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<東京怪談・PCゲームノベル>


『遺跡探索へ行こう!』



「この前持ち込まれた女性の像は、この王朝の時代に盛んに作られた像と、特徴が良く似ておりますわね。何らかの関連性は、否定できませんわ。もう少し、詳しく書いてある資料を探さないといけませんわね」
 Y・Kシティにある巨大な図書館で、アンティークショップ・レンの店員、鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)は、先日店に持ち込まれた、作者不明の像についての鑑識を、この図書館にて行っていた。
 デルフェスの鑑識眼は確かなものであったが、それでも不足な部分は、この図書館で文献を探し出して補い、店の美術品や調度品を鑑定しているのであった。
「この王朝の時代と言えば、そう、確か、流行り病が年々酷くなり、旱魃や飢饉が流行りましたわね。あれは、とても酷い世相でした。人々は食べる物に困り、田舎の娘を中心に、身売りが頻繁に行われておりましたわ。だから人々は、女性の像を沢山作り、娘達の幸せを願ったのでしたわね」
 何百年前になるだろうか。デルフェスは当時、自分の目から見た悲惨な情景を思い出していた。今現在、デルフェスが生きている時代からは想像もつかないような歴史を、デルフェスは自分の目で確かに見ていたのだ。優雅でおっとりとした外見からは想像もつかないが、デルフェスは中世時代に錬金術によって作られた、ミスリル製のゴーレムであった。今、デルフェスが文字を追っている文献に書かれている歴史を、実際に見てきたのだ。だから、文献よりも詳しく、様々な歴史を知っているのであった
「あら、また来ていたのね」
 この図書館の館長である、山音・翠(やまね・みどり)が、デルフェスの前に積み上げられた分厚い文献の数々を見て、驚いた表情を見せている。
「相変わらず、研究熱心ねえ」
「ごきげんよう、翠様。新たに持ち込まれた美術品について、少々調べ物をしておりました」
 良く図書館に足を運ぶから、翠とはすっかり顔なじみであった。
「まったく、その鑑識眼には恐れ入るわね。おかげで、わたくしも貴方が調べるものには、とても興味が涌くけれども」
 そう言って、翠はとても楽しそうな笑顔を見せた。
「そうだ、貴方ならちょうどいいわね。実は、今度遺跡の調査に行く予定なのよ」
「遺跡、でございますか?」
「そうなの。きっと、古代の色々なものがあると思うわ。わたくしも、ある程度は調べたつもりだけど、貴方はわたくしよりも、もっと昔の物に詳しいでしょう?同行してもらえれば、助かるわ」
 翠が、デルフェスににこやかに言う。デルフェスはどうしようかと迷ったが、ある条件を出し、その調査へ同行しようと思い、翠に返事をした。
「そうですわね。女性の石像インテリアが遺跡にあれば、それを報酬としてもらえればと思います。後は要りませんわ」
「ええ、それは構わないわ。ちょこっと写真には撮らせてもらうけど。それでは、これで決まりね。当日は、このシティの港へ集合して頂きたいの。貴方の他にも、声をかけた人がいるわ。皆で一緒に、船で島へ行くことになっておりますので」
 デルフェスは翠から一枚の地図を手渡された。そこには、ブーツのような形をした島の絵と、Y・Kシティの港へのアクセスが書いてあるのだった。



「こんなに沢山の方々が、わたくしのお手伝いをしてくれるなんて。とても頼りにしているわ。やっぱり、か弱い乙女のわたくし1人では、限度がありますものね」
 翠は、揺れる船室に集まった者達の顔を見回し、嬉しそうに微笑んでいる。
「遺跡の調査なんてさ、わくわくするよね〜!それに、翠さんと一緒に探索するのって、絶対に楽しいよ〜♪」
 翠の隣りに座り、長靴の形をした島の地図をじっくりと見ている金髪の美しい顔立ちの青年、桐生・暁(きりゅう・あき)は皆へにこりと笑って見せた。暁はその外見からして、高校生ぐらいであろうか。
「俺さ、楽しそうな事には目がないんだ〜。興味本位で来たけど、どんな遺跡なのか楽しみなんだよ。それに、皆と一緒なのも」
 暁はまわりを見回し、一人離れて端の方に座っている限と目が合うと、限の横へと移動をし、腰を降ろしていた。
