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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


雷光寺

 活発にして明朗、口より先に手が動く。お調子者にして慌てん坊。そんな神聖都学園3年生、早津田恒でも、時にはパソコンの前に座り、ネットに興じることもある。もっとも、やはりじっと画面を見つめるのは性に合わないのか、長時間続けてやることはないが。
 そんな恒がたまたまインターネットカフェにたちより、たまたまゴーストネットOFFの掲示板を覗いてそこの書き込みが気になったのも、やはり何かの縁というやつかもしれない。

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◆助けて!

 うちの周りの怪奇スポットで、鬼が出るって有名な有名な雷光寺で、友達と5人で百物語したの。2周したところで、いつの間にか1人増えてて、「お前ら全員食うてやるぞ」って。
 びっくりして慌てて逃げてきたんだけど、次の日、そのうちの1人が転んで怪我して。それから次々みんな怪我するの。
 2人目は階段踏み外してねんざ。3人目は、バイクで転んで骨折。そして4人目は昨日、ひき逃げに遭って、まだ意識が戻らない。
 怪我がだんだんひどくなっていってるの! 次はあたし……?? このままじゃ、あたしはどうなるの?
 お願い、助けて、助けて!
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 縁を感じれば動くしかない。恒は早速返信ボタンを押し、流れるように、とまではいかないまでもキーボードの上に指を走らせる。
 まずは、この書き込み主に落ち着いてもらうのが第一だ。できれば直接当事者に会って警護し、直接鬼を叩く方向で動きたい。

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◆Re:助けて!

 俺があんたを警護するぜ。鬼を叩く方法も心得てるから安心して任せてくれ。とりあえず、このメアドに連絡くれ。必ず何とかしてみせるからさ

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「よっしゃ、鬼でも何でもどんと来いってか」
 書き込みを終えてエンターキーを押し、恒はどん、と自分の胸を叩いた。後は、相手からの返信を待つのみ、だ。つい、モニタを見つめる目にも力がこもる。
「ねえねえお兄さん、この書き込みした人?」
 不意にかけられた声の方を振り向けば、そこには小学一年生くらいの少女が立っていた。肩で切りそろえられた銀髪が目を惹く、どこか不思議な印象の彼女は、モニタを指差してにこりと微笑んでいる。
「みあおもね、この子と会っていろいろ話聞きたいな」
 恒が否定しなかったのを肯定ととったらしく、少女は無邪気に小首を傾げる。
「けど……」
 相手は鬼だというのに、こんなに小さい少女を連れて行っても大丈夫なのだろうか。そんな恒の心配を読んだかのように、少女はさらに微笑んだ。
「大丈夫。みあおもね、心得てるから」
 幼いながらも彼女も能力者なのだろう。
「……そうか。じゃあ一緒に鬼退治といくかな。そうそう、俺は早津田恒。えっと……」
 さっきから自分で連呼しているのが彼女の名前だろうか。そう思いつつも、一応言葉端を濁らせると。
「……海原みあおだよ。よろしくね」
 少女はにっこり笑って自分の名を名乗った。
「さて、とりあえず返信を待たなきゃな。……すぐに来るとは限らないんだろけど」
 わかっていても、何かしら動いていないと気が済まないのが恒の性。再びキーボードへと手を伸ばし、自分の持っているフリーアドレスにログインする。
 と、そこには既に返信が来ていた。やはり、よっぽど切羽詰まっているのだろう。モニタの前に張り付き、リロードボタンを押し続ける少女の姿が目に浮かぶ。
 直接会うための段取りをつけたい旨を送信すると、数分後にはまた返信が返ってくる。みあおにも知らせようと顔を上げると、みあおの横にはいつの間にか金髪の青年が立っていた。
 みあおの知り合いなのだろうか。気後れするくらいに整った顔立ちをした彼は、銀髪の少女と親しげに挨拶を交わしていた。
「……こちらは?」
 どうやら彼も恒に気付いたらしい。絵になるような優雅な仕草で軽く首を傾げてみせる。
「早津田恒っす。どうぞよろしく」
 知り合いの知り合いは知り合いだ。恒は愛想良く自己紹介をした。相手も、人の好さそうに見える笑みを浮かべ、自分の名を名乗った。
「恒くんですね。モーリス・ラジアルです。お見知りおきを」
「……で、メール返って来てた?」
 その側から、待ちきれないとばかり、みあおの声が割り込んでくる。
「ああ、返って来てたぜ。即だ。……ただ、怖くて動きたくないから家に来てくれとよ」
 助けを求めてくれるのはありがたいが、恒としては顔も知らない女の子にいきなり家を教えられると、少し戸惑ってしまう。
「匿名の相手に住所を教える方が怖いと思うんですけどね……」
 そんな恒の戸惑いを読んだかのように、モニタを覗き込んだモーリスが少し皮肉めいた呟きを漏らした。
「歩いても行ける距離ではありますが、ここから少しありますね。私が車を出しましょう。お二人もご一緒にいかがですか?」
 その提案に、みあおも恒も、一も二もなく乗ることにした。

