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<東京怪談・PCゲームノベル>


六月の花嫁


 梅雨の晴れ間。
 突然の思いつきのように降って沸いた考えは、千里にとっては名案だと思ったのだ。
 最近のことで何か色々と思惑が有ったのかは……もはや定かではない。
 きっかけは、どこぞで見かけたポスター。 六月の花嫁……ジューンブライド。
 女性なら誰もが一度は夢見るかもしれない場面だ。
 それをホテル主催のイベントで着て記念写真を撮ってみませんかと書かれているのである。
 ちょっとした宣伝目的のイベントであるのだろう。
 純白のドレス。
 そこに写る人。
 とても楽しそうだ。
 結婚前に着ると婚期が遅れるという曰くを信じなければ……それは魅力的な宣伝であったのかもしれない。
 後……髪を切る前であったのなら。
 ばっさりと思い切りよく切ってしまった髪型により、男の子のように見られる事が度々あるのは自覚している。
 以前とは違って着こなすのはどうかと思ったのもつかの間。
「……あ、そうだ」
 ここで発想の転換。
 ポスターに写っているのは花嫁と新郎。
 良く読めばモーニングも貸してくれると直ぐに解る。
 何も……花嫁が自分でなければならない理由なんて無いのだ。
 普段やっているコスプレの延長線だと考えればいい。
「早速電話っと」
 携帯片手に、千里はノリの良い友人……リリィへと連絡を取り始めた。
 
 
 
 待ち合わせの時刻、集まったのは4人。
 提案した千里と、リリィ。
 リリィと一緒に計画して呼んだメノウ。
 それから運転手役のりょうである。
「結構多いね」
「受付あっちだって」
 楽しげな二人とは裏腹に、ついて行けていないのが約二名。
「ここは?」
「何か俺だけ凄い場違いな感じが……」
 疑問符を頭上に浮かべているかのような二人に、千里がポスターを指さした。
「きれいでしょ、試着させてくれるんだって」「試着……花嫁衣装をですか?」
「うん、ちゃんと電話して大丈夫か聞いたから。色々遊んでみよう」
 何も言わずに連れてきたから、未だに完全には状況が飲み込めていないようだが好都合。
 今の内に進めてしまうに限る。
「一応保護者もいるし」
「あの、何をするかまだ何も聞いてないのですが」
「直ぐ解るから」
「さ、混まない内に試着室に行って着替えちゃおう」
「りょうはまた後でねー」
 呆然と立ちつくすりょうを残し、三人は着替えに向った。
 一つのホール全体にずらりと並べられた花嫁衣装。
「すごーい」
 喜ぶ前にと千里がメノウに種明かしをする。
「好きなの選んで、それ着てみんなで写真取ろうって事なんだけど」
「ジンクスとかは気にしなければ楽しいと思って」
「成る程……すごいですね」
 うなずきつつも、室内を見回している辺り興味がない訳ではないらしい。
「お化粧は……あんまり必要ないと思うけど、一応ね。後髪型もドレスに合わせてと」
 二人にどのデザインが会うかはくる前にいろいろと考えていたのだが、用意されているドレスが多くて実際に目の当たりにするとあれもこれもと目移りしてしまう。
 正反対のデザインもいいし、色違いにして対になるようなデザインも捨てがたい。
「迷うね……」
「色々試してみてはどうですか?」
「そうだね、そうしよう」
「時間はあるから」
 ポンと手を打ち、それもそうだと納得する。
「二人はは色々選んでて、私はちょっと別なのを借りてくるから」
「うん、わかった」
「……?」
 それぞれ異なる反応に、千里は手を振りながらその場を後にした。
 理由は一つ。
 他ならぬ千里が花婿になるためである。
 事前に連絡を取っていて、事情を話したら受付でサイズが合うのを特別に貸してくれるということだった。
 リリィとメノウの二人ならちょうどいいぐらいの身長差だろう。
 受付は入り口の近くにあるから、元来た道を引き返しているとぼーっとイスに座ってタバコを吸っているりょうを見かける。
「あっ」
「……あ、いま」
 問いかけたりょうの前を通過しながら、やはり急いでいるのだと手を振った。
「急いでるから、また後でーー」
「お、おいっ!」
 呼び止める声を気にせずに、千里は長い通路の先へと急いだ。