「ねね、そんな隅にいないでさあ、こっちへ来ない?」
「いや、僕はここでいい」
 ぽつりと限が呟く。
「そんな事言わないでさ〜、可愛い子も沢山いるよ、ほらあ」
 暁は翠の横で景色を眺めていたデルフェスとマイ・ブルーメ(まい・ぶるーめ)に笑顔を送っている。
「だって、僕、間違えてしまったし。本当は別の船に乗るはずが。こんな時に限って、携帯電話忘れるし」
 限はからっぽのポケットに手を当てて呟く。
「どっちにしても、このような海の上では、無線ぐらいしか通じないと思いますわ。せっかくご一緒したのも何かのご縁でしょう。それに危険な目には、このわたくしが合わせませんわ」
 デルフェスはいつもと同じく、貴族の令嬢のような服装で船に乗り込んでいた。自分は魔法の金属と言われるミスリルで出来ているから、ちょっとやそっとの事では怪我などしない。だから、調査では皆の前に立って生身の人間達を守ってあげようと、思っているのであった。
「えっ、でも」
 その優雅な姿を見て、限は戸惑ってしまっている。
「ご安心下さいませ。わたくしは中世の時代に作られたミスリル製のゴーレムでございます。この身体を、ダイヤモンドよりも硬くする事も出来ますから。信じられないかもしれませんが…ともあれ、わたくしはこの鑑識眼を翠様に買われて、この探索に参加致しました。わたくしの役割は、きっちりと果たそうと思っておりますので」
「大丈夫、限さん♪皆いるんだしさ!」
 暁が不安そうな顔をしている限に、笑顔を返して見せた。
「そうですね、私も治療をする事が出来ますし。罠が多そうですしね」
 食い込みの激しい、胸を強調した水着をすでに着ているマイの身体は、目のやり場に困るのだが、それでシスターだというのだから、世の中わからないものである。
「私に任せて下さい。危険な罠でも大丈夫ですから」
 優しい口調で、マイは皆へと笑いかけた。
「何となく、女性の方が逞しいわね」
 そう言って翠が、口元に笑みを浮かばせた。
「そろそろ、島に上陸するわ。準備はいい?今日はよろしく頼むわね」
 やがて船は、長靴島と名づけられた島の小さな入り江に到着した。
「この入り江の下に、遺跡の入り口があるの。水着を持ってきた子はいいとして、持ってない人には貸してあげるわ。こんな事もあろうかと、用意したのよ」
「準備がいいんだね?」
 限が翠から、眩しい程のピンク色の海パンを受け取りながら、こんなのしかないのか、というような苦笑を浮かべていた。だが、これしかないのだと翠が言い張っているのを見て、諦めたようだ。
「水着持ってきて良かったですね」
 暁にそう言っているマイは、キワドい水着を着ているものの、平然とした顔をしている。水着の事はあまり気にしていないのかもしれない。
「その他の荷物や着替えは、この防水用のケースに入れて持っていくのよ。肺に自信がない人には、酸素ボンベも貸してあげる。ラジオ体操に合わせて準備体操が終わったら、海へ潜るわよ」
 何故か、船の上でラジオ体操をする5人…マイやデルフェスは、その体質上、準備体操も必要なさそうであるが、皆に合わせてという事なのだろう。
 体操を終えると、デルフェス達は翠の指示に従って、1人ずつ、順番に船から海中へと飛び込んで行った。



(まるで南国のようですわね)
 メガロポリスであるY・Kシティから船で2時間足らず。それにも関わらず、この島の周辺には珊瑚の海が広がっている。通常ではありえないが、それが異界の不思議なのかもしれない。
 デルフェスは先頭を泳ぐ翠に続いて泳ぎつつ、この景色をしばらく眺めながら泳いでいた。やがて、翠がひとつの小さな洞窟のような場所へと入っていく。
 急に視界が狭くなり、光も閉ざされていく。その時、前方から一筋の光がデルフェスの方へと走ってきた。翠が水中用のライトで、後続している皆へとライトを照らし、道を記しているのだ。とは言え、その海中の通路は一本道だから、そんなに通るのに困る事はなかった。
 上の方に、わずかに光が漏れる部分が見えてきた。翠はまっすぐにそこへ向かい、足だけになった、と思うと水中から見えなくなった。そしてしばらくして、上からライトの光が差し込んできた。デルフェスは皆と一緒にその部分へ入り、水面から陸へと上がった。
「遺跡に到着したのですね」
