しそうな勢いで落ちてきたかと思えば、ふと雲にひっかかってそこに留まった。
 落ちていたら今頃東京はなくなっていたかもしれない。
 それが見えた一部の人間は皆一様にあんぐり口を開け、呆けたようにそれを見上げていた。
 写真に撮ろうと何人かが手にしていた携帯電話を構えたが、残念ながらそれが映ることはついぞなかった。
 テレビカメラにも映らず飛行機も通り抜ける。
 触れる事も出来ぬあれは夢か幻か。


 何の脈絡も、何の理由もなく彼らは突然やってきた。





 ■Where is...■


【綾和泉・汐耶の場合】
 都立図書館の本棚の前で、図書館の司書を務める綾和泉汐耶は大量の本を抱えていた。休み明けというのは返却が殺到するものだが、さすがに長期休暇明けともなるとその量も半端ではない。普段は、一般客が訪れる事のない要申請特別閲覧図書と呼ばれる曰く付きの本が並んだ部屋で過ごす事の多い彼女も、さすがにこの日ばかりは返却に訪れた客でごった返す合間を縫って返却された本を所定の本棚に戻すのに大わらわだった。
 そんな時だ。
 突然彼女の視界が強い光に覆われたのは。
 それはまるでカメラ撮影のフラッシュのように、咄嗟に閉じたまぶたの裏側に乳白色の残像を作る。
 光が徐々に落ち着いて、汐耶はゆっくりまぶたを開く。
 目の前にあった筈の本棚が見あたらない。どころかかけていた筈の眼鏡も見当たらなくて慌てて辺りを見回す。持っていた筈の本もなかった。タイルの床が畳に変わっている。お気に入りのヒールは足袋だった。それも爪先しか見えない。自分が着ているのが着物であると理解した瞬間、汐耶は裾を踏んで尻餅をついていた。
「なっ……!?」
 12畳ほどある広い和室に典型的な純日本家屋を思わせる太い梁と天井が見える。
 汐耶はこれ以上ないくらい大きく目を見開いて愕然と呟いた。


【セレスティ・カーニンガムの場合】
 彼の朝は遅い。
 自宅の豪奢なキングサイズのベッドの上でセレスティ・カーニンガムはまどろみの中にいた。たとえカーテンの隙間から朝の陽射しが容赦なく射し込もうとも彼は意に介した風もない。完全に眠りの中というわけでもなかったが彼の意識は夢うつつをさ迷っていた。朝は滅法苦手なのである。
 やがて陽も昇り始め、カーテンの隙間から射し込む光も和らいで、穏やかな陽気に包まれた。それと共に彼の意識も目覚めへと浮上し始める。
 そんな時だった。
 突然、閃光が彼を襲ったのである。
 まるで手術台の上に寝かされたように、天井から強い光が降り注ぎ、彼は半分まだ眠っている意識の中で強くまぶたを閉じた。
 和らいでいく光にぼんやりまぶたを開く。
 視力が極めて低く殆ど何も見る事の出来ない目が不思議なものをそこに映し出していた。
 鋭敏な感覚が自宅の寝室の天井でないことだけを知らせている。
 純日本家屋の天井に彼はゆっくりと上体を起こした。
 まだ覚めきらない頭がのろりのろりと回転を始める。
 ベッドで寝ていた筈なのに床に布団を敷いて寝ていた。羽毛ではなく綿の布団が重い。床を手で触るとざらりとしたした質感は畳のようである。
 セレスティは不思議そうに首を傾げて呟いた。


【一色・千鳥の場合】
 東京の片隅にひっそりと佇む小料理屋山海亭は間もなく開店を迎える。仕込みを終えた店の主兼料理人、一色千鳥は和服にたすき姿で暖簾を手に玄関へ向かった。
 窓から見える西の空は今にも陽が落ちようとしている。そろそろ逢う魔が刻である。
 魔に出会う刻か、と1人笑みを零してしまうのは、自分がそういったものと無縁でいられないせいかもしれない。
 引き戸を開けて彼は一歩外へ出た。
 その時だった。
 正に逢う魔が刻だったのかもしれない。彼はいろんな意味でその時1つの魔と出会ったのだろう。突然世界が輝いた。目を開けていられないほどの光量に彼は目を閉じ、そして開いた。
 目の前にかまどがあった。アスファルトがむき出しの地面になっていた。自分は草履をはいている。和服ではあったが濃紺の着物は篭目の文様に変わっていた。たすきをしているのは同じで、あまり自分の出で立ちが変わったような感じはしない。それでも敢えて1つあげるなら、袖丈が短くなったような気がするくらいだろうか。
 辺りを見回すと土間に採れたてらしい土のついた野菜が並んでいた。どこかの厨房のようである。
 かまどではぐつぐつと米が炊けているようだった。
 千鳥はゆっくりと首を傾げて呟いた。


【繰唐・妓音の場合】
 陽気な小唄を口ずさみ、緋色のワンピースに白地の着物を羽織った艶やかな女が、人ごみでごったがえす原宿は表参道を軽快な足取りで歩いていた。明治神宮で祭でもあったのか、出店で買ったらしいみたらしだんごやたこ焼きなどの入った袋をぶら下げている。片手には大判焼きを持っていた。
 別段あてがあるわけではない。
 ただ、人と騒ぎが大がつくほど好きなだけだ。その足はもしかしたらそれを捜し求めて歩いているのかもしれない。
 そんな時だった。
 大好きな騒ぎが目の前から大手を振って歩いてきた、と言っても彼女的には過言にならないだろう。視界を遮るほどの白光に思わず目を閉じ、和らいだ光に目を開けると、そこには時代劇ぐらいでしか見た事もない街並みが広がっていた。
 いや、京都の太秦あたりにこんな景色があっただろうか。アスファルトじゃないむき出しの地面に、コンクリートじゃない純和風の軒が並ぶ。行き交う人々は皆和服に男も女も髷を結っていた。聞こえてくるのはちゃきちゃきの江戸っ子だ。
 ともすれば自分もワンピースなんて無粋なものは着ていなかった。朱色の花菱の小袖に粋に半襟を折り返している。いつの間に着替えたのやら。
 妓音は訝しげに首を傾げて呟いた。


【葉室・穂積の場合】
 心地よい語り口調だ。どうしてこうも教師と呼ばれる連中は皆、眠りを誘う喋り方をするのだろう。昼飯で腹もほど良くふくれ、残りの休み時間をサッカーで過ごした育ち盛りの高校二年生としては、昼休みあけ一発目の授業はいわば睡魔との闘いの場であった。
 都内有数の進学校でさすがに居眠りは目に付く。葉室穂積は古くからある睡魔への対抗手段を発動する事にした。
 歴史の教科書を立てて持ち、その中にマンガを仕込むのである。せっかく歴史の授業だから、かどうかは知らないが、彼は新選組のマンガを読み始めた。
 その時だった。
 突然見ていたマンガが眩しく光ったかと思うと世界は光に包まれた。
 目を開けていられないほどの光に彼は目を閉じる。そしてゆっくりと目を開けた。
 彼は見慣れた教室にはいなかった。クラスメイトはおろか、歴史の先生もいない。持っていた筈の歴史の教科書もマンガの本さえなく代わりに彼が持っていたのは、ひしゃくと水桶だった。
 学ランは着物になっていて、白い前掛けを付けている。
 このかっこは、どこかで見覚えがあった。時代劇でよく見かける丁稚奉公した子どものかっこに類似している。
 彼は単純に考えた――マンガの世界に来てしまった!!
 しかしよく見ると、そこは彼が直前まで見ていたマンガの世界とは微妙に違っていた。新選組が活躍したのは京の町である。だがここは、京の町というより八百八町だ。
 彼は呆然と呟いた。


