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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


調査File11 −口減らし−
●始まり
 子供達が遊んでいる。山の上の開けたいっかく。
 小さな公園のようになっているその片隅に、注連縄のようなものがまかれたぶかっこうな岩がおかれ、その前にしおれた花がそえられている。
 ボールのはねる音。大きくそれたそのボールは、岩にあたってはねかえった。
 岩にまいてある縄は、長い年月を経たせいか簡単にほどけ、岩は地面に寝ころんだ。
「なにやってるんだよー。はやくボールボール!」
 子供達はその岩の存在にすら気がつかず、ボールを持って走っていく。
『……なんであの子たちはあんなに元気なの?』
『あの、しろい食べ物はなに? あいす…くりーむ……?』
『食べたいなぁ……』
『食べたいな……お腹いっぱい、食べたいね……』
『うん、食べたい……』

「お子さんの様子が変、というのは?」
「最近やたら…食べるんです」
 圭吾に問われて、依頼人の代表である穂積由紀恵(ほづみ・ゆきえ)はうつむきながら答えた。
「食べるのは良い事じゃないの?」
「ヒヨリは黙ってなさい。……食べ方が変、とかそういうのですか?」
「量が…半端じゃないんです。冷蔵庫にあればあるだけ食べてしまって。その上、これはなに? あれはなに? と昨日まで食べていたものを名前をきいてきたり」
「…周辺でなにかかわった事は?」
 圭吾の言葉に由紀恵は考え込むように鼻の下を数度こする。
「確か、山の公園に遊びに行ってからおかしくなりました」
 詳しくきけば、子供達が自転車で遊びにいける距離に山の開けた部分があり、そこが公園になっている、という。その隅には戦争時代口減らしで死んだ子供の慰霊碑のようなものがある、という話しだった。
「慰霊碑、ですか……。調べてみましょう」
 言って圭吾は事務所内を振り返り、重く頷いた。

●本文
「何かに憑かれてるなら、質問の口調など考えると子供のようね」
 草間に頼まれて事務所を訪れていたシュライン・エマは、聞いた以上協力しない訳にはいかないわね、と嘆息混じりに言った。
 その横ではいつもの和服姿の天薙撫子の姿もみえる。所用の帰り、世間話と事務所に寄る事が多い。今日もヒヨリ特製のお茶を飲んでいる時に依頼人が来、話の子細から気になり、シュラインの言葉に小さく頷いた。
「公園から帰ってきてからおかしい、という事は、その慰霊碑あたりになにかありそうですね」
 柔らかい口調でセレスティ・カーニンガムが言う。
 セレスティも撫子、シュライン同様事務所を訊ねてきて巻き込まれる形で協力してくれる事が多々あった。
「とりあえずお子様達を拝見させて頂いた方がよろしいですね」
 撫子の言葉に、由紀恵は深々と頭を下げた。

 集まったのは近所の集会所のような場所。
 8人ほどの子供が集まり、腕に食べ物を山ほど抱え、始終なにかを口にいれて動かしている。
 それを見ている母親達は沈痛な面持ちでうつむき、たまにちらとセレスティ達と子供達に視線を向けた。
 そして公園の方に確認しにいっていた撫子が戻ってきたのを確認してから、シュラインは口を開いた。
「これで全員ですか?」
 問われて由紀恵が代表して頷いた。
 それにシュラインも頷き、子供達を見回す。
「取り憑かれている、事には間違いないみたいですね」
「そうですね…小さな身体で必要以上の食事…早くなんとかしてさしあげないと、身体への負担が大きくなってしまいますね」
 慰霊碑を確認した限り、注連縄が切れていた為、そこから遊んでいた子供達にのりうつったのではないか、と撫子が呟く。
「…いったん、形代のようなものに取り憑いている魂をいれる事はできないかしら?」
「そうですね…でもきちんとお話をきいてさしあげた方がいいかもしれませんので、落ち着かせて、食事をやめるようでしたらこのままで……そうでない場合は一度形代にうつしましょう」
 霊視を行った撫子が言うと、寂しそうな眼差しでセレスティが子供達を心配する。それにシュラインが自分ではする事はできないが、この状況をなんとかしたい、と提案する。
 しかし一度話をききましょう、という撫子の言葉に、子供達だけを前に座らせ、目線をあわせるようにしながら声をかける。
「沢山……食べたいのね?」
 口火をきったシュラインに、子供が瞳を輝かせて大きく頷いた。
「うん! これもこれもこれも、食べた事ないの!! おねえちゃん、これなんて食べ物か知ってる?」
「これは…フライドポテトですね、油でじゃがいもをあげたものですよ」
「へー! おにいちゃん物知りなんだね!! じゃあじゃあ、こっちのは?」
 ひたすらに食べ続けながら、それでも関心があるのか矢継ぎ早に質問を繰り返す。
「あまり食べ過ぎると身体によくないですよ」
 困ったような口調で撫子が言うと、子供達は一度食べる事をやめて撫子を見る。
 しかしすぐにまた無心に食べ始める。
「まだ餓鬼化している訳ではないみたいですが……」
 撫子は嘆息しつつ、シュライン達を見た。
「私、少し調べたい事があるんだけど、席外していいかしら?」
「わたくしも、近隣の神社などで調べたい事があるんです」
「それなら私が様子を見ておきます。今のところ『食べる』事以外の害はないみたいですし、体内の水分を調整して食欲をおさえておきます」
 水に関するものなら全てを支配下に置く事ができるセレスティ。人間の身体に流れる水分、血液を支配する事など造作もない。
 それに安心してシュラインは立ち上がり、撫子もその後についた。

