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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


++   夏故に   ++

 気がつけば……さらさらと風に吹かれている。
 ――しなやかに身を揺らす草、それは夏の暖かな光も相俟って柔らかな独特の香りがする。
 木々は太陽の光を受けるために、我先にと天高くへ背を伸ばし、身を捻る――風に頬を擽られ、ちらりとそちらを見やれば―――可愛らしいお花が、肉厚なつるりとしたおでこ(に値するのかどうかは不明)を光らせ、カチカチと奇怪な音を上げて微細に振動する歯列ををちらりちらりと妖艶(?)なちらリズムで垣間見せながら……笑っている。
 それはもう怪奇的に。
 う〜ん、さすがは夏! 暑さのために幻覚も見えるかな視えるかな〜って、オイ、違うだろっ!!?(現在突っ込み役が不在のため、私が責任を持って代行させて頂きますですはい。)

「わー………何、コレ」

 平坦でいつもと寸分も違わない、大して興味もなさげな声を上で凛が言う。普段と違う所といえば――その「興味津々です!」と言った様子をありありと映し出す、瞳の輝きであろうか。
 艶やかな黒髪―― 一度見据えられれば、決して女性の心をつかんで離さないであろう麗しき顔立ち。そして、静々とした物静かな印象を与える神秘的な表情。
 その顔には、本人が意識せずとも憂いが含まれ――彼「女」、青砥・凛のことを、人は男装の麗人と呼ぶ。そう、今現在も動きやすいようにという思惑からか、はたまた趣味からか、その本意は不明であるが、兎に角男子用の学生服を身に纏っているのだ。
 まぁ、中身を要約すればただののんびり天ボケなのだが。

 その証拠に冒頭「爽やかな朝の目覚め」の最中、バックではギャァアアアアアアアアッッ!! という断末魔的悲鳴と共にこれまたシギャァアアアアアアッッ!!という、まるでこの世のものとは思えないような奇怪な奇声が発せられ、雑木林もとい山中もといジャングル顔負け富士の樹海も真っ青でどどどどどびっくり! といったような風体の、密林という言語表現ですらはばかられるような光景が目の前を闊歩する――とは言ったものの、これは日本どころか世界どころか…「地球」では最早ありえない光景だろう。
 何せ植物が「意識」を持って行動する。意識を持っているだけならまだいい、この植物は植物の生活圏である筈の「土」から抜け出、自在にその身体を操り、辺りを駆け回るのである――それはもう、楽しそうにおしゃべりなんぞをしながら。
 要するに今現在凛の目の前に存在する「植物」の話なのであるが――
 話が大幅にずれたが兎に角、彼女はその中を平然とした顔で歩き回っているのだ。


「……「コレ」は……何…?」
「それが、雑草だよー」

 背後から不意に現れた元気そうな小さな少女が屈託無く笑う。
 その後から姿を見せた艶やかな黒髪に、知的な雰囲気を含んだ容姿の青年が、何故か和服に割烹着姿で以って物珍しそうに、眼鏡を上げながらじっと「雑草」を眺めたのだった。

「もう、びっくりしたよー、凛ちゃんってばいきなり飛び降りちゃうんだもん!」
「飛び……降りたっけ?」

 凛の口からかすかな疑問の声が漏れ出すと、その少女――葉山・壱華はうんうん、と強く頷いて見せた――が、しかし。

「飛び降りた…というよりは……突き落とされた?」
「突き落とされたというよりは……引き摺り落とされた、でしょうね」

 満場一致で壱華の意見は否決である。
 実を言うと三人とも、本当は山のもう少し上の方まで登っていたのだが……それまで何の変哲も無い(語弊有)山道で、普通に(激しく解釈の違いが生じている)登り、二人は雑草を「刈る」為に、壱華は雑草を「狩る」為に、目的物のあるその場所まで向かっていたのだが――会話の最中笑いながら、ぱしっと壱華が凛の肩を叩いたその直後、突如凛の足下にあった「木の根」と思われていた物体が、ぐいっと孤を描くように彼女の足を捕らえてそのまま下まで引き摺り落としたのである。

 間・空亜というその青年は、ふむ…と、とても興味を抱いた様子でうねうねと身を捩らせる艶やかで妖艶な厚い唇の植物を見詰める。

『さ……さわんじゃねぇよ〜〜っっ』

 その花弁に触れてみようと伸ばされた空亜の手を、雑草の平良かな葉がぱしりと叩く。
 続き、そのまま葉がふにょりふにょりと上下し、攻撃的な怪しい動きをしたのを見て、空亜は思わず叩き落とされたその手を握り――

