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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


梅雨入り*ラプソディ〜夢想学園シリーズ〜

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 誰でも夢を見ることがある…色々な夢を。
時には、神聖都学園と言う学園で学校生活をしている夢を見る事も。
平凡な学園生活をしている時もあれば、少し不思議な体験をする事もある。

 今日見る夢は、どんな夢なのだろう。

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◆◆◆梅雨入り*ラプソディ◆◆◆

「梅雨だと言ってもいくらなんでも酷すぎだろ…」
「そうよね…1週間ずっと振り続けてるんだもの…」
「しかも、この学園の真上だけね」
 神聖都学園の体育館で、集会を終えた生徒達は口々にぼやきながら教室へ戻る。
屋根を叩きつける雨の音は強く、時に弱く、まるで故意に強弱をつけているようなリズムで、
この1週間、神聖都学園の敷地内だけに、一瞬たりとも止む事なくひたすら降り続いていた。
 この異常なまでの天候に、各地の専門家が学園に赴いて色々と調査をしているのだが、
未だにその原因を解明できたという話は出てこない。
 いいかげん、学園の排水施設も悲鳴をあげはじめているし、
何より、学園中のあちこちにはびこるカビが、湿気の凄まじさを物語っていた。
「響先生っ!なんとかならないんですかっ!?」
「…と言われても…どうしようもないじゃないの〜!
でもほら、学校にいる間だけの事だし…ね?そのほんの数時間だけ我慢すれば…」
「学生にとっては貴重な数時間なんですっ!」
 生徒達に詰め寄られて、響 カスミは困り果てた顔で適当にその場をはぐらかす。
本当に、自然の事に関しては教師にもどうしようもないのだ。
それこそ神様でも居ない限り…。
「神様…そうよ!きっとアレが原因なんだわ!この学園に赴任して来た時に聞いたことがあるの!」
 カスミが思い出した話は、神聖都学園に伝わっていると言う昔話だった。
それは遠い昔、学園が建つ前の事、この敷地では異世界の精霊を召還する儀式が行われていた。
ある時、水の精霊を呼び出した若者が精霊と恋に落ち、二人はこの世界で暮らすことにした。
しかしそれは異世界の存在同士の禁断の愛。この世界の者は二人の仲を許さず二人の仲を引き裂いてしまう。
怒り悲しんだ水の精霊はこの地に呪いをかけ、この世界を恨みながら自分の世界へ戻ったと言う…
その後、この世界の呪術師たちは水の精霊の呪いをこの地に封印し、その上に神聖都学園が建造された…
「……って話なんだけど!きっとその呪いを誰かが解いてしまったんだわ!!」
 力説するカスミだったのだが、生徒のほとんどは白けた顔でその場から通り過ぎて行く。
ただ、なんとなく”異質な雰囲気”を感じ取っていた者だけは…彼女の言う事も一理あると思うのだった。




 高等部2年B組の教室。もう長い間閉め切られたままの教室の窓際の席に座って、
先ほどのカスミの話を聞いていた三人の生徒が顔を合わせていた。
「響先生の話だけど、どう思う?」
 冷静な口調で、友人に声をかけたのは、陸・誠司(くが・せいじ)。
「…かわいそうだよ!好きな人同士なのに引き裂いちゃうなんて!なんとかしてあげようよ!」
 そんな誠司の言葉を聞いて、彼の前の席の椅子に後ろ向きに腰掛けて答えたのは誠司の友人の叶・遥(かのう・はるか)。
「いいねいいね〜♪そんじゃあココはひとつ2B探検隊、行っとく?」
 楽しげにノリノリで親指をグッと突き出して外へ視線を流すのは桐生・暁(きりゅう・あき)。
「探検隊って…桐生さん…遊びじゃないと思うんですけど…それに俺は3Aで2Bじゃないし…」
「あッ!また”さん”つって呼びやがったなコンニャロ!背中のあたりがかゆくなっから暁って呼べって言ってるだろ!」
「痛たたたたっ…く、首が絞まっ…絞まるからやめっ…わかっ…わかった!呼ぶ、呼びますって!」
「ねえ、誠司ってさぁ…いっつも暁に名前で呼べって言われてるのになんで呼ばないのさ?誠司の方が年上なのに…」
「そーだよなぁ!学習能力無いんだよなぁ、コイツ!」
「違っ…またそれを言う…!そもそも桐生は遥の友達で、俺とはあんまり接点無いんだから呼び捨てって言うのが…」
「友達の友達は、友達!つ・ま・り・俺ら友達なんだからカタイ事言ってんじゃねーの!」
 笑いながら、暁は誠司の背中をズベシ!と思いっきり引っ叩く。
涙すら出そうになる勢いであるが、それは少しも不快に思うような行為ではなく、言わば”いつものやり取り”だった。
他の生徒から見たら、「またあの三人なんかやってるよ」と言う視線を投げかけていたことだろう。
 そんな「いつもの三人」は、なんだかんだと言いながら『探検隊』として出発する事に決定し、
早速行こう、すぐ行こう!と言う暁のテンションに引きずられるままに、教室を飛び出したのだった。


