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<東京怪談・PCゲームノベル>


『遺跡探索へ行こう!』



「今度遺跡の調査へ行く事になったんだけど、お手伝い頂けないかしら?」
 Y・Kシティにある巨大図書館の館長、山音・翠(やまね・みどり)にマイ・ブルーメ (まい・ぶるーめ)が声をかけられたのは、週末の昼下がり、とても良い天気の日の事であった。
「遺跡、ですか?」
 生死に関する事が書かれた本を棚に戻し、マイは翠の方へ顔を向けた。
 マイは遥か昔、「死ぬ事」を禁じられた。不死の体を持ち続けるマイは、この図書館へ来ては「死ぬ方法」を探し出しているのであった。生きる事や死ぬ事に関する本は、割とあるものだ。だが、マイが探している内容の書物は、今のところ見つかってはいない。
 翠とは、マイが自分の必要とする記述を探す為に図書館へ何度か訪れるうちに、知り合ったのであった。
「わたくしの知り合い、何人かに声をかけさせてもらっているんだけどね。シティから船で2時間ぐらいのところにある島へ行くの。マイさんは、治癒が得意だったわよね。一緒に行ってくれると、とても助かるのだけど」
「あら、そうなんですね。私でお手伝い出来るのなら、是非」
 マイはにこりと笑い、翠に言葉を返した。
 そして「死ぬ方法」も見つかるかしらと、心の中で思っていた。その方法を探すこと自体がすでにマイのライフワークになっており、古代の何らかの生や死に関する記述が、遺跡で発見出来れば、とそう思って遺跡探索の手伝いを承諾したのもあったのだった。
「助かるわ。では、今度の週末にお願いね。集合場所と時間は、このメモに書いておいたわ。他にも何人か来る事になると思うけど、よろしくお願いするわね」
 その後、マイは図書館を出て、近くにある商店街へと向かった。遺跡の入り口が海の中にあると聞き、水着を用意しなければならないと、思ったからであった。
「おお、マイさんではないですか。お買い物ですか?」
 ここは、マイがよく買い物に来る商店街であるから、店の人々ともすっかり顔なじみであった。
「はい。知り合いの方の、遺跡調査を手伝う事になりました。海に潜る事になるようなので、水着を買おうと思いまして」
「水着?それなら、ちょうどいいのが入ったばかりだよ!」
 そう言うと洋服屋のオヤジは、ルンルンと鼻歌を歌いながら店の奥へ行き、手に箱を持ってまた戻ってきた。
「新作の水着が入ったばかりでね。きっと、似合うと思うよ?」
「あら、オススメの水着ということですね?どんなのかしら」
 マイはオヤジから渡された水着を手にし、それを手でもったまま広げた。
「まあ、とても可愛らしい事」
「そうだろう?これ、試作品だし、いつもお世話になっているマイさんにあげるさ!」
 オヤジは満足した笑顔を浮かべているが、水着はかなり食い込みが激しい一品で、しかも見えるか見えないかの瀬戸際なほどのスケスケ素材、おばちゃまが見たらこんな下品なもの!と一喝されそうなものであったが、マイは笑顔でそれを受け取ると、オヤジに微笑を投げかけた。
「ありがとうございます。ご好意ありがたく受け取らせて頂きますわ」
 マイはシスターなのであるが、その水着を何とも思わないで受け取るところが、素直というか天然ボケというか。とにかく水着を入手したマイは、そのまま自宅へと戻り、次の週末が来るのを待ったのであった。



「こんなに沢山の方々が、わたくしのお手伝いをしてくれるなんて。とても頼りにしているわ。やっぱり、か弱い乙女のわたくし1人では、限度がありますものね」
 翠は、揺れる船室に集まった者達の顔を見回し、嬉しそうに微笑んでいる。
