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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


もらったリンゴ =草間零の場合=

【オープニング】
 ある日の午後のこと。
 草間は仕事で出かけていて、事務所には零一人だった。
 そこへやって来たのは、妹尾静流である。手には、リンゴの詰まった紙袋を抱えていた。
「人からもらったんですが、たくさんありすぎて……。よかったら、もらっていただけませんか?」
 差し出されたそれは、赤くつやつやと輝き、いい香りを放っている。
「いいんですか?」
「ええ。むしろ、もらっていただければ、ありがたいです」
 尋ねる零に、静流が言った。
「じゃ、遠慮なくいただきます」
 零は笑顔でそれを受け取った。
 静流が帰った後、台所のテーブルに中身を開けてみると、リンゴは九つあった。
「ほんとに、たくさんありますね。でも、熟しているみたいですから、早く食べた方がいいですよね」
 それを見やって、零は呟き、どうやって食べようかとしばし悩む。が、やがて小さく手のひらを打ち合わせると、いそいそと料理の支度を始めた。
 やがて、あたりには甘酸っぱい香りが漂い始める。そして、日が暮れるころ、いくつかの瓶に小分けされたリンゴのジャムが出来上がった。
「美味しくできましたから、明日はこれと、スコーンでも焼いて、お茶会をしましょう。お友達のみなさんにも来ていただいて」
 それを眺めて、楽しそうに呟くと、零はさっそく心当たりの人々に電話し始めるのだった。

【1】
 その日、シオン・レ・ハイが草間興信所の近くを通りかかったのは、まったくの偶然だった。この何日かまともに食事をしていない彼の鼻は、おそろしく敏感になっている。それで、草間の事務所から漂って来るスコーンの芳ばしい匂いに気づいたのだ。いや、それどころか、彼の鼻は前日のリンゴジャムの煮える甘酸っぱい匂いの残り香さえ、捕えていた。
 それで、思わず中に向けて声をかけた。
「シオンさん。ちょうどよかったです」
 奥から現れた零は、彼が何か問うより早く、笑顔を見せて言った。
「今、ちょうどお茶会をしているんですけど、シオンさんもどうですか? あ……。それとも、お兄さんに何かご用ですか?」
「あ、いえ。近くまで来たので、寄っただけなんですけど……。お茶会、ですか?」
 慌ててかぶりをふり、言葉を濁して問い返す。
「ええ、実は――」
 零が言うには、昨日、妹尾静流からもらったリンゴでジャムを作ったので、それのお披露目がてら、人を招いてお茶会の最中なのだそうだ。
「それでしたら、もちろん参加させていただきます」
 話を聞いて、大きくうなずいたものの、いくらなんでも手ぶらはまずいだろうという考えが浮かんだ。
「ち、ちょっと待って下さい」
 やおら零に背を向けて、サイフの中身を確認する。近くのコンビニで、お菓子でも買って来ようかと思ったのだ。が、中身はほとんど空に近い。
(これじゃ、何も買えません……。どうしましょう……)
 胸に呟き、ふと彼は先程、時おりバイトさせてもらっているパン屋でもらって来たばかりの、パンの耳を持っていることを思い出した。
(そ、そうですね。耳だって、パンの一部には違いないんですから、きっとジャムをつければ、美味しくなります)
 胸の中で、無理矢理そう言い利かせて、彼は改めて零の方を向いた。
「すみません。……参加させていただきます」
「ありがとうございます。じゃあ、こちらへどうぞ」
 怪訝そうに彼を見やっていた零が、笑顔でうなずき、先に立って奥の台所へと案内してくれた。
 台所のテーブルの上には、なるほどお茶会らしく、菓子類が並べられている。
