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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


宝探しツアー!

 オープニング

 じとじとと降り続く雨の中、煙草を買って興信所に戻ると、ポストに中途半端に折りたたまれた紙が挟まっていた。
手配りのチラシかお知らせの類だろうと引き抜き、階段を登りながら一応目を通してみる。
「何だ、旅行の案内か」
 その辺のコンビニででもコピーしてきたような白い紙に黒インクの質素なチラシだ。一番上に太い文字で「日帰り宝探しツアー参加者募集!」と書いてある。聞いたことのない旅行会社の名が最後に記してあり、真ん中には簡単にツアー内容が書かれている。
 宝が何で、どこでどのように行うのかは書いていないが、昼食付きの値段はかなり手頃だった。
 草間は煙草を買った際に開いた財布の中身を思い出して、一人小さく頷く。日頃、世話になっている興信所関係者達を招待するのも悪くないじゃないか、と。たまには所長らしいことをしてもバチは当たらないだろう。
 定員と締め切りを確認し、自分の思いつきに少しうきうきしながら、草間は興信所の扉を開いた。

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 日帰り宝探しツアー参加者募集!

もう普通のバスツアーには飽きた!そんなあなたにお勧め、宝探しツアー!
どこへ向かうか、何が出るかは参加してのおたのしみ!

 ・ 9:30〜    集合
 ・ 9:30〜10:30 バス移動
 ・10:35〜10:45 説明・諸注意
 ・10:45〜15:00 宝探し
 ・15:30〜16:00 バス移動
 ・16:10〜17:30 温泉入浴
 ・18:00     解散

・昼食、入浴セット付き
・当日はジャージ、ジーンズ、シャツ、スニーカーなどの軽装にてご参加下さい。スコップ、鍬、方位磁針などはご用意致します。

定員50人/参加費****円(お一人様)

質問;あなたにとっての「宝」とは何ですか?

