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<東京怪談ノベル(シングル)>


便利な能力



 ――梅雨って困るなぁ。

 朝起きて、布団を仕舞って、カーテンを開けて……雨を確認。
 昨日の予報では「午後から晴れ」。
 湿度が高いから暑くなるとのこと。
(ご飯が腐りやすくなっちゃう……)
 昨日卵を買ってきたことを思い出して、玉子焼きを作りながら溜息をひとつ。
(傷む前に食べちゃわないと)
 お魚は勿論、ジャガイモを入れたカレーも同じ。なるべく早く、と無意識に焦ってしまう。
 結果的に家事を任されているあたしにとって、梅雨は頭の重い時期だ。
 ご飯は腐りやすいし、生ゴミの匂いも気になるし……。
(あ、そういえばゴミの分別のこと忘れてたっ)

 お父さんの考えから、あたしの家ではゴミの分別に気を配っている。
 とはいえ、それには思ったよりも多くの時間をとられる。他の家事や学校の勉強のことも考えた結果、「平日に牛乳パックや、お刺身や納豆の入っていた発泡スチロールを洗っておき、休日に他のゴミとあわせて分ける」というように、なるべく休日に済ませるようになっていた。
 ペットボトルのラベルを剥がして、蓋を取って……。
 とうに乾いた牛乳パックに鋏を入れて、と。
 どちらとも洗う時にあたしの能力を使えば、少ない水で綺麗に洗えて水道代の節約になる。
 生ゴミの水分を出し切るのにも能力が役立つ。家庭で出るゴミの量は意外に多くて、こういう細かい作業を積み重ねるだけで大分違う。
(うーん)
 野菜屑の間から水が出て行くのを見ていると、だんだんと熱中してきて――どうにかしてこの生ゴミの量を減らすことが出来ないかと考えてしまう。
(悪い癖かもしれないけど)
 ――例えば、生ゴミ処理機が気になるなぁ、とか。
 購入には今一歩踏み切れないけど、噂では大分ゴミの量が減るらしいし。
 ――小さいけど庭はあるんだし、家庭菜園を始めて肥料に使うのもいいなぁ、とか。
 花もいいけど、そこで野菜を育てれば食卓にも出せるし、能力を使えば丁度良い量の水だけをあげることが出来るし。
 想像するだけでワクワクする。
「主婦みたいだね」
 あたしを見て、家族はからかうけど。
(もう)
 ――何だかんだで家族も分別に協力してくれているんだけどね。
 妹の方が早く家を出るから、ついでにゴミを出してもらうこともある。生ゴミ以外の軽いゴミのみだけど、それを運ぶときの妹は何だか楽しそう。

 出るゴミの量は少ない方がいい。
 そして溜め込まないこと。ご近所の目もあるもの。一度にたくさんのゴミを捨てるのは気まずい。
(だから)
 能力をちょっとだけ……ね。
 ――湿気を利用して室内の温度を調節して食べ物を腐りにくくする。
 これは本当に便利で、使い方を変えれば部屋のカビ防止にもなるのだ。調節中は肌にも変化を感じることが出来て、自分でしていることなのに妙な面白さがあったり、心地よかったり。加湿器が要らないから、その分のお金が浮く。
 小さいことかもしれないけど、嬉しい。
 あと。これは危ないけど――プラスチックを燃やすこともある。
 勿論、有毒ガスが出ないように超高温で。
(そうじゃないと困るもん)
 これはお父さんがそっと教えてくれた方法で――……危険だとは思いつつ、たまーにやっている。
(長い目で見れば、能力の向上に繋がるしね)
 でもプラスチックが燃えて消える様を見ていると背中が冷やりとする。回数を重ねても、ちょっぴり怖い。理科の実験でガスバーナーをつけるときの気分にも似ている。
 とは言え、お陰でゴミ袋が節約できている。あたしは基本的に買い物カゴを持って行くようにしているから、ゴミ捨てに使うのは市販されている袋を使うことが多い。……ゴミ袋代だって馬鹿にならないのだ。

 こうして考えてみると、あたしの能力って生活に役立つことが多い。
 応用がきいて、便利。
 最初は随分悩まされた身体だけど、こんなときは人魚の血を引いているのもいいかなって思う。
(我ながらゲンキン……かなぁ)
 ゴミ袋の端をしっかり結んでから、クスクスと笑った。
 ――家族にからかわれるのは仕方ないのかも……ね。



終。