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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


『ゆったりと、ゆっくりと。 〜まったりな休日〜』



 外で犬が吠える声がした。門屋・将太郎(かどや・しょうたろう)はその吠える声があまりにもうるさいので、窓を開けて何をやっているのか、様子を見ようと思ったが、窓が開かない。窓にどんなに力を入れても、一向に開かない。
 何だこの窓は、と思ったら、鍵がかかったままになっているだけであった。鍵を外し、窓の外を見た頃には、犬の姿はまったくなくなっており、別の、もっと遠い場所から吠える声が聞こえていた。
「寝ぼけてたか」
 やっと目が覚め、将太郎はあくびをひとつ、こぼした。臨床心理士であり、神聖都学園では非常勤でスクールカウンセラーも勤めている。平日は仕事が何かと忙しい将太郎であったが、日曜日は普段の仕事の疲れをとるためにも、のんびりと過ごす事が多かった。
 将太郎は、そばに置いてある時計に目を移した。すでに時刻は午前10時を過ぎており、時計の横にはカウンセリングの資料が山積みにされていた。
「何とか片付いてよかった」
 昨日は、仕事で使うカウンセリングの資料をまとめるのに時間がかかり、やっと終わったところで、明日は休みだから少しぐらい寝るの遅くてもと、いつもやっているカウンセラー仲間とのチャットに遅くなりながらも参加した。
 今日はこんな患者がいた。こういう患者には、どんなアドバイスをした?等等、いつもチャットはカウンセリングの話題で盛り上がり、外が薄く明るくなり始め、新聞配達のバイクの音が聞こえたな、と思った頃に寝る事も多かった。だから、将太郎は休日はねぼすけになるのである。



 寝巻き兼、ホームウェアの着流しを着たまま、洗面所で顔を洗い、リビングに顔を出すと、いきなり甥っ子の門屋・将紀(かどや・まさき)の鋭い声が飛んできた。
「はよ食うてな、片付かん!」
 小学生の将太郎の将紀が、いつも食事の支度や家事をしているのだが、その日も将太郎の分の朝食の上には新聞紙が乗せられ、冷めないようにされていた。
「いつまで寝てるつもりや?味噌汁冷たくて嫌なら、自分で暖めてな!」
 将紀はブリブリと怒っている様子で、すぐに将太郎に背を向けて、流しの前に行き、食器を洗い始めていた。
「今日は目玉焼きか。黄身の部分がつぶれてるな、将紀」
「それでも一生懸命作ったんやで!」
 目玉焼きにおふ入り味噌汁、味付け海苔に納豆、そしてご飯。子供が用意したものだから、どれも簡素なものであった。目玉焼きなどは、卵を割る時に失敗したのか、黄身が崩れてしまっているが、小学生でこれだけ用意出来れば大したものではないかと、将太郎は思った。
「うん、なかなかうまいぞ?この海苔はなかなかいい味だな。あのスーパーで買ったのか?」
「そや。安売りしてたから、まとめてこうたんや」
 将太郎はずっと洗い物をしている甥っ子に話し掛けながら、朝食をとり、食べ終わる頃には11時近くになっていた。ここまで来ると、もはや朝食なんだか昼食なんだかわからないが。
「ごちそうさま。さてと、ちょっと出かけてくるかな?」
 箸を置き、席を立ちながら、将太郎が言う。
「ちょっと待てや。まさか、その格好のまま外に出るつもりやないやろなあ?」
 台所から出ようとした将太郎の体に、将紀が指を向けてきた。
「いや、出かけるって言っても」
「はずかしいからやめてな。学校の友達から、ボクの叔父さん、そないはずかしい格好で外歩いていると、言われるのはいやや」
 出かけるといっても散歩程度なんだけど…金無いから、と心の中で呟きつつ、将太郎は自分の服装に視線を移した。寝ている間もすっと着ていたわけだから、着流しはよれよれになって、所々にしわが付いている。
 ちょっと散歩するぐらい、これで充分じゃないかと将太郎は言おうと思ったが、将紀がまだ自分を睨みつけているので、せっかくいい天気の窓の外を見つつ、そのままリビングに留まってしまった。
(せっかく、散歩しようと思ったのにな。どうしてそんなに嫌がるものか)
 将太郎はリビングのソファーに寝そべり、しばらく天井を眺め、時々目をつぶりつつゴロゴロしていた。
 将紀に外出を止められ、すっかり不貞腐れてしまい、これから何かをする気にもならくなってしまったのだった。



