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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『【幼子と御魂】捜索編』



「その空き地には、元々何があったの気になるわね」
 草間興信所の事務員で、幽霊作家や翻訳家などもやっているシュライン・エマ (しゅらいん・えま)は、武彦から今回の事件の事を聞き、N市を歩き回っていた。
切れ長の目と、中性的な容姿が何とも美しい彼女は、これまでも草間興信所に集められた様々な事件を解決してきた。
 だから、このような事件の時にはどうすればいいか、大体の見当はついていた。
「それに、神隠しの伝説も。この街に神隠しの伝説があるなら、聞いておかないとね」
 エマは近くにある古い家に立ち寄ると、そこに住んでいる老婆に、昔のN市の事を尋ねてみた。
「そうか、この前起きた神隠しの事件について、調べているんだね」
「ええ。知っている事なら何でもいいわ。何か解決法が見つかるかもしれない。是非、話して頂きたいわ」
 エマがそう言うと、その老婆は少し何かを思い出したようにし、ゆっくりと話し始めた。
「あたしが子供の頃に聞いた話だよ。話というか、伝説だね。戦国の時代の伝説だよ」
 エマは、ここへくる前に、役所で手に入れた古地図を見つめて、現在の地形とを確認していた。相当昔の地図となると、手に入れるのも難しく、エマは今から30年程前の、N市の地図をやっと手に入れたのであった。
 その時には、その空き地の場所には、何もなかったようであり、それを考えると、あの空き地はかなり前から何もなかったのだろう。
「その頃、ここは小さな村だったんだ。そして、このあたりに、子供の魂を食らう化け物がいたらしい。どんなものかはわからないが、そんなのがいて、村の子供が次々に化け物に攫われたと言うことだ。あたしが知っているのは、そこまでだ」
「あら、それだけ?」
 老人が席を立とうとしているのを見て、エマはそれを止めた。
「もっと詳しい話はないの?これだけだとわからないわ」
「だから、あたしが知っているのは、それだけさ?」
 エマは困った顔をして、老人の前へと座る。
「さっきも言ったけど、この町に神隠しの伝説があるとか。もしくは、何らかの供物として子供を捧げた等の話があるとか?さっきの化け物の話だって、どこまで本当なのかわからないけど、そういう伝説があるってことは、何らかの形で、その時代、子供がいなくなる事件が起きたって事だと思うの」
「とは言ってもねえ、戦国時代の話だからねえ」
 それ以上、老婆は話す事がない、といった様子であったので、エマはひとまず話を聞くのを諦め、老婆に礼を言うと、今度は別の家へと尋ねた。
「化け物の話は聞いた事がある。そして、その化け物を、通りすがりの僧がその神通力を持って退治し、封じ込めたと言われておるよ」
 手ごたえがあった。エマが尋ねた老人は、この町で風土や歴史の研究をしているという研究者の家であった。
「子供の若い、生き生きとした魂を暗い、永遠に生き延びているという怪物だったと聞いたよ。しかし、戦国の時代だ。どこか遠くへ逃げるといっても、現代のようにはいかない。旅をするのだって、大変な時代だったろうからね。村人達は、その怪物の存在に怯えながら暮らしていたというが、その僧が怪物を封じ込めた後は、何事もなく、平和に暮らす事が出来たというよ」
「子供の魂を食らう怪物ね。でも、それは昔に封じ込めたのでしょう?」
 エマがそう言うと、老人は首をひねった。
「どうやって封じ込めたかまでは、私にもわからんよ」
 それもそうだな、とエマは思った。戦国の世となれば、今から400年以上前になるのだ。普通の人間が、その時代の事を知るわけがなかった。
「じゃあ、事件の始まった一週間前、空き地近くで工事や事故等、変わった事はなかったかしら?」
 エマがそう言うと、老人は再び首をひねった。
「工事と言えば、その空き地にはもうすぐマンションが建つらしいな。マンション建設予定という看板も出ておるよ」
「なるほどね。わかりました。どうもありがとうございます。何かあったら、またこちらへお邪魔させてもらうわね?」
 エマはそう言って、老人の家を後にした。子供の魂を食らう怪物の伝説。今いなくなっているのも、幼い子供である。しかし、そんな怪物が、今、この現代にいるというのだろうか?あれやこれやと考えながら、エマは近くの幼稚園へと向かった。
