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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


〜〜〜しあわせの葉〜〜〜



 デジタル時計の数字が、8時30分を指す東京の某所。
目覚まし時計の音とは違う音が室内に響いて、ジェイド・グリーンはがばっと起き上がった。
まだ寝ぼけた頭のままで手を伸ばしてその音の元を探り、携帯電話に行き当たる。
通話ボタンを押して、気だるげな声で、「はい…」と呟いたのだが…
「えっ?あっ!俺っ…?!い、いや、もちろん!!行く、行くよ!行きます!!」
次の瞬間にはぱっと飛び起きて、電話に向かって何度も頷いていた。




「すみません、朝早くから…」
「とんでもない!ってゆーか、そんな、朝早いってわけでもないしさ…」
 時計の針は9時30分。あれから1時間経過している。
確かに、一般的に決して早いという時間帯ではないが、
昼まで寝ている休日のジェイド時間にとっては早いという事を、電話の相手…高遠 弓弦はわかっていたらしい。
起こした事を申し訳ないと言う気持ちから、弓弦はジェイドに”あるもの”を用意していて、
少し遠慮がちに、”それ”…茶色い無地の紙袋を彼に差し出した。
「あの…朝ごはん、まだだろうと思って…」
「俺に?!」
 電話でのお誘いを受けて、すぐに用意して飛び出したせいで確かに朝食はまだのジェイド。
嬉しそうに目を輝かせながら袋を開くと、明らかに市販品ではない手作りのサンドウィッチが姿を見せた。
「こ、これもしかして…」
「上手くできたかどうかわかりませんけれど…行く途中に食べて下さい」
 手作り朝ごはん。
ジェイドはその事実に感動しつつ、すぐにでも食べたい気持ちと食べるのが勿体ない気もして、とりあえず紙袋を閉じる。
どうせこの場所で食べるというわけにもいかない。
「えっと…それじゃああのー………行こうか?」
「そうですね」
「目的地って決まってる?」
「とりあえず…オリーブ公園に」
 オリーブ公園とはここから電車とバスで1時間少々の場所にある、自然をそのまま利用した公園である。
「じゃあ早速行こう!幸せ探しに!」
「はい」
 大声あげて、腕も天に突き上げるジェイドを見た弓弦は、なんだか嬉しくて小さく笑みを浮かべる。
ジェイドはその微笑がまた嬉しくて、笑顔いっぱいのまま『幸せ探し』に出かけるのだった。

『幸せ探し』…そう、都会ではなかなか見つける事の出来ない『四葉のクローバー』探しに。


****しあわせの葉****


 二人の着いた公園は、さすが自然そのものと言うだけあって一面の緑の野原で他には何も無い。
多少は人の手が加わっていて、ゴミ箱やベンチが少しだけ置いてあるものの、それ以外はまさに自然だった。
「この中から…探すのか…」
 しかも公園の広さは東京ドーム数個分。
まあ、野原だけで言えば一個分の面積なのだが、それでも充分に広い。
東京ドームの中から一つの四葉のクローバーを探す事を考えると少々気が遠くなるジェイド。
「…きっと見つかりますよ」
 しかし、隣で微笑む弓弦の顔を見ていると…何故か『出来る!』と言う自信に満ち溢れるのだった。
「どうやって探そうか…やっぱ、手分けして探す方がいいよなぁ…」
「そうですね…目印として、ここにバスケットを置いておいて、ここから右と左で探してみませんか?」
「うん、俺もそれがいいと思ってた」
 本当に思っていたのかどうかはあやしいところだが、ジェイドはすぐに賛成する。
見つかったら戻ってきて声をかける、見つからなくても頃合を見て戻って来る…
そう二人で約束をして、二人はジェイドの「せーの!」の掛け声と共に四葉探しを開始したのだった。
 とは言え、実際そう簡単に見つかるわけもない。
自然のものだけあって、どこにどういう風に生えているのかは予想も出来ないわけで、
小さな庭の中で見つけるのさえ難しかったり、生えていなかったりするのに、
それがドーム一個分の広さがあるとなると…まあ、生えている確立は上がるが、見つかる確立は下がる。
 ジェイドは四つんばいになってバスケットを拠点にして這い回るように地面をじっと見つめる。
時折、「あった!」と思って手を伸ばしてみても、実は三枚葉が重なり合って四葉に見えるだけだったり、
何かの衝撃で葉っぱが切れていてそう見えるだけだったりと…小一時間経過しても見つかる兆しはなかった。
 立ち上がって振り返って見ると、遠く反対側では弓弦が腰を下ろして背中を向けている。
あちらも同じく、地面を見つめながら歩き、それっぽいものがあると座って確認と言う作業を繰り返しているが、
未だに見つからないままで時間だけが過ぎていくのだった。
 ちょっと休憩するか…と、ジェイドはくるっと方向転換して拠点へと戻る。
弓弦の置いたバスケットの前に立ち、弓弦に声をかけてからその場に座り込む。
「幸せって、そう簡単には見つかるわけないよなぁ…」
 ぼそっと呟くジェイドは、ふと、地面についている自分の手に何かの気配を感じたような気がして目線を落とす。
開いた手の平の、指と指の隙間。
少しずれていれば押しつぶしてしまいそうになっていた空間に、ちょこんと”それ”が顔を覗かせていた。
 灯台下暗しと言うか、なんと言うか。まさか基点としていたバスケットの脇に…。
「あ、あ、あ…」
 あったー!!!と、大声で叫びたいところなのだが、あまりの感動で声にならない。
ジェイドは素早く体を動かして、”それ”…つまり、”四葉のクローバー”と正面から向き合った。
他の葉っぱと比べたら多少小さく感じるものの、紛れもなくそれは四葉。見間違いではない。
 嬉しさのあまりに、すぐに摘み取って弓弦に見せようと手を伸ばしたジェイドだったのだが…
その手は、クローバーに触れたところでぴたりと止まった。
「まあ…見つかったんですね…!」
 そこへ、ジェイドに声をかけられて戻ってきてた弓弦がクローバーを覗き込んで声をかける。
ジェイドが顔を向けると、嬉しそうに微笑んでいる弓弦の顔が目に入った。
彼女の為にも、すぐに摘み取ってあげれば良いのかもしれない。
しかし、ジェイドにはクローバーのその形が…四つの葉を広げているその姿が、
神聖の証である十字架(クロス)に見えて、どうしてもそれを摘み取ることができなかった。
「ジェイドさん…?」
 手をそえたままで、動かずに固まっているジェイドの姿を、弓弦は不思議そうに見つめる。
「あ、あのさ…このクローバーなんだけど…その…」
 何かを言いたそうで、言い難そうにしているジェイド。
弓弦はどうして彼が何かに迷っている風なのか、なんとなくその表情を見ているとわかるような気がした。
そっと、弓弦は手を伸ばして、ジェイドの手に自分の手を重ねるように触れる。
「?!」
 ドキッと心拍数が上がるジェイド。
「クローバーは…見つけるだけで充分ですから」
 弓弦は優しい声で、小さな四葉を見つめながらそう呟いた。
「小さくても生きている命なんです…摘み取ってしまわなくても、見つけるだけでも幸せになれるはずですから」
「あ…ああ!うん!俺も…そう思う!」
 以心伝心したような気がして、ジェイドは嬉しそうに笑顔を向ける。
弓弦はジェイドの手に触れていた手をそっとクローバーへと翳すと、
「せっかくだから何かお願い事をしませんか?」
 相変わらずドキドキしたままのジェイドに誘いをかけた。
それに反論するわけもなく、ジェイドはすぐさま頷いて、弓弦と同じように手をクローバーへと翳した。

