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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

クラウレス・フィアート編

●心配
「あのあとどうなったでちか…。すこししんぱいでちね」
 金髪の一見少年に見える青年、クラウレス・フィアートが公園のベンチに座りながら一人小さく呟く。
「よし、こうしててもしかたないでち、やっぱりちょくせついってたしかめるしかないでちね」
 クラウレスはそう呟くと、今まで座っていたベンチから立ち上がり、公園を出て行った。
「シュークリーム8個……でいいんだね?」
 とりあえず、まず先に行こうと思った文月堂へ行く途中に通りかかった洋菓子屋さんでクラウレスはお土産を買っていこうと思いしばらく悩んだ結果、シュークリームを買うことに決めた。
「うん、8こでおねがいするでち」
「しかし運がいいねぇ、今丁度サービスデーをやってて、シュークリームは一個おまけしてあげてるんだよ」
 そう言って笑いながら店員のお兄さんがシュークリームを一個余分に箱に積めて、クラウレスに渡す。
「ありがとうでち」
 クラウレスはシュークリームの代金を支払いながら、嬉しそうに不たちに分けられたシュークリームの箱を受け取る。
「シュークリームは崩れやすいからな、気をつけて持ってけよ」
「だいじょうぶでち、こうみえてもばらんすかんかくはいいほうでち」
「そっか、なら大丈夫だな」
 そんな会話を交わした後、クラウレスは両手に洋菓子店の名前の入った紙箱を持つとゆっくり歩き出す。
「ゆきなさんもせつなさんもしゅーくりーむをきにいってくれるとうれしいでちね」
 そんな事を考えながらクラウレスは歩を早めるのであった。

●文月堂にて…
「こんにちは…でち。ってゆきなさんきていたのでちか」
 文月堂に着いたクラウレスは店に学校の帰りだろうか、制服姿の逢坂雪那(あいさか・ゆきな)が来ている事に驚く。
「あ、クラウレスさん、こんにちは。先日はどうもありがとうございました」
 やんわり、それでいてどこか恥ずかしそうにクラウレスに微笑みかける雪那を見て、クラウレスはそこに日常が戻ってきている事を確信できた。
「それにしても今日はどうしたんですか?」
 黒いシャツの上からどう見ても似合っていない可愛いいエプロンをかけて雪那と話していた冬月司(ふゆつき・つかさ)がクラウレスに聞く。
「きょうはゆきなさんのことでゆきなさんのいえにおうかがいしようとおもって、そのまえにあいさつをしておこうとおもってこっちにやってきたのでちよ。そういうつかささんはどうしたんでちか?」
「ああ、僕は今日ここの店番を頼まれててね、雪那ちゃんがちょうど遊びに来てたから話してたんだよ」
「そうだったんでちか。だったらきょうこっちにきたのはせいかいだったみたいでちね。あ、これはみなさんへのおみやげのしゅーくりーむでち。こっちはゆきなさんとせつなさんとそのごかぞくにとおもってもってきまちた」
 二つ持ってきたうちの片方の箱をそう言って雪那に手渡す。
「こっちはここにいる人たちでわけようとおもってもってきたんでちよ」
 クラウレスはもうひとつの箱を開けて中身を見せる。
「あーだったらちょっと何かお茶でも淹れてくるよ。ちょっと待ってもらえるかな?」
「はい、わかったでち」
 ゆっくりと司は立ち上がり店の奥へと下がっていった。
「ゆきなさん、あのあとちょうしとかどうでちか?せつなさんとも……」
 少し心配そうにクラウレスは雪那に話しかける。
「あ、はい。あの後は大丈夫です。刹那の事も皆さんのおかげでわかりましたし。結構これでも二人で上手くやってるんですよ」
 どこか吹っ切れたようなそんな雪那の笑顔を見てクラウレスはほっとする。
「あれ?それじゃせつなさんとかいわができるんでちか?」
「ええっと…。それは直接はできないんですけど…。」
 雪那はそう言って、脇に置いてあった鞄から一冊のノートを取り出してくる。
「これを使っているんですよ。気になった事とか伝えたい事をお互いこのノートに書いて。刹那でいる時も私でいる時もそうすれば、自分たちのしたい事ややりたい事、考えてる事とか伝えられるから…」
「なるほど……」
 感心したようにクラウレスがうなずいた所で、三人分の紅茶を入れて司が戻ってくる。
「ごめん、どうにもどこに何があるのか判らなかったんで、ティーバッグの紅茶になっちゃったけどかまわないかな?」
「あ、私はぜんぜん構わないです、クラウレスさんは?」
「わたちもだいじょうぶでち、でもおさとうはおおめにもってきてもらえるとうれしいでち」
「そっか、それならよかった。クラウレス君はそう言うだろうと思って砂糖は多めに持ってきたから大丈夫だと思うよ」
 司はそう言って、小皿の上に乗っかった角砂糖の山をクラウレスに見せる。
 その角砂糖の山を見て、雪那が思わず呆然となる。
「あ、ほんとうでちか?だったらだいじょうぶでちね」
 そういいながらクラウレスは自分の分の紅茶に角砂糖ひとつ、またひとつと入れていく。
 気がつくと小皿の上にあった角砂糖はそのほとんどが紅茶の中に消えていた。
 そのクラウレスの行動に再び驚きを隠せないまま、雪那は自分の紅茶にミルクを入れる。
「砂糖はそれで足りた?」
 司の言葉にクラウレスは頷く。
「ありがとううでち、これだけあればだいじょうぶでちよ」
 クラウレスはそう言って紅茶を一口口にすする。
 常人なら甘くてとても飲めないであろうその紅茶を飲む様子を雪那は思わず見入ってしまう。
「それで僕がいない間、何を話していたんですか?」
 話題を変えようと司が二人に話しかける。
「あ、さっき司さんに話した事です。刹那とどうしてるのかっていう…」
「ああ、あのノートを使ってってやつか。そのノート、いつまでも続くといいね。雪那ちゃんと刹那ちゃん二人の大切な思い出なんだから」
「そうでちねふたりともこれからいっしょになかよくやってけるといいでちね」
 司とクラウレス、二人共そろって雪那と刹那にエールを送る。
「ありがとうございます」
 その言葉に雪那は心からの笑みで答えた。

