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<東京怪談・PCゲームノベル>


未知(?)との遭遇〜郭花露の場合〜

●馬鹿が亀に乗ってやって来た
 街角に突如として現れる近未来的な銀の色と鋭角な建築鋼材で組み上げられた秘密基地を思わせる、硬質のデザイン。
 インターネットカフェ『いつもの処』
「……」
 郭花露が憮然、と言うよりは『アホや』という突っ込みどころ満載の店名と外観に固まっていた。
「入るのぉ〜♪」
 更に突っ込みどころが服を着て歩いているような存在であるレティシア島崎に手を引かれて『いつも』じゃ無いわよ。と呟きながら花露は自動ドアの開閉に導かれて店内に記念したくない第一歩を記した。
「今度は金太郎にかぐや姫でしょ……もう、ここまで来たら何だって……え?」
 入り口は直ぐ小さな部屋になっていて、二重の自動ドアで店内を隔離しているような状況だ。さらにドアを潜り抜けると、外観とは一変して、店内は純和風……と言うよりは何処の田舎の民家を持ち込んできたと聞きたくなるような座敷が広がっていた。
「……」
「いらっしゃいませ」
「うみゅ♪ 秀樹さん、こっち〜」
 レティシアに言われるままに進むと、比較的良心的な値段設定のカフェで、早速高梁秀樹こと桃太郎は入会手続きを取っている。
「……なんで、そういうところだけ思い切り現代に適応しているのかな、君は?」
「……いや、何となくでござる。現代の情報化の時代には、インターネットで物の怪の情報を探ることも重要でござるよ……きっと」
「そこ、遠い目をしない」
 きっとレティちゃんの勢いに飲まれただけでしょと、突っ込んでおくことも忘れない花露。
「これはこれは。いらっしゃいませ中華な美少女ちゃんボンジュール」
「?」
 突如、店のカウンターの奥から声がする。しかも、頭二つ分くらい高い位置からだ。
「……」
 一応、自分のことかも知れない可能性が5%程ありそうだと判断して花露が見上げると、虹色のドレッドヘアがサングラスをして浮いていた。
「……店長……浦島太郎……」
 ドレッドヘアから30cm程下の位置に、ふざけた職名を書いたネームプレートがつつましやか〜に金銀真っ赤、バナナ色のアロハシャツの胸ポケットに付けられている。
「イッッエエーッス! ミーがこのいつもの処の店長、浦島太郎ネ! デリシャス可愛いお嬢さん、お名前は?」
 筋肉の分厚い固まりを身に纏った巨漢が花露の前でニコニコと愛想を振りまいている。
「店長、お客さんが引いてます」
「いやいや、ミーのフレンドリーシップに激・感動中で……」
「船長さん……花露殿が怖がっていられるので、そのくらいで……」
「ん〜。な〜んだ、朴念仁居たのか」
 秀樹の顔を見て、チャイスと、謎の挨拶をしながら片手を上げる浦島太郎と名乗った男。
「相も変わらず、でござるな……お久しぶりでござる」
 諦めましたと続けられそうなくらいに落ち込んだ様子から、秀樹は浦島に頭を下げる。
「ま、それはそれ。ところでびゅ〜てほ〜なお嬢さん、お名前は?」
「……秀樹君、言わなきゃ黙らないかな、これ?」
 出会って10秒後に『コレ』認定の降りる存在である浦島太郎という物も珍しい。
 いや、多分花露の目の前の一匹位だろう。
「余り言わない方が良いでござるよ。その内に携帯や家の電話番号を聞き出して、暇になったらメール攻撃に始まっていつの間にかお友達認定が降りると、その内鯛や鮃の舞い踊る場所に拉致されるでござるよ……」
 遠い目をする秀樹。過去に何があったのか、聞きたくなるような素晴らしい韜晦ぶりだった。
「……郭。郭花露だけど……これ、レティちゃん勝手に飲んじゃ駄目でしょ!」
「うみゅ? フリードリンクだよぉ。知らない?」
 小首を傾げて花露を見るレティ。
「……もちろん。知ってるわよ。レティちゃんのことだから冷たい物ばかり飲んで、お腹壊すと思っただけよ」
 知らなかったとは言えない花露である。
 が。こめかみに浮かんだ血管は明らかにレティシアへの攻撃的意識が芽生えたことを如実に現している。
「おーっはー! 言い響きだねぇくぅ〜うぉお〜、ふぁ〜るぅ〜っと」
 自分の名前が読み上げられることが、こんなにも背筋に怖気が走る物だとは知らなかった。
 毛虫と氷とゲル状の何かが背中に投げ込まれたような気持ちの悪さと底冷えと焦りが花露を襲い、見れば浦島は巨体を丸めながらカウンターの上で何かを書いている様子だった。
「……一体何を……うわぁ」
 筆に硯、周囲に香る墨の薫りに雅な雰囲気を一瞬でも感じた花露が馬鹿だった。
 浦島は巨大な指の間に小さな(しかし、普通の人間にしたら普通以上の大きさの)筆を持ち、小さなカードにせっせと名前を書いていたのだ。
 そう、花露の名前を。
「っさ〜〜! ミーからのお近づきのプレゼント! いつもの処、ときどき永久会員証ネ!」
「……」
 そもそも、日本語がおかしいでしょうにと、受け取りながら思う花露だが、流石に口に出して言う程には疲れては居なかった。