 子供達から、ひなぎくの話を聞いてみようと思ったのだった。



「かみかくしとひにゃぎくしゃんがかんけいありゅかわからないでちが、ゆくえふめいのこどもがいるかぎりは、しりゃべりゅひちゅようが、あるでちね」
 草間興信所から、東京都N市で起こっている神隠し事件の依頼を受け、クラウレス・フィアート(くらうれす・ふぃあーと)はバスに乗り、流れる景色を見つめながらN市を目指していた。
 誰がどう見ても、クラウレスは幼い子供にしか見えない。しかし、それはとある呪いによりもたらされた仮の姿であり、本当のクラウレスは闇の力を得た、暗黒騎士の青年であった。
「とにかく、ひなぎくしゃんとせっしょくしてみないことには、はじまらないでち」バスが赤信号で止まる。その信号機の上に標識があり、「ここよりN市」と書かれているのを見て、クラウレスはいよいよ、問題の町に来たのだと、気を引き締めたのであった。
 バスから降りたクラウレスは、ひなぎくがよくいるという空き地へ行く前に、バス亭の真向かいにある玩具屋へと入った。そして店内をうろつき、お手玉・セットを手にとるとレジ向かった。
「あら、お母さんは?」
 レジの女性店員が、クラウレスを見つめて笑顔を浮かべながら話し掛けてくる。
「おかあさんはいないでちゅ。ちゃんとおかねは、もってりゅでちゅよ」
 クラウレスは金をレジに置いた。
「あらそうだったの。1人でお買い物に来て、偉いわね」
 と言われ、クラウレスはその店員に頭を撫でられてしまった。
 外見と、その舌足らずなしゃべり方に、こういう事があるのも仕方がないと思ったが、元々は大人であるから、どうも子ども扱いされるのには納得がいかない。
 しかし、今はその事を気にしている場合ではないと思い直し、買ったお手玉を手にすると、店を出て「ひなぎく」がいるという空き地へと向かったのであった。
「ここがあきちでちゅかね」
 N市は東京都心部から、電車で1時間ほどかかる郊外にある町である。いわゆるベットタウンと言われる町であるから、天まで届くような高層ビルはなく、あったとしてもせいぜい20階ぐらいまでの、しかも企業ビルディングではなく、マンションであるものがほとんどであった。
 下町ではなく、山を切り開いて作られた比較的新しい町で、クラウレスが立っている空き地の隅にも、「マンション建設予定地」と書かれた看板が建てられていた。
「こういうあきちは、きちょーになっているんでちゅかね」
 クラウレスは空き地を見回した。マンションが建設される予定があるせいか、普通なら生えている雑草などは全部綺麗に刈られている。子供にとってみれば、このような空き地は貴重な遊び場なのだろう。
 ひなぎくは、子供にしかその存在が知られてない子供である。もともと大人であるクラウレスが、ひなぎくに子供として認識されるかどうかはわからない。
 けれども、ひなぎくが何をしたいのかを知るには、本人に直接会った方が早いと考え、クラウレスは先ほど購入したお手玉を手にし、それを空中で飛ばしたり複数個を同時に投げては受け取ったりしながら、ひなぎくが現れるのを待つことにした。
「さてちょ、おてだまでもちて、まってみまちゅか…これはけっこうちゅきなので、たのちみながらまてるでちゅちね♪…んちょ…んちょ…」



「特に普段と違うところはなかったと思います。最近新しい友達が出来たので、その事良く遊ぶようになりましたが」
 いなくなった子供の1人である、石野・悠太の母親が目を伏せて静かに言うと、桐生・暁(きりゅう・あき)はその母親の肩を優しく抱いた。
「大丈夫です、悠太君は必ず見つけてみせます。その為に俺、草間興信所から依頼を受けてここに来たんですから」
 その赤い瞳で、暁は母親の顔を優しく見つめた。すると、母親はかすかに心が落ち着いたのか、口元のほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「お願いします。早くあの子を見つけてください」
 草間興信所から神隠しの依頼を受け、N市にやってきた暁は、まず被害者の家族の家に、それまで子供がどういう状況であったのかを聞いていた。しっかりと話を聞いておけば、意外なところで役に立つかもしれないと思ったからであった。
 ゆっくりと、母親の気持ちを乱さないように、暁は母親の心を暖かく抱きながら、暁は柔らかく微笑んだ。
「すぐに、お子さんの笑顔が見られるからさ!」