 そっと目を閉じて、弓弦はクローバーへ”誓い”をたてる。
『いつまでも皆と一緒に…仲良くしていきたい…』
 一度出来た自分と誰かを繋ぐ、大切な『絆』を無くしたくないから…。
たとえそれがどんなに小さな出会いだったとしても。

 ジェイドも弓弦に倣い、目を閉じてクローバーに”願い”をかける。
『弓弦ちゃんの優しい誓いがずっと守られて…叶いますように…それから…』
 チラリと薄目を開いて、ジェイドは弓弦の顔を見て。
『それから…弓弦ちゃんにとって、俺がいつか”特別な存在”になりますように…それから…』
 もし誰か第三者がいたら、何個願うつもりだ!と、ツッコミを入れられそうなほどに願うジェイドだが、
しかし、そのどれも『必ずいつか叶える』と言う自信に満ち溢れた”願い”だった。

「ジェイドさん、何をお願いしたんです?」
「え?俺?!」
 幾分か長いジェイドの願いが終わった後、弓弦は首を少し傾げながらジェイドに問う。
真剣な願いと言えども、なんとも言葉にするには恥ずかしい上に、本人を目の前にしてはとうてい言えない。
「俺はその…秘密♪ってことで!」
 人差し指を口元に立てて、ジェイドは恥ずかしそうにはぐらかす。
「まあ」と、弓弦は小さなリアクションをしたものの、しかしそれ以上しつこく聞いたりはしなかった。
そこを何度も聞きたがるような性格ではない事は、ジェイドがよく知っている。
 二人はなんとなくかち合った視線に照れながら微笑み合う。
「意外と早く見つかっちゃったな〜」
「そうですね」
「せっかく弓弦ちゃんと一緒だから、もう少し長く居たかった気もするけど…」
 素直な気持ちを、ぼそっと聞こえるといいな程度の声の大きさで呟くジェイド。
弓弦はにこにことした笑顔のままで、
「居れば良いじゃないですか?」
 さらっと、ジェイドの望んでいた言葉を告げた。
「え?本当に?!」
「もちろんですよ…お昼のお弁当も、作ってきてあるんです」
 ピクニックしましょう?と、弓弦はバスケットを開いてにっこりと微笑んだ。
元々、そのつもりだった弓弦なのだが、ジェイドはクローバーを見つけたら終わりだと思っていたらしい。
それ故に、あまりの嬉しさに、ジェイドは野原を転がりまわって喜びを全身で表現する。
ハタから見たらバカップルにさえ見えそうだが、本人達にはまったくそんな意識など無く。

そんな二人の様子を、四併せ(しあわせ)の葉が微笑ましげに見守っていたのだった。







〜〜〜おわり〜〜〜



※この度はご依頼、誠にありがとうございました。
※呼び名が間違っておりましたら申し訳ありません。
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますがもしありましたら申し訳ありません。