「……その巨体で、この文字……」
 だが、カードに記された文字を見て花露は再び硬直した。
 現在の高校生にも存在しないだろう、女の子の必須書体だった、あの丸文字が、燦然と、しかも万年筆で書かれたのかと思う位の細さでカードに記されていたのだった。
「……えーと。後ろの文字が浦島さんの書いたメニューだと思ったんだけど……」
 カウンターの奥に、太く力強い書体で勢いよく書かれた『いつものやつ定食』『いつもの処定食』『いつもじゃない定食』という、謎以外の何者でもない凄まじく勢いだけの存在を見ていただけに、カードに筆で記された筈の繊細な書体は目の前の筆を持つ男と中々花露の中で繋がらなかったのだ。
「いや、お目が高い。これも昨日俺が書いたやつ」
「……秀樹君、これ退治して貰って良いから。ね?」
「いや、刀が錆びるので、一寸……」
 凄い理由で断る秀樹である。
「いいけどね……ここで待ってたら、噂の金太郎君に会えるんでしょ? その前にかぐや姫の源氏名考えないとね……」
 少し、思考がグレ始めた花露である。
「とりあえず、今日は『いつもの処定食』がお奨めだ」
 場の空気を全く読まずに、定食のメニューを指さす浦島である。
「話聞いてるの、この物体?」
「いや、拙者に言われても……」
「レティ『いつもじゃない定食』〜〜!」
 苦笑して花露を宥めようとする秀樹の横で、更に空気読んでない娘の声がする。
「よっしゃ〜パッキンレティちゃんにいつもじゃない奴!」
「いつもじゃない一丁!」
 既に何の符号かも知れない謎の注文が厨房に飛ぶ。
「……あたいの店でそれやったら、抹殺するからね、レティちゃん?」
「うみゅ?」
 全く分かっていない様子で、首を傾げるレティシアである。
「ま、兎に角だ。金の字なら事務所でパソコン打ってるぞ?」
「……」
 鉞を担いだ巨漢のファイターがパソコンを操る図を想像して、お腹いっぱいになる花露だったが、秀樹の方はそれを感じないのか、礼を言って導かれるままに事務所に歩き出す。
「……まぁ、見てみるのもいいかな?」
 ここまで来ると怖い物見たさも手伝って、襖の形の扉を開いて奥に進む。
 店内の装飾とは異なって、バックヤードは普通の事務スペースの様相だった。
「おう、金の字。桃太郎が来たぜ」
「浦島さん、それ本当で……桃君?」
 巨漢の筋肉で遮られて見えないのだが、中からとても嬉しそうな少年の声がする。
「久しぶりでござるな。勉学は進んでいるのでござるか?」
 手を差し出して、握手を求める秀樹に、小柄な少年が色白の整った顔を縁なしのメガネの下でほころばせている姿が見れた。
「……部活の先輩後輩の図?」
 嬉しそうに秀樹の手を両手で包んで握手している金の字と呼ばれた少年は、花露程の身長で体格は細身の、どちらかといえばひ弱な部類に見えた。
「桃さん、こちらの方々は?」
「拙者がお世話になっている方で……」
「レティだよ」
「……この、問答無用スカタン!」
 スパーンと花露の手に一閃された後のハリセンが残り火を燃やしながら握られている。
「こちらが、お世話していただいている中華食彩『KAKU』の郭花露さん」
「初めまして。坂田金光(さかた・かねみつ)と言います。金太郎の方が、通りが良いですか?」
「ううん。偽名って言うの? 今使ってる名前を聞いた方が安心できるわ」
「うみゅ!」
「……偽名でなくて、本名聞いても安心できない子も、ここに居、る、け、ど、ね!」
 背後でウミュウミュと遊んでいるレティシアの首根っこを締め上げる花露。かなり辛辣な一言である。
「あとは御姫さんかしらね? なよ竹のかぐや姫っていたら月のお姫様だけど……竹取香宮耶(たけとり・かぐや)でいいんじゃないかしら?」
「そうですわね」
 さらりと、花露の意見を肯定するのは、名を付けられた本人だった。
「何時の間に……」
「お帰り〜お風呂にする? 食事にする? それとも、秀樹さん?」
「どれも結構です」
 ネットカフェのシャワー使用券、お食事券、何故か手書きの『秀樹券』を並べて見せたレティシアに、あっさり断って香宮耶は続ける。
「……美味しいよ?」
 小首を傾げて『秀樹券』を掲げてみせるレティシアに、花露が静か〜に切れた。
「ちっとは黙ってなさい、貴女はっ!」
 本日二発目のハリセンの一撃が舞う。
「……と、兎に角」
 肩で息をしている花露が、撃沈した一匹を除く3人に視線を戻して続ける。
「あなた達が何故この世に出てきたのか……やっぱり、瀬戸内に出た鬼を退治するために現れた……って考えるのが妥当かしら?」
「それだけなら、拙者や金光だけで十分と思われます」
 花露に律儀に返した秀樹の言葉に、部屋の中の空気がざわついた物になった。
「……ふむ。それも一理あるわね。香宮耶ちゃんは兎も角、アレは戦力外確定だし。もし、そう言うことだったら、あたいも多少なりとも協力はするわよ?」
 楽しそうだからと、薄く笑う花露に即答の出来ない一同だった。

