コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


ワンダフル・ライフ〜たいせつをきずくもの。




「いらっしゃいましたなのー。おみやげ、持ってきたなのー」
「あら、こんにちは。どうぞ上がって頂戴な。おみやげ?そんな気を使わなくてもいいのに」
 私はそんな建前のようなことを言いながらもニヤけてしまう頬を気にしながら、
戸口に立つ小さなお客様を招き入れた。
その小さな可愛らしい来訪者は、長方形のような箱をいれたビニール袋を右手に掲げ、私に笑顔を向けた。
多分その箱の中に納まっているんだろう『おみやげ』がどんなものか、私は想像を膨らませてみる。
きっとあの持ち主さんとやらと一緒に選んだか、作ったかでもしたのだろう。
それならば素敵なものに違いない。
「ささ、どうぞどうぞ蘭くん。今銀埜を呼ぶわね」
「はーい、なの!」
 来訪者―…鮮やかな緑色の髪を持つ、10歳程度の少年は、
あいているほうの左手をピッと上げて、元気良く答えた。









 この少年のことは、私はとても良く覚えている。
ついこの間、春の訪れと共に私の店に現れた、爽やかな黄緑色の風のような少年。
観葉植物が変化した姿だと名乗るこの少年は、確かに植物が持つヒーリングの力が
実体化したような雰囲気を持っていた。
そんな彼が望んだものは、持ち主の心を和らげるもの。
彼―…藤井蘭の持ち主さんがどんな人か、私は知らないけれど、
その人が笑顔でそれを受け取ってくれたことを、私は願っている。
「じゃーん、なの!」
 店の空いているスペースに設置した丸い3人掛けの机。
その上に蘭は自分が持ってきた長方形の箱―…どうやら紙で出来ているようだ―…をでん、と置いた。
先程2階の自室から降りてきた銀埜が、それを興味深そうに見下ろしている。
「開けても宜しいので?」
 銀埜が蘭に尋ねると、蘭は大きくうなずいて笑った。
ならば、ということで銀埜は、ふたの箱に手を掛けて、慎重にそれを開けた。
途端にあたりに広がる、ふわ、とした甘い香り。
「わあ、美味しそう」
 私は思わず手を合わせて歓声をあげた。
綺麗に中に納まっていたのは、蘭の握り拳程度の大きさの、パンのようなもの。
「えへ、スコーンなの。持ち主さんと作ったのー」
 蘭が嬉しそうな笑顔を浮かべ、一つ一つ指差しながら解説していく。
少し大きめの、比較的綺麗な形をしているのは、持ち主さんが作ったもの。
一回り小さく、表面がぼこぼことしているけども、干しブドウやチョコチップ、ドライフルーツなどの
トッピングが鮮やかで遊び心がふんだんに詰まっているのは、蘭の力作。
「かたち作るのが少し難しかったの。でもおいしいの!」
 すでに朝食で食べてきた、と笑う蘭。
「ええ、とても美味しそう。蘭くん、おなか空いてる?」
 私も蘭の笑顔に釣られて微笑みながら尋ねると、蘭はこくこく、と頷いた。
「持ち主さんが言ってたの。午後の3時はお茶の時間なのー」
 蘭の言葉に、壁にかかった振り子時計を見上げてみると、確かに短針は3の文字を指していた。
そんな蘭に、思わず噴出したのは銀埜。
「蘭さんのおっしゃるとおりですね。なかなか、気遣いがお上手な方のようで。
お茶の時間に合わせて尋ねて来て下さったのでしょう」
   では紅茶でも淹れますか。
 銀埜はそう言ってくすくすと笑う。
どうやら蘭の言葉が相当気に入ったようだ。
 まあ、私もその意見に否定する気はまったく無いけれど。
「そうね、3時のお茶にしましょうか。素敵なお茶菓子と、素敵なお客様がいるんだものね」
「お茶なの!僕も手伝うのー」
「それは感謝致します。では茶器を運んで頂けますか?」
「はーい、なの!」
 小柄な蘭が一回り以上も背丈の違う銀埜のあとを小走りで着いていくのを見送りながら、
私はあることを思いついていた。
 ふふ、楽しいお茶会になりそうね。