申し込み先
×○×旅行店/電話***−****

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 日曜日、午前9時25分。興信所付近の駅前に立つ『宝探しツアー参加者様はこちら』と言うボードを持った男の周囲に、様々ないでたちの男女が集まっていた。
 服装こそジャージじゃジーンズ、シャツなどの軽装だが、持ち物はそれぞれ違っている。リュック一つ背負った身軽なものがいれば、何に使うのか水晶玉を持った者がいて、『安全第一』と書かれたヘルメットを被っている者がいて、犬を連れている者がいて……。年齢も様々で、上は80代かと思われる老人から下は幼稚園児くらいの子供まで、1人の者がいれば友人同士、カップル、夫婦、親子連れにおばちゃん連中と老若男女がとり揃っている。
 定員50人と言う数字を見て、そんなに集まるものかと草間は思っていたが、バスが2台待っているところを見ると、どうやらそこそこに参加者がいるらしい。
 草間は恐らくバスの中では自由に吸えないであろう煙草を真名神慶悟と並んで吸いながら、灰色の雲が広がる空と参加者達の顔ぶれを交互に見た。
「おまえ、その格好で行くのか?軽装と書いてあったのに」
 と、草間は慶悟の普段通りの格好を見て言った。ジーンズを履くわけでもジャージを着るわけでもなく、スニーカーや長靴を履くわけでもなく、慶悟の服装は明らかに周囲から浮いていた。
「俺にとってはこれが軽装だ」
 昼食も入浴セットも用意してくれると言うのだから、他に何を持ってくる必要があるのかと慶悟は笑った。バッグの類を持っていないところを見ると、財布に煙草と言った必要なものはすべてポケットに仕舞ってあるのだろう。
「どろんこになりそうなツアーね」
 シュライン・エマはハンカチで額の汗を拭いながら言った。朝から気温が高く、立っているだけでも汗がうっすらと滲んでくる。汗だくになるのは不快だが、帰りには温泉で汗を流せると言うし、偶には童心に返って熱中するのも悪くない。
 普段はスーツ姿のシュラインも、今日は軽装。背負ったリュックの中には飲み物に軽食、タオルや虫除けスプレーも用意してある。
「結局、何人来ることになったの?」
 問われて、草間は先ほど係員に支払った金額を思い出した。日曜と言えども多忙な者が多く、草間が予定していたよりも参加者は少なかった。
「えぇと……、5人……いや、6人だな。俺を入れて7人」
 言いながら、草間は見知った顔を捜す。
「宝探し……、昔からその言葉を本や映画の中で何度も聞いてきたけれど、自分で臨むなんて初めて。何だかわくわくするわね」
 と、本当に楽しそうに笑顔を絶やさない観巫和あげは。
「はい。私、あまり旅行に行かないので、とっても楽しみなんです。草間さん、素敵なことを思いつきましたね」
 ジーンズにスニーカーと言う今日のツアーに相応しい格好に、少し大振りのリュックを背負った神崎美桜。本人曰く、リュックにはマフィンやクッキーなどのおやつと熱い紅茶を用意してきているらしい。
 暑いと言っても山中は気温が下がるだろうとの予測で、なかなか準備が良い。
「バスで1時間ほどの移動だそうですから、近くて手軽ですね。デジカメも持ってきたんです。後で皆で集合写真を撮りましょう」
 こちらもジーンズにシャツと言う軽装のマリオン・バーガンディ。迷子防止にチョコレートと水を、携帯型GPSを持参したのだと言いながらデジカメのバッテリーを確認する。
「1,2,3……あれ、一人足りないな。来ていないのは誰だ?」
 自分とシュラインと慶悟を数に入れても誰か足りない。確か昨日、参加すると電話があったはずだが、あれは一体誰だったか……。昨日のことなのにもう思い出せない記憶力の老化を呪いつつ、草間はもう一度周囲を見回した。その時、
「くっさま〜! ごしょ〜たい、ありがとっ!」
 小さな体に大荷物を背負った海原みあおが走ってきた。
 よく似合うと言えばよく似合うのだが、何だか派手なピンクのジャージ。リュックの他に、右手に紙袋と左手に布のバッグを持っている。
「凄い荷物ねぇ。一体何を持って来たの?」
 尋ねるシュラインに、みあおは紙袋を渡しながら言った。
「これ、お礼にってお姉さんから預かってきたから。素麺のセットだよ。ちゃんと麺汁もついてるからね」
「そりゃご丁寧にどうも」
 言ってから草間は、この頂き物は宝探しの間どこかで預かって貰えるだろうかと考えた。
「ありがとう。今度、皆で戴きましょ。で、一体何を持ってきたの?」
「懐中電灯付きのヘルメットでしょ、軍手でしょ、スコップにダウジング棒に虫除けスプレーにカンテラ。おやつとジュースもあるよ。それから、檜の桶にタオル。防水デジカメも必須でしょ?用意してくれるって言っても、準備することも楽しみの一つだもん」
 大荷物になる訳だ。
「仕方ない、山に入ったら荷物を少し持ってやろう」
 どうやらこの中で一番身軽なのは自分であるらしいと、慶悟は申し出る。
「うん、ありがと!」


