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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


あなたはあのひのゆめをみる

 あなたはあのひのゆめをみる
 わたしはあなたのゆめをみる

 こぼれ…た…じかん

 まき戻して

 むつみあう夢の時を生きる

 シズは夢を見ていた。
 いつもと変わらない夢を。 
「もういい……」
 何度目かの呟きを零すと、シズはうんと背伸びをした。
 こう、同じような夢ばかり見れば、もう少し違った夢を見ても良いじゃないかと思うのは愚かな考えだろうか。
 短かった黒髪も背中の真ん中ぐらいまで伸びた。短かった髪が伸びた時間の間、そう、約三年ほどシズは同じ夢を見ていたのだ。
 作り出した『愛しい人』との囁きは、昨日の夢でもう終わり。
 今度はこの時代を活き活きと生きる人間と出会いたい。シズは最近ずっとそんな思いを抱いていた。今日、やっと決心できたから、夢とも此処ともおさらばだ。
 シズは立ち上がった。
「もういい……」
 何度目かの呟きを零すと、シズはうんと背伸びをした。
 今度はいつもと違う。ポッド(養育器)から起き上がり、母とも言えるそれを見捨てて歩き始めた。研究所の連中は邪魔をするだろう。そんなことはどうでもいい。
 やつらに何ができると言うのだ。
 夢に飽きるまでやつらの『研究対象でいてやった』だけのことだ。
 『夢食い』の自分が他人の夢を食わずに自分の夢だけで生きるのに堪えうる時間の算出という研究。
 だめだ…ナンセンス。
 自分が作り出す甘い夢などたかが知れている。
 生まれて然程経ってはいないが、それでも創造力の限界はあるというもの。
「もっと…甘い…そうお菓子みたいな人は居ないかな?」
 独りごちると、シズはにやりと笑った。
 遠くで声が聞こえる。研究所のやつらだ。
 シズは走り出すとセキュリティーロックを掛けたドアをまるでそれが『そこに無い』かのようにすり抜け、研究所の外へと向かって走り出した。

 世界は夢に満ちている。
 そして世界は砂糖よりも甘い。
「ふふふ……」
 シズは舌なめずりをした。

●あおぞら 〜Ver.シズ〜
 ツバメが風を切って空に飛び立つように、シズは部屋を飛び出す。
 足元に転がるのは、死体。夢を食い尽されてしぼんだ子供のなれの果て――大人。
 飛び出した瞬間を足止めしようとした研究所員の夢を瞬時に食い、シズは邪魔者の攻撃をかわす。
「!」
 男は床に転び立ち上がろうとした。
 そして脳裏に浮かぶ数々の景色は遠いあの日に見た景色だった。
 眩しい水面に輝くきれいな石とお気に入りのおはじき。水の中で光をはじき返すのを見るのが好きだった。いつまでも眺めて夕暮れに染まる空の下、満足しながら帰ってくる子供時代の自分。夏終わりの兆しは赤い蜻蛉。太陽の刺激を受けて焼けた肌の微かな痛み。
 遠くて近い思い出は死出の旅であることに気が付かず、男は絶命した。
「君はおはじきが好きだったんだね?」
 数瞬前までは生きていたそれにむかってシズは問い掛ける。
 子供のように楽しげな笑みを浮かべたまま死んだ大人(それ)の指先は少し曲がり、まるで手にいっぱいのおはじきを掴んでいるようだった。
「やっと手に入れたんだね」
 にっこりと笑ってシズはそれを置き去りにする。ゆっくりと歩き始め、その先に潜む未来に出会うために眩しい光に満ちた廊下の曲がり角を曲がった。

 ☆〜Ver.皇騎〜
「そんな存在がいたのですか……」
 宮小路皇騎の特別調査部よりの報告で『夢食い』の能力を持つモノを研究している研究機関の存在を知ったところだった。真偽ほどを確かめる為に乗り出したのだが、その報告書を見て溜息をこぼす。
 相手は殺人を犯しているらしいのだが、被害者は恍惚の笑みを浮かべて死んでいるのだという。
 どうしたものか、皇騎は眉を顰めた。
 夢を食う存在がいるのは考えられなくも無い状況だが、それを被験体として拘束していたというのが信じられなかった。ある意味危険な存在なのに、いったいどうやって捕まえたというのだろう。しかし、考えていても仕方が無い。わからないことは調べるに限る。
「仕方ありませんね。ここは草間興信所に行って情報を貰ってきましょう」
 皇騎は立ち上がると報告書を持ったまま歩き始め、草間興信所へと足を向けた。