 ある程度の話を聞き、暁は例を言うとその家を後にした。
「興信所で聞いた通りだ。楓ちゃんと同じように、悠太君もひなぎく、って子と友達になってる。でも、それだけじゃ決定的な証拠にはならないよなあ」
 暁はそのまま、いなくなってしまった青木・楓が通っていた幼稚園へと向かった。そろそろ帰りの時間らしく、園内には親子連れの子供もいた。まだ外で遊んでいる子供もいたが、同じ園児である楓がいなくなってしまった件については、子供達に何と説明しているかはわからない。
 行方不明になってしまったなどと、そのまま伝えれば、子供のみならず親達も混乱するであろうから、そのあたりは理由をつくって、誤魔化しているのかもしれないと、暁は思った。
「だけど、このまま皆が油断していると、第4、第5の被害者が出ちゃうんだよね」
 子供達を見つめ、そう思った暁は、笑顔を浮かべると園内へと足を踏み入れた。
「いきなり失礼〜!」
 園内に入った暁は、一番近くにいた女性の保育士のそばへ歩み寄ると、誰にも不安を抱かせないような優しい表情を見せた。
「俺、草間興信所から派遣されて、この街で起きている神隠し事件について調査してるんだ。これ以上騒ぎを大きくしないためにも、少し子供達とお話したいんだけど、いいでしょう〜?」
「え?あ、はい、どうぞ、そのような理由でしたら」
 吸血鬼の血の混じった赤く、魅力的な瞳から生み出される笑顔が、その女性の心をしっかりと捉え、保育士は暁に頷いて見せた。
「ありがと!あ、でも、キミも気をつけなよ?可愛い人も、さらわれちゃうかもしれないからさ!」
 恥ずかしそうな嬉しそうな表情を見せている保育士に軽く例を言うと、暁は子供達が遊んでいる場所の真ん中へ行き、声をあげた。
「はいはい、良い子の皆さんー、おにーさんに注目〜♪」
 このぐらいの年齢の子供は、何にでも興味を引かれるものである。暁の声に、園児はいっせいに振り向いたのであった。
「いいかなー、この近くにある、空き地に入っちゃだめさー。こわーい、怪物が出てきて、可愛い子をさらっちゃうんだー!」
 神隠しに合う、と言っても子供達にはわかりにくいだろう。となれば、何か怖いものがあるから近づいてはいけないと、わかりやすく伝えるしかない。ここにいる子供達が全員、その空き地に行くかはわからないが、これで少しは危険も減るだろうと、暁は思っていた。
「じゃ、約束できる子は指きりげんまんー!」
 暁がそう言うと、つまらなそうな顔をした少年がこちらへと近づいてくる。
「怪物なんているわけないじゃん」
「そんな事ないよ。あの空き地は本当に怖いんだよ?」
 それでも少年は、まったく表情を変えなかった。
「もし、何かあったらどうするのさー?危険だって言われたのに行って、何かが起こってからじゃ遅いんだよ?」
「そうかなー」
「そうだよー。しょうがない、そんな君には、約束してくれたらお菓子あげる♪くっ俺ってば太っ腹!」
 暁がそう言うと、少年が暁の腹を触った。
「お兄さん、別に太ってないじゃん」
「そういう意味じゃ…触んなっつーの」
 気づけば、まわりは帰宅する親子達で一杯になっていた。
「ただいま、N市幼稚園保育園神隠しになっちゃうぞキャンペーン実施中なんですよー!お父さんお母さん!お兄さんもお姉さん?気をつけて下さーいっ。空き地には近づいちゃ駄目ですよー!」
 まわりの大人達にもそう叫んだが、果たしてどこまで受け取ってもらえるかはわからない。暁はさきほどの女性保育士に、持っていた別の和菓子を勧めつつ、より詳しい事件の話を聞き出す事にした。



「神隠しとされているが、最近は物騒な事件も多いし、誘拐犯が居ない神隠しと断定はできないからな」
 悪魔と契約を結び、美味しいラーメンを作る事を生業としている青年、来琉鳩・未来(くるはと・みらい)は、今回草間興信所からの依頼調査を受け、仕事を休み、N市へと足を運んでいた。
「金持ちの子供ではなくとも、猟奇的な趣味の持ち主には狙われるかもしれないし、痕跡がないのは、そうなるように計画したからかもしれない。両親が『神隠し』と断定して、草間に調査を依頼したのは、そう思わざるを得ない何かがあったからに違いない」
 物事はきちんと調べなければわからないのだと思い、未来は依頼人である、青木・楓の家へと向かった。
「神隠しとは言っても、本当に摩訶不思議な事ではなくて、そういう伝説は大抵、昔の人が何らかの事件を、不可思議なものとして捉える事も多い。今みたいに、科学が発達していなかった時代は、ちょっとした事でも、大きな事件になるんだろうなあ」