 出発したは良いが、まず何から手をつけようかと一階のフロアで立ち止まっていた『2年B組探検隊』。
図書館で文献を調べてみようと言う意見と、もう一度カスミに詳しい話を聞いてみようという意見と、
何か知っている生徒が居ないか聞き込みをしてみようという意見とに分かれて、男三人顔つき合わせていたのだが…
「ねえ、アンタ達」
 高いトーンの声が、低いところから聞こえてきて会話を止める。
明らかに自分たちにかけられた声の主を探して視線を少し落とした先に、一人の少女が立っていた。
艶やかな黒髪に赤い目が特徴的な少女は…明らかに、どう考えても、絶対に、三人よりはかなり年下に見えた。
「……え、えーと…あのー…?」
「叶センパイよね」
「あ、はい。そ、そうです…」
「って遥!てめーこのチビっこいのに敬語使ってんじゃねえって!」
「アンタは桐生センパイだっけ」
「あ、アンタって…てめー…先輩とか言いつつ…」
「それからそっちは陸センパイ」
 少女は三人の名前と顔を知っているらしく、ちゃんとそれぞれの顔を見てその名を告げる。
一体何者?と、訝しげな顔を向ける『2年B組探検隊』だった。
「自己紹介するね。俺は6年C組の浅海・紅珠(あさなみ・こうじゅ)。今んトコ女子」
 今のところと言う前置きを使うことも少し引っかかるが、何よりもっと引っかかるのは”6年”と言う発言だ。
高等部、中等部共に三年制なわけで、六年制と言えば初等部…つまり、小学校の6年と言う事になるのだが…
「って、おまえ小6かよっ?!」
「そう」
 驚く暁に、しれっとした顔で答える紅珠。
「おまえさぁ…だったら高校の先輩には敬語ってモンを使うのがスジって…」
「年上の俺にタメ口呼び捨て推奨させるような桐生には言われたくないなぁ…」
「そうだよね〜!俺もそう思った!えーと、紅珠ちゃんだっけ?気にしなくていいよ!」
「お、おまえら…どっちの味方だよ!」
「あはははは!やっぱオモシロイね、アンタ達」
 紅珠は楽しげに笑い、一番近くにいた遥の背中をバシバシと遠慮なく叩く。
遥も遥で、笑い声につられて自分も笑ってしまったのだが、すぐに暁に「同レベル…」とツッコミを入れられるのだった。
「―――ところで、浅海さん…でしたね?6年生の貴女がどうして俺達に声をかけたのか聞かせて欲しいんですが」
「え…あ、そっか。俺のこと覚えてない?響センセが話してた時、あの場に俺もいたんだけど。
センセの話終わった後もなーんか三人が面白そうな話をしてたから、もしかしてって思って」
「って事は紅珠ちゃんも恋人達を助けてあげようって事?」
「それならそうと先に言えっての!そんじゃ、『それでも2年B組探検隊』って事で行こうぜ!」
 先ほどまでの紅珠への態度もガラッと変わり、暁は再びテンションも高く、彼女の肩に手を添えながら腕を大きく突き上げる。
「ちょーっと待った!って事でしたら、俺も混ぜてくださいよ、先輩!」
 いつの間にそこにいたのか、四人の間にぐいっと腕を突き出して入って来る一人の男子生徒。
今度は明らかに高等部の生徒なのだが、2年では見かけない生徒で…。
「俺もさっきの話聞いてたんだよな〜!なんか気になってんだけど、どうしたらいいかわかんなかったもんだから」
「そういえばアンタもさっきいたっけ。確か高等部1年の…」
「草摩・色(そうま・しき)!何かの役には立つと思うんで、ヨロシクっ!!」
 何の前触れもなく突如加わった5人目の仲間。
男子高校生四人に女子小学生一人と言うちょっと見た目にはおかしなグループは、互いに顔を見合った後、
それぞれが納得したように頷きあい、『あくまで2年B組探検隊』としての活動を開始することになったのだった。
「男四人に女の子一人かぁ…なんか戦隊モノみたいで面白そう♪」
 遥がぼそっと呟いたのを聞き逃さなかった誠司だが、話が進まなくなる事を懼れてツッコミを入れる事は避けたのだった。