 シュラインがむかった先は地元の役所。
 口減らしで亡くなった子供達の身元がわかれば、と。
 それから公民館の調理室をかりて、慰霊碑に備える大量の料理も作る予定だった。
 市役所を訪れたシュラインだが、戦時中という事もあり、資料はほとんど焼けてしまって残っていない、という事だった。
 仕方ないので公民館の料理室があくまで、シュラインは周辺住民のお年寄りを訪ねる事にした。

 一方撫子は近くの神社へと訪れていた。
「天薙神社の撫子と申しますが……」
 迎えてくれたのは若い男性だったが、用件を告げると男性の父親らしき人が現れた。
 座敷に通されて、目の前に古びた冊子がおかれる。
「戦争中だったので、この辺りの事が残っているのはこれくらいなんですが……」
 と難しい顔で男性がいう。
「拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、かまいませんよ」
 まだ用が残っているので一度失礼します、と男性が部屋を出たのを見送ってから、撫子はものすごい集中力でそれらを読み始めた。
 10冊ほどあった冊子を読み終えた撫子の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちていた。
 最後の読んだもの、それは戦時中この神社で神主をしていた人の日記だった。
 ところどころ虫食い、しみなどで読めないところはあったが、当時の事は鮮明に書かれていた。
 戦争、という言葉、内容、それらは言葉や文字で語り継がれてはいるが、実際体験したものはもう少ない。故に頭で理解できていても当時の辛さ、大変さを知る事はない。どこか他人事な話し。しかし日記から伝わってくるものは、歴史の教科書、映画、漫画などで語られているものの比ではなかった。
 撫子は胸が締め付けられる思いを抱えながら、静かに日記を閉じた。

「あの頃はひどかったねぇ」
 と小さく口をもごもごと動かしながら老婆は語る。
「私の年齢の少し下が、口減らしで殺された……あの日の事は忘れられないよ……」
 食べるものがなかった。しかしそれがわからない幼子はお腹がすいた、と泣き叫ぶ。
 親は自分たちの分を我慢して、少しの量のご飯を子供達に回す。
 それでも足りないと泣く。
 そしてとうとう、口減らしが行われてしまった。
 そう、それは敗戦の1ヶ月ほど前の事だった……。
 シュラインは話しを聞きながら、今子供達に取り憑いている霊を思って重く瞳を閉じた。

