コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


お子様と私 〜夕食編〜


 いったい何がどうしてこんな事になったのだろう。
「どう考えてもおかしくありませんか?」
「そんなん俺に言われても」
 広い風呂だと感じるのは、きっと体が小さいからだ。
「………はあ」
「しょーがねぇだろ、兄貴今飯作ってんだから」
「そうじゃありませんよ、一人で入れるって言いたいんです」
 こればかりは子供扱いされている気がしてならない。
「……節約なんじゃねぇのか」
「………ああ」
 そう言えばテレビや何やらで、その方が水道代が浮くという話は聞いた事があった。
「成る程……それにしたって……いえ、いいです」
「………」
 後に続く言葉を切り、そのまま無言が続いたのはこれ以上ないぐらいに単純な理由からである。
 今更こんな話題をしたって、どうにもなる訳が無いのだ。
「夜倉木、着替えここに置いておくから」
 風呂上がりに出された小さな浴衣に着替える。
「助かります」
 サイズから言えば子供の頃に使っていた物なのだろう、物持ちの良い事だと感心したのは僅かな間。
「これで何とか……?」
「本当に?」
 最初に見たときは小さな浴衣だと思っていたのに、いざ着てみれば浴衣の方が微妙に大きいのだ。
「いや、あんたがちいさ……っ!?」
 言いかけてからあわてて口を塞ぐ。
「………」
「………」
 はっきりと事実を告げてしまった北斗に視線が集まり、あえなく沈黙。
 思っている以上に縮んでいた事は、認めなければならない事実のようである。



 浴衣で良かったと思えるのは、サイズの調整が出来るからこそだろう。
 何とか身なりを整えた頃には、揃って夕飯である。
「いただきます」
「いただきます……って、なんかいつもより一品多い?」
「北斗……」
 なにやら睨まれたりしていたが、気にせず箸を手に取り食べ始めた。
「いただきます」
「持ちにくくないか?」
「はい、大丈夫です」
 小さい頃から箸の持ち方を仕込まれていたから、さして苦労せずに使えて本当に良かった。
 これでスプーンでも使う羽目になったら笑うに笑えない。
「そんな小さな頃から教わってたのか?」
「早い方がいいからじゃないか?」
 一度覚えてしまったことは直すのはなかなか難しいのだから。
「家はこういう躾けには厳しかったですから」「大変だったんだな」
「覚えたかったら家にでも来ますか? 喜々として教え始めると思いますよ」
「………喜々としてってのがなんか恐ろしいような」
 呻いた北斗に啓斗もそうだろうなと同意する。
 的確な判断だ、嫌な予感はおそらく正しい。
 よく出汁の効いたみそ汁を飲んでから空になった茶碗を差し出す。
「すいません、お代わりを」
「兄貴、おかわり」
 なぜよりによって同時なのか?
 これでは同レベルの様ではないかと考え、沈黙したのは一瞬だった。
「啓斗、お願いします」
「ん、直ぐによそうから」
「あっ!」
 啓斗にとっては何時もの事だからか、平然と茶碗を受け取る。
「………」
 先を越された北斗が何か言いたげにこちらを見ていたが……気にするまい。
 大人げないなんて事解った上でやっているのだ、今更どう思われたところで痛くもかゆくもないのだ。
「いい年した大人が……」
「ぼーっとしてたから、俺が先に言っただけですが何か?」
「くっ……何かいちいち突っかかるな」
「気のせいです」
 さらりと言ってのけた夜倉木の声に、小さな笑い声が重なった。
「何か……おかし……っ」
 笑いを堪える啓斗の気持ちはわからないでもない。
「今の笑うとこか?」
「だって……珍しい物見たなって」
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
 茶碗を受け取りつつ表向きはムッとしてみせるが、内心は啓斗が珍しく本当に楽しそうに笑っている方が珍しい物を見たと思ったほどなのだ。
 こういうのも、悪くない。
「兄貴がそう言う笑い方するのめずらしいよな」
「昔を思い出して」
「ああ……そうですね、解ります」
 自分だって実家で生活していた頃はそうだった。
「そう言えば俺の家も賑やかだったんですよ、兄が無意味に騒がしい人でしたから」
 何の気無しに言った事に驚く啓斗と北斗。
「どうかしましたか?」
「なんか意外な気がして……」
「想像付かないような」
 真剣に悩み始めた二人にどうしたのかを尋ねかけた直前に、ハタとその理由に気づいた。
「……どんな想像してるか知りませんが、俺と兄そんなに似てませんから」
 あの兄とだけは一緒にされたく無いとも、そっと付け加えておく。