 車中の話題は自然、事件のことになる。
「掲示板の記事にあった増えた人物がどのようにして彼女たちと逃げて来たのか気になりますね。実体を持って外に追いかけてきたのか、それとも人の目に見えないように各自順番についてきて、事故を引き起こしているのか……」
 運転席のモーリスが淡々と口火を切る。恒は気合い十分に腕を組むと、ううむ、と唸った。
「あの書き込みからするに、鬼は負の力を取り込んで強くなっていってる気がするな」
 百物語をしたメンバーの怪我はだんだんひどくなっていっているのだ。鬼はますます見逃せない存在になっているに違いない。己の苦しみや無念を生きている者にぶつけているのかもしれないが、人に危害を与えるようなやり方じゃ、永遠に救われることはないのに。
 そう思えば、どこかやりきれない気持ちも湧いてくる。
「でも……、怪我だけ、なんだよね。『全員食べる』とか言っといて」
 ふと、隣でみあおがぽつりと口を開いた。無邪気ながらもその口調には、考え込むような響きがあった。
「何か事情があるのかな……」
 祈るような色さえこめて、みあおは小さく呟く。そういうことを考えてもみなかった恒は思わず目を瞬いた。
「……それもそうですね」
 それを受けて、運転手のモーリスもまた、考え込むような口調になった。
「でも、とりあえずはこのカキコした人に会わないとね。というより、この人が鬼ってこともあったりしてね」
 物騒さをも含んだその内容とは裏腹に、みあおはにっこりと笑って話題を切った。

 書き込み主の家は、都心を外れた住宅地にあった。そこそこの築年数を思わせる外観は、周囲の民家にもしっくり馴染んでいた。この地域ではごくごく普通の家なのだろう。あえて気になるところはといえば、家全体が息を詰めているかのような静けさと緊張感を感じさせることくらいだろうか。
 恒が門柱についていた呼び鈴を押す。が、返事はない。しばしの後にもう一度押す。が、やはり家は静まり返ったままだ。
「おい、まさか……」
 既に何か起こってしまったのではないだろうか。じわりと恒の背中に嫌な汗が浮かんだ。みあおとモーリスの表情も険しいものへと変わる。
 が、最初の呼び鈴からたっぷり5分は経っただろうか。ほんのかすかな音を立てて、玄関が驚くくらいゆっくりと開く。ぎりぎり人が通れるくらいに開いた隙間からは、こわばった顔をした少女が顔を覗かせていた。
「……ゴーストネットの人?」
「ああ、そうだ。あんたのことをしっかり警護するぜ。ワラだと思ってすがってくれぃ!」
 恒は、俺に任せろと自分の胸をばん、と叩いた。
「ワラだと、一緒に溺れちゃうよ……」
 どこからともなくそんな声が聞こえたような気もしたが、それは恒の頭を素通りした。何より、今はこの少女に安心してもらわなければ。
 そんな恒がおかしかったのか、少女の顔に、わずかながらの笑みが浮かんだ。

