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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


月夜の闇 【第一幕 黒き森】

− オープニング −

「もーいーかい」
月の美しいあの夜、かくれんぼうをしていたんだ。あの森で。
幼い日あの子と一緒に。
「まーだだよ」
あの子はそう答えた。だから待ってたんだ。
「もーいーかい」
もう一度問いかけたときあの子の声は聞こえなかった。
何度も問いかけたけれどあの子は消えた。
そう、消えてしまったのだ。

「黒き森か」
新崎アリスは月明かりの中、地図を見つめながらそう呟いた。
依頼者からの依頼はこうだ。

最近毎晩同じ夢を見る。
そしてそのあと黒い影が自分の首を絞めてくる。
その黒い影をなんとかしてほしい。

そんな依頼だった。

新崎アリスは一抹の不安を覚え、精神カウンセラーで退魔師でもある佐野観月に協力を求めた。
そして二人は依頼者から指定された場所へと移動したのだった。


− 声 −

月の美しい夜、クラウレス・フィアートは木々の生い茂る公園の近くを歩いていた。
クラウレス・フィアートは102歳だがその容姿からその年令は想像もできない。
美しい金色の髪、宝石のような美しい瞳。そして子供としか思えない容姿。
そう、クラウレス・フィアートの姿は子供そのものだった。
「まったく、しつれいしちゃうでち。このわたちがしんようできないでちゅって」
クラウレス・フィアートは先ほど会った人物を思い浮かべながら悪態をついた。
その人物は30代後半の女性。小学生の子供が行方不明だという情報を聞き、その女性に接触を図ったのだが情報は聞き出せなかった。
その母親にしてみれば、自分の子供と同じ年頃と思えるクラウレス・フィアートに向かい真剣な話が出来るはずも無い。
負の存在の情報を集め、それを狩り、喰らう闇の騎士であるクラウレス・フィアートにとって負の存在は忌むべき存在。狩らなければいけないものだ。
その為に奇術師で生計を立てながら情報を集めているが、その姿ゆえ今回の母親のような対応は少なく無い。
クラウレス・フィアートはぶつぶつと呟きながら歩みを進めていた。
「……けて」
小さな、けれど絞り出すような声が聞こえてクラウレス・フィアートは公園の方向を振り向いた。
「……何でちか?」
クラウレス・フィアートは声の方向に向かい話しかけた。すると声の主は
「助けて!!」
そう叫ぶと黙り込んだ。声から想像するに年令は小学生の女の子。
今日会った母親の子供と同じ年令と性別だ。
その一致にクラウレス・フィアートは心がざわめき公園へと足を運んだ。
そしてそこには3人の人影がざわめく木々の方向をじっと見つめていた。
クラウレス・フィアートはその人影に向かい声をかけた。
「なにちてるでちか?」
人影は少し間をおくとクラウレス・フィアートの方へ振り向いた。


− 依頼者 小早川ちとせ −

「また同じ夢を見たんです」
佐野観月は1ヶ月前からカウンセリングに通うようになった小早川ちとせの話を興味深く聞いていた。
小早川ちとせは中学2年生。ある時期を境に同じ夢を繰り返し見るようになったと言う。
それはいとこの小早川瑠璃が行方不明になった時からだという。
「そう、また同じ夢なの。いとこの瑠璃ちゃんが森に消えたあと黒い影が首を絞めてくるって言う夢ね」
小早川ちとせは頷くと話を続けた。
「ママは精神的なものだと思ってるけど、私には瑠璃ちゃんが助けを求めてるとしか思えないんです。だから夢の中に出てくるんだって」
佐野観月は少し考えると、小早川ちとせに尋ねた。
「ちとせちゃんは瑠璃ちゃんを助けたい?」
小早川ちとせは黙って頷いた。
それを見た佐野観月は小早川ちとせに向かいある提案をした。
「退魔師を頼んでみない?」
それが新崎アリスが黒き森に向かうきっかけだった。