 未来は草間興信所から渡された地図を頼りに、問題の空き地のそばにあるマンションへと入った。やや古びたそのマンションは、セキュリティーなどもなく、未来は入り口にあるポストの名前から青木家の部屋番号を探し出し、エレベーターで上の階へと上がった。
「こんにちわ、草間興信所の者ですが」
 インターホンを押して、そう言うと、しばらくして、中から30代後半ぐらいの女性が顔を出した。おそらく、この人が依頼人の青木・葵だろうと思い、未来は不安を与えないように、口調をなるべくゆっくりとさせて話し掛けた。
「今、例の事件について調べているところなのだが…少々お尋ねしたい事がありまして」
「草間さんのところの方ですか。ええ、事件解決につながる事でしたら何でも」
 やつれている、それが一言で言える葵の印象であった。服装はきちんとした物を身につけて、化粧もしているところから、閉じこもってしまっているわけではないのだろう。だが、目には輝きがなく、目はうつろであった。自分の子供がいなくなってしまったのだ。夜も眠れない思いをしているに違いない。
「お子さんがいなくなられて、それが神隠しであると判断されたようですが、それがどうしてそう思ったのかをお聞きしたいのです。あちこちで色々な事件がありますが、大抵は人間による物騒な事件ですから」
 葵はしばらく目を閉じて、何かを考えているようであった。
「この町に伝わる伝説があるのです」
 葵の言葉に、未来はそっと耳を傾けた。
「私も最初は、悪い人がうちの子を攫ったのだと思いました。ですが、どこを探しても子供はいない。しかも、被害はうちの子だけでなく、よその家の子も…ひなぎく、という子供の話は聞いておりますね?」
「はい、草間興信所である程度の話は聞いております。子供しか知らない子供がいると」
 未来は頷いて見せた。
「その子とうちの子が仲良くなったから、よく空き地へ行ってました。今日もひなぎくちゃんと、空き地で遊ぶんだ、と良く言ってました。ただ、その子どこに住んでるのとか、お母さんは何をしているの、と聞いても、わからない、と答えるだけで。子供の事ですから、あまり細かい事は気にしていないのかも、と思っていたのですが」
「その子と、今回の事件の関連性があると、考えているのですよね?」
 未来がそう言うと、葵の表情がさらに不安げなものへと変化する。
「子供を連れ攫う子供の妖怪の話を、この町に引っ越して来たときに聞いた事があるのです。それは、もう、遠い昔からの言い伝えで。その子供は、子供にしか見えない子供で、大人には決して知られることのない存在。そして、気に入った子供を見つけると、どこか遠いところへ一緒に連れていってしまうのだと、そんな内容のものでした」
「ということは、葵さんはそのひなぎくが、子供を」
「断定は出来ません。ですが、だからといってないとは限らないのです」
 未来は葵の話を丁寧にノートへ書き込むと、それを鞄の中へと仕舞い込んだ。
「攫われた子供は、2度と帰ってこないと聞きます」
 それだけ答えると、葵はすっかり黙り込んでしまった。
「有難うございます、貴重な情報を。事件解決まで、もうしばらく時間を下さいね」
 未来は葵にそう答え、空き地で直接ひなぎくを探そうと思い、マンションをあとにした。そして、しばらく行ったところで、草間興信所へと電話をかけ、今度どうすればいいかの判断を待つことにした。



  セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)は、タクシーを使い、N市にある郷土資料館へと向かっていた。
「神隠しの伝説は多いようですが、今では真実が明らかになっている事も多いですから」
 タクシーがN市の郷土資料館へ到着すると、ゆっくりと、一歩また一歩と、セレスティは杖を使って、前へと進んでいく。6月の強い日差しを避け、資料館へ辿り着いた頃には、すでに日が傾き始めていた。
「こんにちわ、失礼します」
 観光地というほどの場所ではないが、それでもN市は歴史のある街らしい、おそらく、この資料館にも、そのような歴史のあるものが置かれているのだろう。
「少々お尋ねしたい事があるのですが」