【シュライン・エマの場合】
 東京の片隅にあるオカルト専門の興信所――草間興信所の台所で、両手に持っていたスーパーの大きな袋を2つ、よっこらしょと置いて、興信所事務員シュライン・エマはホッと人心地ついた。
 しかしここで手を休めたりはしない彼女である。ここでうっかり座ってしまったら次に腰を上げるのが億劫になってしまうからだ。さっさと片付けてしまおうと、彼女はスーパーの袋の中身を取り出し手際よく冷蔵庫にしまっていった。
 そんな時だった。
 牛乳パックをドアポケットに入れようとした瞬間、世界が真っ白に光ったのである。驚いて牛乳パックを取り落とした手が、光を遮るように翳される。
 どのくらい時間が経ったのだろう、それは一瞬だったかもしれない。
 目の前に小路が続いていた。
 和風家屋が立ち並び垣根が続く知らない小路だ。
 シュラインは2度まばたきして、それからゆっくりと自分を振り返った。足袋に草履を履いている。スーツではなく赤朽葉に花筏の文様の小袖を着ていた。髪を結いあげていないのは自分でもわかる。束ねた髪に首筋が涼やかなのは着物の着方のせいだろう。衣文を抜いて中着を見せる着付けなんて江戸時代ならともかく、今では殆ど見かけない。
 手には三味線。
 シュラインはぼんやりと空を見上げた。どこまでも青く広がっている。東京では見ることの出来ないコバルトブルーに近い空。澄みきったロシアで一度見た事がある。
 彼女は無意識に息を呑んで、半ば途方に暮れたように呟いた。


【海原・みなもの場合】
 彼女の通う公立の中学校から家までは、さほど遠い距離ではない。徒歩通学の海原みなもはその日もいつも通り正門を出て友達と帰途にあった。
 家から100mほど手前の角で友達と「またね」と言って別れる。
 いつもと変わらない日常がそこにあった。
 そんな時だった。
 世界は突然光に包まれた。
 いや、包まれたのは自分の方であったろうか、みなもは目も開けていられないほどの強い光に手を翳して目をぎゅっと閉じた。
 徐々に光が和らいでいく。
 何かを説明するような誰かの声にみなもは恐々と目を開けた。その目はそのまま更に大きく開かれる。
 彼女の回りには、自分と同じくらいか、或いは小さい子供達が畳の上で一様に正座をして文机に向かっていたからだ。いや、自分も同じように正座をして文机の前に座っている。
 持っているのは使い慣れたシャーペンではなく小筆だった。誰もがそれで前に立つ先生とおぼしき者の言う通りに字を連ねている。それだけではない。誰もが自分も含めて和服を着ているのだ。
 みなもは呆然と呟いた。


【直江・恭一郎の場合】
 夜のデパートは静まり返っていた。客も従業員もいないフロアには彼の足音だけが響き渡っている。懐中電灯を片手にデパートを歩く彼の仕事はこのデパートの警備であった。今までちょっとした不幸な事故が続き、いくつも警備会社をクビになった彼である。故に今回は気合が入っていた。今度こそ。
 そうして一回目の巡回を無事に終え直江恭一郎は宿直用の警備員室の扉を開いた。
 中には誰もいない筈なのに。
 部屋の中は明るかった。まるで部屋の中が見えなくなるほど。
 発光弾か!? と思った瞬間、彼は反射的に目を閉じ腕で目を覆いながら全身の神経を尖らせていた。光に目が眩んでいる場合でもなければ、瞳孔が開いて光がおさまった後暗闇で何も見えず即座に動けないなんてのは警備員失格だろう。
 動くものの気配はない。
 光がおさまった感触に彼はゆっくり腕をおろして目を開けた。
 冷たい夜の風が頬を叩く。
 彼は屋根の上に立っていた。
 柿渋色の忍者装束に身を包み、まるで時代劇に出てくる忍者のように、彼は夜の町を月明かりだけをたよりに見下ろしていたのである。
 警備員室はどこへ消えたのか彼は町が見渡せるほどの高さの屋根にいた。ビルの屋上などではない。
 そして彼が見下ろしていたのは不夜城都市東京でもなかった。


【シオン・レ・ハイの場合】
 腹が減っていた。
 それもそんじょそこらの空腹とはレベルが違う。目の前に食べ物の幻影が見えてしまうくらいの減りっぷりであった。彼の記憶を辿る限り恐らくは3日ぐらい食べていないであろう。ダイエット中というわけではない。単純に金がないからだ。
 元を辿れば3日前に遡るのだが、辿ったところで今お金を持っていない事に変わりはない。
 彼は財布を開いた。中身の割りに高そうなブランド物の財布を使っている。いっそのこと、その財布を質屋にでも入れれば何かしら食べられるかもしれないのだが、そういうところに行き当たらないところが、彼の彼たるゆえんであったろう。彼はちょっぴり迂闊さんだったのだ。
 財布の中には11円。何度確認しても11円。それが全財産である。
 と、その時人ごみでごった返す街中で、行き交う人が彼の背にぶつかった。
「あぁ……」
 シオンが思わず声をあげる。ぶつかった拍子に財布の中から貴重な10円玉が1枚ころころと転がってしまったからだ。
 彼は慌てて10円玉を追いかけた。後もう少しで手が届く。
 その時だった。
 突然10円玉が消えてしまったのである。
 彼は驚愕に我が目を疑った。世界が白く光に霞む。誰もが思わず目を閉じたくなるほどの光に、しかし彼はこれ以上ないくらい目を見開いて10円玉を捜していた。だが残念ながら一向に10円玉を捉える事は出来なかった。
 気付くと街中を歩いていた筈の彼は屋内にいた。


【紫桔梗・しずめの場合】
 天下無敵の迷子がハーレーを肩に担いで走っていた。
 何故走っているのかは本人すらもうわからなくなっていたが、彼がハーレーを担いでいる理由だけは明白だった。ハーレーに乗るより走った方が速いからである。
 白髪、白髭のパワフルじぃさんの名は紫桔梗しずめという。当年とって68歳。何とも元気なおじいさんであった。その上はた迷惑にも物を壊す事に長けているからタチが悪い。軍隊アリは通った後に何も残さないというが、彼の通った後には瓦礫の山が連なる。果たしてどちらがマシであろう。
 とにもかくにも彼はハーレーを肩に担いでビルの屋上を走っていた。何ゆえそんな事をしているのかは最早神さえ知らないだろう。
 そして猛スピードで走っているものは急には止まれないのが世の道理であった。
 彼は屋上のきざはしから正に天国への第一歩を踏み出してしまったのである。もちろん、普通の人間なら確実に天国への第一歩も、100回殺してもくたばりそうにないじじぃだから、実際に天国に向かうような事はありえない。――憎まれっ子世に憚るとはよく言ったものだ。
 その時だった。
 彼は天国にも地獄にも片足を突っ込まなかったが、別の世界へ片足を突っ込んでいた。
 強い光に包まれたその直後、空を舞ってた筈の彼は小屋の中に突っ立っていた。
 担いでいた筈のハーレーが馬に変わっている。
 デストロイヤーしずめもさすがにちょっとばかりきょとんとしてしまった。