「雷光寺の噂は先輩に聞いたの。誰もいない、ぼろぼろのお寺なんだけど、『鬼さんお入んなさい』って言って百物語を99までやったら、最後に鬼が出てくるって」
 ベッドの上に膝を抱えて座り、少女はぽつりぽつりと話し始めた。
 通された少女の部屋は、雑然としていた。ベッドの脇に無造作に捨て置かれたスナック菓子の袋や、カップ麺の容器がその印象をさらに強くする。そしてベッドの枕元には立ち上がりっぱなしのパソコンが置かれて、無機的な光を放っていた。
 今は両親が旅行中だとかで一人きりの彼女は、ベッドから出ることさえ恐ろしくて、呼び鈴にもなかなか応えられなかったのだと詫びた。
「それで、ガッコの友達と肝試しに行こうってなったの。99までやらなきゃ大丈夫って言ってたのに……。どうして!」
 少女の話を聞きながら、恒は彼女の周りに意識を集中させ、負の気配がないか探った。鬼がこの少女をつけ狙っているなら、何か糸のような繋がりがあるかもしれない。
「いつの間にか1人増えてたって掲示板にはあったけど、ということは鬼の姿、見たんだよね?」
 傍らでは、みあおがさらに質問を重ねていた。
「姿は見てない。……ろうそくが1つ増えてたの。怖くてそっちは見なかったけど、大きな影みたいなのがちらっと見えて、それでもう『きゃーっ』ってなって逃げて来たから」
 恒はさらに油断なく周囲を伺ったが、あると思われた糸のようなものは見当たらない。それどころか、負の存在の気配さえ感じられない。
 当てが外れたか、勘が鈍ったか、それとも相手は気配さえ感じさせないくらいに巧妙なのか。さすがの恒の胸にも、次第に不安にも似た困惑が広がってくる。
「さっき、学校の友達と……とおっしゃっていましたが、ということは皆さん中学生ですね?」
 おもむろに、モーリスが脈絡のない問いを口にした。少女もなぜそんなことを聞かれるのかわからないというような顔で頷く。
「行こうよ、雷光寺」
 恒がその真意をただす間もなく、みあおがにっこり笑って短く言い出した。少女は、びくりと身を震わせ、信じられないといった顔をみあおに向ける。
「だって、結局は対決しないと仕方ないでしょ?」
 笑みを崩さずにみあおは続けた。
「そんな……」
「大丈夫です。私たちが必ず守ります」
 絶望的ともいえる顔をした少女に、モーリスが穏やかに、それでも有無を言わせぬ口調で言葉を継ぎ、少女の周りに光る檻を出現させた。
「実際に行く時には見えないようにしますが、この檻の中にいれば、鬼は絶対に手出しできません。それに、鬼本体は恒くんが叩いてくれますよ」
 そして、恒にちらりと視線を寄越した。
「おう、任してくれ!」
 話の流れはよくわからなかったが、どちらにせよ鬼と対峙しなければ解決に至らないのも事実。そして、そうなったら真っ先に戦う覚悟はできている。恒は自信満々に応えた。
 そんな2人の言葉に、顔をこわばらせながらも少女はようやく頷いた。