 バスの窓はすべてカーテンが閉められていた。1時間程度の移動では景色を見れば大体の場所が分かってしまう。『どこに連れて行かれているのか』と言う疑問を持つことで少しでもドキドキ感を味わって貰おうと言う演出らしい。
 席について暫くすると、女性人がお菓子やお茶を用意し始めた。他の参加者達も考えることは同じようで、あちこちからスナック菓子や朝食らしいにおいが漂ってくる。話題も同じで、『宝とは何か』に集中している。
「参加者全員同じ品物ってことはないですよね?」
 マリオンの言葉に、
「宝物は実は入浴セットでした、なんて言ったらがっかりね。でも、入浴セットなら男女同じものだわ」
 と、シュラインが応える。
「温泉があるなら、万一宝が手に入らなかったとしても楽しみは残る。入浴セットが宝でも、案外楽しいかも知れないぞ。桶を見つけなければかけ湯が出来ない、タオルがなければ体が洗えないんだからな。何が何でも最低限のものを見つけようと躍起になるかも知れない」
「だったら、桶とタオルを持ってきたみあおちゃんは探さなくちゃならないものが少なくなるわね」
 慶悟が言うと、あげはが上の棚に押し込まれたみあおの荷物を見て微笑んだ。
「あの、でも広告に『あなたにとっての「宝」とは何ですか?』ってありましたから、流石に入浴セットはないんじゃないでしょうか。だって、入浴セットが宝なんて言ったら、次回からの参加者がいなくなってしまうと思いません?」
 美桜の言葉に、みあおが大きく頷く。
「そうだよね!みあおとしては、宝って言ったら金銀財宝でしょうっ!珊瑚や貴金属、秘宝に聖櫃、邪神の世界の秘密!」
 言いながらも、本心は家族や愛情かなと思う。
「そうねぇ。経験や交友関係、家族……縁とか、そう言う目に見えないものや大切な得難い人達が有り難いなぁとしみじみ思うけれど、掘るモノじゃないわよね。その時々の状況等で変化していくものだから、武彦さんがいて零ちゃんがいて、皆がいて。そういう時がとっても贅沢だなって。……事件や諸々の不満の種等がない一息付ける時しかこんな事思う暇はないけど。金銭に換算できる物と限定されたとしたなら……んー、大変な月の事務所の生活費……」
 言ってから、指輪などの宝飾品や絵画を挙げたりしないあたりが切実だなと思うシュライン。
「私なら……、品物だとテディベア、目に見えない物だと時間でしょうか」
 マリオンが言うと、随分ギャップのある宝だな、と草間は笑う。
「でも、テディベアは可愛いし、時間はとっても大切ですものね。私なら……精神的にはうちの猫と犬……、それから、お店そのもの。物質的な物なら、少し映りの悪いテレビ……かしら」
 本当は素敵な彼が欲しいけれど、掘って出てくるわけないものね、とあげはは笑う。
「俺にとっての宝は……煙草か?だが、端下金で手に入る代物だな。……ここまで生きて来て、新しい何かを強く求め、その為に尽力した事など無かったな、そう言えば。後生大事に抱え込んでいたのは古い記憶と、身内の形見だけだ。掘り返しても見付ける事が出来ないものだ。……何より既に、心の内にある。新しく見つける何か……何をして喜びとするのか……自分でも解らん。だが、探して見付けた物であれば、何であれ充足感は得られるだろう。物によっては……弟子に遣っても良いか」
 草間が友人達をツアーに連れてきたのだから、自分も偶には年上らしいことをするべきかと慶悟は言う。
「記憶とか、思い出も本当に大切な宝物ですよね。そう言ったものを、いつも心に持っていられるのは、素敵なことだと思います。……私にとっての宝物は……、「友」や「仲間」でしょうか……。何時も自分に出来る限りのことをしてあげたいって思うんです」
 美桜の言葉に頷いて、シュラインは草間を見る。
「一言で宝物と言っても、人それぞれ違うわよね。武彦さんの宝物って、どんなものなの?」
 揺れる心地よさと周囲のざわめきに、眠りに引き込まれかけていた草間は大欠伸をしてから答えた。
「金」


「は〜い、長らくのご乗車ありがとう御座いました〜!宝探し会場到着で〜す!」
 スタッフ専用の黄色いシャツを着た男がマイクを持って立ち上がった。
「不要な荷物はそのままお席に残して置いて頂いて結構です。宝探しに必要なものを持って、足元に気をつけて下車して下さい〜」
 指示された通りにバスを降り、案内に従ってぞろぞろと設置されたテントの前に進む。テントの中には3人の係員が立っていて、順番に紙切れを渡していった。
「それでは、今回の宝探しについて説明させて頂きます」
 宝物の大きさは様々だが、全て箱に入っている。隠された場所も様々なので、スコップや鍬があるからと言って地面にばかり気を取られないようにすること。
 山の所有者には許可を得ているが、自然を大切にすると言う点から、無闇に草木を傷つけたりしないこと。勿論、猟も厳禁。
 会場は白いロープで区切ってあるので、そよれり向こうには行かないこと。
 係員が点在し対応するが決して宝の場所は教えないのでしつこく迫らないこと。
 終了1時間前には係員がハンディマイクで知らせるので、速やかに撤収すること。
 幾つかゴミ箱を設置してあるので、ごみは必ずゴミ箱へ捨てること。或いは後に回収するので持ち帰ること。
「では、これからお弁当などを配布します」
 言って、別の係員が大きな布袋を配り始める。
 中には500mlペットボトルの水が1本とスポーツドリンクが1本、おにぎりと簡単なおかずのお弁当が1つ、方位磁針の他に虫刺されの塗り薬が入っている。
 続けて、スコップと鍬が配られた。
「宝物は全員に1〜2個ずつ行き渡るように用意してあります。3個以上見つけられた方は、申し訳ありませんが他のお客様にお譲り頂ければと思います。同時に1つのものを見つけた際には、ジャンケンなどで穏便に譲り合って下さい。楽しむ事が重要ですから、決して取り合ったりしないようにお願いします。後で他のお客様と交換しあうのは勿論結構ですので」
 怪我、病気などの緊急時にはムリをせず、近くの係員に申し出ること、幼い子供の参加者は決して保護者の側を離れないことなど、他にも幾つか注意事項などを説明してから、係員は時計を見る。
「さて、それではそろそろ時間です。こちらの白線までお越し下さい。時間も宝物も十分に御座いますので、押し合って、怪我などされませんように!10秒前!」
 9・8・7・6・5・4・3……参加者全員がカウントダウンに声を合わせる。そして、
「スタート!」
 その声と共に走り出した。