 将太郎が目を開いた時、外はすっかりオレンジ色に染まっていた。そこで、自分がすっかり眠ってしまった事に気づき、部屋の中に視線を漂わし、時計を見つけると、もうすぐ夕食の時間だと言う事がわかった。
「誰もいないのか?」
 ソファーから起き上がり、裸足のまま家中を歩き回る。
「おーい」
 台所を覗いたが、将紀はいない。家の中を歩き回ったが、まったく気配は感じられず、物音までしないところを見ると、将紀は自分をほっといて、どこかに遊びに言ってしまったのかもしれない。
「さてと、どうするもんかな」
 目を覚ましたばかりで、まだ頭の中に眠気が残っていたが、また寝ると、将紀が帰ってきた時に中途半端に起こされそうだし、かと言ってチャットをやるにしては時間が早すぎる。
 テレビでも見ようかとそう思った時、玄関で聞き覚えのある声がし、ドアが開いた。
「あっ、起きとるで!」
 将紀が驚いたような顔で、将太郎を見つめた。
 それじゃあ、まるで自分がいつも寝てるみたいに聞こえるじゃないかと思っていると、将紀の後ろに続いて、将太郎の助手である青年が入ってきた。
「お邪魔します。今起きたんですか?」
 と言って、助手の青年はわずかに笑って見せた。
「ああ、いや、もっと前にな」
「寝癖のついた頭で言われてもなあ?」
 将紀は将太郎にそう言うと、助手が持っていたスーパーの袋を受け取り、台所へと軽い足音を立てて入って行った。
「今日はとても良い天気でしたね。少し暑くなってきましたが。将紀君には、学校の帰り道に偶然会ったんです。ちゃんと夕食の買い物をして、しっかりしていますね」
「まあ、俺の甥だからな」
 将太郎がそう答えると、助手の青年も台所へと入っていく。
「今日は俺が夕食の支度をしますよ。せっかくの休みですから、将紀君とお話でもしたら如何でしょう?」
 助手にそう言われて、将太郎は台所で野菜や肉をスーパーの袋から出し、冷蔵庫に片付けている将紀の姿をじっと見つめた。
 自分の朝食を作ったり、洗濯や掃除をしたり。だけれど、まだ小学生なのだ。お金を集めるのが好きだったりするが、いつも仕事で忙しくしている分、遊んでやろうかと思い、将太郎は将紀に声をかけた。
「なあ、将紀。前にやりかけたゲームやらねえか?」
 将太郎がそう言うと、将紀は少しだけ嬉しそうにして振り返った。
「ほんま?けど、ボク手加減せやへんで?」
 助手が食事の支度をしている間、将太郎と将紀は最近発売されたばかりのテレビゲームをして楽しんだ。
「うわっ、ヘタクソ!何でいつも同じところでミスるんや?あかんなあ」
 将紀はさっきから、同じところで詰まってばかりの将太郎に、生意気な口ばかり聞くが、とても楽しそうにしていた。
「食事、出来ましたよ」
 ようやく、ゲームが盛り上がってきたという時、台所から腹の虫を鳴かすような良い香りが漂い、助手がしゃもじを持って顔を出した。
 リビングのテーブルの上で肉じゃがと味噌鯖が暖かそうな湯気を漂わせ、そのそばには大根サラダと飲みものが置かれていた。
「お、うまそうじゃないか」
「お待たせしました。さあ、冷めないうちにどうぞ」
 まだゲームをやりたそうな将紀を引っ張り、将太郎は席についた。
 朝の将紀の料理は、まだまだ修業の余地あり、といったところだが、こちらはなかなか美味しそうに出来ている。
「なあ、今日な、公園遊びに行ったら、100円拾ったんや!」
 将紀が肉じゃがをつまみながら言う。
「100円、交番に届けなかったんですか?」
「100円ぐらいいいやんか。ボク、その100円は絶対に無駄には使わへん。世の中には、もっとくだらない事に銭使う大人もいるやろ?それに比べたら、ボクの方がえらいと思うで!」
 助手の問いかけに、甥っ子が元気に答えた。
「まったく、相変わらずがめついやつだな」
 将太郎はそう言って胸を張っている将紀を見て、笑って見せた。
 助手のお手製の料理と、大切な家族達と一緒に食事をしている事を楽しく味わいつつ、将太郎の休日はゆったりと過ぎていくのであった。(終)



◇ライター通信◆

 こんにちは、いつも有難うございます、新人ライターの朝霧でございます。
 手続き等で納品が本来より遅くなり、大変にお待たせしてしまいました。色々とお手数おかけして申し訳ありませんでした(汗)。

 今回は将太郎さんの休日の風景、ということで、全体的にかなりまったりとした雰囲気で書かせて頂きました。特に何か大きな事件が起こるわけでもなく、ゆっくりまったりとしたお話の中で、将太郎さんのいつもとは違うのんびりとした生活のお話ですが、こんなにのんびりとしたお話を書くのは初めてな気がします(笑)
 楽しんで頂けたらと思います。それでは、どうもありがとうございました!