 その時誰もが同じ言葉を口にした。
「ここは……?」





 ■Welcome to Edo■


「やーい! こいつキリシタンだぞー!」
「あんまり近づくと呪われるぞー!!」
「やーい! 逃げろー! 逃げろー!」
 同じ寺子屋の子供達に冷やかされながら、みなもは寺子屋から行くあてもない道を足早に歩いていた。
 キリシタンの踏み絵を躊躇ったのがよくなったのか。別段キリシタンというわけでもなかったが、性格上踏めなかったのである。それで子ども達が面白がってみなもを追いかけてきたのだ。それでも小石やごみなんかを投げつけてこないだけマシかもしれない。
「やーい、悔しかったらこれ踏んでみやがれー!」
 1人の男の子が手に持っていた紙切れをひらひらと振ってみせた。神であろうと人であろうと自分はそれを足下に出来るほど偉くはない。みなもは俯いたまま小川を渡る橋の袂を横切った。
 と、その時。
「じゃぁ、俺が踏んでやる」
 そう言って、紙を振っていた子どもの手首を掴むと、でっち姿のしかも髪型は今風というか東京風の少年が、子どもから紙を取りあげ下に置いて踏み付けた。
「あっ……」
 思わずみなもが止めに入る暇もない。
「何しやがんだ!」
 子供が怒り出した。でっち姿の少年は遥かに子供達より年長に見えたが、子供達は数に頼んで少年を取り囲む。一番大きな子どもが少年にタックルを仕掛けた。
 少年はそれを避けようともせず、受け止めて相撲のように払ってみせる。もう1人が横合いから突っ込んできたのには、軽々とかわしてみせた。
 更にもう1人が殴りかかってくるのを、大きく後退して避ける。着地した先は草むらだった。
 湿った草に足が滑る。
「わっ!? わぁ……わぁ……」
 彼は両手をぶんぶん振り回したが、それは虚しく空をかくだけだった。
「あっ……」
 とみなもが声をかけた時には、少年は川に落ちた後だった。



 ▽▽▽



「大丈夫ですか?」
 何とか川から這い上がって人心地つくと子供達にいじめられていた女の子が心配そうに穂積の顔を覗き込んだ。
 子供達はどこかへ逃げてしまったらしい。彼女を助けられた事に満足して穂積は破顔した。
 珊瑚色の鹿の子の着物に青い髪がこれまた綺麗に映えた可愛い女の子だった。着物姿だったし、こんな場所だったのでまさかとは思っていたがそれが確信に変わった瞬間である。彼女もそうだったのだろう。
「良かった。1人でどうしようかと思ってたんです」
 みなもが心底ホッとしたように言った。
 互いに突然知らない世界に迷い込んでしまったのだ。穂積も頷いた。
 穂積は自分の環境適応能力に多少の自信があったが、江戸の世界に彼女の髪の色は異質だろうし、それだけで好機の目を集めただろう事は想像に難くない。
「あの子たちは?」
 穂積が尋ねた。
「同じ寺子屋の……私が踏み絵を踏めなかったから……」
 それで穂積は納得した。さっき彼が踏んだのは踏み絵だったらしい。へのへのもへじみたいな子どもの落書きに見えたので全然気付かなかったが。この髪にこの目ならキリシタンと疑われてもしょうがないかもしれない。
 自分は黒髪、黒瞳でちょっと良かった、と穂積は内心肩をすくめた。
「どうしてここに?」
 みなもが尋ねた。
「大旦那さまに帳面を届けるように言付かったんだ」
 穂積が前掛けを絞りながら答える。
「へ?」
「ん?」
「い、いえ……」
 みなもが困惑げに俯いた。実のところ彼女は、どうしてこの世界に、と聞きたかったらしいが、穂積には全く伝わらなかったようである。
「あ、いいです」
 みなもは曖昧に手を振った。彼女自身聞かれたら答えられるようなものでもなかったからだが、そう言う事には全く無頓着な穂積はやっぱり気付いた風もなく絞った前掛けを伸ばして腰に巻いた。
 それから何事か気付いたようにはっと息を呑む。
「あ! 帳面がない!?」
 そう言って穂積は胸を探った。しかしそこに帳面の感触はない。胸の中に閉まっておいたはずの、旦那さまに届ける帳面がないのだ。
「うわ、やっべ! 川の中に落としたかな」
 と川の方を覗き込んだ彼の目の前に、捜していた帳面が降って来る。
「はい、これでしょ」
「あっ……」
 帳面を差し出した人物にみなもが小さく声をあげた。
「あ!」
 穂積が目的のものを見つけてほっとしたように振り返る。
「ありがとうございます。助かり……あぁ!?」
「橋の上に落ちてたわよ、穂積君」
「エマさん!」
 穂積の前にシュラインが立っていた。



 ▽▽▽



「あんた達もここに来てたなんてね」
 シュラインはしみじみと言った。
 最初は途方もないように思えたが、こうして同じ境遇の人間を見ると解決の糸口はまだ何にも見つかってはいなかったがホッと出来た。
 彼女の右に穂積、左にみなもが並んで歩き出す。
 穂積がこれから吉原にある小町屋という茶店に大旦那さんに帳面を届けに行くというので、皆で行く事にしたのだ。
 みなももシュラインも特に行くあてがあったわけではない。それに、まずは状況把握と、ここがどこなのか見極める必要があったからだ。幸い、穂積の話だとその大旦那と呼ばれる人物は銀色の長い髪に透き通るような白い肌の男だという。つまりは、自分たちのような東京の人間である可能性が高いのだ。
 もしかした元の世界に戻る為の鍵が見つかるかもしれない。
「しかし、変な世界よね。江戸時代なのに私達が普通に溶け込んでる」
 シュラインは大八車や町人商人の行き交う町並みを見やりながら言った。確かに別段彼らを振り返ったり好奇の目を向けるような者はない。それは気楽ではあったが、ある種異様にも感じられた。
「そういえばそうですよね。私もキリシタンを疑われたりしましたけど、普通はこの髪型や色にもっと驚いてもいい筈なのに」
 髪を自由自在に染め、カラーコンタクトで目の色を簡単に変えられるようになって久しい東京とは違うのだ。奇異の目を向けられたっておかしくない筈である。
 しかしそんな事で騒ぐ者は誰もいなかった。恐らくあの時みなもが踏み絵を踏んでいれば、子供達に追いかけられたりする事もなく何事もなかったように過ぎていたかもしれない。
 ここは確かに江戸のようだったが、江戸時代ではないのかもしれない。
 東京なのか。しかし映画などのセットでもないだろう、でなければキリシタン狩りなどないのだ。
 果たしてここは一体どこなのか。
 けれど彼らに不安はなくなっていた。