「結構広いでわね。探し甲斐がありそう」
 言って、シュラインは地図を広げ方位磁針を見る。
 本部が真東。真北には青い幕、真西には黄色い幕、真南には赤い幕、中央には白い幕をかけた木があるらしい。
「昼食の時間がありませんでしたから、各自好きに決めて良いと言うことなんですね。一応、目安として時間を決めておきますか?それとも、お腹が空いたときに各自自由に?」
 マリオンが尋ねると、時計を見てあげはが答える。
「折角のおべんとうとおやつ、宝探しに夢中になって食べ逃してしまっては勿体ないですよね。決めた方が良いのではないでしょうか」
「今、10時45分だよね。2時間くらい探して、休憩がてらお昼にして、また少し探してからおやつにして、もう一度探すってどうかな?」
 みあおが言うと、メモを取りながら美桜が答える。
「それじゃ、12時45分にお昼を食べて、2時頃におやつを食べるって、どうかしら?7人いるけれど、皆で一緒に探した方が良い?それとも、2手に分かれた方が?」
「折角だ、団体でぞろぞろ動かなくても良いだろう。俺はあんたと一緒に行こう。荷物を持ってやると約束したからな」
 と、慶悟はみあおの荷物を受け取った。
「右か左で決めましょうか」
 シュラインが言って両手を背に隠す。123で右手か左手を出して組み分けを決める。右は慶悟&みあおと一緒だ。
「決まりですね。それじゃ、昼食時に中央の木のところで合流しましょう」
 そう言うマリオンとあげは、草間とシュラインは左手になった。
「はい。お互い頑張って宝物探しましょうね」
 美桜はみあお&慶悟と行動することになった。
 