◆◆

『校庭のすみにある巨大な落石は、地下へ続く階段を封鎖しているらしい』
 そんな噂を聞いたことのある紅珠を先頭にして、『あくまで2B探検隊』はその噂の場所へと向かった。
相変わらずの雨で、校庭はぬかるんでいるし、傘をさしていてもなんとなくじめっと濡れた感覚が髪の毛に伝わる。
そんな校庭のすみにある神聖都学園の生徒なら誰もが眼にしたことのある大きな岩。風景に溶け込んでいて、あえてそこを注目する者は少ない。
ただ、危険だからと言う名目で、その岩のまわり一メートルは近寄ることは禁止されていて、柵が作られているのだが…。
「つってもさぁ…柵はシカトできっけど…この岩どうすんの?」
「気合いだよ気合い!うーっし、隊長!ここは一つ隊長のお力でこの岩をガッツーンと!」
「いやー、実はさっき試してみたんだけどさ…駄目でさ…」
 先頭に立っているだけでいつの間にか『隊長』に任命されている紅珠は、暁に言われて苦笑いを浮かべて一歩後退する。
女子供の細腕でそりゃ無理だろ〜と、色は一歩前に出て柵を越えつつ岩の表面を触ってみる。
心なしか、妙にヒビが入っているように感じるのは老朽化なのか…もしや本当に紅珠が…
「…ンなわけないか」
「なにが?」
「うわっ!…なんだ叶先輩かよ…いきなり耳元で声かけんじゃねーよ!」
「あ、ごめんごめん!でも何か見つけたのかなーって思ってさ」
 ニコニコ笑う遥を見て、はーっとため息をつく色。
いつの間にやら岩の周りを取り囲むように、全員が張り付いてその表面を調べているようだった。
「もしここに入り口があったとしても、この岩をなんとかしない限りは無理だな…」
「誠司、なんとかできない?」
「少し脆くなっているようだからなんとかできない事はないけど…」
 チラッと視線を送る先には、先ほどからこちらの様子を訝しげに窺っている教師と生徒数人。
突破するには岩を破壊するしか方法は無いだろうが、そんな事をすればその教師達に丸見えになってしまうわけで…。
「よーしわかった!ここはこの探検隊の隊長、暁サマに任せなさーい!」
「つーかいつから隊長に!?」
「細かいことは気にしナッシング!そんじゃちょっと俺立ち話してくるから〜そっちヨロシク〜♪」
 そう言うと、暁は本当に教師達の元へと向かい、なにやら話をしている。
こちらを見ていた教師や生徒数人が、まるで暁に指示されるように別方向を向いたのを見て、遥が誠司に合図を送る。
 誠司はふうっと呼吸を整えて気合い一撃。
「ハッ!」
 どんな物にもある弱点を突けば、大きな岩も一撃必壊。
ガラガラっと大きな音を立てて、岩は崩れ落ちてその後ろにある朽ちかけた木の扉を現した。
「す、すげ…つーか、あんたホントに人間?」
「誠司の特技なんだぜ〜!」
「あんた、世界びっくり人間コンテストに出られるぜ…」
 褒め言葉なのかどうか微妙な色の発言に、誠司は苦笑いを浮かべるしかできない。
そうしているうちに、いつの間にか暁が戻ってきていて、誰よりも先に…露わになった扉をノックしていた。
一応、施錠をしていた後はあるものの、どれもかなり腐食していて…。
「ていっ!」
 さらにいつの間にか間に入り込んでいた紅珠のひと蹴りで、扉がバリバリと音を立てて内側へと倒れていった。
砂埃の舞い上がりと共に、かび臭く土臭いなんとも言えないむわっとしたにおいが鼻の奥を刺激する。
視界を少し遮っていたほこりが少し落ち着くと、確かにそこには幅一メートルほどの地下へと伸びる階段が続いていた。
「と、とうとう我々は神秘の秘境へ続く道を発見しましたッ…!ささっ、隊長、どうぞ!!」
「はあっ!?あんたさっき自分が隊長だって言ったんじゃ…」
「暁も紅珠ちゃんも行かないなら、じゃあ俺が一番乗りで!」
「あ、遥!気をつけないと足元に…」
「大丈夫だいじょー…ぶわああぁぁあああああっ!!」
「遥―――?!」
「な、なんてお約束な…」
 頬を引きつらせる紅珠の気持ちはこの場にいた誰もの心の代弁かもしれない。
とにかく。
お約束パターンで階段を転がり落ちていってしまった遥を追いかけて、誠司、暁、色、紅珠は急いでその後を追いかけた。