 ■Intersection■


 梅にお茶を頼まれた千鳥が盆を持って庭のほうから縁側に出ると、そこには遊女の椛の他にもう1人女性がきざはしに座っていた。妓音である。
 不安そうに見上げる椛の先で、妓音がうーんと首をひねっていた。
 まさか椛以外にも人がいるとは思ってなかった千鳥だったが、江戸時代に東京風の髪型の女を見つけて、自分と同類かと妙に納得し、声をかけた。
「どうしたんですか?」
 気さくに声をかけ、少しだけ腫らした目の椛にお茶を出してやる。梅が言ってたほど取り乱した様子がないのは一緒にいる妓音のおかげだろうか。
「なんや、えぇ方法あらへんやろかぁ思て」
 妓音が言った。
「方法?」
 千鳥が首を傾げる。
「うちの禿の楓はん、いんなってしもぅたん」
 椛が気鬱に俯いた。手毬を寂しそうに抱いている。楓のものなのだろう。それでお茶を頼まれたのかと千鳥は得心がいったように頷いた。
「それなら私も協力しますよ。これでも占いは得意なんです」
 笑って千鳥は椛の持っている手毬に手を翳した。しかし先刻同様ノイズのようなものがまじってうまく読み取れない。
 微かに過ぎるそれに彼は誘われるように勝手口の方を振り返っていた。
 そこに立っていた女と目が合う。
 赤朽葉に花筏の文様の小袖を着た女が千鳥に目を見開いた。
「あんたはん……」
 呟いたのは妓音だ。
「どうしてここに?」
 見知った顔に誰もが顔を見合わせた。
 勝手口に立っていたのは、シュラインと、それから穂積とみなもだったのだ。



 ▽▽▽



「あぁ、お唄のせんせはん?」
 椛がシュラインの手にしている三味線を見て言った。
「え? あぁ……はい」
 シュラインは何とも曖昧に頷いた。
「そちらはんはお弟子さんやろか?」
 椛がみなもを見やる。
 みなもはシュラインと顔を見合わせて、それから椛を振り返ると「はい」と答えた。そういう事にしておこう。
「あ、俺は大旦那さんの使いを頼まれたでっちです」
 穂積がまだ乾いていない頭を掻きながら頭を下げた。それに椛が手ぬぐいを差し出す。
「大和屋はんやろか?」
「いや、相手のほうです」
 穂積は恐縮しつつ手ぬぐいを借りた。
 椛に近寄ると花のような匂いがした。香か匂い袋か、抜けた衣文に白いうなじが見えて、純情少年は顔を赤らめる。
「あぁ、角屋はんとこか」
「は、はい」
 穂積は目のやり場に困ったように頭を下げた。
「あ、せんせはん。そのお目目」
「え?」
 椛がシュラインの青い目に気付いたように言った。
「うちの梅はんはキリシタンにやかましいお人やし、これ踏んどくれやす」
 そう言って椛は傍らにあった紙切れをシュラインに差し出した。
 先ほど妓音に踏ませた踏み絵である。
「…………」
 みなもが不安げにシュラインの着物の袖を引っ張った。シュラインは「大丈夫」とみなもの肩を叩いて草履を脱ぐと心の中で絵を描いた絵師さんにごめんなさいと呟いてそれを踏んだ。
 椛がそれに安堵したように紙をしまう。
「え? あれ?」
 当然、次はみなもにも踏ませようとするのだろうと思っていたシュラインはあてがはずれて拍子抜けしたように椛を見返した。
 恐らくは同じ気持ちだったろう、身構えていた千鳥も首を傾げている。彼もまだ絵を踏んではいないのだ。
 しかし椛は別段、他の人間に踏ませる素振りはない。
「どないかしはりました?」
「いえ、私はいいんですか?」
 千鳥が尋ねた。
「何をどす?」
「踏み絵……」
「あぁ、おひとり1度きりのしきたりどす」
 答えた椛に千鳥は何とも腑に落ちない顔で「はぁ……」と引き下がった。
 踏み絵が1人1度のしきたりで、それに踏んだ踏んでないは関係ないのだとしたら、確かに千鳥もみなもも一度はその洗礼を受けたことになる。
 千鳥は知らなかったが、みなもは寺子屋で受けたのだ。しかしそれなら尚のこと、椛はどうやってみなものそれを知りえたのだろう。千鳥は先に梅と会っているので想像できただろうが、みなもはそうはいかない筈だ。遊里から出ることのない遊女が、何ゆえ知りえたのだろうか。
 だが、恐らくは聞いてもその明確な答えは聞けまい。椛の笑顔を見ているとそんな気がした。
 何ともおかしな世界は、未だ謎に包まれていた。



 ▽▽▽



「つまり、楓ちゃんは手毬を付いている途中にいなくなったのね」
 シュラインが腕を組みながら要点をまとめるように言った。
 椛が「はい」と頷く。
「冷たい風ってのが気になるわね。この時代に氷屋なんてあったかしら?」
 とはいえ一見ここは江戸時代のようにも見えるが、いわゆる江戸時代ではなかった。少なくともタイムスリップしてきたのではないのだ。
 まるでここは異世界のように思えた。
 江戸時代のような異世界。
「ここは現実だけど現実ではない世界のような気がします」
 全ての事象を見通す力を持つ千鳥である。しかしもしこれが、事象として存在していない、現実でないなら見通す事は出来ないだろう。
 だが夢というにはあまりにリアルだ。
 そして垣間見えるものもある。この世界は一体何なのか。
「閉鎖空間っぽいのに開放的よね」
 シュラインが呟いた。
「そういえば俺ここに来る途中、壁にぶつかったんだ」
 ふと思い出したように穂積が言った。
「壁?」
 千鳥が首を傾げる。彼はまだこの茶店から外へは出たことがないのだ。
「うん。向こうから俺にそっくりな奴が来るなーとか思って歩いてたら、俺でさ。3Dミラーになってた」
「あ、それやったらうちも見た。うちによぅ似た人が歩いてくるなー思てん」
 妓音が言った。江戸の町を歩いている時のことだ。
「それなら私も見たかもしれません。この世界に青い髪なんてそうはいないですもんね」
 みなももその時の事を思い出しながら言った。通りの向こうにチラと見かけたあれは、そうだったのかもしれない。子どもらに追いかけられていたので、一瞬の事だったが。
「うん。俺ちゃんと触って確認したもん」
 穂積が自慢げに胸を張った。
「という事は、ここは屋外のようであって屋内なんでしょうか」
「…………」
「だとしたら、真実に一番近いところにいるのは貴女かもしれませんね」
 千鳥がシュラインを見ながら言った。
「え?」
 シュラインが驚いたように千鳥を見返す。
「私の占いはよく当たるんです」