 夕食後。
 縁側で涼みつつ一休み。
 薄闇の中。
 聞こえるのは虫の音。
 人の声や、車の通る音はとても遠く聞こえた。
 だからこそ、こうしてのんびり出来ているのだろう。
 人通りが多い場所であったのなら、落ち着けはしなかっただろうから。
「意外に涼しい物ですね」
「ここは風通しがいいから」
 よく冷えた麦茶を飲みながら、のんびりとした時間を過ごす。
 普段急がしいだけあって、こんな風にのんびりと出来る時間はとても貴重だった。
「これでビールでもあったらなー」
「それはいいですね」
 缶ビールを飲むまねをする北斗に、夜倉木が同意する。
 暑くなり始める時期には、よく冷えたビールがよく合う。
「……戻ってからにした方がいいんじゃないか」
「そうですね……」
 啓斗の言う通り、この姿で缶ビールはまずい。
「俺は? ちょっとだけ、なっ?」
「……少しだけだからな」
「サンキュ!」
 許可を得た北斗は喜々として台所へと歩いていった。
 見られなければ構わないだろうか……いいや、そもそも酒は控えないとならない体質なのである。
 この体で飲んだらどんな影響が出るか事か?
 弱い訳ではないのだが……色々問題を起こすのは良くわかっている。
「なあ……」
「どうかしましたか?」
 啓斗にも止められてもおかしくないだけに、何かを訪ねようとする雰囲気に夜倉木もそれ以上何も言えないまま続く言葉を待つ。
「どうしてあの仕事選んだんだ……」
「……それは」
 あの仕事がアトラスではなく、家業の方だとは直ぐに解った。
「気になりますか?」
「だから聞いた……じゃ駄目か?」
「いえ、そうですね。理由はあるんですが」
 家業だからなんて理由であの仕事をしている訳ではない。
 そうする事が必要だからと思ったからこそ……。
「言いたくなかったら構わないんだ」
 不安げな啓斗の表情に、考え込んでいた時間が少しばかり長かったと気づかされる。
「別にまずい質問をした訳じゃありませんから、そんな顔しないでください」
「そんな顔って……」
「怒られたような顔してましたよ」
「……し、してない」
「そう言う事にしておきますよ」
「だからっ」
 他愛のないやりとりを繰り返しながら思ったのは、大人の姿をしていたら頭でも撫でていたに違いないという事。
 僅かに関節が痛み始めているから、元に戻り始めている兆しはあるようだが。
 早く戻りたいというのが本音だ。
「さっきの質問の答えですが、大人の姿に戻って、もう一度同じ事を訪ねてくれたら……その時に答えますよ」
「……何で?」
 首をかしげた啓斗に一言。
「この姿じゃ、格好が付かないでしょう」
 嘘と本当が半分ずつ混ざった言葉に、あっけにとられた物の納得はしたようだった。
「解った……あんたって凄く意地っ張りなんだ」
「そうですよ、今気づいたんですか」
「何かすごく納得した……」
 溜息をついてから、振り向いて嬉しそうに笑いかける。
「……啓斗?」
「早く戻れるといいな」
「そうですね」
 不便な思いをしてから、やりたい事が多い事に気づくのだ。
「なー、兄貴。何か食い物ないか」
「まったく、しょうがないな」
 ビール片手に戻ってきた北斗は、よく冷えたそれをおいしそうに喉に流し込む。
 実にうらやましい。
「……俺も一杯だけいいですか?」
 それぐらいなら大丈夫だと思っていったのだが……。
「今日はやめた方がいい、きっと……いや、絶対」
「………はい」
 真剣な表情で、あえなく却下されたのだった。
「残念だったな」
「北斗っ」
 一瞬だけ見せた、北斗のしてやったりといった顔はしっかりと記憶しておこう。



 そろそろ寝る時間だと布団を敷き始め、三つ並べられた布団に苦笑した。
 誰の隣でも寝られるというわけではないのだが……。
 一晩ぐらいどうにでもなるだろうと横になりはした物の、案の定夜中になっても目は冴えたままだった。
 北斗の寝相が悪くて、何度も蹴られそうになったのも理由の一つである。
「………」
 どうすればいいかはとても簡単だった、位置を変わってしまえば良い。
 よく寝ているのを確認し、起こさないように気をつけながら啓斗の右隣に移動する。
「お休みなさい」
 今度こそよく眠れるようにと、静かに目を閉じた。



 元の姿に戻るまでに色々と騒動が起きたりするのだが……。
 それはまた、別の話。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

発注ありがとうございました。
買い物編が先で夕飯編が後の並びです。

なにげに続くようなので楽しみだったりします。