「それじゃ、頑張って探してお腹を空かせましょうか」
 みあお・慶悟・美桜と分かれて南側に進みながらシュラインが言った。
「地図と言っても宝の在処やヒントを書いてくれている訳ではないんですね」
 マリオンの言う通り、地図に書かれているのは方向と中央部、緊急時用に係員の所在地だけだ。
「ま、どうにかして自力で探し出せってことなんだろうな。しかし、どこをどう探したもんかな」
 早速、宝探しを開始している他の参加者達の様子を見ると、草の陰をごそごそ覗いて回っているものや、スコップで土を掘り返しているものがいる。中には、連れてきた犬に宝物を探せと命じている者や、じっと座って水晶玉を覗き込んでいる者もいた。
「地中に埋めたなら、一旦土を掘り返したわけですから、注意して見ればどこか不自然なところがあるかも知れませんね。土が軟らかいとか、草が少なくなっているとか……、逆に、草が不自然に固まっているとか」
 言って、あげはは自分の立っている足元を見た。そこは特に不自然な様子はない。「そうね。まずは気を付けて辺りを見てみましょうか」
 シュラインもマリオンも草間も、まずは自分達の足元や周囲の木々に目を向ける。
 重なって影になった木々の間、柔らかいと感じた地面、係員の注意を思い出して、背の高い木の上を見上げることも忘れない。
 声を掛け合ったのではぐれることはなかったが、時折方位磁針で方向を確認していなければ、自分がどっちの方向に進んでいるのか分からなくなる。
 開始から1時間程過ぎた頃になって、ちらほらと「見つけた!」と言う声が聞こえるようになった。
「もう見つけた方がいるんですね。うーん、頑張らなければ……」
 そう言いながらもマリオンは石の上に腰掛けて水を飲んでいる。
「きっと、焦ると余計見つからないんでしょうね。でもやっぱり焦ってしまうわ……」
 そう言うあげはは、長袖だったシャツの袖を巻くり上げ、シュラインに借りた虫除けスプレーを吹きかけている。手袋を持って来れば良かったと後悔した両手はもう土で汚れている。
「武彦さん、何か見つかった?」
 額の汗を首にかけたタオルで拭いながら、シュラインは顔をあげて草間を見る。木の根のあたりを掘り返していた草間は溜息をついて短く「いや」と答えた。
 短い休息を終えて、マリオンが立ち上がる。ふと思い立って、今まで座っていた石を退かせてみた。
「あ」
 思わず声を上げる。両手で抱えるほどの箱が地中に埋められていた。
「あ、マリオンさんが1番ですね。ああ、私も頑張らなくちゃ」
 マリオンが取り出した箱を羨ましそうに見て、あげははスコップを握りなおす。念写をすれば見つけられるのだろうが、それは最終手段にとっておきたかった。
 約束の時間まであと30分ほどだ。中央に移動しながら探した方が良いのかも知れない。シュラインが方位磁針で方向を確認する。
「思わぬところにあったりするのかしらねぇ……」
 草間に移動しようと言いかけて、ふとシュラインは口を閉ざす。
 草間が掘り返した土を元に戻している。その木の中央あたりに小さなうろがあった。
 まさか、こんな所にも隠されているだろうか?虫でもいたらイヤだなと思いつつ、シュラインは背伸びをして中に手を入れてみた。
「あったわ!」
 あげは同様、土で汚れた手に、小さな箱。
「草間さん、灯台下暗しでしたね」
 憮然とする草間に、あげははクスクスと笑う。
 中央に向かって歩いていると、途中所々に『ごみはゴミ箱に!火気厳禁!』と垂幕をかけた木があった。周囲を見回すと大きなゴミ箱が設置されていて、中には宝物の空き箱やら昼食やらおやつやらのカスが捨ててある。
「まさかとは思いますけど……」
 そのゴミ箱の中に一つだけ満杯に近いものがあり、あげはは足を向けた。
 覗き込むと、他のゴミ箱同様にゴミが入っているのだが、ナイロンの影になったあたりに30cm四方程度の箱が見える。
 あげはは思い切ってゴミ箱に手を突っ込んでその箱を取り出す。ごみとは思えない確かな重みがあった。
「見つけました〜!まさか、ゴミ箱の中にあるなんて……」
 嬉しそうに箱を抱きしめるあげは。
「あとは草間さんだけですね。もしかして、欲が深いと見つけられないとか?」
 昼食前にチョコレートをつまみながら、マリオンは笑った。


 7人は予定の12時45分丁度に山の中央部である白い幕をかけた木の元で合流した。
マリオン・シュライン・あげは・みあお・慶悟はそれぞれ荷物と共に大小様々の箱を抱えている。2つ以上見つけたものはいないようだ。
「皆さんもう見つけたんですね。羨ましいわ……」
 切り株に腰を下ろし、お弁当を広げながら美桜が言う。
「武彦さんもまだなの。でも、時間は十分にあるんだから大丈夫よ」
 何よりもまず、水を飲みながらシュラインは言った。
「宝物、何か見た?みあおまだなんだ。皆まだなら、最後に見せあいっこしようよ」
「楽しみですね。ところで、皆さん何処で見つけたんですか?私は石の下ですが……」
 午後からの参考にと尋ねるマリオン。
「みあおはダウジングで見つけたんだ。フツーに地面に埋まってたよ」
「俺は木の上だな。この年でこの格好で木登りをするとは思わなかった」
 慶悟が笑うと、あげはは少し恥ずかしそうに言う。
「私はゴミ箱の中なんです。ゴミ漁りをするなんて、思わなかったわ……」
「私は木のうろの中よ。本当に色んなところに隠されてるみたいね」
 言いながら、シュラインは周囲を見回した。この辺りにも宝が隠されているのだろう。昼食を食べ終えたら、少し武彦さんを手伝ってあげなくちゃと考える。
 お弁当はオカカ・昆布・梅干の3種類のおにぎりに玉子焼き、唐揚げ、ポテトサラダのおかず。デザートに1切れのりんご。
 普段暑いとなかなか食欲が湧かないが、今日は動き回ったせいか質素で冷たいお弁当が美味しく感じられる。温くなったスポーツドリンクや水さえも美味しかった。