 ▽▽▽



「おや? そういえば妓音さんは?」
 千鳥がふと気付いたように首を傾げた。先程まですぐ傍にいたはずであるが、突然見当たらなくなってしまったのだ。その場にいたシュラインも穂積もみなもも椛も一様に辺りを見回した。
 さほど広くない庭先には5人以外の人影はなく、ただ桜の木が花を咲かせているだけだった。
 ただ、心なしか冷たい風が吹いたような気がした。
 それが気のせいだったのか、はたまた別の理由があったのか、勝手口の方から声が聞こえてきた。
 今までどこに行ってたのやら、この茶店の遣り手婆――主人の代わりに遊女を仕切って店を切り盛りする老婆――の梅が、何やら引きずって帰って来た。
「すぐ物を壊すんだ。ちょっと説教たれたって」
 そう言いながら、彼女は庭先にそれを置いた。
 その場にいた者達が半ば唖然とそれを見下ろす。
「い……いけませんよ、そんなぞんざいに。相手は将軍様なんですよ」
 梅の後ろにくっついて来ていた2人の町人姿の男の内、藍染の絣の着物を着、総髪に髪を高いところで結んだ方の男が不安と恐怖をないまぜにした面持ちで言った。
「将軍なもんか。いいとこどっかの貧乏旗本の三男坊ってとこだろ」
 梅が吐き捨てる。
「あんた達……」
 町人体とはいえ見知った顔の2人にシュラインは呆気にとられたように呟いた。
「や、これは皆さん。どうしたんですか?」
 シュラインの声に気付いた絣の男――シオンが振り返って居並ぶ見知った顔に目を丸くする。
「あんた達も来てたのね」
 溜息混じりに笑みを零したシュラインに、シオンは「はい」と元気よく答え、もう1人の縞の着物を着た町人体――恭一郎はそっぽを向いて「あぁ」と答えた。
 ぶっきらぼうで不機嫌にも見えるが、別に恭一郎は怒ってるわけではない。単純に女性が苦手なので赤面しないように気張っているのだ。
「これから行方不明になった椛さんの禿の楓さんをみんなで捜しに行くところなんだけど手伝ってくれるかしら」
 シュラインが尋ねた。
「や、それは大変ですね。そういう事ならお任せください。私が楓さんの似顔絵を描いて町で配りましょう。これでも似顔絵師なんですよ」
 シオンが胸をドンと叩いた。
「おぉきにえぇ」
 椛が頭を下げる。たおやかに頭を下げる遊女の椛に、シオンの顔が珍しく引き締まった。これでも自称紳士である。淑女の前ではあくまでダンディーを貫きたいらしい。たぶん。
「頑張ります」
 と言ったシオンの首に椛がそっと腕をまわして、シオンの頬に口付けた。香か匂い袋か花のような薫りに抜いた衣文から覗く白いうなじが何とも艶かしい。
 ぷしゅーっと何かが抜ける音がしてシオンはその場に腰砕けに座り込んだ。
 次の瞬間、椛の視線が恭一郎をとらえていた。
 恭一郎は半ば気圧されるように一歩後退って、そっぽを向いた。
 何度も言うが女には超がつくほど苦手な彼である。とにかく慣れていないのだ。シオンを目の当たりにして彼はうろたえていた。無意識に生唾を飲み込む。視線が痛い。期待感に胸を膨らませたような彼女の視線に耐え切れず、彼は漸うぶっきらぼうに言った。
「てっ…手伝うよ」
「ほんま?」
 瞬間、ぱぁっと椛の顔が明るくなった。
 恭一郎はぎょっとして更に後退る。
「おぉきにえぇ」
 椛が嬉しそうに恭一郎に抱き付いた。
「うっ……」
 その瞬間、恭一郎は反射的に椛を突き飛ばして口元を押さえていた。
 呆然としている椛に慌てたように「すまない」と頭を下げたが動揺の為か後退った自分の足につまづいて転ぶ。
 よく見ると、彼が押さえているのは口元をではなく鼻だった。
 そこに赤いものを見つけて穂積が駆け寄る。
「はい、ちり紙」
「あ……ありがとう」
「あっはっは。今時、こんな初心な人が……」
 シュラインは可笑しそうに腹を抱えた。それでも取り繕うように笑いを堪えてみせたが、あまり成功してるようには見えない。
「あんまり言ったら悪いですよ」
 みなもがシュラインの袖を引っ張ったが、シュラインはどうにも止まらなくなってしまったらしい。
 恭一郎は耳まで真っ赤にして鼻をちり紙で押さえながら俯いた。
「……すみません」
 聞き取れるかとれないかの小さな声でボソリと呟いた恭一郎に椛が微笑んだ。
「うちの方こそ、堪忍えぇ」
 そう言って両手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げる椛に、恭一郎の血液は更に頭に集中した。
「あぁ、もう、ちり紙、ちり紙」
 穂積が抱えるぐらいのちり紙を持ってくると、恭一郎の鼻に押し付ける。
 ちなみに穂積が都合よくちり紙の束を持っていたのにはわけがある。彼も同じ試練をつい先刻受けたばかりだったからであった。
「あ、あんたはんもそのお目目」
 椛が恭一郎の顔を覗き込もうとする。恭一郎は這う這うの体で顔を覆って言った。
「もう勘弁して下さい」
「おひとり1度きりのしきたりどす」
 椛がそう言って倒れている恭一郎の足の裏に踏み絵の紙切れを押し付けた。
「な?」
 椛の満面の笑顔に恭一郎は再び鼻血を噴出して極度の貧血に意識を手放した。
 何とも和やかな空間である。
 しかし、それを打ち破ろうとするものがあった。
 鏡に激突して昏倒していたしずめが目を覚ましたのである。
「ひぃっっ!」
 シオンが喉の奥を鳴らして平伏した。
「なんじゃ、ここはぁー!!」
 しずめの大音声が響き渡る。
「うるさい! たわけがっ!!」
 梅の煙管が飛んだ。
「こしゃくなばばぁ!!」
 しずめが煙管を打ち払う。
「ひっひぇぇぇ〜〜〜!!
 シオンが梅の暴挙に再び悲鳴をあげた。
 他の者達は呆気に取られてそれを見守っている。
「お主、その目! さてはキリシタンだな! えぇい、これを踏めぇ!」
 梅が懐から紙切れを取り出した。キリシタン狩りの踏み絵だ。
「えぇい! 誰が踏むか!!」
 命令されたり指示されたりするのが大嫌いなしずめが怒り狂って梅を踏みつけようとする。
 それを梅は手にしていた煙管で止めてみせた。
 思わず皆絶句する。
 誰もが踏みつけられた梅を想像したからだ。
 相手は老婆である。
 みなもが咄嗟に助けに入ろうと駆け出したが、まるでそんな事は無用であったか。
 しずめもさすがに老婆を踏み付けるのは気がとがめ力を抜いたのか、はたまたしずめの本気を梅が受け止めて見せただけなのか。思えばしずめをここまで引きずってきた腕力の持ち主である。
 2人はにらみ合った。
 まるでコブラ対マングースの戦いを見ているようだった。世の中にはどんな無頼漢にも天敵というものがあるのかもしれない。
 ただ1人、シオンだけが「ひぃ〜」と頭を下げていた。
 シュラインが3人を見ながら、ふと眩暈でも覚えたようによろめいて、額に手をやりながら呟いた。
「あら? 私には蛇と蛙と蛞が見えるんだけど……」
 その呟きを聞いていた者達は皆一様に口には出さなかったが心の中で呟いた。

