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<東京怪談・PCゲームノベル>


シンデレラは誰だ!?

「吸血鬼・・・?」
「うん。そうだよ〜。夢々の血っておいしそうだよね。食べてもいい?」
「え・・・遠慮しときマス・・・」
 めるへん堂にやってきた客はまだ13歳程の可愛らしい少女だった。変わった格好をしているので不思議に思った夢々だが、異世界から来たハーフエルフなのだと聞いて納得した。
 しかも吸血鬼。何が起きてもおかしくない世界ではあるが、吸血鬼に会うのは初めてだ。
「それで本題なのですが・・・」
 栞は大して驚く様子もなく、淡々と話を続ける。
「シンデレラかあ。あれだよね。王子様が出てくるやつでしょ?いいよ。面白そう。ボクにどーんと任せてよ!」
 無邪気に笑う少女に栞は頷いた。
「ご協力感謝します。では誰を案内役にしますか?ロルフィーネ・ヒルデブラントさん」


【またどこかで会いましょう〜ロルフィーネ・ヒルデブラント〜】


「シンデレラっ、掃除はどうしたの?まだ全然終わってないじゃないの」
「シンデレラ、洗い物が残ってるわよ」
「シンデレラっ」
「シンデレラ!」
 あちこちから飛び交う継母達の声にロルフィーネはいい加減うんざりしていた。あれをしろこれをしろと鬱陶しい。
 ――そんなの自分達でやればいいのに
「ちょっと、シンデレラ!?」
「あーもうっ!うるさいなあっ」
 ロルフィーネの中で何かがぷつりと切れた。
 どうすれば静かになるだろう?
 ――そうだ。食べちゃえばいいんだ。なーんだ、簡単じゃない
 我ながら名案だと笑みを浮かべる。
 さて、誰から食べようかな?

「これはまた・・・妙なことになったようですね」
「え?何・・・っって、わあっ!血・・・血が・・・っ!!」
 家の中に足を踏み入れた栞と夢々はその惨状に唖然としていた。夢々は靴についてしまった血を落とそうとのた打ち回っている。
「あ。栞と夢々だあ」
「これはどういうことですか?」
 栞の問いにロルフィーネは反省する様子も無く「えへへ」と笑った。
「この人達があんまり煩いから食べちゃった」
「た・・・食べ・・・?」
 目を見開く夢々だが、そういえば彼女は吸血鬼だったと思い直す。彼女の服や顔は真っ赤な鮮血で染まっていた。
「ボクね、血を吸うのがへたくそなんだ。だからいつも散らかしちゃって・・・。これって駄目?掃除した方がいい?」
「そうですね。それは夢々くんに任せましょうか」
「ええっ、俺え!?ひどいよ、栞さん!横暴だ!!」
 涙目で訴える夢々を睨み一つで黙らせる栞。夢々はぶつぶつと呟きながら改めて床を眺めた。
「ねえ、ボクお腹空いちゃった。舞踏会に行けば、ご飯いっぱいいるかな?」
「人間なら沢山いますよ」
「ほんと!?じゃあボク行って来るね♪お掃除よろしく!」
 嬉々として家を出て行くロルフィーネを半ば呆れ気味に見送りつつ、夢々は溜息をつく。
「あの・・・さ、栞さん」
「何ですか」
「俺、嫌な予感すんだけど」
「多分その予感通りになると思いますよ」
「さっさと掃除終わらせてさ。様子見に行こうよ」
「・・・そうですね」
 栞は頷くとぱちんと指を鳴らした。すると一瞬にして部屋が血に染まる前の状態に戻る。
「栞さん・・・!そんなことできるなら俺に任せないで最初からそうしてよ!」
 夢々の悲痛な訴えは栞にあっさりと無視された。


 突如現れた一人の少女の手によって、舞踏会はパニック状態になっていた。あちこちからあがる悲鳴。床や装飾物は鮮血で染まっている。
 立ち向かってくる騎士達にレイピアを振るうロルフィーネは無邪気で美しく、ある意味では人々の心を魅了していただろう。
 戦争ごっこには飽きたので、今度は逃げ惑う貴婦人達を追いかけてみた。誰も彼も皆おいしそうだ。
 鬼ごっこにも飽きたら、次は隠れている子供達とかくれんぼ。やっぱり若ければ若いほどおいしい。
「楽しくて美味しいね〜♪」
 無垢な笑顔を見せるロルフィーネだが、動く人間がほとんど居なくなった今、同意する者も否定する者もなかった。
「・・・君は・・・何てことを・・・」
 呆然と呟かれた言葉に、ロルフィーネは振り返った。
 一人の青年が立っている。漂ってくる高貴な雰囲気から、恐らく王子だろう。
 ――おいしそう♪
 ロルフィーネは満面の笑みで王子に駆け寄り、その首筋に噛み付いた。
「うわ・・・っ」
 このまま食べてしまおうと思ったのだが・・・
「・・・っ」
 窓から差しこんできた光に顔をしかめる。
 朝日だ。
 朝日が昇ってきたらしい。
 ロルフィーネは慌てて王子から離れ、城から飛び出した。

「そっか。ロルフィーネさんって日の光に弱いんだっけ」
「さすがに王子を食べられてしまうのは問題ですからね」
 幻影の朝日を消してから、栞はふうと息をつく。
「さて、これから王子がどうするのか見物ですよ」
「確実に楽しんでるよね、栞さん・・・。あんなに人死んでるのに・・・」
「これは物語ですから」
「そりゃそうなんだけどさ・・・」
 栞のように割りきれない夢々はがっくりと肩を落とした。
「でもさ、王子がどうするのかなんて・・・もう決まりきってない・・・?」
 そう言う夢々の視線の先にはぽーっとロルフィーネが去った先を見つめている王子の姿。
「あれこそ僕の運命の相手だ・・・」
 この王子、ちょっと危ない嗜好の持ち主らしい。
 王子は運良く残った数名の従者達に命じた。
「彼女を探せ!この歯形を持つ者が僕の妻だ」