「なっ……んやこれはぁッ!!」

 裏拳炸裂! すぽっと小気味良い「抜けた」音と共にその雑草は真横の木に激突し、ふしゅうっ…と頭部(?)から煙を上げる。

「はっ……いけませんね、私としたことが…くっ! まだまだ調べたい事が山ほどあったというのに……」

 え? ちょっと待て、今なんか方言出ませんでしたか、貴方?? とまぁそんな突っ込みはさておき、くったりとした雑草をそっとその手で持ち上げると、空亜は悔しげにそう呟く。

「おぉーっ、空亜ちゃんやるじゃん!! 大丈夫だよー、雑草なんて腐るほどいるから、ねっ」

 銀色の美しい髪が風邪に凪ぎ、ふわりと宙を舞ってはすらっと腰元で揃えられる――頭部から生えた二本の「角」が、その童女が普通の人間ではない事を物語っている。そう、彼女は子鬼、詳しくいえば神鬼なのである。
 彼女は凛の方に首を向けて同意を求めるが――

「いや、僕知らないから……」
「あれ? まいっかー。大丈夫、大丈夫♪」
「……そうなんですか?」
「そうそう。すぐに出てくるよー異常に繁殖してると思うからさ」

 にっと壱華が笑う。
 その返答を聞いた空亜は、安堵した様子でそうですか、と柔らかに微笑んだ。
 彼はそのまま袖に手を入れ――もぞもぞと何か探すように手を動かした。

「ささ、これをお使いなさい」

 空亜が袖からすっと鎌を取り出す。
 それを見た壱華と凛は「??」と、首を傾げた。

「今……それ、どこから出したの……?」
「袖ですよ。安心してください、「雑草刈り」だと思っていたので一応全員分用意して来たのですが――この際「雑草狩り」でも問題なく使用できそうですからね」
「いや……そういう、ことじゃなくて……」
「わぁっ準備いいねぇ、空亜ちゃん!」
「ありがとうございます」
「…………その袖って??」
「袖ですか?」

 凛の疑問に空亜が袖をふわりと持ち上げる。

「袖がどうかしましたか? ゴミでもついていました…?」
「それ……何も入ってないよね?」
「あぁ、この事ですね?」

 意味深な微笑を浮かべた空亜は、袖から更に鎌を二つほど取り出した。

「大丈夫ですよ。無くしてもまだまだ「でます」からね〜」

 にっこりと微笑みながら鎌を壱華に手渡し、空亜は自分でも鎌を構える――着物で割烹着で鎌――何ともいえない格好だが。隣の少女はピコハンと鎌を携えているのでとやかくは言わないでおく。そしてそのお隣は美麗な顔立ちの人間がぼーっとしながら学生服で鎌。はっきり言って危ない。そして、ぼそりと一言。

「ま…いいや……」

 いや、万国びっくりショー。

「ほら、凛ちゃん、空亜ちゃん、おしゃべりしてる間に雑草が!」
「「え?」」

 見れば鎌を構えて万国びっくりショーな三人から、見るからにやばい所に顔を出しちまったなおい的な顔つきでもって、こそこそわらわらと「根っこ」を忙しなく動かしながら散り散りに逃げてゆく草花がある。

「よ〜し! 皆、いっくよ〜!」

 元気一杯に壱華が声を張り上げて、ピコハン片手に(鎌を片手に)うずうずと待ちきれぬ様子で駆け出してゆく。
 嗚呼、この声が夏の砂浜で聞けたら、なんて爽やかで可愛らしい子なんだろうと思うのに(勿論目は閉じて)…嗚呼、ここは何故濃密密林なのだろう。これでは誰も可愛くなどあれはしない。ましてや、美しくなど…………凶器が鎌では無理だ。