●中華食彩『KAKU』
 数時間後。
 場所を変えて、中華食彩『KAKU』に今日出会った面々が集っていた。
「こう見えても、その手のものを退治する術は持ってるし……ね☆」
 料理をしながらの花露に、今日も両耳が日曜日なのか、レティシアが鼻歌交じりに場の空気を読まないお代わりを所望する姿があった。
「凄いですね……レティさんの胃袋って……本当にあの体の中にあるんですか?」
「金ちゃんの分からない生命体なんだ……レティちゃんって……」
 香宮耶が呆れた風に言っている。
「どういう意味? 金ちゃんに分からないって?」
「金の字はこう見えても未知生命体形態類推のプロだからだぜ、マイスゥィィィィッツ!?」
 風より早く、真っ黒な何かから飛び逃げる野郎が一匹。
「あら? 物体がなんか言ってたんだ」
 浦島の立っていた場所に中華鍋の跡が丸く陥没した形で残されている。
「……」
「ふ」
 勝ち誇る花露。これでもうしつこく付きまとわれる事は無いだろうと、安心した処に敵は再びやってきた。
「イイッツ! その腕力はぜひウチのネットカフェで!」
「……しっつこー−−−−−−−−い!!」
 どこの世の中に腕力の必要なネットカフェがあるのか知れない。
 だが、今の花露はそれを指摘出来る程に冷静ではないのだった。

-END-

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 2935/郭・花露 (くぉ・ふぉるぅ)/女性/19歳/焔法師の料理人