 デルフェスの目に、薄明かりの中、石造りの大きな扉と、そのまわりに描かれた古代の祭りのような壁画が飛び込んできた。
 写真ではわからなかったが、その壁画もかなり色あせており、そのうち消えてしまうかもしれない。
「皆、お疲れ様。ここが遺跡の入り口よ」
 翠が最後に顔を出したマイの身体を、手を引っ張りあげながら言う。
「まずは、この扉を開けないといけないのですけれども」
「石で出来てるんだな、これ。普通に押してもびくともしない」
 限は身体で扉を押してみるが、扉はまったく動かない。
「ちょっと待ってよ。何か違う方法があるのかもよー?」
 暁はそう言うと、扉に抱きついて見せた。
「何をしていらっしゃるのですか?」
 デルフェスは何をしているのか、と思いながら暁に言った。
「やっぱさ〜、親しみをこめて?ってヤツ?コレが文献に合った、門番じゃないかなあって思って」
「そうなのでしょうか?」
 デルフェスが暁のすぐ隣りに来て、扉を手で触っている。
「ホラ、客を迎える時ってこうしない?だから迎えられる側の役をやってみたんだけど」
 暁はそう言って、扉を優しく撫でるが、扉はまったく動かなかった。
「動きませんね」
 マイも暁の隣りへ行き、扉のあたりで視線を漂わせている。
「こじ開けた方がいいんじゃないのか?出来るならの話だが。僕はあいにく、そういう道具は持って来てないのだが」
 限は皆の様子を見ながら言った。
「えー、乱暴だなあ。でも、開かないならそれしか方法はないかな?」
 扉から少し離れて、暁は答えた。
「では、わたくしがやらせて頂きますわ。皆様、少し後ろへお下がりくださいませ」
 デルフェスは握りこぶしを作り、扉に懇親の力をこめてパンチを食らわした。すると、扉の、デルフェスがパンチを食らわした部分を中心にひびが入り、もう一発デルフェスがパンチをすると、扉はあっという間にバラバラになってしまった。
「凄いな」
 限が驚いた声を出している。砕けた扉を見つめていた。扉は見事にバラバラになり、皆が後ろで口々に凄いとか、さすがだ、などと話してるのが聞こえた。
「さあ、皆様先を急ぎましょう」
 デルフェスに続いて、一行は遺跡の中へと足を踏み入れた。
「中へ入るのは初めてだわね。さて、何があるやら。わくわくしてきたわ!」
 翠がぐぐっと握り拳を作ってみせる。
 デルフェスは遺跡を見上げた。高さは2階建ての建物ぐらいだろうか。天井が少し高めに感じる。入り口と違い、ここは正方形の四角い、殺風景な部屋であった。
 だが、その中央に翼の生えた悪魔のような、おかしな石造が置かれている。その奥に通路があるので、遺跡はさらに奥へと続いているのだろう。
「何だあれ!?」
 限がその石像を見て叫んだ。
「お静かに。おそらくは、あれが門番、という物なのかもしれません。ガーゴイルのような怪物と考えていかと。翠さん、文献には何と書いてありましたかしら?」
 デルフェスは翠の方を振り向いて言った。
「『客人を出迎えよと門番に命を授ける。門番を恐れる者は排除し、毅然とする者は受け入れよと命ずる』だったわね」
 翠が小声で答える。
「それなら、毅然としていなければなりませんわね」
「堂々としてればいいのですね?客人って私達の事ですよね。どんなお出迎えをしてくれるのかしら!」
 マイがにこりとして答える。
「お出迎えと言うのは、遺跡の中にすんなりと入れてくれる事だと思いますわ」
 デルフェスが石像を見つめながら答えた。
「じゃあさ、皆で胸を張って行こうよ。手でもつないでさ、楽しくしてれば、俺達の事、恐れているなんて思わないんじゃない?」
 暁のアイディアに従って、一行は手をつないで胸を張り、楽しく石像の真横を通り、奥へと向かった。
 デルフェスは、何となくその石像の目が、こちらの動きに合わせて動いているような気がしたのだが、恐れなどは一切見せずに、通路へと入った。
「とりあえず、何事もなく通れたな」
 限が部屋の方を振り返りながら、ほっとして息をついている。ブロックを積み上げられて作られた通路を進むと、今度は先ほどの部屋よりも小さな部屋に出た。
「翠さーん、次はどんな事が書いてあったっけ?」
 暁が、本当に何もない部屋に視線を漂わせて翠に尋ねる。
 いや、何もないのではない。部屋の壁に無数の穴が開いているのを見て、内心これは無事に通れるかな、とも思っていたのだ。