「遺跡の調査なんてさ、わくわくするよね〜!それに、翠さんと一緒に探索するのって、絶対に楽しいよ〜♪」
 翠の隣りに座り、長靴の形をした島の地図をじっくりと見ている金髪の美しい顔立ちの青年、桐生・暁(きりゅう・あき)は皆へにこりと笑って見せた。暁はその外見からして、高校生ぐらいであろうか。
「俺さ、楽しそうな事には目がないんだ〜。興味本位で来たけど、どんな遺跡なのか楽しみなんだよ。それに、皆と一緒なのも」
 暁はまわりを見回し、一人離れて端の方に座っている限と目が合うと、限の横へと移動をし、腰を降ろしていた。
「ねね、そんな隅にいないでさあ、こっちへ来ない?」
「いや、僕はここでいい」
 ぽつりと限が呟く。
「そんな事言わないでさ〜、可愛い子も沢山いるよ、ほらあ」
 暁は翠の横で景色を眺めていたデ鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)と、にこにこ笑顔のマイに、微笑を送っている。
「だって、僕、間違えてしまったし。本当は別の船に乗るはずが。こんな時に限って、携帯電話忘れるし」
 限はからっぽのポケットに手を当てて呟く。
「どっちにしても、このような海の上では、無線ぐらいしか通じないと思いますわ。せっかくご一緒したのも何かのご縁でしょう。それに危険な目には、このわたくしが合わせませんわ」
 デルフェスは貴族のような高価そうな服を着て、落ち着いた表情で座っていた。
「えっ、でも」
 その優雅な姿を見て、限は戸惑ってしまっている。
「ご安心下さいませ。わたくしは中世の時代に作られたミスリル製のゴーレムでございます。この身体を、ダイヤモンドよりも硬くする事も出来ますから。信じられないかもしれませんが…ともあれ、わたくしはこの鑑識眼を翠様に買われて、この探索に参加致しました。わたくしの役割は、きっちりと果たそうと思っておりますので」
「大丈夫、限さん♪皆いるんだしさ!」
 暁が不安そうな顔をしている限に、笑顔を返して見せた。
「そうですね、私も治療をする事が出来ますし。罠が多そうですしね」
 すでにあの水着は装着済みであった。まわりからマイの体へと視線が集まるのだが、マイはそんなことはちっとも気にしていない。
「私に任せて下さい。危険な罠でも大丈夫ですから」
 優しい口調で、マイは皆へと笑いかけた。
「何となく、女性の方が逞しいわね」
 そう言って翠が、口元に笑みを浮かばせた。
「そろそろ、島に上陸するわ。準備はいい?今日はよろしく頼むわね」
 やがて船は、長靴島と名づけられた島の小さな入り江に到着した。
「この入り江の下に、遺跡の入り口があるの。水着を持ってきた子はいいとして、持ってない人には貸してあげるわ。こんな事もあろうかと、用意したのよ」
「準備がいいんだね?」
 限が翠から、眩しい程のピンク色の海パンを受け取りながら、こんなのしかないのか、というような苦笑を浮かべていた。だが、これしかないのだと翠が言い張っているのを見て、諦めたようだ。
「水着持ってきて良かったですね」
 マイはそっと隣にいる暁につぶやいた。
「その他の荷物や着替えは、この防水用のケースに入れて持っていくのよ。肺に自信がない人には、酸素ボンベも貸してあげる。ラジオ体操に合わせて準備体操が終わったら、海へ潜るわよ」
 何故か、船の上でラジオ体操をする5人…マイやデルフェスは、その体質上、準備体操も必要なさそうであるが、皆に合わせてという事なのだろう。
 体操を終えると、マイ達は翠の指示に従って、1人ずつ、順番に船から海中へと飛び込んで行った。



(とても綺麗な海)
 メガロポリスであるY・Kシティから船で2時間足らず。それにも関わらず、この島の周辺には珊瑚の海が広がっている。通常ではありえないが、それが異界の不思議なのかもしれない。
