 |
教室に潜む者
− オープニング −
「誰？」
由比遥華は人の気配を感じて後ろを振り向いた。
今は放課後。
１年の遥華の教室には遥華以外に人はいない。しかし遥華には誰かがいるように感じられたのだ。
（何か危険な者がいる）
遥華は鞄の中に素早くノートを入れて教室飛び出た。
ドン！
鈍い音と共に教室のドアが閉まった。
遥華は教室のドアを背に向け呼吸を整えた。しかしあの危険な感じはまだ消えない。
（なんとかしなきゃ）
遥華は鞄を胸に抱えると校舎の中を走りはじめた。
（今のうちになんとかしないと大変な事になる）
遥華の中に眠る不思議な力が遥かに教室に潜む者が危険であると警鐘を鳴らしていた。
「誰か！誰かいませんか？！」
遥華は叫びながら学校を数分走り回った。
そして遥華が走り疲れて廊下に座り込んでいた時
「どうかしたの？」
そんな声がかけられた。
− 助けを求めるもの −
「？こっちから叫び声が……急ぐか」
少女の叫び声を校内で聞いた不城・鋼は声の聞こえた方向へと走りはじめた。
偶然聞きつけた悲痛な叫び。声を上げた少女は誰かの助けを求めている。
そう直感した不城・鋼は少女の元へ急いだ。
廊下の角を曲り１年の教室近くにたどり着くとそこには赤い髪の毛を腰まで伸ばした少女が廊下に力なく座り込んでいた。
「どうかしたのか？」
不城・鋼はそう声をかけると少女は振り向き不城・鋼を見つめた。
少女は脅えたような瞳で不城・鋼を見つめたが、すぐにその瞳は助けを求める者の瞳へと変わった。
不城・鋼は駆け寄り少女を助け起こすと
「何があった？ 俺は不城・鋼。何か力になれるかもしれない」
そう言うと無邪気な微笑みを彼女に向けた。
その微笑みで少し緊張のほぐれた彼女は不城・鋼へと話し始めた。
「私は由比遥華って言います。一年生なんですけど、帰ろうと思って教室に入ったら何か……ものすごく嫌な感じがして。怖くて」
それを聞いて不城・鋼は首をかしげた。
「怖い？ それだけで教室を飛び出して助けを求めたのか？」
由比遥華は首を横に振ると訴えるような瞳を不城・鋼へ向けた。
「違う。違うんです！ あそこには何か人に害を為す者がいるんです。私、小さい頃からそういうものが見えたり感じたりするから……だからわかるんです！」
由比遥華の瞳を見つめた不城・鋼はその真剣な瞳に彼女が嘘を言っているとは思えなかった。
「わかった。とりあえず教室に行ってみよう」
不城・鋼は由比遥華の手をとると一緒に問題の教室の方向へと歩き始めた。
ー 教室 ー
「こっちです」
由比遥華に案内されたどり着いた所は一年の教室でも一番奥で薄暗い教室だった。
窓からそっと中をのぞくが由比遥華の言うような危険な者は見えない。
「中に入らないとわからないみたいだな」
不城・鋼はそう言うと扉に手をかけた、その時由比遥華の手が微かに震えた。
先ほどの危険な者をまた見なければならないのだから恐怖を抱いているのだろう。
由比遥華の手をそっと握ると不城・鋼は無邪気な微笑みを彼女に向けた。
「大丈夫何とかなる」
その言葉と微笑みに由比遥華は安心すると黙って頷いた。
不城・鋼は扉を開けると由比遥華とともに中へと入っていった。
「くっ。何だこの嫌な感じは」
中に入った瞬間流れ出てくる生暖かい空気に不城・鋼は思わず言葉を吐いた。
由比遥華も同様に普通とは明らかに違う空気に口を押さえた。
退魔能力のない不城・鋼でもわかるほどの気配だ。心の中で警鐘が鳴り響き危険を知らせているのがわかる。
しかし、由比遥華に「大丈夫何とかなる」と言った手前引き下がるわけにもいかない。
それに不城・鋼の性格上、この状況をそのままにして「はい、さようなら」というわけにもいかない。
「嫌！」
由比遥華の短い叫びが聞こえてきた。
傍にいたはずなのに声が聞こえてきたのは教室の奥の方だった。
「由比！」
そう言って駆け寄るとそこにいたのはドロドロとした身体と鞭のようなしなやかな触覚を持つスライムだった。