 中央には、大皿に盛られてスコーンと、切り分けられたレアチーズケーキ、そしてプチシューが並び、三つ用意された席には、グラスと取り皿、それに小皿に入ったレアチーズケーキが置かれていた。
 その席の一つには、シュライン・エマが腰を下ろしていた。
 年齢は、二十代半ばというところだろうか。本業は翻訳家だが、普段はここで事務員をやっている。すらりと長身の体に、ノースリーブのパンツルックをまとい、長い黒髪は後ろで一つに束ねてあった。胸元には、いつもどおり、色付きのメガネが揺れている。
「お邪魔でしたら、すみません。あんまりいい匂いがするんで、つい立ち寄ってしまったんですけれど……」
 シュラインの顔を見るなり、シオンは幾分照れて、つい本当のことを口にしてしまった。別に言い訳をする必要もないのだが、元来が気のいい彼は、隠し事には向いていない。
 シュラインは、彼の言葉に苦笑した。
「どうぞ、気にしないで。人数は多い方が楽しいわ。ね、零ちゃん」
「はい」
 同意を求められた零が、素直にうなずく。
「ジャムはたくさんありますし、スコーンも少し多めに焼いてますから。それに、シュラインさんがいろいろ持って来てくれましたし」
 言って、椅子を勧める彼女に、シオンは手にしていた小さな紙袋を差し出した。先程思い出した、パンの耳だ。
「ありがとうございます。それでこれ、手土産がわりと言っては粗末なんですけど」
「ありがとうございます」
 零が受け取るのを、横からシュラインが覗き込む。
「これ、油で揚げると美味しいのよ。普通はそれに砂糖をまぶして食べるんだけど、今日はジャムをつけて食べるというのは、どうかしら」
 思いついたように言う彼女に、零が目を輝かせた。
「そうですよね。じゃ、私、さっそく揚げてみます」
「お願いね。私は、シオンさんのグラスや何かを用意するわ」
 言ってシュラインも、食器棚の方へ向かう。
 シオンは、てきぱき動く二人の姿に、なんとなく感心しながら空いている椅子に腰を下ろした。それから、さっそくシュラインが用意してくれたグラスに、クーラーポットのアイスティーを注ぐ。アイスティーのために、ミルクと砂糖と輪切りのレモンも用意されていたので、彼は少しだけ砂糖とミルクを入れた。グラスの中身が、きれいなキャラメル色になるのを眺め、それから大皿の中に盛られた菓子たちを見やる。
(たくさんあると、どれからいただこうか、目移りしてしまいます)
 そんなことを胸に呟きながら、とりあえずレアチーズケーキを小皿に取った彼は、シュラインが取り分けてくれたリンゴジャムをたっぷり乗せ、彼女の勧めで、やはりそこに出されていたミントを添えてかぶりついた。

【2】
 やがて、からりと揚がったパンの耳が、皿に盛られてテーブルの中央に置かれる。
 お茶とお菓子、それにジャムを楽しみながら、たわいのない話に花を咲かせていたシオンとシュラインは、黄金色のスティック状の菓子へと変貌したパンの耳に、思わず目を輝かせた。
 ちなみにシオンは、すでにレアチーズケーキをたいらげ、今はスコーンとプチシューに取りかかっているところだ。ここしばらくでは、久しぶりのまともな食べ物に、なんだか目が潤んで来るのを覚える。しかも、菓子類もジャムもなかなか美味で、すきっ腹に染み渡るようだった。
 一方、シュラインの方は彼が訪れる前に取り分けてあったスコーンを、リンゴジャムをたっぷりつけてたいらげてしまい、今はレアチーズケーキに先程シオンに勧めたのと同じく、ジャムを乗せミントを添えて、口に運んでいる。このケーキとミント、それにプチシューは、彼女が持参したものらしい。
 シオンは、目の前に置かれたパンの耳の揚げたのを、またちょっと目が潤んで来るのを感じながら見やった。
「すごいですね。ちょっと揚げただけで、こんなふうになるんですね」
「食べたことないの?」