 ☆〜Ver.セレスティ&ALL〜
「睡眠中に甘い夢を見ていると感じるのは、本人ではなく夢に干渉出来る人物だと思いますので」
 セレスティ・カーニンガム氏は言った。
 手渡された白磁のカップを傾け、少し残っている紅茶を揺らしてその水面の光沢の変化を楽しむ。
 今日は気づかずに見ていた甘いと思われる夢に興味を持ってここへ――草間興信所とやってきたのだった。解けない謎を解くにはここが一番。
 見た事のない登場人物が夢へと来た事から、普段から遅い時間に起きて居るセレスティは珍しく早起きしてやってきた。
 女性事務員は苦笑しつつ茶菓子を出す。
「早起きね」
「そうですね…それが気になったのか、普段見ない人物の事が気になったのか、寝覚めの悪いまま遅い朝を迎えて仕舞ってね」
 少しもやもやとした感じが気になって仕方が無い。
「謎が解けないハッキリしない気分ですから……」
「あぁ、それってわかるわ。思い出せそうで思い出せない感じ…イライラとかは?」
「全然ありませんね」
「っていうことは、悪い夢じゃなかったのね?」
「えぇ…幸いに」
 そう言ってセレスティは苦笑した。
 少年とも呼べるほどの青年が屈託無く笑う夢。白い部屋に眩しい光。囁く声の甘さ。
 そんな夢を見たとそのままに話し、つむいだ言葉を教えたのなら、目の前にいる彼女は顔を真っ赤にすることだろう。
「それだけで情報を探そうと思ったの?」
「まあ……そう言うところでしょうか。情報は少ないとわかっていましたけどね。夢判断と云う程ではないですが、夢に干渉する存在の事について調べるのを助けてもらえないかと」
「えぇ、構わないわよ……あら、皇騎君」
 彼女は戸が開く微かな音に気が付き、視界の端に人影を視認する。そして、やってきた人の名を呼んだ。
「こんにちは。セレスティさんもこんにちは」
 皇騎はいつもの優しげな笑みを浮かべて言う。
「今日はどうなさったんですか?」
「はい、今日は夢を見まして……」
「夢?」
 皇騎は鞄の中にしまった報告書を思い出して首を傾ける。
 そんなしぐさにセレスティは問うた。
「どうなさいました?」
「あ……えぇ、実はこちらも夢に関しての情報をと……」
「奇遇ですね。もしかしたら同じ事件だったりしてね」
「ありえますね。こういった内容の報告書ですが」
 そう言って皇騎は報告書をセレスティの前に出した。
 それを受け取ってペラペラと捲る。所以はあまり書かれていないが、どことなく漂う甘く気だるい雰囲気であったとの一行が目に止まる。
「…甘い……」
「え?」
 セレスティの呟きに皇騎は顔を上げた。
「甘い夢」
「もしかして、セレスティさんはそれに該当する夢を見たんですか?」
「はい。やはりここに来て正解でしたね。ゴーストネットでよく似た現象が書き込まれて居ないのかどうか、後で確認しようかと思っていたところです」
「なるほど」
「それと、疲れも多分取れては無かったと思いますので、その後に昼寝も」
「え?」
「もう一度夢を見るためですよ」
 苦笑しつつ言うセレスティの笑みを見るや、皇騎も同じように苦笑した。
「そうですね。夢を追うなら、夢を見ないと。こちらはそれに類する研究をしていた研究所の名がわかっていますから、その研究所に乗り込もうと思います」
「どこですか?」
 そのような研究をしているところなど訊いたことは無い。さすが、宮小路財閥とセレスティは思った。
「美浜ヒューマンサイエンス研究所です。表向きは産業技術の研究と人間行動学の研究推進ですが」
「あぁ……美浜グループですか」
 聞いたことのある名にセレスティは暫し考え込む。
 暗い噂が一つ二つはあっても可笑しくはない場所だ。
 セレスティは夢に出てきた少年を思い出す。
 人体実験。
 そんな言葉が脳裏に閃いた。
「とにかく、情報を集めましょう。セレスティさんはゴーストネットの中でそれに該当する情報が無いか調べてください。僕は研究所のほうに向かいます」
「わかりました」
 それだけ言うとセレスティは立ち上がり、執事を伴って草間興信所から出て行く。その後、実家のほうに連絡を入れた皇騎は美浜ヒューマンサイエンス研究所に向かって車を走らせた。

