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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


無愛想な同席者
 篠宮夜宵は喫茶店の前に立っていた。
 予定が入っている時間までまだ間がある。時計をちらと確認した時、ふとコーヒーがおいしいと評判のお店が近い事を思い出した。「
「ここですわ」
 入ると空席はたったの二つ。二人席に通されて、夜宵はコーヒーを注文する。
 勿論相方はいない為、目の前の席は空。しかし夜宵がここに座った事で、店内に新しい客を受け入れるスペースはなくなった。
 店内は明るくお洒落で客も女性が多く、男性はまばらだ。
 そんな中、運ばれてきたコーヒーを堪能していると、来客をつげるチャイムが聞こえた。
 もう席あいてないのに、と思って入り口の方を見ると見知った男性が店員と話をしていた。
 喫茶店にふさわしくないような憮然とした表情で立っている男性。この暑いのにかっちりとスーツを着込んでいる。
 夜宵はぼーっと男性の事を見ていた。

「すみません、生憎と満席でして。相席でもよろしければ……」
 申し訳なさそうに言う店員に、上総辰巳は無表情に見返す。
 相席、と言われて少し困っているのだが、その表情からは読みとる事はできない。
 仕方がないので断ろう、と辰巳はじっと店員の顔をみた。
「あ、あの……」
 困った顔の店員に、相席ならばいい、と言って帰ろうとした時、じっとこっちをみていた夜宵と目があった。
「連れがいる」
「あ、そうなんですか。それではお席についてお待ちください」
 素っ気なく言われたのにもかかわらず、返事があった事に安堵したのか、店員は胸をなでおろしたような表情で晴れやかに笑顔を作った。

 目があった。
 そして何故か店員との数秒のやりとりの後、辰巳がこっちに向かって歩いてきた。
 しかも辰巳は夜宵の事を『連れだ』と言ったのが聞こえた。
 無表情のまま、なにを言うでもなく夜宵の前に座った辰巳をみて、夜宵はむっとなる。
 知らない人ではない。しかし同席して、まして連れ、と言われるほど親しくなったわけではない。
 単に事件で数度一緒に仕事をしただけ、の仲である。名前と能力以上の事はなにもしらない。
「何故あなたと同席しなくてはならないんですの?」
「気にするな」
 訊ねる夜宵に、辰巳は平然と言い放ち店員にコーヒーを注文する。
「連れとおっしゃったのはどなた?」
 夜宵があきれ顔でため息をつく。
 それに対して辰巳の言葉はにべもない。
「方便だ。お前は見ず知らずの人間じゃないが、他人だ」
「失礼ですわね。知人と同席するならそれなりのマナーがある筈ではないんですの?」
「気にするな」
 全てを見通してしまいそうな金色の瞳には、夜宵の姿がうつっていないようで。夜宵は夜の闇を凝縮したような黒い瞳に、呆れと少しの怒りを表しつつコーヒーカップに口をつけた。
 どうみても『連れ』と飲んでいる雰囲気ではないテーブル。
 同じテーブルに座ってはいるが、まるで赤の他人−実際他人ではあるのだが−のように、個々でコーヒーを飲んでいる。
 会話もない。
 そして同意もなくタバコを吸い始めた辰巳に、夜宵は眉根を寄せる。
 普通同じテーブルに座っていれば、吸ってもいいか許可を求めるものなのだが。
 すっかり呆れてしまった夜宵は、それについて言葉に出す事はしなかった。
 しかし女性ばかりの喫茶店の店内。無骨な辰巳が妙にミスマッチでおかしくなる。
 どうしてこの店を選んだのだろか。問えばきっと『コーヒーを飲みたくなった。そこにこの店があったんだ』とでも言いそうだ。
 そう思うと夜宵の瞳に笑みが浮かぶ。
 不意に辰巳が立ち上がった。見ればコーヒーが飲み終わっていた。
 コーヒーを飲み終わった。任務遂行、とばかりの雰囲気である。
 そしてその手には自分の分の伝票まで握られていた。
「別にあなたに支払って頂く必要はありませんわ」
 憮然とした表情でいった夜宵に、辰巳は素っ気ない。
「席代だ」
「席代、って…」
 どっかの飲み屋でもあるまいし、席代をとる喫茶店なんてありえない。
 しかし辰巳は夜宵を無視して会計をさっさとすませ、店を出て行ってしまった。
 残された夜宵は複雑な表情でコーヒーカップに目を戻すと、すでにそれも空になっていた。テーブルを見ればくしゃっと丸められたタバコの箱がみえた。
 その銘柄を覚えつつ、夜宵も喫茶店を後にした。

 草間興信所にいく途中、夜宵は近くのコンビニよった。
 そこで先ほど辰巳が吸っていたのと同じ銘柄のタバコを購入。
 無愛想なコンビニのビニール袋にいれたままのタバコを草間武彦に渡す。
「これを上総さんに渡しておいていただけますか?」
「あ、ああ」
 いきなりの事に草間は呆然とした顔で、しかしとりあえず頷く。
 そこで夜宵は喫茶店であった事を話し始めた。
 それに草間は真面目に聞きつつも、ああ、あいつらしいなぁ、といったような表情を作っていく。
「一体彼はどういう人間なんですの……」
 ため息まじりにいった夜宵に、草間は何故か明後日の方向をみていた。
 ぽりぽりと頬をかきつつ、ぼそっと呟く。
「腕はたつぞ」
 とだけ言った。
 確かに事件での手腕はすごかった。
 言われて夜宵は憮然としつつ、納得してしまった。