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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


歌姫は誰?

 ――歌が聞こえる。
 誰もいなくなった放課後の校舎、射し込む夕日。何処からともなく声が聞こえてくる――

 ここ最近、生徒たちの間でそんな噂がはやっていた。
 そして、その噂はこの神聖都学園の生徒である神崎美桜の元にも伝わっていた。
「ね、聞いた? 歌声の噂」
「歌声……?」
 クラスでも良く話す友人の一人が、そう切り出す。
「そう。放課後に、どこからともなく歌が聞こえてくるんだって。でも、誰が歌っているのか見つけた人はいないのよね」
 もしかして幽霊だったりして、とくすくす笑いながらそう言う友人の視線は丁度廊下を歩いてきた響カスミに向けられていた。――彼女の怖いもの嫌いは、知らぬものなどいないほどに有名である。
「そう、なんですか……」
 一体誰が歌っているのだろう。
 なんで、放課後に隠れて歌っているのだろうか。
 幽霊かもしれない、と噂されているその歌声の主に会ってみたい。美桜は、そう思った。


 
「遅くなってしまいましたね……」
 窓の外から橙に射し込む夕日に、美桜は小さく溜め息をついた。
 思い出すのは数時間ほど前。
 HRも終わり、帰ろうと丁度廊下に出たところを教師につかまったのだ。
 悪いのだけれどこれを片付けておいて欲しい、と。
 比較的親しくしているその教師の頼みに断れるわけもなく、頷いたのだった。
 そこまでは良かったものの、途中少し高いところにある棚にしまおうと背伸びしていたところ体勢を崩してしまい、ファイルを落としてしまった。
 その拍子に中身がばらけてしまい、それを直すほうに時間が掛かってしまったのである。
 と、そこで美桜は帰るためにと動かしていた足をとめた。
 ――これは……歌?
 かすかに、ではあるが確かに旋律を持っていた。
 近くにいるのかとくるりと辺りを見回すが、木々が小さく風に揺れているだけで誰の姿もない。
 そういえば、と昼間聞いた話を思い出す。もしかして、これが?
 もしそうなら、是非会ってみたい。
 もう一度辺りを見回して、誰もいないことを確認してから近くの樹に近寄った。
 そっと手を伸ばして、眼を瞑る。
 ――この歌声の方が、何処にいるのか知りませんか?
 知っていたら教えて欲しいんです、とお願いをする。すると、しばらくして樹が応えてくれた。
 はっきりとした言葉ではないけれど確かに樹は、その歌声はいつも特別棟の方から聞こえてくる、と応えた。
 ――教えてくださって、ありがとうございました
 お礼を言って、その場を離れる。行き先は、もう少し行ったところにある特別教室を集めた特別棟だ。