●あまいわなとあなたのささやき 〜Ver.セレスティ〜
「無いですね……」
 セレスティはゴーストネット内の記事をくまなく探したが、それに該当する記事は見つけることができなかった。まあ、こんなに人目につきやすい場所に真相が書き込まれることはあるまい。
 ネットで検索しても見つかるわけが無く、諦めてブラウザを閉じる。
「何か方法は無いですかね」
 独りごち、遠く視線を飛ばせば時計が見える。まだ午後の一時を回ったところだ。昼寝をするにはと丁度良い時間かもしれない。セレスティは立ち上がると席を立った。パーティーションの無効で女学生たちのざわめきが聞こえる。少女たちはこちらが気になって仕方が無かったようだ。
 一つ苦笑をすると、セレスティは丁度こっちを見た少女にウィンク一つ投げて去っていった。一斉に花も恥らう少女たちの嬌声が辺りを満たした。ちょっとやりすぎたかもしれないですねと肩をすくめ、セレスティはその場を去った。

 一体どうやったら接触できるのだろう?
 ロールスロイスの中でセレスティは考えたが、夢を見る以外は無さそうだ。今の時間なら、夜にしか生きられない同居人が丁度寝ているころだろう。正確を記すならば同居人と呼ぶのが相応しいかもしれないが、屋敷の中では色々と使用人が噂している時があるのでなんと答えたら良いのか悩むところである。
 友人か、恋人か。またはペットというのもあるかもしれない。
 かなり悩むところだ。
 恋人はただ一人。かの少女のみ。
「比べるというのは無理ですね」
 そう呟いて、セレスティは苦笑した。
 どちらも大切だから傍にいる。ただそれだけだ。誰がどのぐらい愛しているかというのがすべての立場を決めてしまうなら、世界はなんと束縛に満ちていることだろう。
 レベル差が如何のとか、そう言うことは関係が無い。
 可愛い、愛しい。それでいい。
 セレスティは納得すると満足げに笑った。
 家に帰ってそっとベットに潜り込み、添い寝でもして夢を見ようか。
 そして、彼が目を覚ましたら、夢よりも甘いキスをすればいい。そう納得し顔を上げると、車は屋敷の門を潜った後だった。屋敷に到着すると、セレスティは彼の部屋へと向かう。
 部屋の扉を開ければ、窓に分厚いカーテンが掛かっているのが見える。それで真夏の日光を遮らなければ彼は死んでしまうからだ。クーラーのきいた部屋の暗闇の中で、吸血鬼の青年は眠っていた。
 棺桶には入らず、ベットの上で息衝いている。セレスティは近づくとその寝顔を覗き込んで微笑んだ。
 齢三百歳は超えていると聞いているが、あの姉の実弟にしては幼すぎる感じがする。
「たまにはこういうのも良いですね」
 そう言って微笑むと頬にキスをし、上着を脱いでセレスティはベッドに潜り込んだ。

 ☆〜Ver.皇騎〜
「他愛ないですね」
 皇騎は呆れたように言った。
 研究所に潜入し、能力により関連情報をコンピュータのデータベースから探り出したところで、研究所内で騒ぎが起きた。
 自分が見つかったのかとかなり慌てたが、どうやらそうではないらしい。誰かを呼ぶ男たちの声が聞こえていた。
「やはり……人体実験でもしていたのでしょうか? ……ん? シズ?」
 皇騎は密かに研究所のネットワークシステムやセキュリティを掌握していたが、システムのすべては『シズ』という言葉を繰り返しモニター上に点滅させていた。
「一体、それは……」
 皇騎はその言葉が気になってコンソールパネル上にある端末の一部から、検索用ワードを受け入れるようにシステムに『命令』した。数秒の拒否を示した後、システムは皇騎の『命令』を受け入れた。
 システムが皇騎に従う様子は、子犬が母犬に従うのにも似ている。システムはある限りの『シズ』の全情報を皇騎に見せた。常に皇騎の前に知恵の門は開け放たれる運命にある。
 モニター上に映っているのは、黒髪の少年だった。澄んだ瞳ときつい眦、整った容貌は少女にも見える。かなりの美少年だ。
「彼が夢食い? 危険度は……」
 情報を見て皇騎は溜息をついた。情報をじっくり読まずとも、抑えないと危険な存在ということが知れる。映し出された犠牲者の姿は様々だ。発狂した者。互いに殺しあった者。血にまみれたシズの姿もモニターに映る。
「本当に……」
 どうやって捕まえたというのだろう。
 皇騎は眉を顰めると、情報は自分を通して自宅のコンピューターに飛ばしてDVD−R数十枚に焼き付ける。この情報から一応の容姿を把握したが、相手の性質からそれも絶対ではないと考慮せざるえないだろう。
 これ以上、何かあってはならない。皇騎は調査部に連絡を入れ、注意を喚起した。
 甘い夢なぞ人が囚われやすいものだけに、自分が狙われる可能性を考えなくもなかった。最悪なことに、このところ恋人に会っていないのだ。
「茜さん……元気でしょうか」
 皇騎はゆっくりと男たちの声の聞こえる方向へと向かって歩いていった。