 ロルフィーネが見つかるのにそう時間はかからなかった。王子のプロポーズに彼女は応じ、二人はめでたく結婚することになる。
 ロルフィーネに噛まれたことにより、王子も吸血鬼になったわけで・・・
「吸血鬼の国・・・ねえ。何か大分シンデレラの大筋から外れたなあ・・・」
「これはこれで面白いじゃないですか」
「そう言うと思った・・・」
 栞の発言に夢々は深い溜息をつく。
「ところで夢々くん。ロルフィーネさんがお祝いの品を希望しているんですよ。もう届けてはあるんですけどね」
「希望って・・・何を?」
「シンデレラ」
「ええええええ!?」
 夢々は口をぱくぱくと何度か動かし、ごくりと唾を飲みこんだ。
「そ・・・それって不味くない?確実に食われちゃうじゃん、シンデレラ!本物が居なくなったら、代役であるロルフィーネさんが一生ここでシンデレラを演じ続けなくちゃならなくなるんだろ?」
「そうなりますね」
「落ち着いてる場合かあっ!!早く止めないと・・・!」
 焦る夢々に対して、栞は何故か落ち着き払っている。夢々は栞の考えが理解できないまま、全速力で走り出した。

「ご馳走様〜☆」
 食事を終えたロルフィーネは満足そうに手を合わせた。
 口の回りについた血を王子がぺろりと舐め取る。
「もうちょっとお行儀よくしないとね」
「へへっ♪はーい」


「どうでしたか?シンデレラの世界は」
「面白かったよっ。沢山おいしいご飯もたべれたし♪」
 めるへん堂に戻ってきたロルフィーネは上機嫌。
 ただ一人夢々だけが何やら浮かない顔をしていた。
「どうしたの、夢々?元気ないね」
「あ・・・ええっと・・・ちょっと・・・さ」
 曖昧な答えを返す彼にロルフィーネはぴんとくる。
 いつかどこかで彼と同じ反応を示した人間を見たのだ。
「ボクのこと恐くなっちゃった・・・?」
 その人間は恐怖に支配された表情でただ一言だけこう言った。
”化け物”
 と。
 ロルフィーネはただ「食事」をしていただけだ。誰でもする行為ではないか。
 人間が魚や動物の肉を食べるのと何が違うというのだろう。
 それでも人は脅える。血に染まった彼女の姿に。
「ごめんね。でもボク、やっぱりお腹が空くしさ。お腹が空いたら食べなくちゃいけないんだよ。じゃないとボクが死んじゃうわけだし」
「・・・うん。それはわかってる。わかってるよ」
 夢々は何度か頷くと、ロルフィーネの目を真っ直ぐに見つめた。
「あのさ・・・機会があったらまた来てくれるかな・・・?」
「へ・・・?」
 予想外の申し出に、ロルフィーネは目を瞬かせる。
「今はまだロルフィーネさんのこと理解できないけど、何度か会えば理解できるのかもしれないし。俺・・・できればそうしたいんだ」
「・・・」
 そんなことを言われたのは初めてで。
 ロルフィーネは自然に笑みを零していた。
 夢々の前に手を差し出す。
「うん。約束ねっ」


「彼女のこと・・・恐いと思いましたか?」
 ロルフィーネが去った後。
 栞の問いに夢々は頷く。
「恐いよ。でもさ、恐いのと同じくらい綺麗だとも思ったんだ」
 無邪気な笑顔。
 無垢な心。
 彼女はきっと誰よりも真っ白なのだ。
 だから知りたいと思った。
「なるほど。夢々君はああいう子が好みですか」
「な・・・っ!」
 途端に真っ赤になる夢々に栞はクスクスと笑う。実は夢々が好きなのは栞だったりするのだが、彼女がそんなこと知るわけがない。
「そ・・・それより栞さんっ!酷いじゃんっ。あのシンデレラが魔法で出した偽物だってどうしてもっと早く言ってくれなかったのさ」
「冷静になって考えればわかることでしょう。本物のシンデレラの存在が無くなったら本気で大問題なんですから」
 今頃はめちゃくちゃに変更されてしまったシンデレラの話の筋を元に戻そうと、本物のシンデレラが奮闘していることだろう。
 王子はロルフィーネに本気で惚れてしまっていたようなので、彼の心まで元に戻すのはかなりの時間がかかるかもしれないが。
「何だかなあ・・・」
「ほら、夢々くん。いつまでもぼけっとしてないで、お仕事再開ですよ」
「はいはい。わかりましたあ」


 いつかまたどこかで会えるといいな
 その時はもっと
 君のことを知れますように


fin



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【4936/ロルフィーネ・ヒルデブラント/女性/183/吸血魔導士・ヒルデブラント第十二夫人】

NPC

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】
【夢々(ゆゆ)/男性/14/めるへん堂店員】

【王子(おうじ)/男性/18/シンデレラの登場人物】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは。ライターのひろちという者です。
今回はありがとうございました!

初めて書くジャンルで手探り状態で書かせて頂ました。
なので、納品までにかなり時間がかかってしまい・・・。
お待たせしてしまい、申し訳無いです。
ロルフィーネさんの魅力を上手く表現できていれば良いのですが・・・

物語の性質上、ご馳走の「シンデレラ」が偽物だったりと、多少プレイングと違った部分も出てきてしまったのですが・・・。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。

本当にありがとうございました!
またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いしますね。