− クラウレス・フィアート −

新崎アリスと佐野観月、そして小早川ちとせは黒き森と呼ばれる場所に立ち森を見つめていた。
黒き森というのは神隠し伝説がある事から近隣の人々に恐れられつけられた名前。
本当は「森ノ宮公園」という名前だ。
公園にはブランコやシーソー、その他数点の遊具がならんでいる。
年季が入っているがそれなりに手入れが行き届いており、昼間は子供を連れた母親が遊びにやってくる。
しかし神隠しの伝説がある事から夕日が沈む頃には誰もいなくなる。
新崎アリスは小早川ちとせと挨拶を交わすと依頼内容を確認した。
「ここで瑠璃ちゃんはいなくなったんだね」
新崎アリスはそう言うと周りを見渡した。小早川ちとせは頷くと話を始めた。
「はい。1ヶ月前の夕方にこの公園でかくれんぼうをしていたんです。神隠しの話があるのを知っていたけど、瑠璃ちゃんがもう少しだけって言ったのでつい……」
それを聞き終わると新崎アリスは小早川ちとせを見つめた。
「……闇のものを甘く見てはダメだよ。奴らは隙をついて襲ってくる。だからここで神隠しが起きるんだ」
その言葉を聞くと小早川ちとせの瞳から大粒の涙がこぼれ出した。
「アリス、そこまでにしておきなさい。誰もが闇の存在を信じているわけではないのだから」
佐野観月は小早川ちとせをそっと抱き寄せるとその涙を持っていたハンカチで拭った。
その様子を見ながら夜の闇に妖しくざわめく森を新崎アリスは見つめた。
「何かいるのは確か。でも何かはまだわからない。観月はその子とここにいて」
そう新崎アリスが言ったときだった。
「なにちてるでちか?」
子供のような幼い声が聞こえてきた。少し間を置いて振り向くと月明かりの中幼い子供が三人を見つめていた。


− 黒き森 −

「なにちてるでちか?」
クラウレス・フィアートは新崎アリス達に話しかけた。
新崎アリスはクラウレス・フィアートを見つめると素っ気なく答えた。
「キミには関係ない話。たとえキミが特別な力を持っていたとしてもね」
そう言うと佐野観月と小早川ちとせの背中をトンと押し声をかけた。
「時間がないよ。早行こう」
そう言うと黒き森へと歩きはじめた。
「声……声がきこえたんでち。女の子の声で『たちゅけて』ってきこえたんでち。だから関係なく無いでち!!」
クラウレス・フィアートは闇に響き渡るような声で新崎アリスに向かい叫んだ。
その言葉を聞くと黒き森へと進んでいた3人は歩みを止め、クラウレス・フィアートへとゆっくり向き直った。
「どんな声が聞こえたの?」
佐野観月は優しくクラウレス・フィアートへと聞いた。
クラウレス・フィアートは声を思い出した。
「そうでちね。小学生くらいの女の子でひどくおびえたような感じでちた。声はもりのほうから聞こえたでち」
その答えを聞くと小早川ちとせは佐野観月の洋服の袖を強く掴んだ。
「先生!」
新崎アリスはその声に佐野観月を見つめると
「消えた子供に似ているんだね」
その声に佐野観月は黙って頷いた。そして新崎アリスに向かい提案をした。
「ねえ、こうしたらどう?私たちは依頼でこの森に来ている。アリスには瑠璃ちゃんの声が聞こえないのだからこの子……えっとお名前は?」
「クラウレス・フィアートでち」
「クラウレス・フィアート君に協力してもらって確実に瑠璃ちゃんを助ける。クラウレス・フィアート君も声が気になってきたのだからいい提案だと思うのだけれど?」
佐野観月はそう言うと新崎アリスに向かい微笑みかけた。
その提案に新崎アリスは少し考えるとクラウレス・フィアートを見つめた。
そして仕方が無いという顔をすると
「わかったよ」
と答えた。クラウレス・フィアートは満足そうに微笑むと佐野観月に向かって頭を下げた。