●Only you gonna stop me. 〜Ver.皇騎〜
 慌てて逃げる男たちは廊下を走っていく。
 時折こちらに気がついた男は皇騎をシズと間違えて叫びながら逃げていった。
「間違えられても……」
 皇騎は苦笑してみた。
 相手は聞いていない。
 仕方なく気絶させて事無きを得たが、それで騒ぎが収まるわけでもない。微かに香る空気を鼻腔に含み、もっとも濃厚な空気のある方向に見当つけて歩き始めた。
 花に近い香りだった。夏の匂いにも似ていたかもしれない。それが正しく思い出せるか考えてみたが、時間も空間もあいまいになっていくのに気が付き、皇騎はそっと恐れをなした。
 あの日、彼女に会った日の…香り。
 あれはシャンプーの香りだったか、それとも石鹸の香りだったか。今ははっきりと思い出せないが、わかっているのは彼女の香りだということだ。
 母親が使っている質の良いシャンプーの香りではない、少女たちが好んで使う甘く可愛らしい香り。
「茜さん…」
 皇騎は呟いた。
 自分にとっての甘い感覚は彼女から得たもの。何よりもいとおしくて大切な感覚。
 そんなことを考えて、皇騎は苦笑した。
 ほんの少し、頬を緩めて、幸せそうに――笑う。
――茜さん……
 皇騎は呟いた。
 青い空の下、彼女が駆けてくるのをまぶしげに見つめる時が一番幸せだと思える時だった。
――会いたい。
 そう呟いた瞬間、皇騎は夢に堕落ちた。

 ☆〜Ver.セレスティ&ALL〜
 夢に見るのを意識して、吸血鬼の青年を可愛がった事を思い出して、セレスティは安らかにベッドの中で安堵の溜息をつく。シルクのシャツの向こうでは、白い肌が触れるのを待っている。快楽に弱いくせに強がる青年は夢の中。どんな悪戯をしても起きないだろう。
 殊更、そんな欲望が今日の昼寝を楽しくさせている。
 あの日の自分の甘い声と、あの病院での彼の姿が脳裏で交差する。
 誰もいない部屋での秘め事はどことなく甘美だ。
 思い出せば、白い夢の中での長い黒髪の少年もどことなく菓子のように甘い存在に思えた。多分きっと、年齢的に若いはず。とはいえ、快楽に目覚めてもいい年頃だろう。
――少しは刺激的な事でも構わないでしょう……
 ぼんやりとそう思いながら、セレスティの意識は夢魔の顎へと落ちていった。