「『部屋を進めばその身を多くの剣が貫くであろう。死の剣の奥に扉あり』ちょっと、怖い記述よね?」
 不安そうな表情で、翠は暁を見つめた。
「おそらく、あの穴から剣や槍が飛び出してくる罠ではないでしょうか?」
「ああ、そうかもな。よく映画なんかで見かけるトラップ。雨のように降ってくるんだっけか。だが、そうだとしたらあんなに沢山の穴があるんだぞ、通るのは無理なのでは?」
 限が腕組みをしてそう言うと、デルフェスが少しだけ笑って一歩前へと進んだ。
「あいにく、わたくしはミスリルゴーレムですので、同等の強度を持つ武器でなければわたくしは傷つきませんわ」
 先程の扉の一件を見て、皆、大丈夫だろう、と思ったのだろう。無言で翠達が頷いたので、デルフェスは一番に部屋を通過する事に決めた。
 デルフェスは静かに部屋を進んでいった。とたんに、横で何かが動いたかと思うと、鋭く尖った金属で出来た槍の様な物が音もなく穴から飛び出し、尖った物が身体に当たる感覚がした。
 しかし、デルフェスのその強靭な体に弾かれ、金属の槍は金物の音を立てて地面へと落ちてしまう。
「デルフェス様、凄いですね。万一、怪我をされたら、私の力で治療をと考えていたのですが、その必要ないかも」
 マイも驚いたような声を出している。
 穴から次々と槍が飛び出すが、それらがまったくデルフェスの体を傷つける事はなかった。その数はまさに雨のようであったが、デルフェスには何の痛みも感じない。しばらくすると、壁から飛び出す槍が少なくなり、やがて一本も槍は出てこなくなった。デルフェスは皆を安心させる為に、皆の方を向いて手招きをする。
「弾切れか?」
 床に散らばった槍を見つめながら、限が不信そうな顔をしていた。
「槍が投げられて。これこそやりなげ、だね?」
 暁が思いついたシャレを言うが、誰も笑わなかった。
「まあ、とにかく、今のうちに渡るっきゃないね!」
 暁はまわりをみまわしながら、デルフェスに続いて部屋を渡り始める。
「おい、だけど、もしかしたらそれが罠かも」
「大丈夫だよ、マイさんもいるしね♪」
 限の心配をよそに、暁は部屋を進んでいく。金属の槍を踏まないように気をつけながら進んだが、もう槍が飛んで来る事はないようだった。
 暁の行動で安心したのか、限達も用心しながらも部屋を歩き始めた。その後に翠、マイも続いてくる。
「さてと、次は『永遠なる廊下は死への道か生への道か。廊下に無数の天罰が降り注ぐ』だわね。これもさっきと同じパターンかしら?」
 槍の部屋を出ると、細くて狭い廊下が続いていた。
 翠がそう言うのを聞いて、限は天井を見上げるが、今度は何かが出てくるような穴は見当たらない。
「無数の天罰とありますから、今度は天井から何かが降ってくかと思ったのですが」
 デルフェスは用心をしながら、天井を見上げた。
「でも、道はここしかないですし、先に進むしかないですよね」
 マイがそう言ったのを聞いて、デルフェスが再び廊下に足を進ませる。
「では、またわたくしが参りましょう」
 足音だけを響かせ、デルフェスは通路を進んでいった。
「何もないのかな?」
 限の声が響いている。デルフェスが通路の真ん中あたりまで行っても、まわりでは特に変わった様子はない。
「あ、ちょっと待ってください!あれは何でしょう?」
 マイが急に声を上げたので、デルフェスは後ろを振り返った。見ると、マイが天井を指差している。そこから、半透明の動く塊が、石を敷き詰められた天井の隙間から染み出してきて、それはあっという間に無数の塊が天井から現れ、限達のすぐ上にも出現した。
「動いている!あれ、生き物です!」
 マイが叫んだ。
 半透明の生き物、俗にそれはスライムと呼ばれている生き物だと限は思った。次々に染み出してくるスライムは、拳ほどの大きさの物から、中型犬ぐらいの大きさのものがおり、中には人間の大人ほどの大きさのものまでいた。
 後ろにいる暁のそばに、サッカーボールほどの大きさのスライムが落ちてきた。それはわずかに暁の服のすそをかすったようで、服が溶けたと暁と限が大騒ぎをしていた。
「このスライム達、触るとマズイみたいだよ!」
「皆様、早くこちらへ!」
 デルフェスはスライムを避けながら次の部屋への出口へと走り、そばでスライムを蹴飛ばしながら、皆が走ってくるのを待った。幸いにもスライムの動きは遅く、何とかよければ大丈夫だろうと、デルフェスは思っていた。ところが、突然通路の天井のいくつかの部分が崩れて、その崩れた部分から大量のスライムが雪崩込んできたのだ。