 少女に案内されて3人が雷光寺に着いた時には、既に日は大きく西に傾いていた。噂の雷光寺は、小さなお堂があるだけの、こぢんまりしたものだった。それも半分崩れ落ちそうで、傾いた看板に書かれた文字は、そうと知っていなければ「雷光寺」と読めたかどうかも疑わしいくらいにすり切れ、汚れている。お堂の周りこそ、踏み固められて地面が露出しているが、少し脇になると、そこは人の腰ほどまである丈の草がのび放題になっていた。
「いかにも『出そう』なお寺だねぇ」
 お堂への階段に足をかけ、みあおが弾んだ声で口にすれば、少女はびくりと身を震わせた。
「……誰かいますね」
 モーリスの言葉の通り、夕闇迫った薄暗いお堂の中には、2つの人影が見えた。そして、人ならぬ気配も。
『お前らみんな喰ろうてやるぞ』
 地の底から響いてくるかのようなその声と共に、お堂の奥の壁に映った影が、2人に襲いかかろうとするかのようにゆらりと揺れる。
「いやああっっ!」
 少女が金切り声で悲鳴をあげてうずくまるよりも早く。
「出たなっ。鬼かっ」
 反射的に地面を蹴り、恒は弾かれるように飛び出していた。本当なら相手の出方を見て対処するつもりだったが、現に襲われそうな人がいる以上、その猶予はない。
 一撃必殺、先手必勝、と頭の中で力のぶつかり合いをイメージし、それをそのまま突進の勢いと共に拳に乗せて影へと振るう、その直前。
「……え?」
 それをぶつけようとした相手の姿をはっきりと認め、恒は拳を止めようとした。が、一度必殺の気合いを込めて放たれた拳がそうそう止まるはずもない。
「ふぎゃっ」
 そこにいた人間の幼児くらいの格好をした小鬼は、恒の拳を受けてお堂の抜けかけた床に転がった。
「……」
 恒はもちろん、その場にいた2人――中学生くらいの銀髪の少年と、男子高校生――も、唖然とした顔をして、時が止まったかのようにただその場に固まっていた。
「あーっ。可愛いっ!」
 一種間抜けな沈黙の支配するお堂に駆け込んできたみあおが、小鬼を見つけて嬉しそうな声をあげる。
「……痛いきゃ! いきなり何するきゃ!」
 小鬼はキンキン声で文句を言いながら、ゆっくりと起き上がった。
「雷さんだぁ」
 みあおの言う通り、小鬼のモスグリーンのもしゃもしゃの髪の合間には小さな角が一本。いわゆる虎皮のパンツに、背中には小さいながらも雷太鼓を背負っている。
「ね、こっちおいでよ」
 みあおに言われて、依頼人の少女がモーリスと共にお堂に入って来た段になって、ようやくお堂の中の時は動き出した。

 先にお堂にいた銀髪の少年は――みあおやモーリスとは顔見知りのようだが――尾神七重、高校生の方は櫻紫桜と名乗った。2人もまた、ゴーストネットOFFの書き込みを読んで、調査のためにこの寺を訪れたらしい。そこで、この雷小僧と遭遇したのだとか。
 恒にいきなり殴られたのがよっぽど気に食わなかったらしく、当の雷小僧――名前は雷来(ライキ)というらしい――はすっかりふてくされてそっぽを向いてしまったので、七重と紫桜がことの経緯を説明してくれた。
 2人によると、雷来は300年程前、うっかり空から落ちて来たらしく、雷光寺はそんな雷来のために、当時の村人が建ててくれたのだという。「雷様がいるから雷光寺」、なんともベタな命名だが、経緯を聞けばそれらしいような気もする。
 当初はよく子どもたちが遊びに来ていたのだが、いつしかその足も遠のいた。そして、寺が程よく荒れた頃には、若者たちが百物語に興じるようになったのだという。いつしか、最後の1話を雷来が担当するのが人間との暗黙の了解となっていた。
 そして、ついさっきも雷来に乞われて百物語をしていたのだという。
 とんだ勘違いをしてしまったものだ、と恒は思わず頭をかいた。
「じゃ、2周目の終わりってのは?」
 みあおが尋ねると、雷来はちらりと視線を戻し、膨れっ面のままで口を開いた。
「最近の人間は99までやらないきゃ。たまーに来たらいっつも2周で終わるっきゃ」
 確かに、怪談のネタなど2つもあれば良い方だろう、一般人にとっては。
「『喰ってやる』というのは、言ってみれば彼の持ちネタだそうです。さっきもそうですが、決して悪意はなかったはずですよ」
「でもっ! 次の日からみんな怪我して……」
 七重の言葉に、少女はうわずった声をあげた。
「ひき逃げに遭った友達には気の毒なことに不幸な事故だったと思うけど……。あとはみんなちょっとした不注意で起きた怪我じゃないかな? 怖い怖いと思っていると、つい注意がおろそかになって、本当に怪我してしまう。後ろめたいことがあるなら、なおさらね。ここでしてたのは百物語だけ?」
 紫桜が静かに言うと、少女は小さく息を呑む。 
「済んだことを今ここで責めるつもりはないけど、これから先、同じことを繰り返すのはやめた方がいいと思うけどね」
「……」
 紫桜の諭すような言葉に、少女は唇を噛んで俯いた。
「あー、久しぶりに入れたと思ったら、とんだ災難きゃ。おいらが人間に怪我さしてるなんていいがかりもいいとこっきゃ」
 ぷりぷりと怒りながら雷来はじっとりと横目で恒を睨んだ。確かに、紛らわしかったとはいえ、この生意気雷小僧にはやっぱりいい迷惑だったことだろう。
「わりぃ、わりぃ、この2人が襲われてるように見えたもんだから、つい……。俺が悪かった。許して下さい」
 恒は困惑顔で頭をかいた後で、思い切り良く頭を下げた。さすがに恒が謝ると思っていなかったのか、雷来は「もういいきゃ」とぶつぶつ言いながらそっぽを向いた。
「でも、雷来さんは遊びのつもりでも、彼女たちが怖がってしまったのも事実です。やっぱり相手を選ぶなりしないと」
 その傍らから、七重がしっかりと釘を刺す。
「……おいらだって遊びたいきゃ。めったに人が来ないのに、そんなのつまんないきゃ」
 雷小僧はふたたびぷうっとふくれて、口をへの字に曲げた。
「ね、お友達になろうよ」
 そんな雷来にみあおはにっこりと声をかけた。雷来は、驚いたような顔をしてみあおの顔を見る。
「みあお、また遊びにくるよ。だから、もう寂しくないよ、ね?」
 さらに微笑みかけるみあおに、雷小僧は照れたような顔をしてこっくりと頷いた。
「じゃ、みんなで記念写真ね!」
 みあおはデジカメを取り出すと、少し離れたところでモーリスの横に呆然とたたずんでいる少女を手招いた。他の面々も、何となくみあおの言うままに固まる。
「はーい、タイマーかけたよ」
 全員が入るようにデジカメをセットし、みあおは列に加わった。数秒後、シャッターと共に、この人騒がせな事件の幕も下りた。