 ――言いえて妙だ。





 ■Final stage■



 蛙に食べられそうになって立ちすくむ蛞。蛇に睨まれ動けなくなった蛙。さて、蛇は何ゆえ蛞を恐れたのだったか、三竦みについてぼんやり考えながら本を読んでいた汐耶は自分の肩を叩く手に気付いて煩わしげに本から顔をあげた。つい不機嫌に相手を睨んでしまうのは仕方がない。読書を邪魔されるのは大嫌いなのだ。
 しかし肩を叩いた相手が見覚えのある顔と、それとは別に違和感を感じて彼女は我に返った。
 シュラインが小袖を江戸風に着て笑みを向けている。
「読書中のところ悪いんだけど、協力してくれない?」
 尋ねた彼女に、何を、とは汐耶は聞かなかった。ただ、彼女もこの世界に来てたのか、と思っただけである。
 そも、汐耶がここに訪れたのは読書もあったが元の世界に戻る方法を捜すというのもあったからだ。ちょっぴり忘れていた。
 勿論、シュラインが協力を求めてきたのは後者である。
「あなたもね」
 シュラインは一心不乱に読書に勤しむセレスティにも声をかけた。
 セレスティが本を置いて我を取り戻したように向き直る。互いに特に説明はなかったが、それぞれに状況を把握したらしい。
「何かわかったのね?」
 汐耶が尋ねた。この世界のこと、或いは元の世界に戻るための鍵。
「えぇ。貴女達も見たでしょう? 東京上空に浮かんだ飛空挺」
 シュラインが言った。
「えぇ」
 少し前から突然現れた飛空挺は、セレスティにも心当たりがあったらしく頷いた。
「ここは、あの飛空挺……いいえ、時空艇の中らしいの」
「何ですって?」
 思わず汐耶は声をあげたが、言われてみれば思い当たる節がないわけではない。この世界は壁に囲まれていたのだ。
「この町の外、つまり操縦室がある筈なの。それを捜して欲しいのよ」
「ですが壁伝いに歩きましたけど、それらしい出入口はありませんでしたよ」
「そうなのよ。それで八方塞がり。でも操縦室を見つけてこの時空艇を操縦さえ出来れば、東京にも戻れるし、うまくすればここの本もいつでも読めるようになると思わない」
「そういう事なら」
「そういう事でしたら」
 シュラインの言葉にセレスティと汐耶がほぼ同時立ち上がった。
「宜しくお願いするわ。どうもここの人たちは外がある事を知らないみたいなのよね。不思議な世界だわ」
 シュラインが肩をすくめて言った。



 ▽▽▽



「この空は天井ですよ」
 この恭一郎の言葉で事態は1つの結論に達したともいえる。
 時間は少し前に遡った。
 楓失踪もさることながら、この世界の異様さは誰もが感じるところであったのだ。但し、かなりの個人差はあったが。
「空が屋根になってるなんて、まるでプラネタリウムみたいですねぇ」
 シオンが何ともお気楽に言ったその言葉は。その場にいた殆どの者達によって無視された。唯一興味をもったらしい椛が「プラネタリウムって何ですのん?」と尋ねるのに意気揚々と説明し始めたシオンを残して話しは先へ進められたのである。
「これは私の推測なんですが……」
 そう前置きして千鳥は、何度も意識のどこかに引っかかるそれを口にした。
「飛空挺……を見ませんでしたか?」
「あぁ、見た見た。なんか煙吹きながら落ちてきたやつ」
 穂積が言う。
「でも、雲にひっかかったみたいに止まったんですよね」
 みなももその時の事を思い出すように空を見上げながら言った。
「雲にひっかかるって時点でおかしいですが」
 恭一郎が、女性から距離を取ったところに1人立って言う。
 確かに雲にひっかかるのはおかしい。しかも、風に雲が流れていかないのだから、あれは厳密に言えば雲ではないのだろう。雲のようなものだ。
「友達が携帯電話で撮ろうとしてましたけど、ファインダー越しには見えないんですよね」
 みなもが言った。
「実際、全く見えてない奴もいたしな」
 穂積が相槌を打った。
「ここは、あの中ではないかと思うんです」
 千鳥が言った。
「え?」
 皆が千鳥に注目する。
「あの飛空挺は煙を噴き上げていた。つまり故障かなにかしていたわけですよね。ここは元来別の空間に存在するものであったが、何らかの形で私たちの現実に落っこちてきたのではないかと」
「…………」
「飛空挺。いや、もしかしたらここには流れる時間すらないのかもしれない。だから過去も未来も追えず、今だけが存在する。時空艇と呼ぶべきかもしれません」
 全ての事象を見通す事の出来る千鳥の、それが結論であった。その能力が完全に働いていないが為に、それはあくまでも推測の域を脱する事はなかったが、高確率の現実であるように思われた。
「もしそうだとするなら、あの冷たい風はもしかして……」
 シュラインが考えるように言葉を切った。
「えぇ、外から吹いたと考えるのが妥当ではないかと」
 千鳥が補足する。
「ここが、その時空艇の中の1つのフロアだとするなら、そうか。換気口ね!」
「ご明察」
 楓は、換気口からこのフロアの外へ落ちたのだ。
「どうやら妓音さんも一緒のようですね。2人とも元気そうですよ」
 何かを感じ取ったのか、千鳥が言った。楓を追う事は出来なかったが、妓音を追う事は出来たようである。それは妓音が千鳥と同じ世界の人間だったからだろう。


「では私は皆さんの為に食事や、お菓子でも作りながらここで待機しています。何かあったら連絡してください」
 楓、或いは妓音、町の外へ出る為の扉、それらを効率よく捜す為に、皆で分担して簡易地図を作る事にしたのだが、ここ小町屋の庭先はその本部兼屯所兼中継地となった。
 千鳥が中継役を務める。
 シュラインや恭一郎らが出て行った後で、ふと千鳥は穂積とみなもを呼び止めた。
「あ、作って欲しいものがあれば言ってください」
 食事はともかく、子どものおやつを聞いておきたかったようである。たぶん、帰ってきた楓の為だろう。
「あ、俺、冷水食べてみたい。冷水」
 穂積が手をあげた。
「ひやみず?」
 心当たりがなくて千鳥が首を傾げる。
「江戸の冷水には白玉が入ってるって聞いたんだ」
 ちなみに京の冷水には白玉が入っていない。という穂積の知識は新選組の某マンガによるところが大きい。
「そんなものがあるのですか。それはちょっと面白そうですね。試してみましょう」
「やった!」
「みなもさんは?」
「あ、私は……楓さんの好きだったものを作ってあげてください。お腹をすかせているかもしれないので。私は同じものでいいです。あ、吹き寄せなんかがあれば持っていけるので楓さんに持っていってあげたいですが……」
「それやったら、うちの花ぼろ持ってったって」
 椛が袖から花ぼろの入った袋を取り出してみなもに差し出した。
「はい」
 みなもはそれを受け取ると大事に胸にしまった。
 そうしてみなもと穂積も小町屋を出た。


 シオンは椛の言う通りに楓の似顔絵を描いた。特徴は掴んでいたが何とも微妙な絵である。しかし椛に褒められて彼は意気揚々とコピー機を探しに出かけた。
 しかしこの時代に、というかこの世界にそんなものがあるわけもない。仕方なく瓦版を刷る道具を見つけたが、使い方がわからず四苦八苦する事になる。
 恭一郎は出血多量で軽い貧血を起こしながら、3Dミラーを叩いて進み、音の変わるところを探し歩いた。
 そしてしずめはかくれんぼと勘違いしたらしく、意気揚々と楓捜しに出て行ったが、戸を横に開くことが出来ず、全部押してまかり通った為、程なくして梅に連行された。連行されて素直に連行されるしずめではなかったが梅はとことん彼の天敵たったようである。



