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<東京怪談・PCゲームノベル>


★鶴来理沙の剣術道場

●ようこそいらっしゃいました! 〜オープニング〜

 はじめまして!
 当道場は剣神リサイアの巫女、鶴来理沙(つるぎ・りさ)の剣術道場になります。
(――――つまりこの私が道場主です!)
 場所はあやかし荘の大部屋を間借りして開いています。が、とある結界の力を用いて道場内に色んな修行の場を出現させたり、古の武術を伝える師範がいたりと、ふつーの道場ではないのです。
 武の道を極めたい人、必殺技の修行をされたい人、なんとなく和みたい人などは、ぜひ当道場の門をお叩きください。ビンボーですががんばりますので!
 あ、それと補足がひとつ。
 ただいま門下生希望者は、随時熱烈大歓迎です☆

 それでは、本日も良き修行の場となりますように。


●本日の修行、開始です!

 暑い日ざしの中、明智 竜平(あけち・りゅうへい) はつとめて冷静に剣術道場の門を叩いた。

「いらっしゃいませー。あれ? どうしたんですか竜平さん?」
「ん、別に‥‥いつも通り修行に来ただけだ」
「へえ〜、そうなんですか、へえ〜」
 普段と変わらない竜平だが、なぜか理沙は頬を染めてどこか思わせぶりな視線。何事だ? と竜平は不審に思う。
「こんにちは理沙、またお世話になるね」
「こずえさん! あ、あはは、どうぞどうぞ」
 ひょっこりといたずらそうに笑顔を見せた竜平の幼馴染にして退魔師―― 神崎 こずえ(かんざき・こずえ) に、竜平は「なるほど‥‥」という視線をむけた。妙な誤解をされているようだ。
「な、待てよ! 俺とこずえなんかいつもの取り合わせだろって」
「ふふーん、甘々ですね竜平さん、夏は女を変えるんですっ」
「ちょっと竜平あなた、こずえなんかってなによ、『なんか』って――それに理沙も! ヘンなこと言ってもう、今日はどうしたのよ?」
「これも夏も魔力ですっ。夏は短し恋せよ乙女、なんです!」
「‥‥夏というのはわかったけど。でも、それがあたしと竜平にどう関係あるんだか‥‥第一それって根拠ないよね」
「ええもう、乙女の直感ですからっ!」
 竜平とこずえは「乙女っていう柄か?」と無言でいぶかしむも、二人の視線を受け流して理沙はスキップしながら涼しい風の吹き抜ける真夏の道場へと案内する。
「異常なくらいハイテンションだな‥‥暑さにやられたのかどうだか」
「やられても夏、やられずとも夏、それが真夏のロマンチック〜☆」
 ‥‥あたまいたいな‥‥。
 それでも負けずにコミュニケーションを試みた。
「でもさっきから似合わないくらい背伸びしてませたこと言ってるぞ‥‥小学生じゃあるまいし」
「その発言はいただけませんねっ。ふふふ、今日びの小学生を甘く見てます!」
 はいはい理沙ちゃんませてるねーとあやすように頭をなでなでしながら「もう黙ってなさいお姉さん怒んないから」視線をむけるこずえに、「海です恋ですー!」と理沙は浮かれたようにはしゃぎ続ける。
 ‥‥夏だな、と竜平は遠い目をしながら思った。

                             ○

 本日の修行では、こずえはいつものごとくくのいちの村雨汐に、竜平は二刀流のサムライである剛陣に修練を受けていた。
 ――――ちなみに、久しぶりの出番に豪傑である剛陣が男泣きを禁じえなかったというのはどうでもいい話だったりする。
 道場内の異空間を抜けて、深山の奥にある清流の河原を修行場所とした。巨大な滝があり、夏の暑さと滝から落ちてくる冷たさが周囲の木々と共に凛とした空気をかもし出していて修行に最適な場所。