 整った美しい顔立ちだが、その本性により視力は極めて弱く、人間に完全に変化する事が出来ない為、体も不自由であった。だが、セレスティはそれで生活に支障があるとは感じていない。鋭い感覚がセレスティを支えており、その感覚を頼りに、セレスティはこの資料館へやってくる事が出来るのだから。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件で?」
 横から女性の声が聞こえた。20代ぐらいだろうか。ヒールの音が、資料館へと響いていた。他に足音がしないことから、ここにいるのは、その女性とセレスティだけなのだろう。
「この街で神隠しの伝承などがありませんか?」
「神隠しですか?では、あなたも草間興信所の」
 女性がそう言った事からして、セレスティ以外にも草間興信所から派遣され、調査をしている物がいるのだろう。
「ええ、一刻も早くいなくなったお子さん達を探す為に、出来る限り情報を集めているのです」
「そうでしたか。神隠しについては、皆様にもお話したのですが、子供にしか見えない子供がいて、その子供が人間の子を連れてきては、どこかに連れて行ってしまうというもの」
「では、それが」
 草間興信所で聞いたひなぎくか、とセレスティは思っていた。
「私もその話は聞きました。ひなぎく、という名前のようですね。黒髪の女の子が、この近くにある空き地に出没し、特に行方不明になった子は、皆この子供と友達であったそうです。何か、過去に今回のような事例はなかったのでしょうか?ひなぎく嬢そのものでなくとも、類似した事件があったとか」
「そうですね」
 女性の言葉が一瞬だけ切れる。
「ひなぎく、という名前については、今回初めて聞いた名前だそうです。ただ、随分昔ですが、子供の魂を食らう怪物が現れ、このあたりにかつてあったという村を襲っては、子供達を連れ攫っていったという話が残っています。戦国時代の話ですけどね」
「かなり昔ですね。では、その頃にもひなぎくが?」
「その怪物が現れた頃、子供にしか見えない子供が現れ、何人かの子供をどこかへと連れて行ったと聞きます」
 セレスティは、怪物とひなぎく、この2つの存在を頭の中でつなぎ合わせようと試みた。
「その怪物は、どうなったのですか?」
「通りすがりの僧が封じ込めたと聞きました。それ以来、村は平和になり、謎の子供も自然にいなくなったと。ですが、どこに封じたかはわかりません。何しろ400年も前の事ですし」
 女性の言葉はとても落ち着いていた。
「神隠しにあって帰ってきた方はいないのでしょうか?昔でも、今でも」
「昔の方はさすがにわかりませんが、今回の事件で犠牲となった子供の中には、戻ってきたと聞いた子はいませんね」
「空き地に現れるのは、近くに起点となるような場所でもあるのでしょうか。子供達が遊んでいる姿が多いから、空き地に現れているのでしょうか?そして、一人で居る事が寂しいから、子供達を連れていくのでしょうか。どちらにしても、その子供が何者であるかがわからなければ、攫われた子供をどうしてしまうかも、予測が立ちにくいですね」
 セレスティは空き地で無邪気に遊びまわる、子供達の姿を思い浮かべていた。
「その空き地が、昔どんな場所であったかわからないでしょうか?」
「かなり昔から空き地だったようですね。いえ、確か石碑のようなものが建っていたはず。ほんの小さいものですが」
「石碑ですか。わかりました。長々とありがとうございます」
 そう言って、セレスティは再び杖をついて、今度は空き地へと向かった。
 ひなぎく、怪物、神隠し。この3つにどこかしらのつながりがありそうな気がしたのだ。空き地へはすぐだが、セレスティは杖でゆっくりと歩き続けた。



「草間興信所から、結構沢山の調査員が来てたのね。子供の魂を食べる怪物の話を聞いたわ」
 エマはこれまで聞いた情報を、空き地へ集まった人々へと話した。同じ依頼を受けた人が、こんなにいたのかと、多少驚いたが、皆の情報はもらさずメモへと書き込んでいた。
「ひなぎくしゃんは、ここにいるんでちかね」
 クラウレスという、どう見ても子供にしか見えない少年が、お手玉をしながら言う。
「俺さ、ひなぎくって名前の子がこの街に住んでないか調べたんだけど、そういう子はいないみたいなんだよねー」
 そう言ったのは、金髪の今時の高校生、と言った雰囲気の暁であった。さきほどから、優しい声で子守唄のようなものを歌っているのは、ひなぎくを呼び寄せるためのものだろうか。
「ひなぎく、という子供が何をしたいかまではわかりませんでしたが、エマさんが言った怪物と関連がありそうですね」