由比遥華は触覚に捕まり身動きが取れずもがいている。
その動きとともに触覚も力を強め由比遥華は苦しげにうめき声をあげた。
「くそ！！」
不城・鋼は由比遥華を見つめながら間合いを計り四次元流歩法で超高速移動をした。
そして敵が何かに気をとられた瞬間、隙をみて蹴りをくらわせた。
スライムはドロドロとしたその身体をくねらせると由比遥華を掴んでいた触覚を緩めた。
それを見た不城・鋼は由比遥華を抱きかかえるとスライムから距離をとった。
スライムの触覚は動く者に反応するようでしなやかな触覚が不城・鋼に襲いかかる。
蹴りを放つがあまりダメージを受けていない様子。
由比遥華を抱えながらの戦いは長期戦には向かない。しかしここで由比遥華を下ろせば間違いなくスライムの触覚は由比遥華を襲うだろう。
「あの、私……教室から出ます。不城さん下ろしてください」
そんな由比遥華の言葉に不城・鋼は首を横に振った。
「下ろせるわけないだろ。ここで由比を下ろしたら間違いなくアレの触覚は襲ってくる。そしたら生死に関わるかもしれない。由比は俺にしっかりつかまってろ」
そう言うと由比遥華はおとなしく不城・鋼に抱きついた。
触覚をよけながら少し考えたが、やはり短期決戦しかない。
「やっぱりアレしかないか」
不城・鋼はそう言うと
「蛟竜雷閃脚！！」
そう言って全闘気を足に集め必殺技をスライムに向けて放った。
「やったか？！」
そう叫んだ時、教室の扉がのんびりとした声とともに開かれた。
「あ〜みつけた。鋼だ〜」
そこに立っていたのは不城・鋼が良く知る顔。飛鳥・桜華だった。
ー 通り掛かりの救世主 ー
「鋼はこういうのと遊ぶの趣味なの〜」
飛鳥・桜華は首をかしげると不城・鋼に聞いた。
「そんあわけあるか！ 思いっきり襲われてるだろうが！」
不城・鋼は思わず突っ込んだ。飛鳥・桜華は触覚を伸ばしたスライムをじっと見つめた。
スライムは消えては現れ場所を変えている。
「ふむ。あれが悪い奴ですね〜」
そう言うと目を閉じて気と魔力を廻らして敵の場所を特定すると目を開き特定の場所を見つめた。
飛鳥・桜華は微かに笑うとその場所を指さした。
「白〜食べちゃいなさいですぅ〜」
その言葉とともに空間より巨大な幻獣、白虎が現れた。白虎はうなり声を上げると飛鳥・桜華の指さした場所へと向かい走り出した。
そして不城・鋼が手を焼いたスライムは飛鳥・桜華の白にひとのみにされたのだった。
ー 終局 ー
「お姫さまだっこですか〜」
飛鳥・桜華は冷たい笑いを不城・鋼に向けた。
その言葉に不城・鋼は由比遥華を下ろした。
「白〜…あのえろえろ星人も食べちゃいなさいですぅ〜」
白は飛鳥・桜華の言葉を聞くと不城・鋼の頭を咥えて引きずると教室の外へと出ていった。
「おい！ さくら、こらー！」
不城・鋼の叫びが夕方の校内に木霊した。
そして由比遥華に笑いながら
「気をつけないとダメですよぉ〜」
と注意をして不城・鋼をくわえた白の後を追いかけた。
「ありがとうございました」
由比遥華は教室に出ると二人の姿を見送った。
こうして教室に潜む危険な者はひとに害を為す前に退治されたのだった。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 2239／ ＰＣ名 不城・鋼 （ふじょう・はがね）／ 性別 男性／ 年齢 17歳／ 職業 元総番（現在普通の高校生）】
【整理番号 2439／ ＰＣ名 飛鳥・桜華 （あすかの・おうか）／ 性別 女性／ 年齢 16歳／ 職業 幻獣騎士 兼 女子高生】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
不城・鋼様
はじめまして、月宮です。
こちらの事情でご迷惑をおかけ致しました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
また機会がありましたらよろしくお願いします。
|
|
 |