「こんなにいるのか!!」
 限が叫び声を上げたが、天井の一部が崩れる音にかき消されてしまった。
「皆様、今のうちに急いで奥の部屋に!!」
 デルフェスは限達へと叫んだ。落ちてきたスライムが山のように重なり、ところどころの道を塞いでいる。
「わあっち!!」
 翠の手を引いている暁の後ろから限が走ってくるが、腕にスライムが落ちてきたらしい。
「きゃあっ!」
 続いて翠の声である。そして、暁の腕にも小さなスライムが落ちてきたのが見えていた。
「ちょっと、キミには用はないんだよね〜」
 そう呟いて暁はスライムを片手で払っている。マイも暁に続き、この状況でも皆、冷静さは失わず、ようやくデルフェスのいる通路の奥へと辿り付くことが出来た。
「皆様、ご無事で何より」
 最後に駆け込んできた限の姿を見て、マイが長い息をついた。
「まさかあんなものがいるとは。お怪我をされている方もいますね。傷の手当てをしましょう」
 マイが自分の体液を使い、限達の傷をたちまちのうちに治癒させた。
「キミは大丈夫か?」
 怪我を治したマイに、限が尋ねる。
「私は大丈夫です。私は…不死ですから。さあ、皆さんもう大丈夫ですよね?先へ進みましょう」
 通路はすっかり崩れており、まだスライムが蠢いており、帰りがやや心配になるのだが、デルフェス達は先へ進むことにした。
「次はこれね。『死者の部屋の中にある最後の扉は、棺の中に眠る』」
 翠がノートに書いてある文献の一節を読み上げる。
「これは単純に、棺の中に隠し扉があるという事ではないでしょうか?」
「そうだね、俺もそう思う」
 デルフェス達がついた部屋は、行き止まりになっており、他に扉や通路は見当たらない。だが、石で出来た棺がいくつか置かれており、少々不気味な部屋であった。
「それなら、棺を調べればいいんだな?」
 限は一番手前にある棺を覗いている。
「でも気をつけて下さいね。また罠があるかも」
 マイも限に続いて棺を調べている。デルフェスも、皆に続いて棺の中を見つめた。ほとんどが、装飾品をつけた白骨が安置されており、少々不気味な雰囲気であった。
「後少しなのかな〜?」
 暁が白骨に何かを話し掛けているように聞こえたが、何をいったのかはよくわからなかった。
「あったぞ!」
 その時、限があたりに声を響かせてそう叫んだ。その棺だけは空っぽで、中に地下へと続く階段が見えていた。やはり文献通りだと皆で口々に言いながら、デルフェス達は地下へと行く覚悟を決めたのであった。
「いよいよ最後の部屋ですわね」
 デルフェスを先頭にして、一行は少しずつ、地下へと降りた。



「翠さん、最後の文献を」
 階段を降りながら、デルフェスが小さく言う。
「『全ての奥で姫が客人を出迎えるであろう。勇気を示した者に、姫が褒美を分け与える』褒美って何かしら?」
 翠がそう言い終わると同時に、皆は地下へと到着した。
「あれが、姫?」
 翠が顔をしかめた。その部屋は今までのどの部屋よりも豪華で、様々な装飾品や美術品が置かれていた。
 そして、その中央にほとんど朽ちてしまったが、長いドレスを着、沢山の装飾品を付けた骸骨がそっと、玉座に腰掛けていたのであった。
「この遺跡って、どこかの王家の墓なのだろうか?」
 姫をじっと見つつ、限が口から言葉をそっと押し出した。
「まあ、綺麗な石像ですわ」
 デルフェスが骸骨のそばに置かれた小さな女性の像を手にした。 それは少女の姿をした石像で、あちこちが欠けているが、ここにあるということは、おそらくは古代のものなのだろう。
「あ、あれは何?」
 そう言ってマイが骸骨の横をじっと見つめた。そこに、白いもやのような物が立ち上がり、みるみるうちにそれは、頬はこけ、髪は乱れ、歯はぼろぼろに抜け、体の肉は腐りその部分から骨が見えている、無気味な姿の女性の幽霊が現れた。
「よくここまで辿り着いたね。けど、残念だね。ここの宝は私のもんだ」
 地底の底からうなるような声であった。
「簡単に渡すわけにはいかないね。欲しいなら、勇気を見せてみるがいいさ」
 にやりと笑ったその女性の目から、どろりと目玉が抜け落ちる。
「わたくしは、そう簡単には傷つきませんわ」