●その後
「あれからせつなさんはどうしているでちか?」
 シュークリームを口一杯にほおばりながら、クラウレスは雪那に話しかける。
「「あ、私と刹那で体を使う時間っていうのをそれぞれ話し合って決めて、使うようにしてるんです。前みたいに私が寝ている間にってなると体もいつか参っちゃうから…」
 その言葉で皆、先日の事件を思い出す。
 雪那の体にできたもう一つの人格『刹那』という少女。
 彼女が雪那の知らない間、彼女の体を使っていたという事件だった。
 刹那は刹那で自分として生きたい、と思っての行動だったのだが…。
「でもやっぱり私に遠慮しているのか、私でいる時間の方が長いんですけど…」
 雪那のその言葉には複雑な響きがこめられていた。
 雪那は雪那でいたい反面、刹那にも刹那でいさせてあげたい、という複雑な思いがあるのだろう。
「それにしてもやっぱりあの後色々僕なりに調べてみたんだけどね、やっぱり例のクリスタルが何らかのきっかけだったんだと思う。だからその辺りを僕は僕なりに調べてみるつもりだよ。だから刹那ちゃんにもそう伝えておいて欲しいな」
 司はそう言って以前あった事件の事を思い出しクラウレスにも簡単に説明をする。
「なるほど、そういうことがあったんでちか…」
 改めてその事件の概要を聞かされたクラウレスはふと疑問に思った事を司に問う。
「ひょっとして、そのあやつられたときにゆきなさんをうごかしていたのがせつなさんのもとになったんではないでちょうか?」
 そのクラウレスの言葉に司は今まで考えてなかった事を言われ驚きの表情を浮かべる。
「なるほど、そうかもしれないね。全然考えてなかったよ。確かにそういわれてみるとそう思える節は確かにある…。事件に直接関わってなかったクラウレス君だから見えた事かもしれない…ありがとうこれからの参考にするよ」
「どういたしましてでち」
「あの…それじゃ、刹那はいずれ悪い事をまたしてしまうって事なんでしょうか?」
 二人の話を聞いていた雪那が不安そうに聞いてくる。
「いや、それについては無いと安心してくれていいと思う。あくまでもきっかけがそうであったというだけで今、雪那ちゃんと刹那ちゃんは二人共ちゃんと自分達なんだから、ね?」
「そうですか…。よかった」
「そうでちよ、それにいざとなったらわたちたちもいるでち。またみんなでなんとかするからだいじょうぶでちよ」
 クラウレスのその言葉に思わず雪那が涙をこぼす。
「ゆきなさんここはなくところじゃないでちよ。ここはわらうところでち、どうしてもわらえなかったらこれでもみてげんきをだしてくださいでちよ」
 そう言ってクラウレスはどこからとも無く黒いシルクハットを取り出す。
「さぁ、おたちあいでち。これからはじまるはきじゅつはきじゅつしくらうれす・ふぃあーとがあいさかゆきなさんとせつなさんにささげるきじゅつでち」
 そうクラウレスは口上をきると自らの得意な奇術をはじめる。
 そしてそれからしばらく文月堂から楽しそうな笑い声が耐える事は無かった。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ クラウレス・フィアート
整理番号:4984 性別:男 年齢:102
職業:【生業】奇術師 【本業】暗黒騎士

≪NPC≫
■ 冬月・司
職業:フリーライター

■ 逢坂・雪那
職業:高校生

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■         ライター通信          ■
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 どうもこんにちは、藤杜錬です。
 この度はゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加頂きありがとうございます。
 前回の異界ノベル『刹那の刻』の続編という事で雪那と刹那がどうなったか、を描く機会を頂きありがとうございます。
 クラウレスさんの彼女を心配する気持ちというのが判り、書いててとても嬉しかったです。
 彼女達は彼女達なりに自分たちが二人で一人であるという事と向き合って生きていこうと歩み始めました。
 彼女達がこれからどの様になっていくのか、まだ闇の中ですがクラウレスさんの様に優しく見守っていける人達がいるならば、きっと大丈夫だろうと思います。
 それではいつもご参加していただきありがとうございます。
 楽しんでいただけたら幸いです。

2005.5.31.
Written by Ren Fujimori