                 ■□■






「あら、本当においしい」
 私は口を右手で覆いながら、思わず呟いた。
いや、美味しそうだとは思っていたのだけれど―…本当においしかった。
スコーンの生地はしっとり、甘さが少し控えめなところも私好み。
生地に含む砂糖の量も抑えられているから、蘭の力作なトッピングがまた生きてくる。
このスコーンが、またノンシュガーの紅茶と良く合うのだ。
「えへへ、良かったのー」
 私がぱくぱくとスコーンを口に運ぶのを眺めながら、蘭はニコニコと笑い、
床に届かない足をぶらぶらと揺らした。
少々、蘭にはうちの椅子は背が高かったようだ。
「蘭くん、ホントにありがとう。このスコーン、あまったら明日の朝食用に貰っても良い?」
「もちろんなの!チン、ってするともっと美味しいの」
「チン?ああ、温めるって意味かしら。確かにそうするとまた違った美味しさになりそうね。
それも持ち主さんが?」
「うん、なのー」
 私の問いに、蘭はスコーンを口に含みながらこくん、と頷く。
蘭くんの持ち主さん。蘭くんにいろいろなことを教えてくれる人。
…蘭くんが癒してあげたいと思う人。
―…一体どんな人なのかしら?
「紅茶のお代わりは如何ですか?」
 すっかりウェイターと化した銀埜が、蘭にそう問いかけている。
私は思わずくすくす、と笑い、
「銀埜、それぐらい私もするわよ。
いいから、こっちに来て蘭くんと持ち主さんが作ったスコーン、食べなさいよ。美味しいわよ?」
「はぁ」
 銀埜は元々私の使い魔なので、こういった主人とお客に混じって、という輪に入ることは由と思わないらしい。
そこのあたりが、少し頭の固い部分であると思うんだけども。
「銀埜さん、食べないの?スコーンキライなの?」
 銀埜に紅茶を注いでもらいながら、不思議な顔をして蘭が彼を見上げる。
銀埜は複雑な表情を浮かべ、
「いえ、好きですよ。ただそういうことではなくて―…」
「もう、蘭くんが変な風に思っちゃうじゃないの。ホントにあんたは融通が利かないんだから」
 私は少しばかり鼻息荒く言ってから、ああそうだ、と思った。
さっきテーブルの準備をしながら思いついたこと。
それを生かす機会が今じゃないかしら?
「蘭くん、蘭くん」
 私はきょとん、としている蘭を手招きし、その耳にこっそりと囁いた。
無論、銀埜に聞こえない程度の声の大きさで。
「あのね、少しばかりお願いがあるの」
「?お願いって何なの?」
「ええとね―…ごにょごにょごにょ」
 なにやら内緒話をしている私たちを、銀埜が眉をしかめて見下ろしていた。
きっと内心、彼は私がまた変なことをしでかそうとしている、と思っているんだろう。
…まあ、それはある意味当たりだけど、今日のはいつもの変なこととは一味違うのだ。
「ごにょごにょ。っていうわけ。…どうかしら?ご協力、頼めるかしら」
 蘭の耳元から顔を離し、私は上目遣いで蘭の大きな瞳を見上げてみた。
蘭はしばらく考えるように瞬きを繰り返していたが、やがてにっこりと微笑んだ。
「もちろん、ごきょーりょくするなの!楽しそうなのー」
「本当?良かった!じゃあ早速よろしくおねがいします」
 私は蘭の言葉にホッと胸をなでおろしたあと、未だに訝しげにこちらを見下ろしている銀埜に気がついた。
「ささ、銀埜はどっか行ってて。あ、そういえば読書の途中だったわね。
あなたの分のスコーンは残しておいてあげるから、はい行った行った」
 顔中にはてなマークが浮かんでいる銀埜の背を、私はぐいぐい押してカウンターのほうに押しやる。
ふと気がつけば、私の隣で蘭も同じように銀埜の腰のあたりを押していた。しかもとても楽しそうに。
「銀埜さんはあとのおたのしみなのー。ご本読んでくるなの!」
「え、あの。蘭さん、ルーリィの口車に乗せられてるんじゃ…」
「くちぐるま、って何なの?僕、難しいことはわかんないなのー」
  恐るべし、蘭くんスマイル。
 結局銀埜はまだ何かぶつぶつと呟いていたが、すごすごとカーテンの裏、
二階の自分の自室へと引っ込んでいった。
 彼が出て行った後、ひらりと舞い上がるカーテンを眺めながら、私はにんまり、と笑みを浮かべた。
私の隣では、蘭もまた同じような笑みを浮かべていた。