 ▽▽▽



 その頃、楓と妓音は謎の通路をうろうろしていた。
「おば……おねぇはん。大丈夫なん?」
 疲れたように楓が尋ねた。不安というよりは不審に近いそれで妓音を見上げている。
「大丈夫、大丈夫。うちに任せとき」
 とは答えたものの、かれこれ歩き回って小半時は経つだろう、妓音にも疲労のそれが浮かんでいた。
 同じような廊下をぐるぐる回っているのだ。せめてドアでもあればいいのに、何故かそういったものが1つもない。一体どうなっているのか。
 自分に不利益になればなるほど状況を楽しむ妓音だったが、さすがに真新しいものが何もなく、同じ景色がひたすら続くドア1つない廊下を歩き続けるだけでは楽しめよう筈もなかった。退屈は人を腐らせる。
 それとも、これは自分への挑戦なのだろうか。
 ならば、うけてたたないわけにはいかない。
「えぇい、なんかあれへんのかぁ!」
 妓音は半分キレながら鉄扇で壁に八つ当たりをしてみせた。
 すると突然壁がなくなった。
 まるで鉄扇の攻撃をかわすように壁が口を開けたのである。
 おかげで勢いあまった妓音は壁の中へと転がりこんだ。
「え?」
「あ、おばはん!?」
 楓が慌てて後を追う。
 壁は2人を飲み込んでその口を閉じた。
「…………」
「あれ? ここ?」
 見慣れた、というには妓音には語弊がある。しかしそこは確かにあの江戸の町だったのだ。
「よかった。帰ってこれた。おおきにな、おば……おねぇはん」
 そこに倒れている妓音に楓が言った。
「今、どさくさに紛れて何や言わへんやった?」
 顔をあげながら妓音が楓を睨む。
「気のせいや」
 楓がシレッと答えたのに、妓音は何とも複雑な顔をして上体を起こした。
 楓は辺りを見回している。
「そやけど、お里はどこやろぉ?」
「まぁ、歩いとったら着けるんちゃう?」
 妓音は裾の埃を払いながら立ち上がった。と、突然ドーンと大きな音がして空に光がまたたいた。
「あ、花火や」
 楓が指を差す。
「ほんまや、こんな真昼間に粋やなぁ」
 妓音も花火を見上げた。
「うん」
「花火は下から見てもまぁるいんやて。見に行こか」
「うん!」
 2人は連れ立って歩き出した。

 それから程なくしてみなもと出会う。
「あ、妓音さん」
 先に2人を見つけたみなもが小走りに駆けてきた。
「あぁ、みなもはん。良かったわぁ。うち方向感覚だけはないから戻られへんかと思た」
 妓音が安堵の笑顔を向けるのに、みなもも「良かったです」と笑みを返した。
「って事は、貴女が楓ちゃんね」
 みなもはしゃがんで楓と同じ視線まで頭を下げた。
「おねぇはんは?」
 楓がみなもに怪訝そうに尋ねる。
「私はみなも。はい。これ花ぼろ。椛さんから預かってきたの。食べる?」
 そう言ってみなもは胸に仕舞っておいた花ぼろの袋を取り出し楓に手渡した。
「椛ねぇはんから? おおきに」
 楓が満面の笑顔で花ぼろを受け取り袋を開ける。
「うん」
「うちも欲しいなぁ……」
 楓が口の中に花ぼろをほうりこむのを見やって羨ましそうに妓音が呟いた。
「妓音さんも一緒に食べましょう」
 みなもが言って、3人で花ぼろを頬張りながら花火へと歩き出した。



 ▽▽▽



 同じ頃、江戸城にて――。
「あら、花火だわ」
 それに気付いた汐耶が言った。
「あの花火を目指せば椛さんの茶店です」
 シュラインが言う。
「この江戸で迷子になったらあの花火を目指せばいいというわけですか」
 セレスティが言った。



 か え で み つ か っ た



 そんな花火を打ち上げたのはしずめだった。



 ▽▽▽



「楓はん!」
「椛ねぇはん!!」
 2人は抱きあって喜んだ。
 皆、2人の再会に喜んだ。
 まだ外に出る扉は見つかってないけれど、1度外へ出た妓音から、もっと詳しく話を聞けばいい。急ぐ必要はない。外がある事がはっきりしたのだから。
 今は、何はともあれお祝いにと千鳥が作った食事を振舞った。
 皆それに舌鼓を打つ。

 ひとつ ひとこえ ひばりなき
 ふたつ ふたばの 古井戸にゃ
 みっつ みなもに 手が伸びる

 シュラインとみなもが、楓に手毬歌を教えてもらいながら桜の木の下で手毬をついていた。

 よっつ 黄泉へと 手まねいて
 いつつ いくとせ まいりゃんせ

「皆はん、ほんにおおきにえぇ」
 椛が深々と頭を下げた。
 それに倣って楓も鞠を付く手を休めて頭を下げた。
 梅も頭を下げた。

 その瞬間、世界が白く光り輝いた。

 ここへ訪れた時と同じように――。



 いつつ いくとせ まいりゃんせ





 ■Ending■


【汐耶の場合】
 そこは見慣れた図書館だった。
 休み明けに返却された大量の本を抱えている。
「綾和泉……さん?」
 同僚の声に汐耶は振り返り、自分の姿に仰け反った。
 図書館に訪れていた者達も皆、一様に汐耶に驚愕の視線を向けている。そりゃそうだ。一瞬前まで彼女はパンツスーツ姿だったのである。それが今は何と艶やかな花魁姿ではないか。早着替えでもこうはいくまいという素早さだった。
「きっ……着替えてきます!」
 汐耶は顔を真っ赤にして、持っていた本を手近の机の上に置くと、裾を引っつかんで走り出していた。
 重たい花魁装束も一日着て歩けばそれなりに慣れてくるものらしい。
 あれは夢ではなかったのか、とか、元の世界に戻ってこれた、とか、どうして戻ってこれたのか、とか、そんな事は今の彼女にはどうでもいい話であった。
「な……なんなのよ。私の服はどこいったの!?」


【セレスティの場合】
 ゆっくりと瞼を開くといつもの天井が見えた。
 やっぱりあれは夢だったのかと思う。面白い夢を見た。
 そうしてベッドの上に上体を起こしたセレスティは「おや?」と首を傾げた。
 寝巻きを着て寝ていた筈なのに、江戸町人の長羽織姿だったからだ。
「どうやら夢ではなかったようですね」
 しかし半日は過ごしたであろうのに、時間が全くうつろった様子はない。なるほど時間と空間を渡る飛空挺――時空艇のわざなのだろう。
 セレスティはベッドから出ると窓辺へ歩いて空を見上げた。
 くだんの時空艇はまだそこにある。少しだけホッとした。
 あそこには、まだ読んでいない本が山とあるのだ。
「また、行ってみたいものですね」


