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<白銀の姫・PCクエストノベル>


星雫のペンダントを取り返せ

 兵装都市ジャンゴ、巨大な城塞都市の中では、魔物に怯えることがない。
 しかし、一歩外に出れば、いつ魔物と出くわすか解らない危険な世界なのだ。
 この世界「アスガルド」にやってきた、勇者や冒険者達は、物語の主軸となるイベントを楽しんでいる。
 が、中には傍観者となる者もいる。
 そして、主軸とは関係ないイベントも起こるのだ。
 ほら、酒場「勇者の泉」が少し騒がしくなっている。
 
-酒場-
 
 顔をドロで汚し、薄汚れた服を着た少女が酒場の扉を開けた。
「お願い、助けて」
 渾身の力を振り絞り叫ぶと、その場に倒れ込んだ。
 楽しげに飲み交わしていた客達の間に緊張した空気が流れた。
 店員の1人がゆっくりと少女に歩み寄った。
「……大丈夫?」
 体を屈め、顔を覗き込んだ。
 ガッ
 倒れ込んだ少女から腕が伸び、店員の腕を掴んだ。
 思った以上の強い力で掴まれ、店員は顔を歪めた。
「お願いします……大切な星雫のペンダントを……」
 青い瞳に涙を溜めながら訴える少女に、店員は恐怖を覚え、必死で掴まれた腕を剥がそうとしている。
「お願い、お願い……」
 どこからそんな力が出てくるのか解らないが、店員の腕に指を食い込ませながら訴えた。
「一体何をして欲しいんだい」
 椅子に座っていた客が、めんどくさそうに尋ねた。
「形見のペンダントを……取り返して欲しいんです」
「誰から?」
 他の客が問いかけた。
「……モンスターから」

-助っ人-

「まあ、大丈夫?」
 長身の女性―シュライン・エマ―が、少女の腕を取って立たせた。
 そして、泥だらけの顔を、手持ちのハンカチで優しく拭ってやる。
「大丈夫ですか?」
 長髪の少女―海原・みなも―が、覗き込むように問うた。
「あ、ありがとうございます」
 少女はすがるような瞳を2人に向けながら、服の汚れを払った。
「あの、私、あの……」
「落ち着いてくださいね。ハイ」
 そう言うと、みなもはどこから持ってきたのか、グラスになみなみとつがれた水を差しだした。
「ありがとう」
 そうつげ、その水を一気に飲み干した。

 3人の様子をひっそりと見つめる双眸があった。
 壁に背を預け、1人グラスを傾けている男―田中・流佑―である。
 突然現れた少女を助ける為、2人が名乗りをあげている。
「女2人……ねえ」
 そう呟き、重い溜息を吐いた。
「しょうがねえ……」
 残りの酒を一気に咽の奥に放り込み、テーブルにグラスを置くと、壁から背を剥がした。

「僕でよかったら、手助けしようか?」
 流佑は3人の輪に歩み寄って首を傾げた。

「助っ人はこれだけで終わりかしら?」
 シュラインはぐるりと周囲を見回し、他に名乗り出ないことを確認すると、少女に向き直った。
「とりあえず、あなたのお名前を伺ってもいいかしら」
「……アキです」
 掠れる声で答えると、不安げな視線を向けた。
「自己紹介しましょう」
 みなもはパンと手を叩くと、明るい声音をあげた。
「あたし、海原みなもです。あっと、シュラインさんお久しぶりデス」
 アキに向かって自分の名を告げると、みなもはそっとシュラインに声をかけた。
「私は、シュラインエマです。本当ね、元気だった?」
 シュラインも、みなもに声をかける。
「僕は田中流佑、あ、流佑って呼んでもらっていいんで」
 流佑は皆とは初対面のようで、ヘラヘラと笑みを浮かべている。
「さて……と、まずは状況とか聞いても大丈夫かしら」
 シュラインはアキの様子を窺いながら、優しく問いかけた。
 空のグラスを持ったまま、コクリと頷くと、アキはか細い声で話し始めた。