「ひゃあぁっ、‥‥つ、つめた‥‥っ!?」
 こずえは白い着物で滝に打たれていた。
 清水の滝は雪解け水が急流となって轟き落ちて、真夏だというのに凍えるような冷たさだ。
 こずえは『闇の種』を使いこなす訓練がかなり進展している中、その完成にむけての特訓であった。
 闇の種は負の感情がエネルギー源のため、心に動揺がある時は制御が不安定になったり、エネルギーの過剰供給で暴走しそうになったりする。そんなことにならないように精神のコントロールを学ぶことで、意志の力による感情の制御を身につける――意思と感情の均衡こそが闇の種を自身の力で制御するための鍵の一つだといえる。
 隣で同じく白い着物で滝に打たれている汐は、冷たさなど微塵も気にしていないように平然と手を合わせながら立っている。
「ひぁ〜〜〜、ね、ねえ‥‥この水に打たれてるってどれくらいやってればいいの?」
「そうですね‥‥心が無になるまででしょうか‥‥」
 汐のいつにない厳しい口調に――こずえは、悪い予感がした。
 普通なら時間を訊ねたのだから、10分だとか1時間など、修練時間の長さを答えてくれるはずだ。しかし、汐は時間の代わりに目標を答えた、ということは、目標達成までにかかる時間がそのまま修行の時間と考えていいわけだから‥‥。
「そうすると‥‥あたしが、心を無にできるまで、ずっとこのままなの‥‥?」
「はい、その通りです♪」
「無茶苦茶な要求してるのに楽しそうに答えないでよォ!!」
 死んでしまう。体が凍りつきそうな水に打たれて終了時間もわからないまま延々と修行が続くのだとしたら、心が無になる前に命がなくなりかねない。いくら退魔師とはいえ、術も無しに体力と精神力だけでこの荒行を乗り切るのは非常に厳しい。それほどに冷たい水流なのだ。
「心配しないで、こずえ」
「え、汐‥‥それって‥‥」
「骨は私が拾いますから☆」
 いーーーやあーーーーー!!!!!!!!!
 今日の汐はいじめっ子なのだろうか。いつもと性格が変わったような汐の微笑みに、こずえの絶叫が響き渡った。


「なんだか、こずえの悲鳴が聞こえたような‥‥」
「は! 余所見は厳禁だぜ!」
 剛陣の声に本能的に身をかがめた竜平は、足元の速い流れの中を転がった。同時に二本の木刀が竜平の頭上を薙ぎ払う。
 こちらは、動きに取りづらい川の流れを足場にしての乱取りを行っていた。足場の悪い川で二刀流の達人である剛陣と木刀を打ち合うのだから、意識の集中の途切れが即、身の危険につながりかねない。
「ほう、なかなかいい動きを見せるじゃねえか。だがな、これからが本番だ――――」
「次、お願いします!」
「言うじゃねえか、その心意気や良しだ!」
 倒れた竜平が起き上がるのも待たず、剛陣の斬撃が再び唸りをあげて振り下ろされた。

                             ○

 日が傾き、空は茜色に染まる。
 深山の清流における修行を終えた二人は剣術道場に戻ると、中庭の温泉で今日一日の疲れを落としていた。
「もう! 今日は本当にどうなるかと思ったんだからさ!」
 プリプリ怒りながら温泉につかっているこずえに、隣の理沙が困ったように汐のことを弁護する。
「でもですね、あれって水の心を習得するための効果的な修練なんですよ。水という力が意識に及ぼす影響って想像以上に大きいんです。だから――」
「でも、あたし、最後なんてよく覚えていないんだからね‥‥無なのか単に気絶してたのか、もうわけわからなかったんだから‥‥!」
 桶でお湯をかぶった汐が、髪をかき上げながら静かにつぶやく。
「でも‥‥水の心を掴めば、大きな助けになる‥‥だから‥‥」
「それにしては今日の汐って、いつになく厳しかったわよ、本当」
「それは――」
 真剣な表情で思いつめた汐は、ふっと顔をあげて軽く顔を振ると、ニッコリと笑顔を向けた。
「だって、こんなに暑いのにこずえさんたちがアツアツな所を見せつけるから」
 なっ! ‥‥とこずえが顔を真っ赤にしてあとずさると同時に、隣の男湯から声が聞こえてくる。