「では私とちとせちゃんは森の入り口で待っているわ。何かあったら携帯で電話するわね」
佐野観月はそう言うと小早川ちとせとともに二人を見送った。
黒き森に入った途端クラウレス・フィアートは闇の息吹を感じ取った。
「何かがいるでち」
短くそう言うと新崎アリスを見つめた。新崎アリスは霊剣草薙を握りしめると黙って頷いた。
「声、聞こえる?」
新崎アリスは周りを見回しながら森の中心部へと向かい歩みを進めた。
クラウレス・フィアートもそれに習い回りを見渡しながら答えた。
「今はきこえないでち。でもたちゅけてほちいならかならず声をかけてくりゅとおもうでち」
そう言った時だった。
クラウレス・フィアートは何かが森の闇にまぎれ移動した気配を感じた。
「あちょこ!!」
その言葉を受け新崎アリスは剣を握り何かを目指して走りはじめた。そしてその場所めがけて剣を振り下ろした。
しかし手応えは無い。その瞬間新崎アリスに向い闇から黒い爪が襲いかかった。
「くっ!」
新崎アリスは背中の痛みを感じた瞬間その方向へと剣を突き刺したが手応えが無い。
「なっ!」
叫んだ瞬間また闇から爪が出現し新崎アリスへとその凶器を振り下ろした。
爪は新崎アリスの肩へと突き刺さった。
新崎アリスは闇を見つめると悔しそうに呟いた。
「闇が深すぎるよ。これが何とかなれば……」
その声を聞きクラウレス・フィアートは新崎アリスへと聞いた。
「闇がなんとかなれば、おんなのこもたちゅけられるでちか」
新崎アリスは闇から襲いかかる爪の攻撃をかわしながら答えた。
「当然だよ。それがボクの仕事だからね」
その瞬間黒い爪が新崎アリスの脇腹を突き刺した。
「くあっ!!」
新崎アリスは叫び声を上げると片膝をついた。クラウレス・フィアートは駆け寄ると新崎アリスの脇腹を見つめた。
「だいじょうぶでちか!」
そう言いながらポケットからハンカチを取り出し素早く二つに裂くと脇腹からの出血を押さえるように止血処理を施した。そしてクラウレス・フィアートは意を決すると新崎アリスの前に立った。
「このやみをなんちょかするでち」
新崎アリスは脇腹の痛みをこらえながらクラウレス・フィアートの問いかけた。
「出来る?」
その声を聞くとクラウレス・フィアートは黙って頷き目を閉じた。
すると闇は彼の元に集まりその小さな体を包み込んだ。闇がだんだんと薄まり月明かりが新崎アリスを照らしはじめた頃
「クラウレス!」
新崎アリスは思わず叫びクラウレス・フィアートの元に駆け寄るとそこには青年へと姿を変えたクラウレス・フィアートが立っていた。
「闇を鎮めた。闇に生きる者よ、そして囚われの少女よ、姿を現すがいい」
姿を変えたクラウレス・フィアートは静かな声で薄れゆく闇に潜む者へ声をかけた。
「……助けて。助けて!!」
月明かりの中悲痛な叫びとともに少女の姿が現れた。しかし少女は一人ではなかった。
誰かが少女を抱えていたのだ。
その人物はゆっくりと少女を右手に抱えながら二人へと近づいてきた。
「俺様の邪魔をするとはいただけねえ。いただけねえな」
地獄まで響くような低い声が二人に向かい響いてきた。
そして月明かりの中照らされたその人物の容貌は人ではなかった。
黒光りする体。頭部には二本の角。不気味に笑いかける口には人を食らう為の牙。そして手足には新崎アリスを襲った鋭い爪がついていた。
「鬼がこんなところにいるとは意外だね」
新崎アリスは痛みをこらえ立ち上がるとクラウレス・フィアートの後ろで剣を構えた。
「くくっ。以外かい? そんなはずはねえだろう。この黒き森に神隠し伝説が出来たのはいつ頃だ? 人間どもは馬鹿な生き物さ。恐いもの見たさで森にやってくる」
鬼は大きな声で笑った。
「そして食べたんだね」
新崎アリスは侮蔑の表情とともに鬼へ問いかけた。鬼は少女を抱えながら答えた。
「ああ、そうさ。最近は人が来なくて腹が減っていたんだ。そこにこの小娘が来たってわけさ。俺は考えた。この小娘を餌にしてまた人を呼び込めないかってな。そこへ馬鹿なお前達が来た。俺の思い通りにな」
鬼はまた大きな声で笑った。その様子を見たクラウレス・フィアートは眉一つ動かさず鬼に話しかけた。
「馬鹿か、そうだな。その醜悪な姿、行動。まさに馬鹿だ。闇という名の静寂にはふさわしく無い醜さだ」
そう言うとクラウレス・フィアートは素早く鬼に近づき少女を抱えていた右手を掴むとその手を伸ばし少女を鬼から解放させた。そして
「せめてもの情けだ。終わりの無い終局……闇という名の静寂の海に沈め」
鬼の耳元でそう静かに呟くと右手を魔剣に変化させると素早く鬼の手を切断した。
「くあっ!」
鬼は短く叫ぶと切断された箇所を押さえ後ろへと下がった。
クラウレス・フィアートは少女を抱きしめると新崎アリスのいる場所へと移動した。
「あとはボクが」
新崎アリスはそう言うと霊剣草薙に霊力を込め鬼の心臓めがけて突き刺した。
鬼は声にならない声を上げると新崎アリスを見つめた。
(こんな……小娘に)
鬼は霊剣草薙が突き刺さった場所から光り始めるとその体を砂へと変えていった。