ポタン…

静かな空間に、水の滴る音が響く。
地下空間で真っ暗なはずなのに、”そこ”は何故か薄明かりに照らされて、互いの顔がはっきり見えるほどだった。
薄明かりは、天井からではなく…その空間のほとんどを占めている、”湖”から発せられている。
 誠司と色の二人は、この空間に足を踏み入れるなり何かを感じ取ったらしく、
警戒するように、周囲の様子を窺いながらゆっくりと地面と湖の境界線へと近づいて行った。
 湖の中心には、直径3メートルほどの円形の島があり、こちら側の地面と一本の道で続いている。
その島の真ん中に…朽ちた小さな鳥居のようなものが建てられていて、その下に…一本の刀のようなものが突き刺さっていた。
 ”刀のようなもの”と言うのは、刀とははっきり言えないからである。
刀の柄の部分はなく、錆びて黒く変色した刀身が、不自然な長さで突き刺さっているように見えるのだ。
「もしかしてこれは…」
 誠司は遠巻きながらも、その様子を見ただけで”ある可能性”に思い当たった。
ここ最近の不自然な雨、響カスミの話、実在する地底湖、そしてそこに突き刺さる…一本の朽ちた刀。
全てを繋げて考える事が出来て、その刀への可能性と危険性が誠司の脳裏を過り―――
「隊長!妖しい刀を発見しました!錆びて折れてるけど」
「ほんとだ!なにコレ、すっごい古い刀じゃん!」
「何に使うんだろこんなもん」
スコッ。
「ああっ?!」
『え?』
 誠司の心配も虚しくどこ吹く風、興味津々の暁と遥と紅珠の三人は、悪気も何もまったくなく、
アッサリと、半身だけ辛うじて刺さっていた刀を抜き去ってしまったのだった。
とたん、地底湖のある空間の空気が一瞬で変わる。
ひんやりとしていた空気がさらに冷たくなり、少し肌を刺すような痛みすら伴うほどにまで下がっていく。
揺れもなく静香だった湖面が波打ち、薄ぼんやりと発っせられていた光が輝きを強めた。
『わあああああっ!!』
 目がくらむ光が一瞬その場を包み込み、目を突き刺されるような痛みを感じて全員が咄嗟に顔を伏せる。
目蓋越しに感じる光が弱まり、そして空気が少し軟らかくなったのを感じるまで、誰一人顔を上げなかった。
「………誰?」
 一番最初に顔をあげて、小さく呟いたのは遥。彼の声をきっかけにして、全員が顔を上げると、
薄く氷が張ったように白くなった湖面の上に、一人の髪の長い人が静かに立っていた。
 透き通るような白い肌に、水色の長い髪が真っ直ぐに伸びて、その表情は言葉にならぬほど美しい。
「まさか…響センセの話って本当だったんだ…」
「って事はあの人…精霊!?」
「はー!すっげー美人…」