 彼女の住んでいた村がモンスターの大群に襲われたのは昨日のこと。
 なんとか生き残った数名が、助けを求めジャンゴを目指したのは今朝のことだという。
 村からジャンゴまでの道のりは、さほど遠くないにしても、危険地帯には変わりない。
 案の定、彼女たちがジャンゴへ向かう途中、モンスターに出くわした。
 彼らは、襲うというより、移動している最中に、人間に出くわしたという感じで、邪魔だから排除しようという感じだったという。
 なんとか、岩場の陰に身を潜め、モンスターをやり過ごしたのだが、その際、木の枝にペンダントをひっかけてしまい、それが原因でペンダントを落としてしまったのだ。
 運悪く、ペンダントはモンスターの背にひっかかってしまい、モンスターはそのままどこかへと行ってしまったのだという。
 
「村から逃げ出したのはあなただけ?」
 シュラインが問うた。
 すると、アキの表情が曇り、視線が足下へと逃げた。
「何人かいたのね」
 彼女の表情から読みとると、シュラインは静かな声で呟いた。
「え、他の方は?」
 みなもが素朴な疑問を投げかけた。
「……」
 無言の返事。
「兎に角さ、アキさんだけでも助かって良かったんじゃない?」
 流佑が救いの手を差し伸べると、アキは淋しげに微笑んだ。
「アキさんのお願いは、ペンダントを取り返すことでしょ? だったら、3人でアキさんの願いを叶えてあげましょうよ」
 みなもが明るい声で告げた。
「とりあえず、どんなモンスターだったか覚えている範囲で教えてもらえるかしら」
「四本足の獣のような……」
「獣……ねえ」
 流佑が頭を捻る。
「場所は? ここからどれくらい先?」
「小一時間もかからないと思います。……東の方角で……ごつごつした岩場でした」
「じゃあ、ペンダントってどんな形? 色とかさ」
「えっと……これくらいの……」
 そういうと片手の親指と人差し指をくっつけ楕円形を作った。
「……大きさの飾りが付いた銀色のペンダントです。飾りの形は雫形で、色は透明、中心が金色に輝いています」
 一通り、アキに詳細を聞いた3人は、お互い顔を見合わせ、大きく頷いた。
「必ず取り戻してくるから」
 シュラインが片目を瞑ってみせる。
「ここで待っていてくださいね」
 みなもはアキの手をぎゅっと握りしめた。
「大丈夫、任せとけって」
 男らしさをアピールする流佑。
 そして、3人は酒場を出た。

-居場所-

「東か」
 流佑は、東の方角を見つめた。
「どうやって、モンスターの居場所を探るか……って、シュラインさん、何してらっしゃるんですか?」
 流佑の目の前で、シュラインは派手な髪飾りの蔓の部分を伸ばし、手持ちの携帯に差し込んで何やら操作している。
「頭から伸びる蔓って、ハタからみて異様なのですが……」
 思わず呟く流佑に、冷ややかな視線で一瞥すると、シュラインは、東の方角を見つめた。
「多分……彼女の遭遇したのはトーチハウンドね」
 携帯の画面とにらめっこしながら、シュラインは告げた。
「すごいですね。そんなことも解っちゃうんですか?」
 みなもが感嘆の声をあげる。
「ふふふ」
 小さく笑み、シュラインはもう一度携帯画面を覗き込んだ。
「この位置だと……3キロ程行った所ね。彼女が出くわした場所から、敵は移動していないみたいね」
 彼女が頭部に飾っている髪飾りは、モンスターの位置関係をモバイル等に表示してくれる優れモノなのだ。
「ということは、岩場、か」
「身を隠すにはいいですよね」
 3人は、モンスターがいると思われる場所へと向かった。  

