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<東京怪談・PCゲームノベル>


ドラ猫を追いかけろ!

■追いかけたり、追いかけられたり?

「今日はご馳走じゃ」
 声を弾ませて、本郷・源は冷蔵庫を開けた。
 中で眠っている、源曰くご馳走は、のど黒と云う魚だった。
 全長三十センチ弱。赤い体にぎょろりとした目を持つそれは、和名を赤ムツ、のどの奥が黒いのでのど黒と呼ばれる。主に冬、日本海で獲れるのだが、最近は漁獲量も減って幻の魚と珍重されているらしい。
 そののど黒が、たまたま買い物に寄った魚屋さんで売られていたのだ。これは買うしか無かろう。勿論値段は勉強してもらった。
「ああ、良い酒の肴になりそうじゃの」
 うっとりと冷蔵庫から出したそれを見つめて、源は溜息を吐いた。
「そうじゃ。折角じゃから酒も良いものを買って来よう」
 思い立ったら即行動。源は魚を置いて財布を取りに行った。
 この時魚を冷蔵庫に仕舞っていれば、事件は起こらずに済んだのかも知れない。
 財布を手に台所に戻った源は、悲鳴を上げた。
「うああああ! 何じゃお主は!」
 そこに居たのは大きなドラ猫だ。そしてその口にくわえられているのは、のど黒。
「返せ! それはわしののど黒じゃ!」
 財布を放り出して飛び付こうとする源を軽くかわして、ドラ猫は外に逃げた。
「待てい!」
 通りをすたこら走るドラ猫を、源は砂煙でも出そうな勢いで追いかける。
 裸足で。
 通りのみんながそんな源を見て笑っている。
「可愛いわねえ」
「何とも微笑ましい光景だ」
 どうやら子供が必死になって何かをしている様子が、殺伐とした現代人の心に涼やかな風を送り込んだらしい。
 お日さまもそれを見て笑っている様だ。今日も良い天気である。
 しかし、当の源にそんな事は関係無い。
「待たぬかお主!」
 猫もびっくりの人間離れした脚力に、ドラ猫は段々差を縮められる。危機感を覚えたドラ猫は、広場に逃げ込んだ。
 一歩遅れて広場に足を踏み入れ、源は猫の姿を捜す。
「あ、あれ。どこに行ったのじゃ猫の奴」
 辺りを見回してもドラ猫の姿を確認する事は出来なかった。源は代わりに、グローブとバットを発見。その目が輝いた。
「おーい、みんな!」
 広場に居た子供に声をかけ、源は草野球を始めた。
 バッターボックスに立つ源、ピッチャーの剛速球を見事にバットの中心に捉え、ホームラン!
 ピッチャー源、大きく振りかぶって、投げました。ストライーク! バッターアウト!
 みんなが笑って源の周りに集まる。
「やったあ源!」
「俺たちの勝ちだ!」
 何だか青空も笑っているみたいだ。今日も良い天気である。
「何の何のわしにかかればこれ位」
 チームメイトと笑い合う源の視界に、ドラ猫が入る。
「って、こんな事してる場合ではなーい!」
 グローブを地面に叩きつけて、ドラ猫との鬼ごっこが再び始まった。
「わしの晩ご飯を返せー!」
 と、通りがかりに酒屋さんを発見。
「お、そう云えば、酒を買うのであった」
 源は思わず立ち寄る。
「これをおくれ」
 レジに一升瓶を置いて店の主人にお金を払おうと財布を捜すが、そう云えばドラ猫を捕まえようと放り出してそのままだった。
「しまった! 済まぬ主人。財布を忘れた」
 店の主人は笑って返す。
「困ったねえ。じゃあこれは取っておくから、財布を持ってまたおいで」
 頷いた源を、酒屋さんに居たみんなが微笑んで見る。看板犬の小犬も、笑っている様に見えた。
 今日もいい天気である。
 そして源を引き離すのに成功したドラ猫は、余裕で逃げて行く。
 源は、ブち切れた。
「うおおおおお!」
 雄叫びと共に、源の衣服が裂け、竜巻でも起きたかの如く周囲に風が巻き起こる。収まった暴風の後には、一匹の巨大なハムスターが居た。
 ドラ猫の目がまん丸になる。
「わしをここまで怒らせた猫は、お主が初めてじゃ」
 ハムスターのくせに不敵に笑って、源はドラ猫に飛びかかった。
「覚悟おぉっ……?」
 ドラ猫の異変に気付いたのは飛び付く寸前だった。
「目が、ハート?」
 事態を何となく察知した源は、じりじりと後退する。
「ま、待て。わしは確かに今ハムスターの姿じゃが、元は人間……」
 ハートの目になったドラ猫は、次の瞬間魚を放り出して源に襲いかかった。
「ぎゃああああっ!」
 源は一目散に逃げ出す。ドラ猫はそれを嬉々と追いかけ始めた。
 放り投げられた魚は、無残にも地面に叩きつけられ、はしないで誰かに見事に受け止められたのであった。
 攻守が交代した追いかけっこは、どこかの砂浜で終わりを告げようとしていた。
「わしはまだ嫁に行くつもりは無いぞ。と云うか猫のお嫁さんになるつもりは無い! 大人しゅう引き下がらんか」
 傾いた陽に照らされながら、猫とハムスターは睨み合う。
 一触即発、その時。
 ゴイン、と云う感じの音がして、ドラ猫が砂浜に倒れた。
 その背後には、嬉璃が酒の一升瓶を片手に立っていた。
「嬉璃殿!」
「全く世話を焼かせるのう。ほれ、さっさと元の姿に戻らぬか。着替えも持って来てやった故」
 救世主の登場に、源はほっと息を吐いた。