『彼はどこ…?』

 少しハスキーな声が地底湖内に響く。
誰か特定の相手にかけられた言葉ではなく、その場にいる全てのものに投げた言葉のようだった。

『彼は…どこ…?彼は…』

 焦点の定まっていない瞳を、精霊はゆっくりと”島”の上にいる三人へと向ける。
やがてその目は、紅珠が手にしているあの朽ちた刀へと動き、その瞬間…精霊の瞳に光が宿った。
と言っても、それはどう贔屓目に見ても好意的な光ではなかったが…。

『その刀は…人間…憎い人間の…私と彼を引き裂いた…人間の刀…』

「はっ…こっち見てるぞ!や、ヤバイ!それ捨てろっ!はやくっ!」
「す、捨てる!?捨てたほうがまずいんじゃないの?!」
「こっち来るよ!!」
 精霊は静かに三人の下へと近づいてくる。歩いているようで、湖面を滑っているようにも見える動きで…。

『憎い…私達を引き裂いた人間が憎い…この世界が憎いっ!!』

 精霊の声に湖面が呼応した瞬間、まるで湖の水は生きているかのように動きはじめた。
こういう展開になれば、次はどうなるか…と言うのは、だいたいの者ならば想像は簡単につく。
「逃げろーッ!!撤退だ撤退―――っ!」
 暁に急き立てられるようにして、紅珠と遥は転がるように島から陸地へと一直線に走る。
「遥!」
 誠司は急いで手を伸ばし、遥と紅珠の手を取り思いっきり引っ張る。
暁も自ら誠司に向かってジャンプして、勢い余って地面に転がるように倒れこんだ。
「だ、大丈夫かよ?!」
 色がその手を引いて立ち上がった瞬間、すぐ後ろで水が大きく跳ねる音がする。
本能的に二人揃ってしゃがんだその頭上で、空気が切り裂かれるようなヒュと言う音が横切っていく。
「二人とも、こっちだ!」
 立ち上がることも出来ずに、誠司の声のする方へと這うように二人は向かう。
ちょうどそこには大きめの岩が突き出ていて、湖から少しではあるが身を隠すことは出来る空間があった。
そこに5人固まり、改めてそれぞれの顔を確認する。
どことなく、全員の顔が青ざめて見えるのは湖から発せられる光のせいか、それとも…。

『消えてしまえ…この世界など消えてしまえ…私の清い水で全て汚れた世界を洗い流してしまえ…』

「ど、どうするんだよ?!なんでこんな事になってんだよ?!オイコラっ!隊長!」
「俺に言われてもっ…!陸センパイっ!?」
「みんな、とにかく落ち着つけ!精霊をなんとかしたい…そのつもりでここへ来たんだろ?」
「い、いやほら…お…俺はそのー…なんっちゅーか、楽しそうだなーと思って…な」
「うっ…右に同じ…」
「さらに右に同じって言ったら、先輩方、怒る?」
 怒れるはずなどない。
そもそも、響カスミの話なんて話半分どころかほとんどツクリの事が多いわけだし、
誰が聞いても本当の事だと心から信じるという事はちょっと出来難いものがあったりするのだ。
 もし本当に精霊が居たとしても、まさか生命の危機に陥る展開になろうとは…
「あのさ…」
 不意に、色が少し遠慮がちに口を開く。
「俺ってそのーちょっと妙な特技があって、なんっつーか…”見えた”んだけど…」
「見えたって…なにが?」
「あの人のこと」
 色はこういう状況ゆえに、とりあえずかいつまんで自分の”見た”事について話をする。
過去にあった本当のこと。
精霊が、愛する若者と引き裂かれたときのこと。封印のこと。
そして…精霊の愛した若者が、精霊を想いながら生涯独身のままでこの世を去ったこと。
「信じる信じないはあんたらの勝手だけどさ…」
「なるほど…やはりあの刀は封印の役割をしていたんだ…」
「やっぱり可哀相だよ!引き裂かれたなんて!どうにかしてあげようよ?!
精霊のこと、幸せにできないかな?幸せにしてあげたら、きっと精霊もこの世界を憎んだりしないよ!」
「話せばわかってもらえる…かもしれない…」
「おまえら…意外とアッサリ俺の言うこと信じてんだな…」
「なーに言ってんだって!俺ら、さるさる探検隊の仲間だろ☆」
「つーか違うだろ、それ」
 暁の素のボケに色がツッコミを入れ、場が和みそうになったのだが…。

