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<東京怪談・PCゲームノベル>


獣達の啼く夜sideβ/安息の日

オープニング

「ねぇ、暇」
 優のこの言葉に生梨覇と海斗は互いの顔を見合わせた。
「…優、暇って…?」
 生梨覇が読んでいた雑誌をソファの上に置いて、苦笑を漏らしながら優に問いかけた。
「暇は暇。どこか行きたい」
 窓の外を見ながら、優が「行きたい、行きたい」と駄々を捏ねるように何度もその言葉を繰り返した。
「…行くって言ってもなぁ…」
 別に外に連れ出すのは問題じゃない。
 だが、それは優が追われているという立場でなければ、の話だ。
「自分の立場、分かってんのか?」
 海斗が呆れたように優の頭に手を置きながら言う。
「分かってるよ。いつ追っ手に見つかるか分からないって言うんでしょ?でも…外はこんなにいい天気なのに、ずーっと部屋で本を読んでばっかり。つまんないよ」
 はぁ、と優は大げさな溜め息と共に海斗と生梨覇をジロと睨む。
「…そうは言ってもねぇ。あ、私は用事があったから今日は帰るわね」
「あ、俺もだ」
 生梨覇と海斗は明らかにウソだと分かるような言い訳で部屋から去っていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 優の言葉も虚しく部屋に残されたのは優と静か過ぎる静寂のみ。
「…あーぁ…どこか行きたいなぁ…」
 その時、タイミングが良いのか、それとも悪いのか分からないが部屋に帰ってきた人物がいた。
「あ、ねぇ!どこか連れて行ってよ」


 満面の笑みで言う優に貴方はどうしますか?


 視点⇒真行寺・恭介


「外へ出たい?…そうか、ちょうど良かった」
 優のわがままとも言える言葉に恭介は意外にもすんなりと了承した。
 優自身もあっさりとOKをもらった事に驚いたのか目を大きく見開いて恭介を見た。
「…何だ…?」
「や。だって、こんなにあっさり言われるとは思わなかったから…」
 でも、嬉しいや、そう言って優は照れたような笑顔を恭介に見せた。
「それで?どこに行きたいんだ?」
 恭介からの問いかけに優は「…う〜ん…」と首を傾げながら唸り始めた。どこかに行きたいとわがままを言ってみたものの、どこに行きたいのか優は決めていなかった。
 そんな時、優の視界に入ってきたのは朝刊の折り込み広告。水族館の広告で今日はイルカのショーもあるらしい。
「ねぇ。ここがいい。恭介、ここに連れて行って」
 優は広告を恭介に見せながら、早く、と急かすように恭介の服の袖を引っ張った。
「水族館でいいんだな。決めたんならさっさと行くぞ」
 恭介はそう言うと先ほどテーブルの上に置いた車の鍵を手に持ち、部屋から出て行く。
「あ、待ってよ!」
 優も慌てて上着を着て、恭介の後に続いて部屋から出て行った。
 恭介があっさりとOKを出した理由、それには理由がいくつかあった。
 一つは優の精神衛生上のことを考えてのこと、優の生い立ちは悲劇という言葉で現せるほど生易しいものではない。優は恭介や海斗、生梨覇の事を気遣ってか愚痴などは一切言わない。吐き出したい事は沢山あるだろうが、優はそれをガマンしている。回りから見て痛々しいほどに。
 だから、今回は優を連れ出して気晴らしをさせてやってもいいと考えたのだ。
 もう一つは敵の様子を探るためだ。優の安全を一番に考えれば事が収まるまで自宅から出さないのが最善の策だ。だが、敵は思った以上に巨大で、その方法をとれば長期戦は間違いないだろう。優の様子も気になるし、短期戦でケリをつけたいために多少のリスクを犯してみたのだ。
 海斗や生梨覇は逃げたと優がぶつぶつと言っていたが、奴等は奴等なりに優を心配しているのだ。
 その証拠に…、恭介の車の後ろを見たことがある車がずっと張り付いてついてきている。
「…クッ…」
 突然恭介が笑みを漏らしたので優が驚いて「どうしたの?」と問いかけてきた。
「いや、別に…」
「今日の恭介、やっぱり変だよ…頭でも打った?」
 凄く自然な言い方で、何気に失礼なことを言われているような気がするが…まぁ、そこは気にしないでおこう…。
「あ、着いたよ!ねぇ、あれでしょ!?水族館!」
 水族館が見えてくると、優は窓を開けてきゃあきゃあと騒いでいる。
「あんまり乗り出すと危ないだろ、もう着くから窓閉めて大人しくしてろ」
 恭介が呆れながら呟くと、優は「…はぁい…」とむぅ、と顔を歪めながら優は窓を閉めて、座席に背中を預けた。
「何を見たいんだ?」
 車を停めながら恭介が優に聞くと、自宅にあった広告を持ってきたのかバッグから広告を取り出して「イルカのショー!」と大きな声で叫んだ。
 開演時間を見てみると、もう間もなくの時間で「急ぐぞ」と言って優の手を繋いで車から降りた。
「……………」
「何だ?」
 繋がれた手をジッと見つめる優を不思議に思った恭介が声をかけると、優は慌てて「何でもない!」と否定の言葉を口にした。その顔が心なしか赤いのは気のせいだろうか…?
「…あ、のね。手を繋がれたのが初めてだったから嬉しくて」
 えへへ、と笑いながら呟く優に、今までの境遇の違いを深く感じさせられた。優くらいの年の子ならば、誰かと手を繋ぐくらいのことはしているはずだ。
 それを優は経験をしたことがないという。
「…恭介?イルカのショー、始まっちゃうよ」
 くいくい、と服の袖を引っ張りながら優が恭介を見上げる。
「あぁ、そうだな。急ごう」
 開演のブザーが鳴り響く中、恭介と優は急ぎ足でイルカのショーを見る場所へと向かった。