そして数分後。
鬼だったものは風に吹かれどこかへと去っていった。


− 終局 −

「瑠璃ちゃん!」
小早川ちとせは少女の顔を見るとその傍へ駆け寄った。
「お姉ちゃん」
少女も小早川ちとせの顔を見ると安心したように大きな声で泣きはじめた。

3人はその様子を黙って見つめた。
クラウレス・フィアートは青年から子供へと戻っていた。
森を出る時、新崎アリスはクラウレス・フィアートと少女に向かい
「この森であった事は他言無用だよ。この場所はまだ穢れが残っている。また別の鬼が来るかもしれないからね」
小早川瑠璃は黙って頷くとクラウレス・フィアートを見つめた。
「おにいちゃんもおねえちゃんもいい人だよね。瑠璃を助けてくれたもん。だから瑠璃誰にも言わない」
小早川瑠璃のその言葉に新崎アリスは念を押すように話しかけた。
「ちとせちゃんにも言っちゃダメだよ」
その言葉に小早川瑠璃は黙って頷くと二人に微笑みかけた。
クラウレス・フィアートはその言葉を聞くと同時に姿を子供へと戻した。
そして小早川瑠璃に微笑みかけると
「ありがちょう」
そう言って手をとった。

「まあ、これで一件落着なのかしら?」
佐野観月は新崎アリスに話しかけた。その問いかけに新崎アリスは少し微笑みながら
「一応。でも穢れが残ってるから安心は出来ないよ」
その言葉を聞くと佐野観月は抱き合っている二人の少女を見つめ呟いた。
「それはまたあとでね。じゃあ、帰りましょう。二人を送っていかなきゃね」
新崎アリスはクラウレス・フィアートを見つめると
「どうする? キミも一緒にいく?」
と聞いた。しかしクラウレス・フィアートは首を横に振り答えた。
「わたちはいいでち。ちょれにきょうあったおかあしゃんが、るりちゃんのおかあしゃんだったってわかっただけでまんじょくでち」
その言葉に新崎アリスと佐野観月は驚いてクラウレス・フィアートを見つめた。
「つまり同じ事件を追ってたって事?」
クラウレス・フィアートは微笑むと二人に向かって答えた。
「そうでち」
新崎アリスは右手を頭にあてると天を仰いだ。
「全く……これだから神様は気まぐれと言うかなんというか」
そう言うと新崎アリスは右手を差し出しクラウレス・フィアートへ握手を求めた。
「またねっていうほうがいいかも。ありがとう」
新崎アリスの右手をクラウレス・フィアートはそっと握った。
「またでち」
二人は微笑みながら挨拶を交わした。

そして公園の入り口で一人と四人は別れた。

月夜に起きた出来事。
夜の闇に潜む者はまだ多い。クラウレス・フィアートはまた出会うかもしれないと言う予感とともに四人の後ろ姿を見つめた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 4984/ PC名 クラウレス・フィアート/ 性別 男性/ 年齢 102歳/ 職業 「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】


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■         ライター通信          ■
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クラウレス・フィアート様

初めまして、月宮です。
この度はご注文有り難うございました。
こちらの事情でご迷惑をおかけしました。
おまかせという事でしたのでこのような内容にさせていただきました。
少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。

また機会がありましたらよろしくお願い致します。