 デルフェスはまったく心を取り乱さずに、幽霊へと話し掛けた。
「数々のトラップも、先頭に立って超えて、ここへ辿り着いた事自体が、もう立派なものであると、いえるかもしれませんわね。わたくしや、翠様、そして他の皆様達が、無事でここにいる事を、貴方はどうお思いですの?」
 デルフェスは、目だけがギラギラと輝いている幽霊に冷静に話を続けた。
「これから、また貴方が何か仕掛けを出してきたとしても、わたくしはそれを超えてみせましょう。実体のない貴方と違い、わたくしにはこの身体がありますので」
 この幽霊の姿は、他の者達にも見えているのだろう。デルフェスが幽霊をじっと見つめ、少しも動じないでいると、幽霊の姿が少しづつ、変化を始めた。
「私は、こうしている事に罪は感じない。だが、ずっと気がかりであったのだよ。この宝の山が、ここにある事がな」
 次の瞬間、無気味な幽霊の姿が消え、美しくて若い、立派なドレスを着た若い女性が現れた。幽霊である事には違いないが、先ほどと同じ人物とは思えない。
「お前は人間とは少し違うのだな。お前がここまで乗り越えてきたのを、じっくりと見ていたよ。お前はその身体で慢心を起こさず、仲間を守ろうとしたのだな。素晴らしいと思うぞ?私は、昔このあたりで栄えた国の姫だ。父や母は別の場所に埋葬されているが、一緒に埋葬されたこの宝物、幽霊となった私には必要ない。だが、つまらぬ者にくれてやる気もしないのでな」
 姫はデルフェス達を見つめて、可愛らしい笑顔を見せた。
「お前ならくれてやってもいいぞ。お前のように、私に怯えず、しっかりとした話の出来る者も珍しい。ありがとう、若者達。これで思い残す事もない。つまらん連中に、この宝を利用されたくはなかったからな」
 姫はその言葉を残して、部屋から消えてしまった。と同時に、急にまわりが眩しく光ったと思うと、視界が真っ白になり、気づくとデルフェス達は、遺跡の入り口、崩れた扉の前に立っていた。
「あら、これは」
 デルフェスはさきほど、姫の部屋で拾った石像をまだ手に持っていた事に気がついた。
「持ってきてしまいましたわね。頂いてもよろしいのでしょうか。こういうものには、興味がありますので」
「受け取っていいんじゃないかしらね?そんなような事を、姫様も言ったし」
 デルフェスの呟きに、翠は答える。見れば、皆それぞれで宝物をもらったようであった。
「とりあえず、今日はこれで終わりにしましょう!」
 翠の一声の後、デルフェス達は船に戻り、Y・Kシティへと戻る事にした。
 姫は別の場所に父や母が埋葬されたと言っていた。恐ろしい目にもあったが、限達のおかげで遺跡を調査する事が出来た翠が、船の中で他の遺跡はどこにあるのかしらと張り切っているのが、何とも印象的であった。
「長年、寂しいところで1人でいた姫。ちょっと、わたくしに似ておりますわね」
 デルフェスは手の中の少女の石像を見つめ、船に揺られながらあの姫の言葉を思い返すのであった。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【0126/マイ・ブルーメ/女性/316歳/シスター】
【2181/鹿沼・デルフェス/女性/463歳/アンティークショップ・レンの店員】
【3171/壇成・限/男性/25歳/フリーター】
【4782/桐生・暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 鹿沼・デルフェス様

 初めまして!新人ライターの朝霧青海です。シナリオに参加して頂きありがとうございました!
 今回は遺跡物ということで、かなりアドベンチャー風味にしてみたのですが、元々からこういったジャンルのものが好きなようで、文章量が多めです(多めになってしまったと言うべきか(汗))。しかし、長ったらしく感じるかもしれません(汗)
 デルフェスさんは、ミスリルゴーレムということで、どんな感じに描くとそれっぽさが出るかなーと考えながら書いておりました。プレイングを見て、皆の先頭に立ち、どんどん先へ進む行動の方がそれっぽいかと思い、メンバーの中で一番の行動派になっております。
 今回は視点別となっております。他のPC様からの視点からも、お楽しみ頂けたらと思います。それでは、今回は有難うございました!