「…うあー、可愛かったぁっ」
 イルカのショーを見終えた後で優が満足したように感嘆の溜め息を漏らした。
「ねぇ、恭介、一個だけ欲しいものがあるんだけど…」
「何だ?とりあえず言ってみろ、買うか買わないかは分からないけどな」
「あのねー、イル…」
「却下」
「…え!まだ最後まで言ってないじゃん!」
「どうせ最後に『カ』が入ったんだろ」
「ちぇ、ケチ」
「…そういう問題でもないだろ…」
 恭介はハァと盛大な溜め息を漏らしながら頭をクシャとかきあげた。
「ねぇ、じゃあ…あっちのお店を見てもいい?」
 いいぞ、と言う前に優は恭介の前から走り去っており、既に店の方にいた。
 ああいうところを見れば優も年相応の少女に見える。
「恭介、これ買って!」
 優が見せてきたのはイルカをあしらったブレスレット。女の子が好みそうなデザインだった。
「…二つ?」
「うん…昔、菊花とおそろいで持っていたブレスレットに似てるの」
 菊花、それは優にとって唯一無二の友人。恭介たちには想像もできないほどの絆で結ばれている二人だ。
「…あぁ、構わない」
 そう言って恭介は懐から財布を取り出して優に手渡した。
「おも…」
 渡された財布を受け取り、優がポツリと呟く。その中には一体いくら入っているのだろうか、と思うほどの重さだ。
「…ありがとう。恭介、これでイルカを買ってくれたらもっと恭介を好きになるな、私」
「…まだ言うか」
「ふふ、冗談だよ、でも恭介のことは大好きだよ。お金払ってくる!」
 優はそういい残してレジへと駆けていった。
「…大好き、か…。言われなれない言葉にどう対処すればいいか困るな」
「ありがとう、でいいと思うぜ、俺は」
「恭介もモテるわねぇ、羨ましいわ」
 背後からやってきたのは生梨覇と海斗の二人、手にはイルカのぬいぐるみが持たれている。
「あれー、二人とも来てたの?」
 清算を済ませた優が戻ってきて、いるはずのない二人を見て驚いたような声を出した。
「俺もたまには魚介類見て癒されないとな」
「…海斗。その表現は間違ってるわ…。海洋生物でしょ、食べ物じゃないんだから」
「どっちでもいいじゃん、ほら、プレゼントだ。優」
 ぽい、と放られたのはイルカのぬいぐるみ。
「うわぁ、いいの!?ありがとう!」
 優はよほど嬉しいのかぎゅう、とぬいぐるみを抱きしめた。
 この時の光景を四人とも忘れる事はないだろう。
 もしかしたら、四人にとって最後の安息なるかもしれない日だったのだから。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2512/真行寺・恭介/男性/25歳/会社員

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■         ライター通信          ■
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特別出演
東圭真喜愛様よりお借りしました⇒『尭樟生梨覇』
風深千歌様よりお借りしました⇒『雪沢海斗』

★★★★★★
真行寺・恭介様>

お久しぶりです。
そして、ギリギリの納品で申し訳ございません!
いつも分かりやすいプレイングをありがとうございます^^
またお会いできる機会がありましたら、よろしくお願いします^^


                 −瀬皇緋澄