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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜遠き人魚〜


 とおい昔から、今に続く話。
 教えられてきたことだった、その人がどういう人であったのかや、どう生きてきたのかを。
 昔話のように。
 夜眠る前に聞かされた話のように。
 少年にとっての彼は、先祖であり血の通った者の成した行いであったのだ。
 それは幾代も語り続け、歴史が紡ぎ出してきた作倉家にまつわる話。


「起きなさい」
「……んっ、父さん?」
 いつの間にか眠ってしまったようだ。
 声をかけられ、重い瞼をこするとそれだけでいくらか頭がすっきりする。
「付いたぞ」
「ここは……?」
「もうすぐ降りるから、支度しなさい」
「はい」
 もっとも鞄を肩にかけ、帽子をかぶり直すだけですんでしまう。
 素っ気ない口調の父に続き、駅から博物館に向かう間にぽつぽつと聞いたのはこれから向かう所の話だった。
 日頃足を向けるだろう事のない場所は、生まれる前から続いていたのだという墓参りがあった事と、その近くの博物館に最近見つかったのだというゆかりの品があるからだと言う。
 実際の所は、そろそろ先祖のことを学んでおくのもいいかもしれない年だといっていたのを母から聞いたのを思い出す。
「こっちだ」
 地図を片手に幾度目かの角を曲がり、二人は博物館へと到着する。
「……ここ」
「行こう」
 入り口を見上げる少年を中へと促し、館内へと入っていった。



 古い作りの建物をそのまま利用した館内には、二人の他に数人程いたが聞こえるのは小さな話し声と床を歩く音ばかりである。
 道順に沿って歩きながら、父が丁寧に展示品の説明をしてくれた。
 すぐ側には小さなプレートに説明が書かれてはあったが、父の説明の方がずっと詳しく分かりやすい。
 カラスケースの向こうに飾られた刀剣の前で立ち止まる。
「わー……」
「本当に使っていた物のようだ」
 誰がとは言わない、ご先祖様かそのゆかりの人達がだろう。
 古い品だけあって、展示された刀は鈍い光を放っている。
 うっすらと見える波模様とわずかにかけた刃は、過去本当に用いられていたからこそなのだろう。
「あまりみていると魅入られる」
「え?」
「冗談だ」
 見上げるとほんの少しだけ笑っているように思えた。
「………」
 何かを言うより先に二、三歩進みながら話の続きを始めてしまうと、直ぐにそれはどうでも良くなった。
 父の話は、とても詳しく興味深い物だったから。
「そうだな、今日は文永と弘安の役の時に起きた話にしよう」
 この話をするときの父は、とても楽しそうだった。
「勝利の名の由来になった人も関わっている事だ」
「俺の?」
 何度か聞いていたけれど、何を為した人かまでは詳しくは知らない。
「ずっと昔の鎌倉時代に、元と……分かりやすく言えば、中国の一時代を支配していた偉い国で。そこと戦をしたことがあったんだ」
 いつになく饒舌な父の言葉に、静かに耳を傾ける。
 その時の事を知っているかのような話し方は、きっと父も同じように話を聞かされていたからなのかもしれない。
 展示品をみて歩きながらの説明も、本当に詳しくてその時にいたかのようであると同時に、展示されている品がとても身近に思えてくるのもとても不思議だった。
 きっとただ見ているだけであったのなら、幾ばくか眺めて先へと進んでしまったかもしれなかったから。
「ご先祖様の作倉家が北条家に使えてたのは……」
「うん、教えてもらった」
 頷くの確認してから、話を続ける。
 まるで先生と生徒のようだと思ったが、学校とは違うのは話を聞いているのがたった一人であり、ペースを考えてくれるからこそ分かりやすいのだ。
「それで作倉家のご先祖様達も、当時の権力者である北条家縁の者として、その戦に参加していたそうだ」
 文永11年と建治元年の二度に渡り行われた戦である。
 14万もの元軍に対し、北条家とその縁の者達が迎え撃ったそうだ。
「作倉家も一族を率いて多大な武勲を挙げたと言われている」
 得意だったという馬を駆り、弓を持ち戦場を駆けたという。
 展示されている弓矢が示すように、陸と船上での戦いに対応されるように射程の長い弓矢が残されている。
 先手を打ち、元軍よりも有利な武器を作り出していたのだ。
 実際には14万総てが兵ではなかったとも言われている、相手が侮っていたとも、不幸が重なっていたこともあった筈。
 そう言ってしまうのはとても簡単である。
「弓矢や、剣はここにあっても、それを用いてどんな戦いをしていたのかは想像するしかないんだ」
「……うん」
 だらこそ、こうして何があったのかを語り続けるのだ。
 古から続く歴史を。
 紡ぎ続ける血の繋がりを。
「その後どうなったの?」
「ん? ああ、戦の後か」
「うん」
「北条家やその縁の人達や、作倉家も繁栄していた時期があったそうだ」
 歴史的に語るのであれば武士の扱いはよい物ではなかったかもしれない。
「だからこそ、臨終の間際に鎌倉幕府と北条得宗家の滅亡を暗示していたそうだよ」
 先を見越していたのだろう。
 偏った横暴なやり方が導く末路を。
 何か正しいかを理解せず、不信感を募らせたまま、事をあやふやにしてしまったらどうなるか。
 気づいていたのだ。
 あの戦を駆け、矢を放ち、剣を振るったのは兵達だというのに。
 戦場で傷つき倒れていった者も、それを看取ったのも兵であるのに。
 勝利したのは貴族達が祈ったからだという。
 神風が起きたからだというのだ。
 相手に数々の不幸が重なったのは事実。
 思考や、天候、数々の偶然が重なりはしたが……その場にいなかった者が何を知ろうというのだろう。
 だからこそ、解ってしまったのだ。
 いずれくる終末の時を。