 思わず言う彼に、シュラインが、少しだけ怪訝な顔で訊いて来る。
「ええ。話に聞いたことはありますが、実物を見るのは初めてです。……こういうのって、お店では、売ってないですよね?」
 うなずいて、シオンは大真面目に問い返した。
「さすがに、それはないと思うけど……」
 苦笑して、シュラインが続ける。
「でも、家庭で母親が子供に出すおやつとしては、割と普通なんじゃないかしら。子供って、耳を嫌がって食べないって話を聞くし。でもこうすると、さっくりして芳ばしくて美味しいものね」
「そうなんですか。……シュラインさんは、よくご存知なんですね」
 シオンは彼女を尊敬のまなざしで見やった後、さっそく皿に手を伸ばした。
「では、いただきます」
 たっぷりとリンゴのジャムをつけて、一口齧る。
 途端に、口の中にパンの持つ芳ばしさと、ジャムの甘酸っぱい味と香りが広がった。
「……たしかに、芳ばしくて美味しいですね。しかも、ジャムの酸味のおかげで、とてもさっぱりした口当たりになっています」
 咀嚼して飲み込んだ後、彼はうっとりして言った。
「じゃ、私も一つ」
 シュラインも、同じようにパンの耳の揚げたのを取る。ジャムをたっぷりつけて、口に入れた。
「美味しい……!」
 彼女の口からも、そんな呟きが漏れる。
 そんな二人の様子を笑顔で眺めながら、自分の椅子に腰を下ろし、零も揚げたパンの耳を一つ取った。それから、ふと気になったように、壁の時計を見上げる。
「マリオンさん、遅いですね……」
「そういえばそうね」
 彼女の呟きに、シュラインも同じく時計を見やる。そのやりとりに、シオンは思わず尋ねた。
「え? マリオンさんも来られる予定なんですか?」
 ここに入って来た時、席が三つあるので、不思議には思っていたものの、使った形跡のあるグラスや取り皿から、もう一人は帰った後かもしれないと想像していたのだ。
「ええ、それが……」
 シュラインが彼の問いに答えかけた時だ。事務所の方に、人の来たらしい声がする。一つは、草間の声だ。
「お兄さんが、帰って来たみたいです」
 言って、零が立ち上がった。そのまま、事務所の方へと出て行く。
「武彦さんも、いいタイミングで戻って来たみたいね」
 笑って呟くシュラインに、「そうですね」とシオンもうなずいた。
 ややあって、零が草間と――ほかでもない、マリオン・バーガンディを伴って戻って来た。
「あら、マリオンくんも一緒だったの?」
 その姿に、シュラインが少し驚いたように目を見張る。
 マリオンは、一見すると十八歳ぐらいに見える、小柄で色白の愛らしい少年だった。短い黒髪と金色の目をして、ゆったりした半袖シャツとズボンというなりだった。言語学の研究者で、絵画の修復などの仕事をしている。外見的には少年だったが、実際には二百七十年以上を生きている長生者だった。
「あ……。そういえば、アイスを買いに行ったんだったのよね。ごめんなさい。零ちゃんに電話した時、言えばよかったんだけど。アイス、私が持って来たのよ」
 なぜかうなだれて、はかばかしく答えないマリオンに、ふとシュラインは思い出したように言う。しかし彼は、アイスらしいものを、どこにも持っていなかった。
 と、彼がやっと顔を上げる。
「いえ、いいんです。……私が買ったのは、溶けてしまったのです。だから、シュラインさんが持って来てくれているなら、それをいただきます」
 そして、自分の席に幾分力なく腰を下ろした。
 それを見やって、シュラインが小さく眉をひそめた。
「何かあったの?」
 こっそりと草間に尋ねているが、彼もよくわからないのか、かぶりをふっている。
 そんな彼らのやりとりに、シオンはおぼろげながらも、事情を察した。どうやら、零のお茶会に呼ばれていたマリオンが、アイスを食べたくなって出かけた後、シュラインがそれを持ってやって来て……つまりは、入れ違いになったのだろう。マリオンの元気がないのは、途中で何かトラブルでもあって、肝心のアイスを溶かしてしまったためだろうか。
