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<東京怪談ノベル(シングル)>


ゆったりと、ゆっくりと。そしてじっくりと……〜





「では、一時間ほど、外に買い物に行ってきますね」
「ああ。まぁ、ゆっくりして来いよ」
「……先生、もうちょっとやる気を出してくださいよ。最近、お客がほとんど来ないんですから」
「あ〜………給料は出すから。心配するな」
「それだけは頼みますよ。本当に」

 助手は頬に薄く汗を流して、事務所を出て行った。昼食の弁当を買いに行って貰ったのだ。助手が居なくなり、一人きりになった事務所の中で、門屋・将太郎は窓の外に目を向け、助手が忙しそうに早歩きで去っていくのを眺めてみる。

「まだ弁当残ってるかねぇ」

 呟きながら、将太郎は軽く体を伸ばした。退屈だ。助手が居れば、それとなく向こうから話を振ってきてくれるのだが、一人になると本当にこの事務所は静かなものだ。
 普段から気紛れ営業をしていた罰なのか、最近は真面目に営業しているのだが、客足はほとんど無い。さすがに日頃の行いが悪かったらしい。
 助手にはああ言ったが、神聖都学園以外の収入がほとんど無いとなると、本格的に給料をカットしなければならないかもしれない。

「………ネットでもするか」

 助手の給料など気にすることでもないのか、あっさりと横道にそれる。カウンセリングルームに行って、少しだけ埃を被りつつあるノートパソコンを軽く拭き、電源を入れて立ち上げる。アイコンをクリックして、早速ネットに繋げた。
 この辺りの設定は、全て助手にして貰った。診療所としての設備はほとんど格安の中古品ばかりだったが、このパソコンは違う。それなりに資金に余裕が出てきていた時に購入したので、なかなかの高性能品だ。
 もっとも、ネットに繋げるための設定がほとんど解らなかったために、助手に頼り切っていた。助手は使用目的を聞いて、「ネットに繋げるだけが目的なら、もっと安いのにすればいいのに……」とブツブツ言いながらも設定をしてくれた。良い助手を持ったと本当に思う。
 ネットに繋げた将太郎は、まずは『お気に入り』に入れていた、心理学系のリンクサイトに繋げた。そこから有名な心理学部教授のサイトを見物する。

「さすがにワイドショーに出たり、何冊も本を出してたりするような人は違うな。どれくらい儲かってるんだ?」

 微妙にずれたことを考えながら、いつの間にか持ってきていた冷たい麦茶に口を付ける。ポチポチとページを進めていき、時々感嘆の声を漏らしながら読み進める。
 一通り読んでから、気晴らしに別のサイトへ行くことをし、適当に『検索』してみた。

「検索か…………俺の名前とか入れたら、どうなるんだろうな?」

 あれこれと頻繁に文字を打ち込み、検索に引っかかってきたサイトを何気なしに開いていく。心理学系のサイトから一転し、今度は軽い遊び系のサイトへと移っていった。
 …………と、次々に別のサイトへと泳いでいた将太郎の手が、ぴたっと動きを停止する。

「…………“どきどきガールズランド”? 未成年立ち入り禁止……」

 要するに、いかがわしさ大爆発のサイトを発見したのである。別におかしくもなければ珍しいことでもない。どんな言葉で検索を掛けても、一つや二つは引っかかってくるだろう。
 これが助手の居る時ならば、その目を気にしてある程度はスルーするのだが、今は……………居ない。

「…………ちょっとくらいなら………良いよな」

 そうして、将太郎は、画面のカーソルを指でススッとずらし……………




☆しばらくの間、様々な事情により、カメラの視点を変更させていただきます。ご了承くださいませ☆






 同時刻、門屋心理相談所の前では……

「あ、相談所が開いてる。珍しいなぁ」

 知らない人が見たら廃ビルと間違うのではないかと思われるような相談所の前で、一人の女性が、扉に『OPEN』と掛かっているのを見て、珍しそうに覗き込んでいた。
 あまりお客の来ない相談所だったが、それでもゼロではない。ここの相談所は独特の雰囲気を持っているため、むしろ一回足を運んでくれたお客ならば二回目、三回目と足を運んでくれるものだった。もっとも、足を運んでも開いてない時が多いため、結局は遠退いていくのだが……

「先生居るかな?ちょうど相談してみたいこともあったし」

 「失礼しま〜す」と小さく言いながら、扉を開けて静かに中に入り込んだ。ビルの中が静かなのに影響されているのか、何故か忍び足で階段を上がっていく。
 事務所の扉をコソコソしながら開けて、中を覗き込む。誰も居ないことを見て取り、ならば相談中かと、カウンセリングルームへと歩いていった。この相談所には、将太郎と助手ぐらいしか居ないため、助手が出てしまうと、数人のお客が来た時に将太郎一人で回すことになる。そのため、こうしてビルに入っても出会えないことが希にあった。

「あ、居た居た。先生何をしてるんですかぁ? あれ、聞こえてない?」

 カウンセリングルームで真剣な表情になってノートパソコンを凝視している将太郎を見つけ、中に入った。だが、将太郎は反応せず、ジッとパソコンを見つめたままだ。
 女性は怪訝な顔で、再度呼びかけてみる。

「お〜い、先生?彼氏をソノ気にさせる方法について相談したいんですけどぉ………やっぱり聞いてない?」

 パソコン越しに身を乗り出して呼びかけても応答がない。そんな真剣な表情で一体何を見ているのかと、回り込んでパソコン画面を覗き込む。

「うわっ、これは………そうかぁ、これをこうして…………ええ!?そこまで………」

 赤面しながら、客の女性も画面を覗き込み………





☆様々な諸事情により、しばらくの間、カメラのスイッチを切らせていただきます。ご了承くださいませ☆








 そして一時間後………

「ただいま戻りました………何をしているんですか?」

 外から戻ってきた助手は、まず事務所に行き、そこに将太郎が居ないと分かるとすぐにカウンセリングルームに足を向けていた。真剣な表情でパソコンに向かっている将太郎を見つけ、買い物袋を持ったままで隣にまで歩く。
 なにやら周囲の不穏な空気を感じ取ったのか、さっきは声を掛けられてもピクリともしなかったのに、今度は素早く正気に立ち戻った。
 ネットを閉じ、慌ててパソコンを閉じる。

「ん!?あ、戻ったのか、何でもないぞ。少し暇つぶしをしていただけだからな」
「そうですか?」

 慌ててパソコンを閉じる将太郎を見ながら、助手は「そんなんだからお客も来ないんですよ」と呟き、外で買ってきたお弁当を置いて、お茶を入れるためにカウンセリングルームを後にしていく。
 ホッと胸をなで下ろす将太郎。しかし、助手が置いていった弁当の横に、数枚のお札が置いてあるのを見て取り、怪訝な表情でそれを手に取った。

「まさか………」

 頬を汗が伝う。そう言えば、先程、助手よりも前に、誰かに呼びかけられていたような………

「気のせいだな」

 そう言ってから、弁当の蓋を開ける。コンビニか何処かで、暖められていたのだろう。白い湯気が立ち上り、その向こう側に、お茶を入れてきた助手が見えた。

「食べる前に、お弁当代をください」
「……お釣りくれ」

 手元にあるお札を助手に渡し、残りを懐に仕舞い込む。暖かなお弁当を箸でつつきながら、将太郎は、以前にも似たようなことがあったなぁ………と、特に反省もせずに漠然とした感想を思い浮かべていた………




 門屋心理相談所では、記録に残らない報酬が、多々として存在している……



FIN