『私の愛しい人はどこにいる…迎えに行こう…あなたの事を…』

 精霊がゆっくりと地上を見据えて動き始めたのを見て、一気に空気が張り詰めた。
もしこのまま、地上に出てしまったら、梅雨の雨くらいではすまされない。
本当にこの世界が水の底に沈められてしまうことになるかもしれない。
「よ、よーしっ!こーなったら俺、行きますっ!」
「は…遥?!」
 すくっと立ち上がった遥は、いきなり駆け出して精霊の前方に飛び出し立ちはだかる。
何を考えているんだー?!と全員が冷や汗をかきながら見守っていると…
「お、俺はここだよ!!」
 遥は両手を広げて、精霊を受け入れるような表情を向けた。
「なに考えてるんだ遥の奴っ!」
「あのバカっ!恋人役でもやるつもりかっ?!」
「時代が違うから無理っしょ…」
「いや、それ以前に叶先輩って…あの精霊の事も恋人の事も詳しく知らないんじゃ…」

『―――おまえは…』
「お、俺だ!ずっと待っていたよ!君が来るのを!」
『……わ、私を…私を待っていてくれたの…か…?私を…』
「そうだよ!さあ、だから落ち着いて…せっかくの美人が台無しだよ!」
『美人…?』
「女の子には笑顔が似合うよ?」
 遥は、ドラマや漫画で見かけた思いつく限りのセリフを並べてみる。
これでどうにか落ち着いてくれればと思っての事だったのだが、遥のセリフを聞いた精霊は逆にその表情を強張らせた。

『違う!あの人じゃない!あの人はどこだ?!あの人をどこへやった!!』

 ますます、激しい怒りをあらわにする精霊。
先ほどよりもいっそう大きな水柱が立ち上がり、遥はその場に硬直してしまう。
「遥っ!あーもうっ!」
「世話の焼けるセンパイだよなーまったく…っ!」
「こうなったらイチかバチかの説得しかねーっ!」
 誠司達は岩陰から飛び出して、遥の元へと駆け寄る。
突然増えた人数に、精霊は戸惑ったようで、水柱で攻撃を仕掛けようとしたその手を止めた。
「俺はこの上に住んでる人間の代表、桐生 暁ってんだ!でもな、上はあんたの知ってる世界とは違うぞ!?
あんたの知ってる世界はもう何百年も前に無くなってんだよ!俺らを見ろよ!あんたの知ってる人間とは違うだろ?」
 時代が違えば、服装も違うだろうし外見も違うだろうと踏んでの暁の発言なのだが、根拠はもちろん皆無だ。
しかし、もはや立ち止まる事など出来ない。
「だから…アンタの好きなその人はもう居ない…その人は死ぬまでアンタを想い続けて亡くなったらしいぜ…
なあ、俺にはよくわかんねーけどさ…それで充分じゃないか?世界恨んでどうすんの?それでその相手が帰ってきたりするわけ?
帰って来たりするなら皆やってる。でもよ…そんなはず無いからもがき苦しんだりしながらでもちゃんと生きてるんじゃないか!
力があるからってこんなのに使ったら駄目っしょ!?そんなのは……自分から死ぬ奴と同じか………それより最悪だ…!!」
 語尾を強めて、暁はしっかりと精霊の目を見据えて叫んだ。
それは相手に言っているようでもあり、どこか自分に向けての言葉にようにも思える言葉。