 併せていた手を下ろし、目を開く。
 供えられた線香の先端から、静かに煙が空へと上っていく。
「さあ、帰ろう」
「もういいの?」
「ああ」
 博物館を出た後。
 本来の目的であった墓参りに向かい、今それを終えた所だ。
 背を向け、ゆっくりと家路へと向かう。
 今からなら夜には家に着くだ筈。
 小さくなる背中を見送るのは、作倉勝利の妻と子供達の墓だ。
 あの時代を生き、人としてその生を終えた者の墓。
 それは幸せであったのだろうか?
 真実は、聞かなければ解らない事だ。
 解ることはとても少ない、
 作倉勝利は亡くなる間際にこう言い残したそうである。


「平氏を滅ぼすのは源氏。努々忘れるな」


 始まりと終わり。
 それは、螺旋のように紡ぎ続けられる歴史に対しての暗示。
 大きく変わっているように見えて、殆ど同じで。
 同じように見えて、少しだけ違うのだ。
 出来るなら、人が紡ぐ歴史がよい方向へと変わっている事を信じたい。
 歴史の螺旋が、途切れる事の無いように。



「起きてください」
「……え?」
 肩をたたかれ目を覚ます。
 目の前にたっているのは、見知らぬ駅員だった。
 今座っているのは電車のシートの端。
「………」
 一瞬どうしてここにいるのかすら、理解できなかった。
 言葉すら失うほどに、胸に開いた穴は大きい物だったから。
「終点ですから」
「あ、はい……」
 何とか返答を返す。
 それは何度も繰り返してきた感情だったから。
 電車から降り風に当たると、寝ぼけていた頭が回転し始める。
どうやらすっかり眠ってしまっていたようだ。
 なんて夢を見ていたのだろう。
 あれは、人としての命を全うしていたらの世界だ。
 あの戦も、その後の歴史も勝利は見届ける事しかできなかったのだから。
 人魚の肉を口にしなければ、家に残っていたのなら。
 何かが、変わっていたのだろうか。
 あの穏やかな夢のように、螺旋を紡ぎ続ける事が出来たかもしれない……。
「………」
 静かに首を振り、夢なのだと自らに言い聞かせる。
「墓参り、行ってみるか」
 空を仰ぎ遠くを見つめた。
 あり返しの電車がくるのは、もう少し先。
 いつか、今日見たあの夢のように螺旋を紡ぐ日が来るのだろうか?
 それはまるで祈りのような、もしもの世界。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2180/作倉・勝利/男性/757歳/浮浪者】

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。


発注ありがとうございました。
歴史に関わる話ですので、
出来る限り調べましたが何かあったらおっしゃってくださいませ。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。