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<東京怪談・PCゲームノベル>


童話の一節


 とても大きいネット犯罪に千里が巻き込まれたのは、しばらく前の事。
 ネットの一部閲覧者だけとはいえ、目立ったのは事実なのにもかかわらず、今はほとんど話題にも上っていない。
 そんなサイトもあったなと、まるで都市伝説のように時折噂されるだけ。
 関わっていた人達がどうなったかは解らなかったが……出来る事はある。
 今も捕まっていない犯人グループに、最も深く関わっていた一人だったのだから。
 事件の最中は操られていた時の方が多かったとは言っても。その後意識がはっきりしている時の事は良く覚えている。
 警察ではない場所での取り調べと、幾つかの検査。
 家に帰される時、強く注意された。
 この事は忘れなさいと。
 危ない目に遭いたくなければ、首をつっこまないようにとも。
 その場では頷きはした。
 しかし……。
 どうしても、止められなかった。
 友人や仲間達を危険な目に遭わせてしまったという負い目は消える事はなかったし、何も出来ない事は悔しくてたまらない。
 手を引けと暗に言われた事は、すべてに関して無力だ。
 純粋に危険だからと諭していたのだとしても、身の回りに起きている事すべてが千里を責めている気がしてならなかったのである。
 なぜ、自分だったのか。
 どうして何も出来ないのだろう。
 なぜ、彼が……。
「………」
 首を振り、考えていた事を打ち消す。
 あの事は何時だって考えれば動けなくなってしまう。
 前回のリベンジだとばかりに、出来る事を探し動き始めた。
 だが手がかりを求めて動いてみても、一人ではどうにも上手くいかない。
 ネットであの事を覚えていた人にコンタクトを取ってみたが……知っていると言っていた人が翌日には何の事だと発言を変えてしまうし、僅かに残っていたあのサイトのデータも次々と消されている。
 ネット検索ではらちがあかないと諦め、事件のあったホテルに行ってみたりもした……普通に行ったのでは、何の後ろ盾もない未成年では追い返されてしまいそうですらあった。
「ここも駄目か……」
 結構自由に出入り出来ていたはずだが……何か言いつけられていたのかも知れない。
 だとすればここに長くいるのも危険だ。
「……はあ」
 解っては居る。
 一人で、それも隠れて調べるのは限界があると、それでも助けを求めなかったのは止められると解っていたからだ。
 友人や、あの組織からそれは危険だと、必ず止められてしまう。
 解っていても関わる事をやめなかったのは、どこかで大丈夫だと、信じていたのかも知れない。
 だからこそ地道に動いてみたのだが……正攻法では無理だと悟ったのはホテルの帰り道、日も暮れ始めた頃。
「やっぱり何か使わなきゃ駄目だよね」
 特殊な事件には、特殊能力を。
 何かできることから試していくならば、次は能力を使う時だ。
「よし……」
 前と同じように扉を作れたら……?
 試してみる価値はあると、計画を実行に移し始める。
 見られないように人気のない場所を探そうと歩く千里に、焦ったようにかけられる声。
「ここにいたのか!?」
「えっ!?」
 驚き振り向いた千里に、深々とため息を付きながら駆け寄ってくる男の人。
「こっちで見つけた、直ぐに来てくれ」
 連絡を取ってから千里に向き直る。
「何をして居るんだ。もう関わるなと言われただろう」
「………えっと」
 たじろぐように後ずさり警戒してから、敵意がない事から誰かなのかを察した。
「もしかして……」
 IO2関係者?
「ここはまずい、場所を変えよう」
「待ってっ!」
 このまま連れて行かれたら、今度こそ身動きが取れなくなってしまう。
「えっと……私ただ偶然ここにいただけで……」
 咄嗟のこととはいえ、かなり無理のあるごまかしだ。
「……悪いが急いでるんだ」
「いたっ」
 ぐっと手を引かれ、思わずうめく。
「だったら大人しくしてくれ、ここはもう見つけられている」
「その台詞悪人みたい」
「いや、今はそういうことを……」
 何か言いかけた途中で、男の人の言葉は唐突に途切れた。
「……?」
「………っ!」
 どうと倒れる体。
「……え?」
 代わりに立っていたのは、猫のような目をした赤毛の少年。
 名は、確かディドルという。
「ここにいたんだ? ずいぶん変わってたからわかんなかった」
「な、なんで……?」
 向こうから来る事は想定外だ。
「気にしなくても良いだろうに、コールが何かに使えるかも知れないからって」
 触れようとした手から、逃れるように後ずさりかけた足を止める。
「………」
 前にはディドル。
 下にはIO2の男の人。
 ただ意識を失っているだけなのか、それとも……。
 見ただけでは判断できなかった。
「その人……まさか?」
「どっちだと思う? そうだ、当ててみなよ?」
 見下すような物言い。
 むっとするが、反論は出来ない。
「……」
「当てたら命は助けてやるよ」
 答えなかったら直ぐに殺す、その程度は千里にも解った。
 迫られた二択。
「………い、いきてる」
 震える声でそれだけを言う。
「それが答え?」
「……生きてる」
 そうであって欲しいからこその言葉であったのだが……。
 ニッとディドルが薄く笑う。
 まさか……?
「………っ!」 
ぞっとした物が背筋を走り抜けた千里に、明るい声で言う。
「アタリー、でも」
 良かったと、そう思う間はなかった。
「ハズレ」
「―――やめっ!?」
 鋭く伸びた爪が男の首筋を切り裂きかけた瞬間。
「……なんてね、コールにまだ殺すなっていわれてるんだ」
 くくっと喉の奥で笑いながら、鋭い爪で千里の首を撫でる。
「………は、離れて」
 作り出した銃を、ディドルに突きつけた。
 いくら動きが速くとも、この距離で外しはしない。
「へえ、撃てば?」
「本気なんだから」
「無理だって」
「……っ!」
 突然、頭が真っ白になった。
 引き金を……引けたかどうかは、記憶にない。
 頭上から声が聞こえる。
「時間をかけすぎだ」
「遊んでただけだって」
 体温の低い掌。
「………」
 意識がとろりと溶けていく。
「周りに気配は?」
「あと15秒」
「よし」
 耳元でジャラリと重い鎖の音が聞こえた。
「………さあ」
 耳元でささやかれた言葉。
 意識は……そこで途切れた。