『………いない…あの人は…いない?』

「そ、そう!その人はもう死んじゃってこの世界にはいないよ!子供だって残してないから子孫もいないと思う…
だけど、だから…その人はあっちの世界できっと…待ってる…来るのを待ってると…思う…
昔の人が酷いことしたのは…俺らには関係ないって言ってしまえばそれで終わりだと思うんだけど…でも、そうじゃないから…
なんとか幸せになってもらいたいから!貴女にも…貴女の好きな人にも…」
 紅珠も声を張り上げて心から呼びかける。
精霊は聞いていないわけじゃない、聞こえていないわけじゃない、だから必ず気持ちは通じると…。
 二人の説得の後ろで、誠司は説得が駄目だった場合の事を考えていた。
少しではあるが、誠司も精霊を封印することの出来る力は持っている。
媒介である刀は朽ちていても、それに変わるものを用いれば少しは強固な封印を施すことは出来るであろう…
 誠司の隣に立つ色も、最後の手段を考えていた。
彼の能力を使って、精霊の意識を乗っ取り、その意識に呼びかけて”想い人”の姿を見せるという事を。
それはしかし、過去であり非現実であり、今であり現実の”想い人”ではない…だから、最後の手段なのだ。

 彼らは誰もが思っていた。
願わくば、先人たちが取った手段ではなく、今の自分たちに出来る手段で…精霊を幸せに導けるようにと。


『『あまり彼等に迷惑をかけてはいけないよ…』』

 その時、どこからか…知らぬ男性の声が響き全員の動きが止まる。

『………その声は…!』

『『やっと貴方に会うことができました…彼等が道を閉ざしていた岩を砕いてくれたから…
私はずっとずっと、貴方を見守っていました…』』

 静かに、ゆっくりと、地上からの階段を伝って一人の男性が下りて来るのが見える。
しかし明らかにその姿はこの世の者ではないのは誰の目にも見て取れた。

『ああ…!本当…また会えた…私を…私を見守っていてくれたと?』

『『ええ、ずっと…』』

 男性の声と、精霊の声。
二人の会話から、誰もが男性の声が、精霊の想い人である事を感じることが出来た。
しかし、どうして突然、そうなったのかは誰にもわからなかった。

『『世界を憎んじゃいけない…私は例え貴方と引き離されても恨みはしなかった…』』

『どうして?!』

『『私も、私たちを引き裂いた彼等も同じ人だから…わかるんです…彼等の気持ちも…
 それに私は必ず貴方に会えると信じていたから…必ず会うと誓っていたから…』』

『どこに…貴方はどこにいるの…私の愛おしい人…』

『『私は今、たくさんの若い人たちに包まれています…
貴方をずっと守れるように長い間そうしていたのです…この上で』』

「ええっ―――!?」
 男の言葉に、驚きの声をあげたのは他でもない『探検隊』の面々たち。
ただ静かに、恋人たちの再会を見守っているつもりだったのだが、コレばかりは聞き捨てならない。
男の言葉が本当で、自分たちの推測がもし正しいのだとしたら…つまり…

『『驚かせてしまいましたね…神聖都学園は何のためにこの地に建てられたのか…貴方たちの思っている通りですよ』』
「ちょっと待て…って事はつまり…どういう事ですか、隊長?!」
「おいっ!そんなの小学生の俺でもわかるっての…つまり…」
「神聖都学園は、この地の呪いを封じるために建てられたのじゃなくって…」
「いつか精霊が現れた時の為に、この地を見守る為に建てられたってこと?」
「しかもどうやら…」

『『そう、彼等は私たちを引き裂いた事を悔んでいた…だから私への鎮魂の意味もこめて…私の魂と共に…』』

 今明かされる衝撃の事実…なんとも言えない気持ちに、その場に崩れ落ちるように座りこむ5人。
軽いノリでやってきたこの場所で、こんなにも大きな出来事に直面してしまうとは誰も思っていなかったのだから。
 しかも、二つの魂は再会したとたんにやたら5人の前でラブラブバカップルっぷりを炸裂させている。
すでに彼らの事などは頭にも眼中にも無いようなピンクタイフーン状態だった。
「なんか…疲れた…」
 ぼそっと呟いた紅珠の言葉に、揃って四人は頷いたのだった。