 マイは皆の一番最後につき、ゆっくりと泳ぎつつ、目の前に広がる景色を楽しんでいた。やがて、急に視界が狭くなり、光も閉ざされていく。その時、前方から一筋の光がマイの方へと走ってきた。翠が水中用のライトで、後続している皆へとライトを照らし、道を記しているのだ。とは言え、その海中の通路は一本道だから、そんなに通るのに困る事はなかった。
 上の方に、わずかに光が漏れる部分が見えてきた。翠はまっすぐにそこへ向かい、足だけになった、と思うと水中から見えなくなった。そしてしばらくして、上からライトの光が差し込んできた。マイは皆と一緒にその部分へ入り、水面から陸へと上がった。
「ここが、遺跡なんですね」
 マイの目に、薄明かりの中、石造りの大きな扉と、そのまわりに描かれた古代の祭りのような壁画が飛び込んできた。
 写真ではわからなかったが、その壁画もかなり色あせており、そのうち消えてしまうかもしれない。
「皆、お疲れ様。ここが遺跡の入り口よ」
 翠が最後に顔を出したマイの身体を、手を引っ張りあげながら言う。
「まずは、この扉を開けないといけないのですけれども」
「石で出来てるんだな、これ。普通に押してもびくともしない」
 限は身体で扉を押してみるが、扉はまったく動かない。
「ちょっと待ってよ。何か違う方法があるのかもよー?」
 暁はそう言うと、扉に抱きついて見せた。
「何をしていらっしゃるのですか?」
 デルフェスが不思議そうな表情で、暁に尋ねる。
「やっぱさ〜、親しみをこめて?ってヤツ?コレが文献に合った、門番じゃないかなあって思って」
「そうなのでしょうか?」
 デルフェスが暁のすぐ隣りに来て、扉を手で触っている。
「ホラ、客を迎える時ってこうしない?だから迎えられる側の役をやってみたんだけど」
 暁はそう言って、扉を優しく撫でるが、扉はまったく動かなかった。
「動きませんね」
 マイも暁の隣りへ行き、扉のあたりで視線を漂わせている。
「こじ開けた方がいいんじゃないのか?出来るならの話だが。僕はあいにく、そういう道具は持って来てないのだが」
 限は皆の様子を見ながら言った。
「えー、乱暴だなあ。でも、開かないならそれしか方法はないかな?」
 扉から少し離れて、暁は答えた。
「では、わたくしがやらせて頂きますわ。皆様、少し後ろへお下がりくださいませ」
 デルフェスは握りこぶしを作り、扉に懇親の力をこめてパンチを食らわした。すると、扉の、デルフェスがパンチを食らわした部分を中心にひびが入り、もう一発デルフェスがパンチをすると、扉はあっという間にバラバラになってしまった。 それを見てマイは、ミスリルで出来たゴーレム、と彼女が言っていたのに、やっと真実味を帯びたような気がした。
「凄いな」
 限が驚いた声を出している。扉は見事にバラバラになり、皆はそのデルフェスの力に驚きの声をあげるのであった。
「さあ、皆様先を急ぎましょう」
 デルフェスに続いて、一行は遺跡の中へと足を踏み入れた。
「中へ入るのは初めてだわね。さて、何があるやら。わくわくしてきたわ!」
 翠がぐぐっと握り拳を作ってみせる。
 マイは遺跡を見上げた。高さは2階建ての建物ぐらいだろうか。天井が少し高めに感じる。入り口と違い、ここは正方形の四角い、殺風景な部屋であった。
 だが、その中央に翼の生えた悪魔のような、おかしな石造が置かれている。その奥に通路があるので、遺跡はさらに奥へと続いているのだろう。
「何だあれ!?」
 限がその石像を見て叫んだ。
「お静かに。おそらくは、あれが門番、という物なのかもしれません。ガーゴイルのような怪物と考えていかと。翠さん、文献には何と書いてありましたかしら?」