 かなり若い青年だが、車椅子に座ったままのセレスティが、郷土資料館で聞いてきた話を丁寧に説明する。
「この空き地にはマンションが出来るようですが、もしかしたら」
 と言って、セレスティは空き地を歩き回っている。
「これは、何だろうねー?」
 暁が、空き地の隅にある崩れた石の前へと立った。それは、30センチほどの大きさの石碑のようなもので、文字のようなものが書いてあるが、かなり古びてしまっていて、読む事は出来ない。
「崩れてるが、いつ崩れたんだろうな?この石碑、何の為にあるんだか」
「たぶん、マンションを建設するので、邪魔だったんじゃないかしら?ほら、このあたり綺麗に整備されてるし。私、怪物をどこかの僧が封じたと聞いたわ。もし、この石碑がその封じ込めた何かだとしたら、崩されてしまった今は」
 未来という名前の青年のあとに続けて、エマが少し不安げな表情をして見せた。
「ん?どうかしたのか、ポルフィリオ」
 未来は、自分と契約しているという悪魔に、この空き地の周辺を探らせていた。その悪魔には、幽霊のような存在を感知する事が出来るらしい。
「何かいたの?」
 エマは未来へと尋ねる。
「何かがこっちへ近づいて来ると、ポルフィリオが」
 未来がそう言ったあと、クラウレスが突然叫んだ。
「こどもが、いるでち!」
「ええっ!?」
 突然の事でエマ達は驚き、あたりを見回したが、そのような子供はどこにもいない。
「ひにゃ…ひにゃぎくしゃんでちか?」
 クラウレスは、確かに誰かと話しているようであった。まさか、こんな時にふざけたりはしないだろう。
「ひにゃぎく…むじゃきなおとめごころでちか。おともだちとじゅっといたいとおもうのは、ふちゅーのことでちゅちね?でも、おともだちゅをどうちゅるでちか?こどもたちゅのおとーちゃんやおかーちゃんは、しんぱいしているでちゅ」
 クラウレスの表情が、心配そうなものへと変わる。
「クラウレスさん、何を」
 心配そうな声で、セレスティが問い掛けた。
「どうやら、ひにゃぎくしゃんは、こどもだけのらくえんというところに、わたちをあんないしようとしているでちゅ」
 小さな声で、クラウレスはセレスティに言葉を返していた。
「あなちゃたちも、いっしょにいってもいいと、ひにゃぎくしゃんはいってるでちゅ。ひにゃぎくしゃんがみえていりゅのは、わたちだけのようでちね。もしかしたら、そこにこどもたちもいりゅかもしれないでちゅよ」
 子供達の楽園。それがどんな場所なのかはわからない。だが、そこへけば行方不明の子供がいるような気がした。
 今、未知の世界への扉が、開かれようとしていた。(続)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1883/セレスティ・カーニンガム /男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【4782/桐生・暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【4984/クラウレス・フィアート/男性/102歳/「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】
【5017/来琉鳩・未来/男性/24歳/ラーメン職人&悪魔召喚師】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 シュライン・エマ様

 お待たせしてしまって申訳ありませんでした!新人ライターの朝霧です。今回もシナリオに参加していただき、有難うございました!
 今回、参加者それぞれが情報を集めるという流れになりましたので、それぞれで場面を分けて調査をしていく、という形になりました。視点別になっているところは、最後の皆集まっている場面だけですね。それぞれで情報を集めていくわけですから、別の参加者の皆様の行動も書いた方がいいと思い、これまでの1人だけの視点がずっと続くものではなく、かなり色々なところに場面が飛んでおります。その分、かなり内容が長くなりましたが(汗)
 エマさんは何度か描かせて頂きましたが、今回も少しクールな感じで書いてみました。サバサバした感じ、を出すのは、なかなか難しいですね(笑)
 初めての続きものなのですが、次回はひなぎくとともに子供の楽園、なる場所へ行くお話と成ります。ご興味ありましたら、よろしくお願いします!
 それでは、ご参加ありがとうございました!