【千鳥の場合】
 いつもの東京の街だった。
 千鳥は暫く暖簾を持ったままそこに佇んでいた。ここを一歩出ようとした時から時間が過ぎた様子はない。
 一瞬夢だったかとも思ったが、着物の柄が変わっていた。それだけがあれが現実だった事を物語ってるようにも見えた。
 逢う魔が刻に黄昏色の空には、時空艇が相変わらず浮かんでいた。
「まぁ、このままでもいいですね」
 千鳥は独りごちて暖簾を出すと店を開けた。
 さて、おしながきに白玉の入った冷水が加わったかどうかは、山海亭に行ってみればわかるだろう。


【妓音の場合】
 竹下通りの雑踏は相変わらずで、そこに妓音はぼんやり立っていた。
 朱色の小袖に粋に半衿を折り返している。
 和服姿でもここでは大して振り返る者もない。
 妓音は軽やかな足取りで歩き出した。
「なんや、おかしな事に巻き込まれたなぁ」
 それでもちょっと楽しかった。
「あ、たこ焼きも焼きそばも皆置いてきてしもたんかぁ」
 ちょっと惜しい事をしたかなと思いつつ、見上げた空にはまだ時空艇が雲にひっかかっていた。
 それだけで、また行けるかもしれない。
「せやけどうちのワンピースどないなったんやろ。お気に入りやったのに」


【穂積の場合】
 歴史の授業の真っ只中だった。
「葉室……?」
 歴史の担当教諭が、教卓の前で唖然としながら呟いた。
 クラス中の生徒がそれで一斉に穂積を振り返る。
 穂積は教科書を握ったまま、皆の視線に自分を振り返った。
 丁稚のかっこをしている。
 そう認識した瞬間、教室を揺るがす大爆笑の渦に囲まれていた。
「ひぇ〜。俺の学ラン〜!!」


【シュラインの場合】
 冷蔵庫の前に立っていた。
 牛乳パックが傍らに落ちている。
 どうやら元の世界に戻ってきたらしいと思った瞬間、台所の入口の方から声がかかった。
「お? 着物とはまた色っぽいな」
 その声に息が詰まる。
 振り返るとそこには、この興信所の所長――草間武彦が立っていた。
「なっ……」
 思わず赤面してしまうシュラインに草間が近寄る。
「和服姿なんて珍しい。どういった風の吹き回しだい?」
 シュラインは困惑げに俯いた。顔が赤らむのはいかんともし難い。江戸風は衣文を抜いて着るのが常だ。首筋が涼やかで面映い。
 さて、事の顛末をどこから話したものだろう。


【みなもの場合】
 家から100mほど手前の角に立っていた。
 すぐ先には別れた友達の背中が見える。
 どうやら元の世界に戻ってこられたらしい、時間も違わずに。
 それともあれは一時の夢だったのか。
 そんな風に思って踵を返した。
 そこには履き慣れた靴の感触はない。
「!?」
 驚いて自分を見る。珊瑚色の鹿の子の着物に目を丸くした。
「や……やだ……」
 道ゆく人の視線に気付いてみなもは一目散に自分の家へ駆け込んだ。
「ちょ……私の制服は?」


【恭一郎の場合】
 警備員室の前に立っていた。
 左手にはドアノブ、右手には懐中電灯を握っている。
 けれど、警備員用に支給された制服は着ていなかった。代わりに柿渋色の忍者装束を着ていた。
 腰には警棒ではなく、くないがぶら下がっている。
「…………」
 あれは確かに夢ではなかった。痛かったし、冷たかったし、今も心なしか貧血気味な気がする。
 それが、鼻血の出しすぎによるものなのか、はたまた別の理由があるのか。
 恭一郎は蒼褪めた顔でぼんやり呟いた。
「もしかして、制服なくしたらクビかな……?」


【シオンとしずめの場合】
 10円玉を追いかけていた。
 下を向いていたシオンはそのまま誰かにぶつかってもんどりうつ。
「そんなかっこで何してるの?」
 と声をかけられ、シオンが顔をあげるとそこには月刊アトラス編集部編集長――碇麗香が立っていた。
「あ、麗香さん!? 実はですね、私、あそこに行ってたんですよ」
 シオンが空を指差した。
「あそこ?」
 麗香がシオンの指差す方を振り返る。
「あそこって、まさかあの飛空挺に!?」
「はい!」
「あれ、絶対いいネタなのに写真にも写らないし困ってたのよ。ちょっと話聞かせなさい」
「はい。いいですよ」
 シオンが答えた時だった。
「ひっ!?」
 何事かを察知してシオンが小さく悲鳴を上げた瞬間、空から慌てん坊将軍が降ってきた。







 時間と空間の狭間をうつろう謎の時空艇−江戸。
 彼らの行く先はわからない。
 彼らの目的もわからない。
 彼らの存在理由どころか存在価値さえわからない。
 たが、彼らは時間を越え、空間をも越え放浪する。
 その時空艇−江戸が突如、東京の上空に出現し、何の理由もなく東京シティと同調した。
 たまたま偶然そこを歩いていた一部の東京人を、何の脈絡もなく時空艇−江戸に引きずりこんで……。
 戸惑う東京人の困惑などおかまいなし。
 しかし案ずることなかれ。
 江戸に召喚された東京人は、住人達の『お願い』を完遂すれば、己が呼び出された時間と空間を違う事無く、必ずや元の世界に返してもらえるのだから。
 但し、そこに一つ問題があるとすれば……。

 ――服が元に戻らない事ぐらいだろうか。







 ■大団円■





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1449/綾和泉・汐耶/女/23/都立図書館司書】
【4471/一色・千鳥/男/26/小料理屋主人】
【4621/紫桔梗・しずめ/男/69/迷子の迷子のお爺さん?】
【5151/繰唐・妓音/女/27/人畜有害な遊び人】
【4188/葉室・穂積/男/17/高校生】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【5228/直江・恭一郎/男/27/元御庭番】
【3356/シオン・レ・ハイ/男/42/びんぼーにん +α】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1252/海原・みなも/女/13/中学生】


異界−江戸艇
【NPC/江戸屋・楓/女/9/子役】
【NPC/江戸屋・椛/女/20/若い女役】
【NPC/江戸屋・梅/女/52/老婆役】


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■         ライター通信          ■
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。

【構成】
 文字数などの関係で全章を載せていません。
 機会があれば他の皆さんの行動を追いかけてみるのもいいかもしれません。
 ■Opening 共通
 ■Where is... 共通
 ■Welcome to Edo(汐+セ/千+妓/穂+シュ+み/恭+シ+し)
 ■Intersection(汐+セ/妓/千+穂+シュ+み/恭+シ+し)
 ■Final stage 共通
 ■Ending 共通
 (敬称略)

 次回、江戸艇ご案内は9月頃を予定しております。
 機会があえば、またお会い出来るのを楽しみにしております。

 尚、今回江戸艇に参加された記念に、
 江戸艇での集合写真などを受け付けております。
 現像は江戸艇−写真館にて行っておりますので、
 是非、ご参加ください。

 時空艇−江戸 〜写真館〜 さちILさま
 異界ピンナップ:6月12日12:00 OPEN予定。
 ※江戸装束姿になります。
 ※記念に時空艇江戸写真館のロゴが入ります。