 どこというわけでもなく、ここというわけでもない公園が窓の外に広がっていた。
 白いカーテンが窓辺で揺れている。
 公園の向こうには、遠く微かに海の音が聞こえる。ベランダの低い手すりに肘をついて、白い青年が景色を見ていた。少し長めのプラチナブロンドに白い肌の青年はまごうことなく吸血鬼の青年――ロスキール・ゼメルヴァイスだった。
「ロスキール…あなたは……」
 太陽が、日の光が苦しくないのですか?
 そう問い掛けるのをセレスティは躊躇った。
 そう聞くのもどうでもよい、そんな不自然で意味のない言葉を彼に言う必要がどこにあろうか。
――たとえ、夢でも……
 幸せならいい。
 誰よりも幸せそうに、光り輝く世界を見つめる青年が愛しく思えた。
「セレスティ、こっちに来てよ」
 彼が手招きをする。
――君と同じ色の空だよ
 彼は言った。
 何よりも大好きな太陽と青い空と――大好きな貴方。
 両手いっぱいに抱きしめても足りないほどに、夢の世界には愛しいものがあふれている。
 近づこうと歩き始めた瞬間、セレスティは何かを感じた。ほんの少しの小さな疑惑。彼もこの夢も本物だ。
 ロスキールが作り出した幸せな時間。
 しかし、感じたそれはあまりにも異質で、彼を良く知るセレスティはその違和感に気が付いてしまった。
 お気に入りの香水とは違う、本物の果実の香り。あるいは花の香りだったかもしれない。それがたとえ何の香りだかがわかったとしても、そのこと自体は大して問題がなかった。一番問題なのは、『彼から発したものではない』ということだ。
 不意にセレスティは眉を顰めた。
 ただ単に甘い夢を食うだけならば良い。
 人にとって一番の夢を、幸せの証を食うことだけは許せなかった。
「悪戯が過ぎます」
 短く言った。
 世界が震えた。
 どこかで聞いている風が怯んだ。
 世界は疑惑の波紋を止めることができない。彼が――夢食いが見えた。
 そして、食われかけている皇騎も。
「誰に手を出しているのですか」
――極上ノ夢ハ、食ベナクチャ…君等ハオイシソウ
 それが言った瞬間、水が夢食いを襲う。セレスティの操る水が、地を越え、山を裂き、ありとあらゆる場所を探す。それは闇に隠れていた夢食いの少年に巻きついて隠れていた場所から引きずり出した。
「わぁっ!」
 地に倒れ付す少年の姿を見つめ、セレスティは無言でいる。食われかけていた皇騎は呆然と立ち尽くしていた。
「な…何が……」
「食われかけていたのですよ」
「私…が……?」
 皇騎は信じられないといった風に首を振る。
 手に感じていた愛しい人の感触を思い出すように指を動かした。
「はい」
 短く言ったセレスティの言葉に皇騎はやっと状況が飲み込めたようだ。
 夢食いの少年のほうは悪びれる様子もなく笑っていた。夢の世界は一変して静かだ。
 夢の中のロスキールは三人を見つめ、そして眉を顰めた。見知らぬ存在がいることに腹を立てているようだ。
 皇騎は武器召還で不動明王の『羂索』を喚び出し、縛り付け動きを封じたが、少年のほうは大人しく縛についている。
「ねぇ…ごはん」
「「え?」」
 セレスティと皇騎は顔を見合わせた。
 この状況になっても甘い夢を食うことだけは諦めていないらしい。
「飽きちゃったんだよね。それに君等の近くにいたら極上の夢が食べれそうだよ」
「はぁ……」
 皇騎は深く溜息をついた。
「極上の夢より、極上の現実ですよ」
 秘め事をつまみ食いするよりも、自分だけのたった一人の人と交わす言葉、現実のほうが何よりも甘い。
「君には未だ早い話でしょうかね」
「味あわせてくれるならどっちでもいいけど」
 そんなことを言いながら、シズはセレスティと皇騎に抱きついた。
「わ、私にそう言う趣味はありません!」
 皇騎はブンブンと首を振って否定した。
「セレスティから離れてくれないかな!」
 ロスキールは堪らなくなって叫んだ。いきなり夢に入ってこられた上に、愛しい人にまとわりつく相手に対して我慢の限界がきたらしい。すかさずセレスティを奪い返して今度は自分が抱きついた。
「ん〜? 何?? 僕は君といたら甘い夢が食べれるかと思っているだけさ。…で、君の彼女は可愛いね」
「えっ?」
 言われて皇騎は少しだけ頬を染める。
「研究所(家)はぶっ壊れちゃったし、行くところがないんだよね」
「壊したのは貴方でしょう……」
「えへへ♪」
「僕は反対だからね! ただでさえ、あの庭師が……」
 ロスキールは普段の憤懣やるかたない気持ちを噴出させた。
「あぁ、ロスキール。彼の性癖はいつものことですよ」
「僕はセレスティがいい!」
「じゃぁ、こっちの人のところに遊びに行こう」
「あ? え……? えぇぇぇぇっ!」
 シズが満面の笑顔を見せて皇騎を指差し、状況がつかめていなかった皇騎は目を白黒させるのみだった。

 YESと言うべきか、言わざるべきか。
 皇騎は暫し悩んだという。

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0461/宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師)
1883/セレスティ・カーニンガム/男/725歳/ 財閥総帥・占い師・水霊使い

★NPC
 シズ   ??歳 男 美浜ヒューマンサイエンス研究所・実験体
 長谷・茜 18歳 女 神聖都学園高等部・巫女

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、朧月です。
 す〜〜〜〜〜っごくお久しぶりです。

 なんだか妖しい方向に話が流れていますが……
 相変わらずのロス君はセレ様にべったりですね。
 シズ君は……ちょろりと宮小路家に遊びに行くのでしょうか?
 なんとも謎です(をい;)

 どこぞでシズ君がやってきたら遊んでやってください(どこで!)
 お嫌でしたら放置でお願いします(笑)<鬼や;

 茜さんはお名前だけ登場になってしまいました。
 でも、イメージとか、愛情とか伝わったら幸いです!
 それではまたお会いいたしましょう。

 朧月幻尉 拝