「お、随分な痣じゃないか――でもこの傷跡は稽古のもんじゃあねえな」
「いてっ。いや、大丈夫です。この間、幽霊事件で傷を作っちまって‥‥服着てれば目立たないんですけどね」
 竜平の強がりに剛陣はがははと笑った。
「結構結構、男は強がってこそ、だ。そうじゃねえといつまでもあの嬢ちゃんの尻に敷かれっ放しだからな」
 しばしの間があく。
 こずえは、息を呑んで続きを待つ。
「‥‥‥‥。俺、こずえが急に強くなって、怪物とかと戦うようになった時、置いてかれたような気になったんです。それで焦って、薄っぺらなカッコつけで大怪我までして‥‥」
「ま、あの嬢ちゃんは強えからな‥‥テメエの焦る気持ち、分からんこともねえな」
「最近は、自分でも幽霊とかの事件と関わるようになって‥‥困っている人達を何人も見てきたから、もう他人事として知らん顔はできないです」
 こずえは、胸の中に温かいものが宿る自分を感じた。
 今の自分を、竜平が受け止めてくれる事に幸せを感じている。また、人助けをするようになった竜平を――『恋人』としても――『仲間』としても――応援しよう、‥‥とも改めて強く思った。
 ――――依頼を受けている竜平と接する時は、明るく振舞うようにしている自分。だけど、竜平が怪我をしたりすると、気弱な自分がその姿を覗かせる――先日、竜平の体のあちこちに傷が出来ているのを見つけた時、いつも以上に不安になった。あんなにも不安と恐れをいつから自分は抱くようになってしまったのだろう‥‥。

 ‥‥あたしは、弱くなったのかもしれない‥‥。

「まだまだ力は足りないけど、俺に出来る事をしていきたいんです」
 それは、竜平の声だった。
 迷いを瞳に浮かべながら夕陽で染まった朱い空を見上げる。
「ふん。言うじゃねえか、小僧」
「考えてみれば、剛陣さんだって、村雨だって、鍛えて強くなったんですよね‥‥俺も近道なんて考えずに自分を鍛えていきます」
 当たり前だ、と剛陣は鼻で笑った。
 どこかその竜平の答えに満足しているようにも見える。
「もっと色んな人の力になりたいし‥‥こずえを悲しませたくない。この傷を見た時のこずえの顔‥‥もう、あんな表情絶対にさせなくないんです」
 こずえは、竜平の言葉の中に決意を感じ取り――――信頼と安堵感を覚えた。
「あらまあ、これはアツアツですね、汐さん?」
「ふふ、いいじゃないですか‥‥静かに見守っていきましょう、理沙さん? とりあえず修練を倍増しして――」
 などと楽しそうにあてつける二人の声も、今のこずえには聴こえない。
 そっと胸に手を当てて、瞳を静かに閉じた。

 ‥‥あたしはこの気持ちを信じる‥‥

 だから、きっと強くなれる。いつの日か、必ず‥‥。



【本日の修行、おしまい!】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3206/神崎 こずえ(かんざき・こずえ)/女性/16歳/退魔師】
【4134/明智 竜平(あけち・りゅうへい)/男性/16歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 ゲームノベル『鶴来理沙の剣術道場』にご参加いただきありがとうございました。
 それと作成が遅くなり申し訳ありません。いろいろあってダウンしていました(汗)
 それにしても本格的な夏になって暑い日が続きますね。夜まで熱帯夜で、7〜8月は雛川にとっての天敵です。ムワッとした熱風はアスファルトのにおい。この熱気は何事でしょうかとアイスを食べながら太陽を睨みつけてみたりします。雛川は地球温暖化なヒートアイランドに断固反対します!
 ‥‥暑さにやられてるかも‥‥。

 さて、剣術道場はゲームノベルとなります。行動結果次第では、シナリオ表示での説明にも変化があるかもしれません。気軽に楽しく参加できるよう今後も工夫していけたらと思います。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。


>こずえさん
いやー、ラブラブですねーこの暑い8月を狙い撃ちしたかのように! すみません、雛川の執筆が遅かったせいで‥‥。
衛生兵! 衛生兵! 爆撃さr――――

>竜平さん
お暑いですねこのこのもう! 見せつけてくれちゃって!
‥‥理沙と汐の当てられっぷりは余り気になさらないでくださいませ。