(たしかに、一生懸命買いに行ったアイスが溶けてしまったら、悲しいですよね)
 頭の中でその悲惨な様子を思い描き、シオンはここは自分がフォローすべきだろうかと、横から言った。
「アイスがあるなら、私もいただきたいです。……すみません、今年の夏はまだ、一度もアイスを食べてないものですから……」
 もちろん、その言葉にまったく嘘はない。が、アイスを食べてマリオンに元気を取り戻してほしいと思ってそれを口にしたのも、本当だ。
 その言葉に、シュラインが笑って立ち上がる。
「そうね。アイスも出しましょうか。最中の皮や餡子も持って来てあるから、アイスとジャムを一緒に乗せて食べても美味しいと思うわ。キャンディティーと煎茶の茶葉も用意して来たんだけど、アイスと一緒なら熱い方がいいかしら」
「私は、冷たい方がいいのです。その……外を歩き回って、喉が乾いてしまって……」
 マリオンが、力なく言った。
「俺も冷たいの」
 言いながら、空腹だったのか草間はレアチーズケーキにかぶりついている。
「私は、温かいのをいただきます」
 シオンは、控えめな口調で言った。
「んー、じゃあ、私も温かいのにしよう。アイスと餡子と最中の皮なら、煎茶の方が合うかしら」
 そんなことを呟きつつシュラインが、零と共に台所に立つ。
 やがてシュラインが、バニラアイスと餡子と最中の皮を運んで来た。アイスはおそらく、ファミリーサイズのものを買って来たのだろう。一人分づつ器に盛り分けられている。が、最中の皮と餡子は、大きな器に盛り付けられていた。アイスの器は、各人の前に配られ、他のものはテーブルの中央に置かれる。ようは、自分で好きな食べ方をしろということだろう。
「なんだか、アイスの手巻き寿司みたいですね」
 シオンはふと、連想したままを口にした。
「そういや、そうだな」
 レアチーズケーキを食べ終わった草間が、今度はスコーンとプチシューとパンの耳に手を伸ばしながらうなずく。
「武彦さん、お腹すいてるなら、サンドイッチでも作りましょうか?」
 その食べっぷりが少し気になったのか、シュラインが問うた。
「いいよ。これで充分腹がふくれる」
 スコーンをほおばりながら、草間が返す。
 そこへ零が煎茶を持って来た。先に温かいのを配り、それから冷たいものが配られる。
 配り終えると、零も腰を下ろした。
「なんだかやっと、お茶会らしくなったわね」
 テーブルを囲む一同を見やってから、シュラインが零に言った。
「はい」
 笑顔でうなずき、零も一同を見渡した。
「……あの、ジャムのお味はいかがですか?」
「とても美味しいです」
 シオンは、真っ先に言った。
「どのお菓子とも、とても相性がよくて、すばらしいです」
「私もそう思うのです。……でも、このジャムの材料になったリンゴって、何か不思議な力を持ってたりするのでしょうか。たとえば、食べすぎると駄目とか」
 言ったのは、マリオンだった。
「さあ、どうでしょう。妹尾さんは何も言ってなかったですけれど……」
 零は首をかしげて問い返す。
「あの、何かあったんですか?」
「あ……いえ。たいしたことじゃないのです」
 あまり言いたくないことなのか、マリオンは言葉を濁してしまった。そして、冷たい煎茶を半分ほど飲み干すと、目の前に置かれた器の中のバニラアイスに、ジャムを乗せて食べ始める。
 その様子に、シュラインと零が顔を見合わせている。
 シオンも、さすがに気になった。
(そういえば、このジャムの材料になったリンゴは、妹尾さんからもらったと、零さんは言ってましたよね。……もしかして、あの不思議な庭園で採れたリンゴなんでしょうか?)