 昼食と休息を終え、記念にと皆で写真を撮り合ってから午後の宝探しを開始した。おやつの時間まで1時間足らずなので、今度は二手に分かれず中央の周囲を探すことにする。
 探し始めてから数分で、美桜が笑いながら皆を呼んだ。
「見て下さい、これ」
 美桜が指差したのは、低木の木の根の部分。
「あ〜!」
 思わずみあおも笑った。
 何の変哲もない根に見えた部分は、紙で出来ていた。根の周辺を写真に取り、大きく引き伸ばして木に貼り付けている。何気なく見たのではそれが写真だとは気付かない。
 美桜がその紙を退けると、穴があり、そこに箱が隠されていた。
「う〜ん、なかなか小細工が上手いですねぇ……」
 思わず関心するマリオン。
「これで、宝物を見つけていないのは武彦さんだけね」
 シュラインに言われると、草間は何が何でも見つけると宣言した。もしかしたら思わぬところに一番良い宝物が隠されているかも知れない、と。
「ま、精々頑張れ」
 2つ目の宝を探しつつ、慶悟は笑う。
 1つ見つけると2つ目3つ目と欲が出るかと思ったが、1つで十分満足感がある。2つ目は見つかれば良し、見つからなくとも問題なしと言った感じだ。
 みあおは懐中電灯付きのヘルメットを被って蔓草の中に顔を突っ込み、シュラインは草間を手伝って地面を掘り、あげはと美桜は草木の名を教え合いながら辺りを歩き回り、マリオンは宝探しをしている皆の写真を撮ったり、その辺に腰掛けて休んだりした。
 2時前になり、クッキーやらスナック菓子やら団子やらのおやつを食べたが、その頃になっても草間はまだ宝を見つけられなかった。
「あと1時間少しですね。大丈夫ですよ草間さん、きっと見つかります」
「もし見つからなくても、この後温泉があるんですもの。気を落とさないで下さい」
 励ますあげはと美桜。草間はかなり面白くなさそうな顔だった。
「見〜つけたっ!」
 蔓草の置くから頭を引き出して、みあおはにこりと笑う。手には再び箱が抱えられている。
「草間、1個分けてあげよっか?」
「要らんっ」
 やはり子供の方が純粋だから見つけやすいのだろうかなどと言いながら一同で草間にちょっと同情したりもする。
 残り1時間になって、係員がハンディマイクで放送を始めた。
「残り1時間で〜す!宝物を見つけられた方は速やかに本部までお戻り下さ〜い!まだ見つけられていない方は探しながら1時間以内にお戻り下さ〜い!」
「じゃ、武彦さん。探しながら戻りましょうか」
 シュラインが言い、全員が荷物を整理し始める。お弁当やおやつの食べかすは一つにまとめて持ち帰ることにした。
「あとは温泉ですねぇ。随分汗をかいたのでゆっくり湯船に浸かりたいですね」
 草間意外、心はもう温泉に向いている。
「まさか、混浴なんてことはないですよね?私、一応水着も持ってきたんです」
 美桜が言うと、シュラインとあげはが驚きの声を上げる。
「えぇっ!?そうなのかしらっ!?」
「そこまで考えてなかったわ……」
 もしそうならどうしたものかなどと話ながら、草間をしんがりに一同は真東に向かい始めた。