「じゃーん!」
 私はくるり、と振り返って、蘭に自分の右手を見せた。
まるで婚約指輪でも見せているようなポーズだけども、
私の右手の人差し指にはまっているのは、緑色のビーズで作られた手作りの指輪。
 それを見て、蘭は目を大きくする。
「それ、僕と持ち主さんが作ったの!ルーリィさん、つけてくれてたの?」
「ええ、もちろん。とても可愛いもの」
 このビーズの指輪は、先日蘭が初めてうちの店に来てくれたとき、道具のお礼として私にくれたものだ。
持ち主さんと一緒に作ったらしく、少々歪感があるけども、手作りらしい暖かさにあふれている。
「これを使おうと思うの。ぴったりじゃない?」
「でも、銀埜さんには少し可愛いなのー」
 私の言葉に、蘭は首をかしげて答えた。
私はそうね、と頷きながら、
「でも大丈夫。少しサイズを大きくして…ごにょごにょ。だからね?」
 私がにっこりと微笑んで見せると、蘭は大きい目をさらに見開いた。
「わ、ほんとうなの?見てみたいなのー!きっとかわいいの!」
「ふふ、少しばかり大きいからびっくりするかもしれないけど。でもこの指輪、きっと似合うわ」
「うん、なの!気に入ってもらえるといいなのー」
 気に入らないはずがないわ。
 私は内心そう絶対の自信を持ちながら頷いた。









「銀埜、銀埜ー」
 私の呼ぶ声に応じて、銀埜がしぶしぶといった風に顔をカーテンの間からひょっこりと出した。
「戻れといったり、来いといったり。一体何をしたいんですか、あなたたちは」
「ごめんなさいなのー。でもでも、きっと気に入るなの!」
 蘭くんが、とびきりの笑顔を浮かべながら、こっちこっち、と銀埜を手招きしている。
無論、それに応じない銀埜ではない。
…というよりも、蘭くんの笑顔に絆されない人なんて、この世にいるのかしら?
「銀埜、こっちこっちー」
 私も蘭くんの真似をして手招きしてみるが、私の思惑に反してげんなり、という顔をされた。
……何故かしら?
「あなたがそうすると、何かを企んでいるように思えるのですよ」
「まあ、失礼ね」
「失礼なのー」
 頬を膨らませてみせると、蘭も私と同じようなことを繰り返して言った。
少し…ではなく、何だかものすごく、かわいい。
ああ、私もこんな弟が欲しかったわ!
「蘭くん、蘭くん」
 私は蘭の可愛さにニヤけつつ彼の名前を呼ぶと、蘭は首をかしげて私を見上げた。
「これ、蘭くんからあげて頂戴な」
「いいの?ルーリィさんが作ったなの」
「でも、蘭くんがいないと完成できなかったもの。それに蘭くんが頼んでくれれば、彼も素直につけるわ。ね?」
 私がそう頼み込むと、蘭は暫し考えるように首を横に傾けたあと、うん、と頷いた。
「わかったなの!頼むなの」
「ええ、お願いね」
 私はほ、と安心して蘭の手にそれを握らせた。
少し蘭の手からはみ出ているそれを軽く握りながら、蘭はてこてこ、とカウンターに寄りかかっている銀埜のところにいった。
そして手の中のそれをはい、と銀埜に差し出して、にっこりと笑う。
「ルーリィさんと作ったなの!銀埜さんにつけてほしいなのー」
「…私に?………これを?」
 銀埜は思わず目を点にして、それを見下ろした。
…無理もない。それは私が以前蘭くんからもらったビーズの指輪で、
少々魔法で無理をいってサイズを大きくしているものの、銀埜がつけるには可愛すぎるんだもの。
「……ええと、私には―…」
「犬さんの銀埜さんなら、ぴったりなの!かわいいなのー」
 にこ、と笑う蘭の言葉に、銀埜は硬直する。
「…誰からそれを?」
「ルーリィさんから聞いたの。銀埜さんは、大きな犬さんになれるの!
犬さんなら、これも可愛いなの、にあうのー」
 ほんわかした声でそういわれたら、銀埜も首を縦に振らざるを得ないだろう。
そう考えた私の作戦は、蘭のとどめの一言で実現した。

