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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


他所の邪神

●よそから来たモノ
「と言うわけで、麗香ちゃんの意見を希望」 「帰れ」
 例によって例の如く、な白王社月刊アトラス編集部。
 そこで碇麗香は凍結視線を全開にして呟いた。
 来訪者は一人と一匹。犬と少しおどついた仕草の少年。
「な、なるほど。こうやれば良いのです、ね? えっと、帰れ」
 と、少年が眉を寄せるが、泣きそうにしか見えない。
「もうちょっと高圧的に!」
「あのね。保護者はどうしたの?」
 ぺしぺしと書類の上で脚踏みする犬の後首を掴み、目を合わせる。
「ん〜? バカはザリガニと格闘中、もうかたっぽは最終決戦兵器って暴れてた」
「ほら。私じゃなくてもいいでしょ?」
 百面相中の少年を見る。もっとも『泣きそう』から離れないが。
「大体『新米邪神の指導役』って何?」
「いや、適任だ、し? しうわあああ」

●邪神とは?
「邪神様、ですか」
「は、はい! ……新米、ですけど」
 ゆったりと頷く黒髪の少女に、少年邪神が力一杯返事をする。
「でも、邪神ちゃんなんだ?」
「そうです! ……まだ新米、ですけど」
 小首を傾げる金髪の少女の方を向き、また力一杯。
「微笑ましいね、編集長」
「年寄り扱いしないでくれる?」

 編集部を、麗香込みで、追い出された一同は会議室へと場所を移していた。編集員たちは、原稿のチェックが滞るより犬を降り回すことを問題視したようだ。
「この子のお勉強を手伝えばいいんだね♪」 
 理解したとばかり、、金髪の少女ことドロシィ・夢霧(―・むむ)がぱちんと手を打ち合わした。
「この子……わあ、ごめんごめんってばあ」
「と言われましても、何をご指導すればよいのでしょうか」
 ばたばたと、端から見ればじゃれ合いにしか見えない争いを始める一人と一匹を他所に、黒髪の少女こと海原みその(うなばら・―)がふてくされたように机に頬杖をつく麗香に尋ねる。
「私に分かるわけ無いでしょうが」
「はあ。ですが指導役ですよね?」
「『なら、こっちの本職に弟子入りしたらええやん』って。鬼と邪神って違うのにね」 「まったくです」
「誰が鬼か」
 ドロシィから逃げ切った犬と犬に同意するみそのをじろりと睨む。
「あ、そおだっ♪」
 と、いきなりドロシィがパチンと指を鳴らす。
「やっぱり、邪神にはモンスター軍団だよね♪」
「モンス、ターの」 「軍、団」
 片手で器用に大判の本を開くドロシィに、麗香と犬が顔を見合わせた。
「編集長、対怪物用迎撃戦用装備準備っ!」
「あるわけないでしょうがっ!」 「無ければ呼べえええっ!」
「『もんすたあ』ってなんですか?」
「そうですね。どう説明しましょうか」
「言ってる場合かあっ!」
 犬がそう吼えた時だった。
 ピシュリ ヒュルル ヒュヒ ヒュルルル
 風が吹いた。光が揺れた。
 そしてそれがそこに立っていた。いくつもの影を従えて。
「ごくろうさま☆」
 にっこりと軽く手を上げるドロシィに、それがちょこんと頭を下る。デーモン『オーバー・ザ・レインボゥ』。
「あれが『もんすたあ』」
「ブッブ〜ッ♪ あの子はモンスターじゃないで〜す♪」
「充分モンスターだってば……ん? ゴブ?」
「うん。ゴブリンだよ」
 デーモンが連れてきた影を見据える犬に、にこにことドロシィが答える。
 ゴブリン。日本では小鬼や悪鬼とも言われる妖精の一種。大抵の場合邪悪な存在として扱われ、そしてまた大抵の場合は。
「な〜んだ、小物じゃないか。焦って損した」
 犬が大きく息を吐く。そう、大抵の場合は雑魚中の雑魚として扱われる。下手をすれば未訓練の農夫と殴り合い負けるくらいに。
 当人たちも、その侮辱の空気を感じたらしい。彼らの言語で騒ぎ立て始める。犬所長もそれに応戦する。
「さあ。宥めてみよ〜っ」
「僕がですか?」
 お互いの言語での罵り合いの中、肩を叩かれた少年邪神がきょとんとした顔でドロシィを見返す。
「だって、邪神だし。モンスターを従えて勇者と戦うものでしょ?」
「己の眷属だけ、という気もしますが……どうなのでしょう?」
 返されたドロシィがみそのにふり、ふられたみそのが耳をふさぐ麗香に聞く。も、やはり返事はない。
 と、さすがにそんな騒ぎに、会議室のあるフロア中から様子を見に来る者が集まり始めた。さらに戦況も動く。
 犬がゴブリンを蹴る。蹴られたゴブリンが犬を小突く。小突かれたゴブリンが……中略……れた剣士がみそのを掠め長机にダイブ。長机、破損。