「おお、やっぱり旨そうじゃ」
「本当に、旨そうぢゃの」
 どこから持って来たのか、七輪で焼かれているのど黒を、源と嬉璃はうっとりと見つめる。
「今日は嬉璃殿のお陰で助かったのじゃ。礼を云うぞ」
 聴けば、冷蔵庫の傍で財布が放り出されているのを発見した嬉璃は、何かあったのだろうかと一応着替えを携えて源の足跡を追い、通りのみんながお魚くわえたドラ猫追っかけて裸足で駆けてくおかっぱ頭の女の子を見たと話しているのを耳にし、広場で子供達が打っても投げても元気な女の子の噂をしながら草野球に興じているのを目撃し、酒屋さんで女の子が酒を買おうとしたけど財布を忘れた話を聴かされて取り敢えず酒を買い、放り投げられたのど黒を見事にキャッチしてドラ猫を失神させてくれたらしい。
「いや何。まあ呑もうではないか」
 これもどこから出して来たのか、杯をかちりと鳴らして乾杯をすると、二人はそれを飲み干し、夕日を眺めた。
 良い塩梅に焼けているのど黒を二人でつつく。
「ほれ、お前にもおすそ分けじゃ」
 頭にたんこぶをつけたドラ猫に、源は魚の頭をあげた。ドラ猫は嬉しそうにそれにかじりつく。
 嬉璃が笑いながら夕日を指した。
「何だか夕焼けも笑ってる様ぢゃの」
「本当じゃ。きっと、明日も良い天気、じゃな」
 二人の酒盛りは、夜が更けてもまだ続いていたと云う。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1108/本郷・源/女性/6歳/オーナー 小学生 獣人】

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■         ライター通信          ■
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本郷・源様

初めまして。この度はクリティカルヒットなプレイングでのご発注、ありがとうございました!私はこれを待っていた!
その割に納品が遅くなって申し訳ありません(汗)。
楽しんで頂けたなら幸いです。気に食わない事があればおっしゃって下さいね。
それでは、またお会い出来る日を心よりお待ちしております。