到着した順にバスに戻り、他の参加者達の帰りを待つ。
「あれ?草間は?」
 後を付いて来ていたはずの草間がいないことに気付いたみあおがシュラインに尋ねる。
「山の入り口あたりをぎりぎりまで探してみるらしいわ」
「諦めの悪い男だな」
 バスに乗る前に一服した慶悟は目の冴えたような清々しさで言った。
「見つけられるかどうか……。先に私たちだけでお披露目しますか?」
 言って、マリオンは宝の箱を指差す。
「そうですね。草間さんにはっちょっと悪いような気もしますが……」
 草間がもし宝を見つけられなかった場合には目の前で宝を広げるのはもっと可哀想だと、あげはも賛成する。
 それぞれ自分の席で箱を開ける。他の参加者達もお互い見つけた宝を見せ合っている。
「金一封……、あら、天下の回りものがうちに留まってくれる気になったのかしら」
 草間のポケットマネーで参加したのだから、このお金は事務所の費用に回そうと言うシュライン。
「……犬のドライフードと首輪です」
 犬を飼っていない美桜。犬猫が宝だと言ったあげはに譲れば良いと考える。
「私は紅茶とお菓子のセットだわ」
 あげはが開けた箱の中はアフタヌーンティーセットと書かれた紅茶の葉とクッキーの詰め合わせが入っていた。
「これは……?」
 随分軽い箱だと思っていたマリオン。ガムテープを剥がして中を見ると、白い紙に包まれたものが入っている。それを更に開くと、茶色いぬいぐるみが入っていた。
「ぬいぐるみ……、くまですね」
 くまと言っても、マリオンが宝だと言ったテディベアではなく、こげ茶色の友達同士らしい女の子と男の子のくまだ。女の子の方は赤地に白い水玉のスカート、男の子の方は青地に白い水玉のズボンを穿いている。
「子供の参加者向けってところか。こっちはどうだ?」
 言いながら、慶悟も自分の箱を開く。
 出てきたのは鮮やかな花模様のはいった浴衣に、帯、黄色い鼻緒の下駄。
「浴衣セット……、可愛い〜!」
 大人用のMサイズ。慶悟には用のないものだが、弟子ならばもしかしたら喜ぶかも知れない。
「みあおのは何だろう、これ、結構重いんだよ」
 唯一2つの宝物を見つけたみあおはまず最初に見つけた方の箱を開く。
「すき焼きセット5人前だって!」
 続いて、2つ目の箱を開く。
「乾パンと缶詰のセット……、災害時用なんだね」
 やはり金銀財宝と言った類の宝はないようだ。周囲の様子を伺っても、サンダルだったりコンタクトレンズのケア用品だったり……。
「ま、値段を考えればこんなものだろうな」
 慶悟は笑った。
「でも、今日の思い出や楽しさも宝物になりますよね」
 自分の見つけた宝物をあげはに受け取ってくれるよう頼んでから、美桜は言った。あげはが自分の宝物と交換することでドッグフードと首輪を受け取る。
 その頃になって漸く草間が戻ってきた。掌に乗るほどの小さな箱を持っている。
「武彦さん、見つけたのね」
 頷き、全員が披露し終えているのを見ると、草間もすぐに箱を開いた。灰色の布張りの箱が出てくる。開くとそこには銀色の指輪が鎮座していた。
「指輪……、一番宝物らしいですね」
 宝石はなく、安物なのだろうが見栄えが良い。マリオンは最後まで頑張った草間に労いの言葉をかける。
「……これは……、」
 後は無言で、草間は箱をシュラインに差し出す。
「え?」
 一瞬シュラインは目を丸くしたが、みあおやあげは達がクスクス笑うので顔を赤くして慌てて受け取った。


 宝探しを終えた参加者達が次々とバスに戻り、予定通り3時30分にバスは温泉へ向けて出発した。
 到着してみれば温泉と言っても極普通の銭湯だったが、美桜が心配したような混浴ではなく、貸切だった為、のびのび、広々と入浴することが出来た。湯上りには1本ずつの牛乳が配布され、男女とも半数以上の参加者が腰に手を当てて勢い良く飲み干した。


End



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
4164/マリオン・バーガンディ/男/275/元キュレーター・研究者・研究所所長
0413/神崎・美桜/女/17/高校生
1415/海原・みあお/女/13/小学生
0389/真名神・慶悟/男/20/陰陽師
2129/観巫和・あげは/女/19/甘味処【和(なごみ)】の店主 
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■         ライター通信          ■
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この度はご利用有り難う御座います。
旅行のチラシに出ている1日バスツアーって面白そうだなぁと思うのですが、未だ参加したことがありません。宝探しのツアーがあったら……、きっと面倒くさいので私は参加しないでしょう。
ではでは、少しでもお楽しみいただければ幸いです。