 ――ここ……ですね。でも、どこで歌っているんでしょうか。特別棟は広いので探すのは大変ですし。
 どうしようかと思いながら辺りを見回す。
 ――もしかして、鳥さんなら分かるかもしれません。
 そう考えて、眼を閉じる。
 そして、そっと辺りに心で語りかけた。
 誰か、この歌がどこで歌われているか知りませんか、と。
 応えはすぐにあった。
 二階の端の、今は使われていない音楽室。
 ありがとうございました、とお礼を言って眼を開く。
 あと、少しで歌声の主に会える。
 特別棟は開いていて、いつでも誰でも入ることができるのだ。
 ただ、広いために声だけで場所を特定するのは難しい。それで誰も見つけることが出来なかったのだろう。
 階段を上ると声はだんだんと大きくなってきた。
 ――もしかして、男の子……なんでしょうか。
 ふと思った。聞こえてくる声は高いが、女の子の声とも少し違う気がしたのだ。
 まるで、声変わりをする前のような声。
「ここ、みたいですね……」
 二階の端の教室の前でそう呟いてそっと扉を開けた。
 すると、声がさらに聞こえるようになる。
 覗いてみると、中にいたのはまだ中学生になっているかどうかといったくらいの男の子であった。
 先ほどから聞こえてきていた歌で思っていたが、とても上手いと思う。
 だが、聞こえてくる歌はどれも聞き覚えのないものだ。そしてとても優しい歌。
 しばらくして、歌い終わったのか静かになった。
「……誰?」
 はっとしてみれば、男の子はこちらを向いていた。どうやら聞き惚れていたらしい。 
「えっと……こ、こんにちは」
 一応盗み聞きになるのだろうか。焦ってしまうものの、とりあえず挨拶である。
「どうして、ここがわかったの?」
 男の子は吃驚して丸くなった眼を瞬いて聞いてきた。
「今まで誰もこなかったのに……」
 美桜は正直に言うべきかしばらく迷って、結局言うことにした。
「樹や動物さんたちに聞いたんです」
「動物に?」
「はい」
 するとまた眼を瞬いて、黙り込んでしまった。
 ――言わない方が良かったでしょうか。
 美桜は不安になったが、それは杞憂であった。
「お姉さん、動物と話せるの? いいな」
「いい、ですか?」
「うん。うらやましいな。僕も話せたらいいのに」
 まさかそんなことを言われるとは思っていなくて、今度は美桜が眼を瞬かせてしまった。
「そういえば、どうしてこんなところで歌っていたんですか?」
 当初の目的を思い出し訊ねる。
 男の子は、だって思いっきり歌えるのはここしか思いつかなかったんだ、と答えた。
 歌うのは好きだけれど一人で歌えるところを知らなかったのだという。
「そうだったんですか」
「うん。お姉さんは、どうしてここまで来たの?」
「とても上手だったので。もっと近くで聞きたいと思ったんです」
「本当!? 上手だった? 嘘じゃない?」
「ええ」
「やった! お姉さんありがとう」
 本当に嬉しいのだろう、満面の笑顔だった。
「もう一回、さっきの歌を歌ってくれますか?」
「うん、いいよ」
 そうして息を吸い込んで、歌いだした。

 歌うのが好きだと言った男の子は、とても楽しそうに歌っていた。
「それじゃあ、聞かせてもらったお礼に。私も何か歌いましょうか」
「歌ってくれるの?」
 眼を輝かせて問うその姿にくすりと笑って、何か聞きたいものはありますか? と聞いた。
「うーん……。お姉さんが好きな歌がいいな」
「私の好きな歌、ですか」
 うん、と大きく頷いた男の子にそうですね……と言いながら考え込む。
 ――何にしましょうか……。
 少し考えて、あれにしようと決めた。
 少し前に、どこでだったか忘れてしまったけれど聞いた曲。
 すう、と息を吸って旋律を紡ぎ出す。
 感情を込めて、ゆったりとしたテンポで歌う。
 ――この歌が聞こえている人達が、安らいでくれますように。
 そう、願いを込めて。
 歌詞がよく分からないところはハミングで誤魔化しつつ、歌い終える。
「……お姉さん、すごい」
 そう言って一人しかいないけれど、大きな拍手をしてくれた。
「ありがとうございます」
 にこりと笑って美桜は言った。


「また、来てもいいですか?」
「うん。お姉さんなら、いいよ」
 にっこりと笑って男の子は言った。
「そうしたら、今度は一緒に歌おうね!」
「はい」
 ふたりで顔を見合わせて、くすりと笑った。
 




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 0413 / 神崎 美桜 / 女性 / 17歳 / 高校生 】



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■         ライター通信          ■
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 神崎美桜様

  ご発注ありがとうございました。いかがだったでしょうか。
  お届けが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
  文章がおかしくないかと実はヒヤヒヤです。
  歌、ということでしたが歌詞が思いつかなかったためこのようになりました。
  ご期待に添えることが出来ましたでしょうか。不安です。

                         更科一耶