「こらーっまてーっ」

 ぴこっぴこんっっ

「ほあっちゃあ〜〜っっ!!」

 どしゅどしゅっ

 構えからして、違う。
 鎌は大概横に薙ぐ。だのにこの子は大きく振り被って……

「とおりゃあ〜〜っっ!!」

 脳天一突一撃必殺!!
 はなから「縦」だ。……なんつう凶悪さ加減か。

「最近お気に入りなのっこのピコハン!!」

 さくっさくっ
 ぴこっぴこんっっ

「でもこの鎌も楽しいねーっ」
「……そうだね…」

 普通ここで同意しますか、貴方。

 ひゅっ ざしゅっっ!!
 ぴこっぴこぴこんっっ

 狩りの音は軽快だ。
 こんな音と共に狩られて行く雑草たちの心境は……決して理解できないだろう。

『わぁ〜〜っっおかあちゃん、鬼が来るよ〜っっあの三人、修羅か羅刹のようだよぅ!! こわいよぅ!!』
『あぁっ坊や! 危ないわ! 早くこっちへ来るのよ!!』

 親子らしき雑草たちの家族愛が胡散臭く綴られている。
 一応聞いておきますが、貴方達目はあるのですか?
 と、其処へ子供(?)雑草の後ろから大きな雑草が迫り寄り、通り抜け様にその子供雑草を小脇(恐らく其れに相当すると思われる部位である)に抱えて素早く駆け出した!
 助けてやったのか――と、思いきや。

『へへっお前の子供はいただいたぜ!! 雑草大魔草様の生贄に差し出すんだ!!』
『あぁっそんなっっ!! それだけは許して〜〜っっ』
『わぁ〜ん、おかあちゃん、怖いよ〜っっ!!』

 もう何が何だか解らない。何だよ雑草大魔草様って。

「…駄目、だよ……?」

 シュッ ドスッッ!!

 凛の投げ放った鎌(!)が子供雑草を抱えた雑草(あぁもうややこしい)の脳天(と思われる部位:私がしつこい)に突き刺さり、さっくり茎ごと縦に割れる。

「凛さん、優しいですね〜」
「別に……そんな事、ない…よ……」
「あはは、謙遜してはいけませんよ〜」

 空亜は、一矢報いんと突如横から現れた人間と等倍サイズの雑草に、凝り固まった笑顔のまま鎌で襲い掛かる!! もう一度強調しておくが、この男、「着物」で「割烹着」で「鎌」である。(イメージ大崩壊!!?)

 ざっっ!! ぶしゅしゅしゅしゅぅうう……!!!

「ここの雑草は活きがいいですねぇ〜……」

 そう言ってくすり、と微笑んだ顔に飛び散る雑草の体液を浴び、更に普段と寸分違わぬ笑顔で足元の雑草を狩る――場所が場所であったなら、超一級の犯罪者になれたに違いない。

 その横では凛が先程助けた雑草の子供と仲良くお話をしている。

『おにぃちゃん、格好いい!』
「おねえちゃん……だよ?」
『助けてくれてありがと!』
「どういたしまして……」
『おにぃちゃん、素敵!』
「おねぇちゃん……だから…」
『付き合って!』
「無理…だから……」

 何だか微笑ましい光景である(…そうか?)。

 ぴこんっぴこんっ
 ぴこぴこんっ ぴこっ

 更にその横の壱華はというと――楽しそうに、ピコハンを左右に振りぬき、雑草狩りというか、雑草抜きを楽しんでいるご様子だ。
 其れに飽きたら――今度は渾身の一撃でメリメリもぐら叩きでもするのだろう。そう、先は見えている……かと思いきや。

「ねーねーっ凛ちゃん、空亜ちゃん! みてみてー!」

 シュッ ぴこんっ
 シュッ ぴこんっ

 投げハンしながら壱華が遠くの雑草を撃破している。
 投げつけたピコハンが、大きく孤を描いてブーメランのように戻ってくるから、これはまた不思議…である。

「それ…面白そう。火でもつけてみる?」
「あ、それいいねっ」

 言うが早いか壱華は手から炎の塊を放ち――

 ピコぼッッ!!

 何か音が違うと思ったらピコハン追尾型の炎だ。

「なんかそれ……違うかも。でも、効果は…ありそうだね……」
「そうですねぇ〜、なかなか画期的な発明ですよ」
「あはは、たーのしーっ♪」

 舞い散る火の粉に雑草たちは逃げ惑い、ちりちりと葉を焦げ付かせてはピコハンやら炎やら鎌やら拳やらに撃沈され――気がつけば、辺り中に「種」が散らばり、その中を、まだまだ存在する雑草たちが駆け回っている始末である。

「ま……まだまだですか?」
「うーん、ちょっとほっとき過ぎたかなー??」
「ちょっと放って置いたからって…こんなに……増えるの」
「うんっ増殖力はゴキブリ並みだからねー」

 あははっと軽く笑ってみせる壱華。
 ま、いっかとぼそりと呟いた凛に、空亜はどこか疲れきった様子で首を項垂れる。
 狩るのは割と容易いが、その数が膨大過ぎるのが問題なようだ。

「おや……? 何か…視える」

『お兄ちゃん!』

 ぴっき〜ん!!