 デルフェスが翠の方を振り向いて言った。
「『客人を出迎えよと門番に命を授ける。門番を恐れる者は排除し、毅然とする者は受け入れよと命ずる』だったわね」
 翠が小声で答える。
「それなら、毅然としていなければなりませんわね」
「堂々としてればいいのですね?客人って私達の事ですよね。どんなお出迎えをしてくれるのかしら!」
 マイがにこりとして答える。 素敵なおもてなしをしてくれるといいな、とひそかに期待したのだが、真面目な顔をしてデルフェスが言葉を返してきた。
「お出迎えと言うのは、遺跡の中にすんなりと入れてくれる事だと思いますわ」
 デルフェスが石像を見つめながら答えた。
「じゃあさ、皆で胸を張って行こうよ。手でもつないでさ、楽しくしてれば、俺達の事、恐れているなんて思わないんじゃない?」
 暁のアイディアに従って、一行は手をつないで胸を張り、楽しく石像の真横を通り、奥へと向かった。
 マイは、何となくその石像の目が、こちらの動きに合わせて動いているような気がしたのだが、恐れなどは一切見せずに、通路へと入った。
「とりあえず、何事もなく通れたな」
 限が部屋の方を振り返りながら、ほっとして息をついている。ブロックを積み上げられて作られた通路を進むと、今度は先ほどの部屋よりも小さな部屋に出た。
「翠さーん、次はどんな事が書いてあったっけ?」
 暁が、本当に何もない部屋を見つめ翠に尋ねる。
 いや、何もないのではない。部屋の壁に無数の穴が開いているのを見て、内心これは無事に通れるかな、とも思っていたのだ。
「『部屋を進めばその身を多くの剣が貫くであろう。死の剣の奥に扉あり』ちょっと、怖い記述よね?」
 不安そうな表情で、翠は暁を見つめた。
「おそらく、あの穴から剣や槍が飛び出してくる罠ではないでしょうか?」
「ああ、そうかもな。よく映画なんかで見かけるトラップ。雨のように降ってくるんだっけか。だが、そうだとしたらあんなに沢山の穴があるんだぞ、通るのは無理なのでは?」
 限が腕組みをしてそう言うと、デルフェスが少しだけ笑って一歩前へと進んだ。
「あいにく、わたくしはミスリルゴーレムですので、同等の強度を持つ武器でなければわたくしは傷つきませんわ」
 先程彼女は、硬い岩の扉を砕いたのだ。自分が率先して行くのも良かったが、デルフェスがすでに足を踏み出していたので、ここはデルフェスに任せた方がいいかもとマイは思った。万一彼女に何かがあったら、自分が傷ついてでも助けに行くつもりではあったが。
 デルフェスは静かに部屋を進んだ。とたんに、鋭く尖った金属で出来た槍の様な物が音もなく穴から飛び出し、デルフェスの体へと命中した。
 しかし、デルフェスのその強靭な体に弾かれ、金属の槍は金物の音を立てて地面へと落ちる。
「デルフェス様、凄いですね。万一、怪我をされたら、私の力で治療をと考えていたのですが、その必要ないかも」
 マイもデルフェスの体の頑丈さに、驚きの声をあげる。
 穴から次々と槍が飛び出すが、それらがまったくデルフェスの体を傷つける事はなかった。しばらくすると、壁から飛び出す槍が少なくなり、やがて一本も槍は出てこなくなった。
「弾切れか?」
 床に散らばった槍を見つめながら、限が不信そうな顔をしていた。
「槍が投げられて。これこそやりなげ、だね?」
 暁が思いついたシャレを言うが、誰も笑わなかった。
「まあ、とにかく、今のうちに渡るっきゃないね!」
 暁はまわりをみまわしながら、デルフェスに続いて部屋を渡り始める。
「おい、だけど、もしかしたらそれが罠かも」
「大丈夫だよ、マイさんもいるしね♪」
 限の心配をよそに、暁は部屋を進んでいく。金属の槍を踏まないように気をつけながら進んだが、もう槍が飛んで来る事はないようだった。