◆◆◆

 神聖都学園は、本日も晴れ。
ちょっと晴れすぎじゃないか?と思うほどの快晴。
長い間降り続いていた雨が嘘のように止んで、生徒も教師もいつも通りの学校生活を続けていた。
雨が降り始める前と何も変わらないままで。
 ただ変わったのは、校庭のすみにある大きな岩が無くなった事。
そしてそこから地底湖へ続いていたはずの階段が、今はもうセメントで埋められてしまったこと。
 『陥没する可能性があるから。生徒が立ち入ると危険だから』と言う理由だったのだが、
生徒の中のほんのごくごく一部だけは、その本当の理由を知っていた。
『あくまで2年B組探検隊』の5人だけは。
「平和だなあ…」
「うん…」
「あんなことがあったなんて思えないね…」
「そうだよな…」
「なんだったんだろうな…」
「さあ…」
 屋上の一部、日陰になっている場所に屯っていた5人。
地底湖へ探検に向かったあの日から、早いものでもう1週間過ぎ去っていた。
けれど未だに、夢か現実かよくわからないままで思い出されるあの日の出来事。
 結局、彼等の前で、二つの魂はこれから共に在ることを誓い合い、
精霊は若者の魂と共に、世界へと戻っていった…のは、ハッピーエンド、幸せな結末…だったのだが…。
「はぁ…なんか…なんだろうなあ…この気持ちは…」
「そりゃあアンタ…あの美人の精霊のおねーさんが…」
「実は正真正銘の男だったなんて…」
「気持ち的にはちょーっとなあ…いや、悪くは無いし否定もしないけど…なんかなぁ…」
 精霊の性別を予め知っていた色以外の男達は、最後に知ったその衝撃から抜けきれないでいたのだった。
誰かを愛する気持ちに制限は無い。それは皆理解しているし、わかっているのだが…。
「シンデレラが実は男だったって聞かされた気分で…なんだかなあ…」
「ははは…俺も体質的にいつかそうなっちゃうのかも…」
「はあ?」
「なんでもない…」
 意味ありげな呟きをもらし、 遠い目をして紅珠が見上げた空には、
久しぶりに一雨来そうな夕立の雨雲が、遠い空の向こうの方に少し姿を見せていたのだった。
「あー、キミ達こんなところにいたのねー!」
 どこかまったりしていた屋上に、突如聞こえたのは響カスミの声。
びくっと全員体を震わせて声のした方を見ると、なにやら古い文献を抱えたカスミの姿。
 5人の脳裏には、全く同じのいやな予感が過ったりする。
「あのねあのね!今度はこの近所にある古〜〜〜い伝説があって…」
「もう結構です」
「え?え?ちょっとォ!他にもあるのよ!この亀姫様と鶴王様のお話とかぁ〜!」
「俺ら忙しいんで!じゃっ!」
 また妙な伝説を持ち出されて、妙なことに足を突っ込んでしまうハメになったらたまらない。
5人は逃げるようにその場から立ち去り、それぞれの教室へと戻っていく。
「もーっ!!音楽の単位あげないわよーっ!!」
 つまらなさそうなカスミの叫びも、夕立の前の生温かい風が吹き飛ばして行ったのだった。





◆終◆



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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●初等部6年C組●
【4958/浅海・紅珠(あさなみ・こうじゅ)/女性/12歳/小学生・海の魔女見習い】
●高等部1年A組●
【2675/草摩・色(そうま・しき)/男性/15歳/中学生】
●高等部2年B組●
【4782/桐生・暁(きりゅう・あき)/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【5180/叶・遥(かのう・はるか)/男性/17歳/高校生】
●高等部3年A組●
【5096/陸・誠司(くが・せいじ)/男性/18歳/学生兼道士】

※個人データは現実世界の設定のものです。夢想学園内での設定とは異なります。

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■         ライター通信          ■
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 この度は、「神聖都学園〜夢想学園シリーズ〜」に参加いただきありがとうございました。
今回からの初の試みで、1話完結型のパラレル的なお話となっております。
現実世界とは違った関係ややり取りで作っているストーリーですが、楽しんでいただけたら幸いです。

>桐生・暁さま
はじめまして。ライターの安曇あずみと申します。
この度はご参加どうもありがとうございました。
少しハジケたキャラにし過ぎたような気がしています。すみません。(^^;

またどこかでお会いできるのを楽しみにしております。

:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>