 服を着替え、仕度を終え、ようやく写真撮影に漕ぎ着ける。
 手早く進んだのは、着替えなれているからこそだろう。
 柔らかく裾が広がったベルラインのドレスを着ているのがリリィで、膝からしたが大きく広がっているマーメイドドレスを着ているのがメノウである。
 どちらもレースがたっぷりと使われていてとても華やかだ。
 背丈はヒールや髪型でどうとでも出来る。
「二人とも似合う〜」
「千里ちゃんもかっこいいよ」
「どこで用意してたのですか?」
 はしゃぎながら駆け寄った千里の服はオアイボリーのモーニング、ブランド物一揃いに多少のアレンジを加えた物だ。
「これね、電話したときに聞いたら楽しそうに用意してくれるっていってたから」
 イベントの担当の女性に話をすると、それは楽しそうに千里に会うサイズを用意してくれたのである。
 即座に千里と同じような趣味を持っているのだとわかった。
 そうでなければ、後でその写真焼き増ししてね等と目を輝かせていうわけがない。
 さらに色々と早口でまくし立てられるようにモデルにならないかのお誘いを受けたのだが……。
 何か嫌な予感を直感的に感じ取り、待ち合わせをしているからと丁重にお断りしてきた。
「着替えもすんだことだし、写真とろっか」
「あっ、ちょっと待って」
 裾を軽く持ち上げながら、リリィが廊下へと出て辺りを探し始める。
 目的の相手は直ぐに見つかったようだ。
 暇そうにイスに座っているりょうに手を振るリリィ。
「ほら、いいでしょ」
「おー……すっげ」
 本当にそう思っているだろう事は直ぐにわかる。
 なんて解りやすい。
「良いでしょ、でもね」
「今度は写真とるから、また後でね〜」
「おいっ!」
 ちょっとだけ見せに来るのが目的なのだと、くすくすと笑いつつ軽い足取りで写真を撮りに別の部屋へと移っていった。
「もうちょっと待っててね」
「写真あげるから」
「………おー」
 もちろんりょうは置いてけぼりである。



 写真撮影はまさに両手に花。
 正確に言えば、中央に立っている千里も男の子っぽい格好はしていても花である。
 三人組であることや女性だけという組み合わせに加え、次々と服をお色直し……もとい着替えては写真に納めて楽しんでいるのだからなかなかに目立つ。
「次は何にしようか?」
「白以外も試してみたいよね、ロングタキシードも色々あるって聞いたから」
 惜しいのはリリィの能力で外見年齢が変えられればもっと幅が広がったのだろうが、何も知らない人の前でそれをするのもはばかられる。
「今度はこれにしよう」
「……お任せはます」
 ノースリーブタイプのドレスを差し出す千里は、焦げ茶のロングタキシード姿である。
 いちいち取りに行くのは大変だったのだが、受付の人もおもしろがってサイズが合うのを色々と持ってきてくれたのである。
 そんなこんなでさらに時間は経過して……。
「……あ」
 楽しげに会話する二人の横で、ぺたりとイスに座っているメノウ。
「大丈夫、疲れちゃった?」
「はい、少し……」
 ハタリハタリと手で仰いで風を送るメノウ、彼女は普通よりも体力がないのだ。
「色々写真も撮ったし、そろそろお開きにしようか?」
「そうだね、帰りどこかよって帰ろう」
「はい、のどが渇きました」
 借りていた服を返し、入り口付近へと向かう。
 ここにりょうがいたはずなのだが……。
「どこ行っちゃったんだろ?」
「探しますか?」
「待って……そうだ、喫茶店」
 さすがに時間が立ちすぎた為だろう、リリィの予想通りに、りょうは喫茶店でケーキやら何やらを食べている真っ最中だった。
「お待たせ」
「……長かったなー」
 心なしかぐったりしているのは……気のせいではないだろう。
「楽しかったから良いのよ」
「どんな理屈……いや、いい。そろそろ帰るのか?」
 勝てないと解っているのか、ため息をつきつつチョコを食べるりょうの席に三人も座り始めた。
「………」
「おごって、私ティーセットがいいな」
「ありがとうございまーす、私も同じの」
「何か冷たい物、お願いします」
 止めに軽く会釈するメノウ。
「……」
 がくりとうなだれるりょうが折れるのは、もうすぐ後の事だと言えた。
 普段通りに平和で、有意義な一日である。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。

タイトルに六月が入ってるので間に合うかどきどきしてます。
比較的テンションが軽いので間に合うかなと……。