 暁の行動で安心したのか、限達も用心しながらも部屋を歩き始めた。その後に翠、マイもまわりを見ながら部屋を横切った。あの槍に刺されても、自分は命を失う事はないのではないか、と思いつつ、マイは皆へと続いた。
「さてと、次は『永遠なる廊下は死への道か生への道か。廊下に無数の天罰が降り注ぐ』だわね。これもさっきと同じパターンかしら?」
 槍の部屋を出ると、細くて狭い廊下が続いていた。
 翠がそう言うのを聞いて、マイは天井を見上げるが、今度は何かが出てくるような穴は見当たらない。
「無数の天罰とありますから、今度は天井から何かが降ってくかと思ったのですが」
 デルフェスもそう言って天井を見上げた。
「でも、道はここしかないですし、先に進むしかないですよね」
 マイがそう言ったのを聞き、デルフェスが再び廊下に足を進ませる。
「では、またわたくしが参りましょう」
 足音だけを響かせ、デルフェスは通路を進んでいった。
「何もないのかな?」
 限の声が響いている。デルフェスが通路の真ん中あたりまで行っても、まわりでは特に変わった様子はない。
「あ、ちょっと待ってください!あれは何でしょう?」
 マイが天井を指差した。何か小さなものが天井で動いた気がしたのだ。そう思っていると、半透明の動く塊が、石を敷き詰められた天井の隙間から染み出してきて、それはあっという間に無数の塊が天井から現れた。
「動いている!あれ、生き物です!」
 マイが半透明の生き物の動きを目で追いつつ、叫んだ。
 半透明の生き物、俗にそれはスライムと呼ばれている生き物だとマイは思った。次々に染み出してくるスライムは、拳ほどの大きさの物から、中型犬ぐらいの大きさのものがおり、中には人間の大人ほどの大きさのものまでいた。
 後ろにいる暁のそばに、サッカーボールほどの大きさのスライムが落ちてきた。それはわずかに暁の服のすそをかすったようで、服が溶けたと暁と限が大騒ぎをしていた。
「このスライム達、触るとマズイみたいだよ!」
「皆様、早くこちらへ!」
 マイはとにかく今は先に避難する事が優先だと思い、皆に続いて走り出した。ところが、突然通路の天井のいくつかの部分が崩れて、その崩れた部分から大量のスライムが雪崩込んできたのだ。
「こんなにいるのか!!」
 限が叫び声を上げたが、天井の一部が崩れる音にかき消されてしまった。
「皆様、今のうちに急いで奥の部屋に!!」
 デルフェスはマイ達へと叫んでいる。落ちてきたスライムが山のように重なり、ところどころの道を塞いでいる。
「わあっち!!」
 翠の手を引いている暁の後ろから限が走ってくるが、腕にスライムが落ちてきたらしい。
「きゃあっ!」
 続いて翠の声である。そして、暁の腕にも小さなスライムが落ちてきたのが見えていた。
「ちょっと、キミには用はないんだよね〜」
 そう呟いて暁はスライムを片手で払っている。何人か怪我人が出たようであるが、すぐに治療するからと、マイはこの騒ぎの中で叫び、皆を安心させようとした。
 とにかく、早く出口のところへとスライムを避けながら必死で走り、ようやく出口についた頃は、通路に足の踏み場もないほど、スライムがひしめき合っていた。
「皆様、ご無事で何より」
 最後に駆け込んできた限の姿を見て、マイはほっとして長い息をついた。
「まさかあんなものがいるとは。お怪我をされている方もいますね。傷の手当てをしましょう」
 今こそ自分の力を役立てる時、と、マイは自分の体液を使って、皆の傷をたちまちのうちに治癒させた。
「キミは大丈夫か?」
 怪我を治したマイに、限が尋ねる。
「私は大丈夫です。私は…不死ですから。さあ、皆さんもう大丈夫ですよね?先へ進みましょう」