「僕も、犬さんの銀埜さん、見たいなの!」

「……………蘭さん…」
 銀埜ははぁ、とため息をつき、ぶつぶつと何かを呟きながら再度カーテンの裏に回った。
…きっと今呟いているのは、私に対する呪詛だわ。
もう、別にいいじゃない。いじめてるわけじゃないんだし。
ただ、可愛らしいビーズのアクセサリをつけて、って言ってるだけのことよ?
 私が一人で憤慨していると、犬の姿の銀埜と蘭の対面が無事行われたようで。
蘭の歓声があたりに響き渡った。
「わあ!ほんとに犬さんなの、大きいのー!」
 そういって、蘭は行儀良くお座りをしているシェパード犬の首に抱きついた。
こちらから見ても明らかなほど、尻尾をぶんぶんと振っている犬姿の銀埜。
…ふふ、やはり犬は犬ね。
蘭くんみたいな可愛い男の子に可愛がってもらって、嬉しくないはずがないもの。
「蘭くん、蘭くん。銀埜の足にはめてあげて?」
 私はすすす、と蘭の背中に近寄り、そっと声をかけた。
銀埜に何か言いたげな視線が突き刺さるけども、敢えて見ない振りをしてみる。
「うん、なのー」
 蘭はよいしょ、と銀埜の前足を取り、その足の先のほうに持っていたビーズの指輪―…
いまではブレスレッドサイズとなったそれをはめた。
「―………」
「かわいいなの、似合うなの!」
 蘭は嬉しそうな声をあげる。
「あらほんと。思ったより似合うわね、銀埜」
 …内心、私はいくら犬になっても、銀埜には少しばかり可愛すぎると思っていたのだけれど。
これがなかなか、蘭の言うとおりに似合うものなので。
「……これだけのために、あなたたちは…」
 呆れたような銀埜の声がしたけれど、うまく銀埜につけることが出来て、有頂天な私たちには届いていなかった。
「ささ、銀埜。もう犬のままでいいから、お茶会の続きよ。
スコーン、まだあなたの分もあるからね」
「銀埜さんに食べてほしいなの!おいしいのー」
「…だから、私は―…」
 また何かごちゃごちゃ言おうと口を開いた銀埜の言葉は、それ以上続かなかった。
銀埜は少しばかり考えるように首を傾けたあと、尻尾を振りながら腰をあげる。
「ま、主人とお客様がそう仰るならば、お茶に呼ばれましょう。
スコーンも美味しそうでありますことですし」
「わーい、なの!一緒に食べるなの!」
 嬉しそうな蘭と伴われ、てふてふとテーブルのほうに向かうシェパード。
その一人と一匹を眺めながら、私は思惑が上手く運んだことに、一人にんまりとした笑みを浮かべていた。










 そして数分後。
テーブル近くの床で蘭と持ち主さんが作ったスコーンを美味しそうに食べている銀埜があった。
そんな銀埜をやれやれ、と眺めたあと、私は蘭に笑いかけた。
「ね?蘭くんのヒーリング、よぅく効くでしょう?」
「うん、なの!びっくりしたなのー」
 銀埜の足にはめた指輪―…否、ブレスレッド。
それには私特製の魔法がかけてある。
さっき、銀埜を自分の部屋に追い立てた後、こっそりとかけた魔法。
蘭の髪の毛をちょっとばかり拝借して、蘭のやさしい心が鳴るように、そんな魔法をかけた。
「さすが癒しの代名詞、ね」
「?どういう意味なの?」
 蘭は首を傾げるが、私はあいまいに笑って答えを口には出さなかった。
だって、本人が知らなくてもいいことだもの、ね。

 それはとてもとてもすてきなこと。
頑固者の頭でさえも、解してしまう魔法。






                    End.




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【2163|藤井・蘭|男性|1歳|藤井家の居候】

NPC
・ルーリィ
・銀埜

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
▼ ライター通信
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 蘭さん、PL様、二度目のお目見えありがとうございました^^
今回はお任せ色が強いノベル、ということで、このような内容になりましたが如何だったでしょうか。
今回はうちの融通が利かない頑固者に、蘭さんのヒーリングを分けて頂きました。
なんだかとてもほのぼのとしたノベルになりましたが、
気に入って頂けると大変嬉しく思います。
眺めているだけでこちらもほんわかしてくるような、大変可愛らしい蘭さん。
こちらとしてもとても楽しみながら書かせて頂きました。

それでは、またどこかでお会いできる事を祈って。