「      」

 何かを言われた気がする。
 けれど、それがなんだったか思い出せない。
 記憶することが出来なかったのだ。




 銃声。
「動くな!」
 再び銃声。
 頭が痛い、水の底から無理矢理引きずり出されたようだ。
 支えが無くなりその場に崩れ落ちる。
「殺す?」
「今は駄目だ」
「あっそ」
 短いやりとりを交わし、コールとディドルが走り去っていく。
 小さくなる後ろ姿へと繰り返し引き金を引きはしても、深追いはしなかった。
「くそっ!」
 二対一では勝ち目はないし、千里と同僚を置いていくわけにも行かないからだろう。
「……意識は?」
「……っ」
 頭の中がかき回されているようで酷い気分だった。
 このまま倒れ込んでしまいたい。
 もう、一歩も動けない。
「直ぐに人を呼ぶから、そのままにしてるんだ」
「うっ……」
 もう一人の生存も確認してから、携帯で連絡を取り始める。
「至急お願いします、場所は……」
 手早く搬送された先で、千里は当然のようにタップリとお叱りを受ける事になった。


 ■病室

「本当に、次は無いからな」
「ごめんなさい……」
 検査のためにと運び込まれ、目を覚ますなりお説教だ。
「家族にも連絡したからな」
「……はい」
 実家は遠いいから、来るのはまだ何時間か後だろう。
「その間に検査とか受けてもらうから、大人しくしてろよ」
「はい……あの」
「……?」
「あの人、生きてます?」
 ディドルに殺されかけた人が気に掛かっていたのだ。
「ああ、それなら気にするな。大丈夫だ」
 それだけはほっとした千里に、軽く手を振り部屋から出て行く。
「………」
 鍵をかける小さな音。
 閉じた扉を見つめ、残された部屋で黙り込んだ。


 これで本当におしまい?
 知られる事なく紡がれる、童話の一節。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。

挑戦者の称号を受け取ってください。
童話の関連ノベルと言うことで、
現在書けることと書けないことがありましたがご了承ください。
台詞空白部分があるのはその為です。


それでは、失礼しました。