 限にそう言われて、素直に喜べないものがあった。死ぬ事の出来ない自分、それは、限のような者達には、どう感じるのであろうかと思ったのだった。
 通路はすっかり崩れており、まだスライムが蠢いており、帰りがやや心配になるのだが、マイ達は先へ進むことにした。
「次はこれね。『死者の部屋の中にある最後の扉は、棺の中に眠る』」
 翠がノートに書いてある文献の一節を読み上げる。
「これは単純に、棺の中に隠し扉があるという事ではないでしょうか?」
「そうだね、俺もそう思う」
 限が答えた。
 マイ達がついた部屋は、行き止まりになっており、他に扉や通路は見当たらない。だが、石で出来た棺がいくつか置かれており、少々不気味な部屋であった。
「それなら、棺を調べればいいんだな?」
 限は一番手前にある棺を覗いている。
「でも気をつけて下さいね。また罠があるかも」
 マイも限に続いて棺を調べた。石で出来た棺のほとんどが、装飾品をつけた白骨が安置されており、少々不気味な雰囲気であったものの、マイはその死者達に、憧れの思いを抱くのであった。
「後少しなのかな〜?」
 暁が白骨に何かを話し掛けているように聞こえたが、何をいったのかはよくわからなかった。
「あったぞ!」
 その時、限があたりに声を響かせてそう叫んだ。その棺だけは空っぽで、中に地下へと続く階段が見えていた。やはり文献通りだと皆で口々に言いながら、マイ達は地下へと行く覚悟を決めたのであった。
「いよいよ最後の部屋ですわね」
 デルフェスを先頭にして、一行は少しずつ、地下へと降りた。



「翠さん、最後の文献を」
 階段を降りながら、デルフェスが小さく言う。
「『全ての奥で姫が客人を出迎えるであろう。勇気を示した者に、姫が褒美を分け与える』褒美って何かしら?」
 翠がそう言い終わると同時に、皆は地下へと到着した。
「あれが、姫?」
 翠が顔をしかめた。その部屋は今までのどの部屋よりも豪華で、様々な装飾品や美術品が置かれていた。
 そして、その中央にほとんど朽ちてしまったが、長いドレスを着、沢山の装飾品を付けた骸骨がそっと、玉座に腰掛けていたのであった。
「この遺跡って、どこかの王家の墓なのだろうか?」
 姫をじっと見つつ、限が口から言葉をそっと押し出した。
「まあ、綺麗な石像ですわ」
 デルフェスが骸骨のそばに置かれた、小さな女性の像を拾い上げている。
「あ、あれは何?」
 そう言ってマイが骸骨の横をじっと見つめた。そこに、白いもやのような物が立ち上がり、みるみるうちにそれは、頬はこけ、髪は乱れ、歯はぼろぼろに抜け、体の肉は腐りその部分から骨が見えている、無気味な姿の女性の幽霊が現れた。
「よくここまで辿り着いたね。けど、残念だね。ここの宝は私のもんだ」
 地底の底からうなるような声であった。
「簡単に渡すわけにはいかないね。欲しいなら、勇気を見せてみるがいいさ」
 にやりと笑ったその女性の目から、どろりと目玉が抜け落ちる。
「勇気、ですか?難しい事ですね。だけど、貴方を見て、感じた事があるんです」
 マイは動揺もせずに、幽霊へと話し掛けた。
「どこのどなたかは存じませんが、私は貴方が羨ましい」
「羨ましい?この私を?」
 マイは、目だけがギラギラと輝いている幽霊に冷静に話を続けた。
「私は貴方の様に、死者となる事が出来ませんから。そういう体なのです。この遺跡へは、もちろん翠様のお手伝いに来たのですが、死ぬ方法もないだろうかと思っておりました。もし、その方法を知っていたら、教えて欲しいのです。私は宝などは要りません。勇気を見せる事もうまく出来ないですが、死者である貴方を見て思うことは、それだけなのです」