 その「声」が聞こえた瞬間に、着物で割烹着で鎌を持った男の眼がカッと見開かれた!
 普段からは想像も付かぬ程の憤怒を内々に秘めた眼つき――空亜は手をすっと目元まで持ってくると、一度だけ――ゆっくりと瞬いた―――刹那。

「どこのどいつや手ェ出しくさっとんのはぁーーーーっっ!!!?」

 爆風と轟雷と共に、びりびりと大気が震え――強大な力、そして威圧感を持った一頭の獣が姿を現す。その姿は荘厳――白き体毛が全身を覆い尽くし、四肢と喉元を覆う銀の体毛が風に緩やかになびいた。
 二本の角が空高くヘと聳え立ち――その生き物は、馬のようながっしりとした首をぶるぶると振う。

「空亜ちゃんかぁーっこいーっっ!!」
「…………………大阪弁」

 凛は徐に札を手にし、其れをすっと構える――まるでその巨大な生き物の、次の行動を知っていたかのように―――

「凛ちゃん……?」
「危ないから……後ろに下がってて…」

 そう言いながら凛は札を媒介として、空亜の召喚した生き物の暴威的な力を防ぐ結界を張った。

「自分ら……そないな事して…どうなるかわかっとるんやろな? あぁ…? ……死に晒せやーーーっっ!!!」(性格違っ)

『こ……ここで召還するんじゃねぇ〜〜っっ!!? しかも俺たち無関係なのに攻撃目標俺達〜〜っっ!??』(注:雑草達心の声)

 ズギャギャギャギャーーーーン!!!

 激しい稲妻が炸裂した!!

 雑草、死☆滅。





 ゆらりと――三つの蹲った様な影が、夕焼けに色濃く映る焼け焦げた濃密密林の中で蠢いている。
 その名も……恒例、種集め。
 三人は、それぞれ手に大きな袋を抱えてちまちまと地面に散らばった種を拾っている。
 元より「雑草狩り」の本来の目的と言っても過言ではないだろう――勿論S級公害指定(?)である雑草を狩る行為も重要では在るのだが、お手伝いをするためにここへ来た壱華にとってはこれこそが重要な行為なのである。
「空亜ちゃんってすっごいねぇ!」
「……そうだね、山に穴を開けてしまうくらい……だからね」
「……す……済みません…………」
 その一言で空亜が隅の方で小さくなっている。
「ところで……君、最初に会った雑草、どうしたの……?」
 若干、いつもよりも間をおいて凛は喋る。
「え? あの雑草さんですか?」

 空亜はくすりと笑って袖を軽く揺らした――まさか。

「その袖の中に……?」
「え? 空亜ちゃん雑草持って帰るのー?」
「えぇ、小説のネタにしようかと思いまして」
「「………雑草との生活を?」」
「あぁ、それもいいですねぇ〜」

(違ったんだ……?)

「ふふ…貴重な相方を手に入れたのです。これは…運命に違いない。うむぅ、創作意欲が湧いてきた〜っ」
「空亜ちゃん、それ置いてくか狩るかしちゃいなさい? 絶対後で困るんだからね」

 壱華は知っていた。雑草たちのゴキブリ張りの異常な繁殖力を。
 だから、止めているのに……作家としての「それ」に燃え上がる今の空亜の心には、決して届かないのであった。

「何でもいいけど……いつまでついてくるつもり……?」

 その横で、凛は小さなゲテモノストーカーの影に怯えて(?)いるのであった。




――――FIN.


全員勝手にパラメータアップ!笑

*壱華はピコハンの奥義を編み出した!(大変危険!!)*
*凛は妙な生草に惚れられた!(因みに初恋らしいからきっと付き纏われまくりですね)*
*空亜は貴重(?)な相方をゲットした!(何よりも生々しくリアルな小説を書いて下さい)*