-モンスター-

 アキがモンスターと遭遇したと思われる岩場に到着した。
 ごつごつした岩肌が露出した、足場の悪いそこは、隠れるにはいいが、逃げるには都合が悪い。
「あっちの高い所へ登ってみましょう。下の様子がみ渡せるわ」
 シュラインが指さした方向には、切り立った一枚岩が安定した形であり、人が数名は乗れそうな平らな部分もあった。
 3人は、大小の岩を乗り越えながら一枚岩に近付いた。
「これ……見てください」
 みなもが何かを見つけ、2人を呼び止めた。
 そこには、2体の白骨が折り重なるようにあり、砂塵で骨の半分が埋もれていた。
「それだけ、危険ってことなのですか?」
 みなもの呟きに、流佑も頷いた。
「そう……ね。でも……」
 シュラインはそこで言葉を濁した。
「いえ。とにかく、こうなる前に、さっさとペンダントを回収しましょう」
 軽く頭をふると、シュラインは岩をよじ登った。
 岩の上は、乾燥した空気と、砂埃で視界が悪かった。
「トーチハウンドなら、群れで行動しているから、たいてい固まった場所にいるだろう」
 そう言うと、流佑はふと空気の流れをみた。
「風下にいた方が有利だよな」
「そうね、嗅覚が優れているから匂いでこちらの位置を知らせることになるものね」
 そう言うと、場所を移動した。
 そこから、肉眼でもモンスターの群れを見ることが出来た。
 確認出来るのは十数体。
「戦闘は避けたいですね」
 みなもの呟きに、2人も頷いた。
 極力戦闘はさけ、無傷のペンダントを持ち帰る。それが彼らの共通の意識らしい。
「えっと、どのモンスターにペンダントがひっかかっているかとか……解りますか?」
 みなもは振り返って、シュラインに尋ねた。
「残念ながら、そこまで万能じゃないわ」
「ここからじゃ、どのモンスターにペンダントがひっかかっているか解りませんね」
 そう言うと、みなもは、周囲を見回した。
「ここにいても埒があかない。もう少し近付くか」
「この下の岩が突き出た地形を利用しませんか? あの大きな体格なら、岩場の隙間に入ることは出来ないでしょうし、ここから見て、ほら、あの道を通ればあたし達はスムーズに逃げられると思いません?」
 彼女達が今現在いる場所は、地上から数メートルほど、切り立った岩場の上である。
 みなもが指さした先には、針のように突き刺さった岩が無数に点在しており、入り込めば迷路のようである。
 しかし、少し高いところから見れば、簡単に通り抜けられる道筋があるのだ。
 岩の陰を利用しながら、モンスターに近付き、ペンダントの在処を探った上で、ペンダントを奪取し、逃走するということで3人は行動に移した。
   
-奪取-

 高い位置から見ると、トーチハウンドは固まっているように見えたが、近付いてみると、個々が好きな場所にいて、個体同士は密接していない。
 それは、ありがたい状況であった。
 夜行性なのか、たいていは日陰で寝ている。時々うろうろとしているモンスターもいる。
「あれさあ、ちょっと光ってない?」
 流佑が指さした方角に、一体のモンスターが寝そべっている。
 確かに、背の部分がキラリと光を帯びていた。
 3人はそのモンスターの近くまで近付いた。
「間違いないわね」
 シュラインも頷いた。
「とりあえずさ、これで気絶させちゃう?」
 そういうと、流佑は首にかけていた銀のネックレスを引きちぎった。
 すると、それは音もなく大きな弓矢へと変化した。
「出来るの?」
 シュラインが試すような口調で告げた。
「まかせな・さ・いっ」
 告げると同時に、矢を放つ。
 銀色の矢は放物線を画きながら、モンスターの背に突き刺さった。

 グッ

 呻く声と共に、モンスターはのっそりと起きあがった。
「ちょ、ちょっと、なんなの、まるで効いていないじゃない」
「ど、ど、どうするんですかっ」
「あはは。悪い悪い。これってば3回に1回しか効果が発揮されないんだよなぁ」
 暢気にそんなことを言ってのける流佑に、シュラインは鋭い視線で睨み付けた。
 モンスター一体は、うなり声をあげながら、徐々にこちらに近付いてくる。
「白光!」
 みなもが叫んだ。
 すると、水面の手に青みがかった透明な剣が現れた。
「水の壁を」
 そう告げると、剣は形を変え、モンスターの視界に壁となって阻んだ。
「流佑さん、今です」
「みなもちゃん、さんきゅう」
 そう言うと、流佑はもう一度弓を引いた。
「気絶効果が効きますよう・にっ」
 矢はモンスターに命中した。