 この幽霊の姿は、他の者達にも見えているのだろう。そう答えてマイが幽霊をじっと見つめ、少しも動じないでいると、幽霊の姿が少しづつ、変化を始めた。
「お前のようなものも珍しいな。私は、お前のように死を望んで、ここでこうしているわけではないからな。残念ながら、私にはお前の質問には答えられない」
 次の瞬間、無気味な幽霊の姿が消え、美しくて若い、立派なドレスを着た若い女性が現れた。幽霊である事には違いないが、先ほどと同じ人物とは思えない。
「だが、あまりあせるな。私はそう思うぞ?死者である私には、生きているお前が羨ましいのだからな。私は、昔このあたりで栄えた国の姫だ。父や母は別の場所に埋葬されているが、一緒に埋葬されたこの宝物、幽霊となった私には必要ない。だが、つまらぬ者にくれてやる気もしないのでな」
 姫はマイ達を見つめて、可愛らしい笑顔を見せた。
「その方法を与える事は出来ない。だが、お前達の動きは見せてもらっていたよ。お前は、自分の身で仲間の怪我を治したりしていたのだな。このような場所では、それもなかなか難しいだろう。死ぬ方法はわからんが、お前にこの宝を譲る。この宝を、つまらん連中に渡したくはないからな」
 姫はその言葉を残して、部屋から消えてしまった。と同時に、急にまわりが眩しく光ったと思うと、視界が真っ白になり、気づくとマイ達は、遺跡の入り口、崩れた扉の前に立っていた。
「これは鏡?」
 マイはいつの間にか自分の手に、古びた鏡がある事に気がついた。
「これは姫が言っていた宝なのでしょうか。随分古いものでありますが」
「受け取っていいんじゃないかしらね?そんなような事を、姫様も言ったし」
 マイの呟きに、翠は答える。見れば、皆それぞれで宝物をもらったようであった。
「あの姫が使っていたものなのかも、しれないですね」
「とりあえず、今日はこれで終わりにしましょう!」
 翠の一声の後、マイ達は船に戻り、Y・Kシティへと戻る事にした。
 姫は別の場所に父や母が埋葬されたと言っていた。恐ろしい目にもあったが、マイ達のおかげで遺跡を調査する事が出来た翠が、船の中で他の遺跡はどこにあるのかしらと張り切っているのが、何とも印象的であった。
「私の探し物は見つからなかったですが、いい経験はしました。水着も着られたしですしね」
 マイはそう言って、古ぼけた鏡に自分の姿を映し、遠ざかっていく島を見つめるのであった。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【0126/マイ・ブルーメ/女性/316歳/シスター】
【2181/鹿沼・デルフェス/女性/463歳/アンティークショップ・レンの店員】
【3171/壇成・限/男性/25歳/フリーター】
【4782/桐生・暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 マイ・ブルーメ様

 初めまして!新人ライターの朝霧青海です。シナリオに参加して頂きありがとうございました!
 今回は遺跡物ということで、かなりアドベンチャー風味にしてみたのですが、元々からこういったジャンルのものが好きなようで、文章量が多めです(多めになってしまったと言うべきか(汗))。しかし、長ったらしく感じるかもしれません(汗)
 マイさんは、天然なほわんとした部分と、「死ぬ方法」を追い求める面を出しながら、遺跡探索をする様子を描かせて頂きました。 後者は少しシリアスになるので、描写などは少し考えて、後半の幽霊を説得する部分では、その設定を存分にセリフに出してみました。
 今回は視点別となっております。他のPC様からの視点からも、お楽しみ頂けたらと思います。それでは、今回は有難うございました!