 ブチッ。

 聞こえるはずの無い音。だが、その場に居合わせた誰もがその音を聞いたと後に証言した。

●邪神とは??
「なるほど。ああやれば良かったんですね」
「うん♪ 次は頑張ろうね♪」
 まだ青ざめる少年邪神に、デーモンをなだめるドロシィが頷く。
「次、言うな。それ以上にあれは無理。きっとどんな神でも泣いて謝る」
「それは失礼ですよ」
 誰に対して失礼なのか、ゴブリンやら途中で呼び出された魔法使いやらをなだめるみそのがやんわりと嗜める。
「そう言えば、お聞きするのが送れましたが。『新米邪神』様の存在意義はどうなっているのですか?」
「存在、意義?」
「ええ。例えば、全生命体の根絶」
 ピッと人差し指を立てる。
「世界支配、新宇宙創世、上位古代神復活……」
 順に上げていくも反応は薄い。
「分かりました。では、そこを固めましょう」

「『固めましょう』って、そういうことか」
 新しく並べ直した長机に積み上げられたモノに犬所長がため息をつく。
「ええ。幻想世界の王道や邪神の常識からご自身の道を見つけていただこうかと」
 その手の映画に出てきそうな黒方向の、いやさ『巫女って何?』な巫女装束の、みそのが言った。
「こんなにあるんだ〜♪」
「まあ。悪者としてそれなりにはったりも効くし、確定要素が少ないから設定くっつけても問題ないし、その設定で少々矛盾しても『神だから』ですむし……多分だけど」
 山から一冊の古ぼけた皮製表紙の本を手に取るドロシィに明後日の方を見ながら犬。
「もっとも、多すぎやしない?」
「邪神関連でお願いしましたから」
 これらはアキハバラを始めとする、その手の場所で先ほどの騒動の連中にかき集めさせているもの。そう、現在進行形。
「でも、そうなると常識なんて」
「ん〜。そうだね。まあ、ある程度のお約束探しでいいんじゃないの?」
 ドロシィに肩装甲付きの真っ赤なマントを着させられた少年邪神にのんびりと。
「お約束ではなく常識です。新米邪神様も、『ある程度』など軽く考えないで下さい」
「もしかして……みそのちゃん、ご機嫌斜め?」
「そんなことはありませんよ。買出しの方々に同行できなかったのは残念ですが」
 首を傾げるドロシィにあくまで笑みを絶やさないみその。
「そもそも存在意義が不明瞭では、お仕えする方が大変でしょう」
「大変なんだ。ま、その常識を見つけるのは、いいんだけどさ」
 ずるずると咥えて引っ張り出す。書籍も多いがDVDやビデオ、ゲームも多い。
「どうすんの?」
「すべては新米邪神様の頑張り次第、かと。勿論、お手伝いは致しますが」
「人海戦術ね。確かに邪神らしいや」

「あの。これなんて読むんですか?」
「わあ、裸♪ んとね、しょく」
「女の子に何を見せとるか貴様はあああっ!」

「邪神じゃなくて魔王だった」
「またですか? 分かりました、もう一度徹底しましょう」
「いえ、可哀相なので止めたげて下さい」

「すいません。これはなぜなんでしょうか?」
「これは、かつて乙女を神格化していたことに起因し」
「んなんばっかり選ぶなあああああっ!」

●他所の邪神
「お、おわらにゅ」
 ぺたりと机にへばりつきデーモンに仰がれている犬がぼやいた。
 窓の外は深い夜闇。収集作業こそ終了したが、当然の如く山はまだある。
「まだやってたの?」
「やってます」 「ま〜す♪」
 と、顔を覗かせた麗香に犬とは対照的なみそのとドロシィの返事。
「はい、差し入れ。で、どうなったの?」
「立派なセクハラエロ小僧になりまった」
「召還儀式がそういう雰囲気になるのも当然ってことかしら」
 苦笑しながらそこにあったパイプ椅子に腰掛ける。
「かもしんない」
「ま、それにしても」
 会議室を見まわす。差し入れを分ける編集員。それを運ぶゴブリン。画面を注視する外注ライター。ひたすら書きこむ掃除会社社員。ドロシィとみそのが参加する熱いディスカッションには剣士や僧侶が居る。
「どこが邪神なんだか、ね」
 ゲームパッドを握る少年邪神を見やり、また苦笑。

 その後。少年邪神が立派な邪神として彼の世界に君臨したかどうかは。
 まあ、月並みだが、神のみぞ知ること。
「呼んだら簡単だよ?」
「ですね。悪い人ではなかったようですし」
「ごめん。勘弁して」
 ……と、言うものでもないらしい。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 職業】
0592 ドロシィ・夢霧(どろしぃ・むむ) 女性 聖クリスチナ学園中等部学生(1年生)
1388 海原・みその(うなばら・みその) 女性 深淵の巫女
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■         ライター通信          ■
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 どうも、平林です。ご参加頂きありがとうございました。
 え〜っと。ま、こんな話です……で、まとめるのもなんですが、こんな話ですしね。
 いかに何も考えていないかということですが、何気に天罰が怖いです。
 では、ここいらで。いずれいずこかの空の下、再びお会いできれば幸いです。
(05/雨音/平林康助)
追記:彼は外の人です。一応、追記。
   プレイングの『さほど難しいこととは思えない』が密かにヒットでした。
   ……いや、難しいことであって下さい。