 ガウ

 一声鳴いたかと思うと、モンスターは崩れるようにその場に横になった。
「やりい。俺ってば天才」
「一度失敗しているけどね」
 シュラインの冷ややかなツッコミに、シュンと項垂れながらも、流佑は倒れたモンスターに近付く。
「ありましたか?」
 みなもが岩場の陰から覗きながら流佑に声をかける。
「無事奪還」
 右手を高々とあげ、ペンダントを煌めかせた。
「さっさと帰りましょ。他のモンスターが嗅ぎつける前に」
 そして、3人はその場を後にした。

-そして-

 3人は、なんとか酒場まで無事辿り着いた。
 シュラインの手には星雫のペンダントが握られている。
「あっ」
 声を上げると、みなもが前方を指さした。
 酒場の看板を背に、アキが深々とお辞儀をしている。
 3人は駆け寄った。
「これよね?」
 シュラインが差し出した手の中から、雫の形をした透明な水晶の中央に不思議な輝きを放つペンダントが現れた。
「……はい」
 アキは震える声で頷いた。
「これです。ええ、間違いありません」
 恐る恐るシュラインの手からそれを受け取ると、アキは大事そうに握りしめた。
 シュラインは後ろの2人を振り返った。
 みなもと流佑は顔を見合わせ、照れくさそうな笑みをうかべる。
「あの……本当に、なんといってお礼をいったらいいのか……」
 ペンダントをしっかり握りしめたまま、アキは再度お辞儀をした。
「たいしたことないわよ。ちょっと、苦労したけれど」
 しれっとした口調で告げると、シュラインはちらりと流佑を見た。
 流佑は思わず肩を竦めると、明後日の方向に視線を向けた。
「ま、いいじゃないですか」
 ふわっと微笑むと、みなもは2人の間に割って入った。
「アキさんの素敵な笑顔が見られたのですよ。こんな幸せなことはありませんから」
「そうね」
「そうだね」
 みなもの言葉に、シュラインと流佑は頷いた。
 そして――。

 カツン

 甲高い音に、3人が振り向くと、そこにはアキの姿はなく、地面に大切なペンダントが落ちていた。
「……」
 天に昇るような一陣の風が起こった。
 砂漠の砂を含んだそれは、金色の竜巻のようであるが、なぜか悲しい感情を投げかけている。
「……アキさん?」
 みなもがキョロキョロと辺りを見回した。
「大切なペンダントなのに……」
 地面に落ちたペンダントを拾い上げようと腰を屈めた。
 手を伸ばし、それに触れる寸前で、それは金色の輝きを放ち、霧散した。
「……え?」
 みなもの指は空を掴んだ。
「どうして?」
「多分……強い想いが彼女の姿を現実のものにしていたのじゃないかしら」
 シュラインはみなもの隣に立ち、両手を合わせた。
「もしかして、あの岩場で見た白骨体って……」
「もしかしたら……そうなのかも」
 シュラインとみなもの隣に流佑も来て、そっと手を合わせた。
「けど、あんなに嬉しそうな顔をしていたんだし。僕達はいいことをしたんじゃないかなぁ」
 流佑の言葉に2人は頷いた。
 
 これはプログラムによるイベントの1つ。
 そう、プログラムされた出来事なのである。
 そう思えば悲しむ必要などない――アキとは作られた存在で、プログラムによって消去されたのだから。

 酒場に戻った3人は、アキの死を悼むように、静かにグラスを傾けていた。

 おわり。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/
                    26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【1256/海原・みなも (うなばら・みなも) /女性/
                       13歳/ 中学生】

【5389/田中・流佑 (たなか・りゅうすけ)/男性/
                       20歳/ 大学生】

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■         ライター通信          ■
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皆さま、はじめまして!
ライターの時丸仙花です。

ご参加ありがとうございました。
気付いたらちょっぴりシリアスな……こんなノベルになっておりますが、いかがでしたでしょうか。
お気に召して頂ければ幸いです。

どこかで見かけた折りには、遠慮なく声かけて下さいマセ。