「ただいま戻りました」
 撫子の戻りの方がはやかった。
 シュラインは今調理室で料理をしている真っ最中だった。
 携帯で連絡をとり、私は霊能者じゃないから浄霊とかできないから先にはじめててくれていい、私は私の出来る事をやる、と返事がきた。
「おかえりなさい」
 セレスティが顔をあげて小さく笑みを作る。
 子供達は集会所の畳の上で、タオルケット一枚かけて眠っていた。
 傍には食べ物のゴミで3袋ほど大きなゴミ袋の口が縛られていた。
「食べられないように寝かせておきました」
 と笑うセレスティの表情は、いたずらっこのようにも見えた。
 それに撫子も笑みを返した。
「……慰霊碑に戻すのはあまりにも可哀相なので……供養してさしあげましょう」
 気持ちよさそうに眠る子供達の寝顔を見ながら、撫子はきっぱりと言った。
 撫子が別室で巫女装束に着替えていると、重箱を持ったシュラインが戻ってきた。
「今からお祓いをはじめるところです」
 ぐっすり眠っている子供達を中心に、親たちは心配そうな面持ちで部屋の隅で固唾をのんでいる。
 シュラインは手荷物を壁際におくと、正座してセレスティの横に座った。
「セレスティさん」
「はい?」
「ちょっと頼みたい事があるんですけど…」
 小声で声をかけられて、セレスティはシュラインの方へ身体を傾ける。
 そして話の内容を聞き、集会所の入り口で控えていた男性へ視線を送る。すると音もなく近づいてきて、セレスティから何かを言われて、また音もなく集会所から出て行った。
「それでははじめたいと思います」
 真っ白な巫女装束に身を包んだ撫子が、神道に則りお祓いをはじめる。
 するとぴくっと子供達の身体が動き、ゆっくりと顔をあげる。
 その表情はなんとも表現し難いもので。しかし苦しみではないようだった。
「あなた達の苦しみ、飢え、寂しさ…それはとてもよくわかります。…でもそれ以上子供達を苦しめるのは…本望ではないでしょう? 慰霊碑でずっと眺めるだけではなく、上にあがり、次の生を生き。そして健やかに楽しく、自分の身体で食べ物を味わうのがいいですよ」
 優しく語りかける撫子の姿に、子供達の身体からスッと透明な布のようなものが抜けていく。
 その間に、セレスティとシュラインが話していた準備が整ったようで、撫子に目配せしつつ霊達を集会所の外へと連れ出した。
 外に並べられていたのは人数分の人形と食事。
 それを囲むように薪が並べられていた。
「役所の許可は貰ってあります」
 にっこりと微笑んだセレスティの言葉の後、薪に火が投下された。
 ぱちぱちと火の粉をはぜながら煙がたち、人形と食事を焚きあげていく。
『ありがとう』
『本当のぼくたちのご飯だね!』
 口々に子供達の霊は喜びを表し、煙と共にのぼっていく。
 その後そっと集会所の中に戻ったセレスティは、子供達の意識の回復を待って話をはじめる。
 セレスティの実年齢は725歳。
 戦争もみてきた。
 飢餓の苦しさも知っている。
 故に、取り憑かれた子供達、その親たちに、決して亡くなった子供達の事を恨まないように話をする。
「皆さんが召し上がっている食べ物の、ほんの一かけでもいいです。これは何々って食べ物だよ、と添えてあげる事だでも慰霊になるんですよ」
 物腰柔らかいセレスティに、優しく語られ、皆小さく頷いた。
 そして皆で公園に赴き、撫子が神社から貰ってきた注連縄を締め直し、岩を綺麗にしてたてなおした。
 その前には食べ物が添えられる。
「……生まれ変わってきたら、遊ぼうな」
 子供の一人の口からもれた。
 それを皮切りに子供達が慰霊碑に声をかける。
「これでもう悲しむ事はないですね」
 セレスティが笑う。それにシュラインも撫子も微笑んだ。
「まだまだここだけではなく、口減らしによって亡くなった子供が沢山いるんでしょうね……」
「そうね…。一つ一つ探して供養してあげる事はできないけど、旅先や仕事で見かけた際は、食べ物を添えてあげるのもいいかもね」
 飽食の時代、と言われている現代。当時の子供達からみたらお菓子の国にも見えたかも知れない。
 青く澄み渡った空を見上げながら、遠き地でおこっている戦争の為に昔の日本のような苦しい思いを味わっている子供達の事を考え、戦争なんてなくなればいいのに、と三人は心の中で思っていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女):天位覚醒者/あまなぎ・なでしこ】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男725/財閥総帥・占い師・水霊使い】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来です。
 いつもご参加ありがとうございます><
 私自身戦争体験者ではありませんが、そうやって亡くなった子供がいる事は知っています。
 子供がいる身としては、もう二度とそんな事があってほしくない訳なんですが。
 何か心に届くものがあれば、と思っています。
 それではまたの機会にお目にかかれる事を楽しみにしています。