 ふと、以前に招待されて行った時のことを思い出し、胸に呟く。ただ、たしかに不思議な場所ではあったが、そこで出された食べ物や飲み物にはなんの異常もなかった。むしろ、これ以上ないほど美味なものばかりだった。
(あの時は私も出されたものを口にしましたけれど……別に、なんの問題もなかったです。後で、あれは実は幻でした、なんてこともなかったですし)
 思い返しながら、彼は小さめの器に盛られたリンゴジャムを見やる。
(それよりも、リンゴがあそこで採れたものなら、こんなにこのジャムが美味しいのも、香り高いのも、納得がいきます)
 小さくうなずき、彼は結論した。
(マリオンさんが、アイスを買いに行って、何かトラブルに巻き込まれたのだとしても、それはきっと、このジャムとはなんの関係もないことだったに違いありません)
 そして彼は、最中の皮を取ると、それに餡子を乗せ、その上からアイスを盛って更にジャムを乗せた。オープン最中アイスといった感じだろうか。それへ一口にかぶりついた。途端に口の中に、餡子の上品な甘さとアイスの冷たさ、そしてジャムの甘酸っぱさが広がり、なんともいえないハーモニーを奏でる。彼は、そのすばらしさにまたもや目を潤ませるのだった。

【エンディング】
 出されたアイスを思い思いの方法で口に運びながら、シオンたちの会話ははずむ。
 彼が、リンゴのジャムを使った料理があるのだろうかと言い出したことから、話題はもっぱら、そのことになった。
 シュラインに、スペアリブやカレーにも使えるのだと教えてもらって、彼はちょっとうっとりした目つきで、天井を見上げる。脳裏にはもちろん、スペアリブとカレーが匂いまで克明に浮かんでいた。
「ジャムじゃないですが、リンゴそのものもパイとかゼリーとか、いろいろ使えますよね」
 お茶とアイスを食べて、すっかり元気を取り戻したマリオンも、そんなことを言い出した。
「そうね。他の果物と一緒に、ヨーグルトで和えたサラダとかね。……そうそう、料理とはちょっと違うけれど、お餅にリンゴジャムもけっこういけるわよ」
「あー、あれは上手かったな」
 シュラインの言葉に、草間が食べたことがあるのか、思い出したように言う。
「リンゴジャムって、本当に用途が広いんですね」
 シオンは、まだうっとりした目つきのまま、感心してうなずいた。
 そうこうするうち、テーブルの上のアイスや菓子類もほとんど彼らの胃袋に姿を消し、全員が満足の溜息をつく。
 シュラインが持参したキャンディティーも、こちらは全員が冷たいのを欲しがったので、零が入れてくれて、彼らの喉を潤すことになった。
 そろそろお開きと、席を立つシオンたちに、零は一瓶づつリンゴジャムを差し出した。
「どうぞ、持って帰って下さい。私とお兄さんだけでは、使いきれませんし、みなさんのお口に合ったようですから」
「ありがとう。今度、これを使ったカレーを持って来るから、三人で食べましょ」
 受け取って、シュラインが言う。
「はい。楽しみにしてます」
 うなずく零に、シオンも横から礼を言った。
「飛び入りで来たのに、ジャムまでもらってしまって、すみません。……ありがたく、いただきます」
「いえ、気にしないで下さい」
 笑って零は、シオンに瓶を渡すと、マリオンにも差し出した。
「あ……。私は……」
 しかしマリオンは、どういうわけか、辞退するような素振りを見せる。
「遠慮しないで下さい。どうぞ」
「え、ええ……。じゃあ……」
 再度促されて、マリオンもしかたなくその瓶を手に取った。
 やがて彼らは、事務所を出るとそこで別れる。
 シオンは、手の中のジャムの瓶を眺めやり、思わず笑顔になった。
(パンの耳を美味しく食べる方法も教わりましたし、ジャムまでいただいて、本当にありがたいです。お料理にも使えるそうですし……いつか試してみましょう)
 胸に呟き、久しぶりの満腹感に小さな感動を覚えながら、彼は今夜のねぐらを探して、公園へと足を向けた――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3356 シオン・レ・ハイ 男性 42歳 びんぼーにん+高校生+α】
【4164 マリオン・バーガンディ 男性 275歳 元キュレーター・研究者・研究所所長】
【0086 シュライン・エマ 女性 26歳 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】


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■         ライター通信          ■
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●シオン・レ・ハイさま
いつも参加いただき、ありがとうございます。
ライターの織人文です。
今回は純粋にお茶会ということで、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。