「あの…、」
 少女を家へと送り、再びモーリスの車に乗り込もうとしたその時、少女が恒を呼び止めた。
「ありがとう、ございました」
 そう言ってぎこちなく頭を下げる。
「いやいや、俺何もしてないし。とんだ勘違いはしちまったけどな」
 またやっちまったよ、と恒は照れ笑いを浮かべて頭をかいた。
「いえ……、あの書き込みを信じてくれて、本当に来てくれて……、とっても嬉しかった」
 少女は唇を噛んで俯いた。
「あの晩……、本当は学校の不良っぽい子らに誘われて……、百物語の前にあそこでタバコとお酒やったんです。あたしはやらなかったけど、シンナーやった子もいて……、それで誰にも言えなかった。本当に、怖かったんです」
「そう……」
 恒は返す言葉も見つからずに、ただ少女を見つめた。改めて見ても、とてもタバコや酒を進んでするようなタイプには見えない。
「本当に、本当にありがとうございました」
 少女はもう一度深々と頭を下げた。
「恒くん、もういいですか?」
 反応に困り、立ち尽くしていると、運転席のモーリスの声がかかる。恒は慌てて座席に座った。
「恒くんもなかなか隅に置けないですね」
 発進した車の中で、モーリスがいたずらっぽく呟いた。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5432/早津田・恒/男性/18歳/高校生】
【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
【2557/尾神・七重/男性/14歳/中学生】
【2318/モーリス・ラジアル/男性/527歳/ガードナー・医師・調和者】
【5453/櫻・紫桜/男性/15歳/高校生】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。
この度は、『雷光寺』へのご参加、まことにありがとうございました。
そして、こんな軟派なオチで申し訳ないです……(汗)。OPで「バイクで事故」を「自転車で転んで○針縫う」くらいにしておけばよかった、とか雫に疑念の一言を言わせておけばよかったと密かに反省しております。
とはいえ、事件(?)の方は皆様のおかげで無事解決とあいなりました。ありがとうございます。
このお騒がせ小鬼、もしかしたらまたどこかで騒動を起こすやもしれません。またお会いすることがありましたら、よろしくお願い致します。

早津田恒さま

初めまして。この度はご発注をありがとうございます。
せっかく気合いの入ったプレイングを頂いていたのに、ごめんなさい。プロフィールにもおっちょこちょいとあったので、ちょっと勇み足を踏んで頂きました。
でも、依頼人の少女の心を一番救ったのは恒さまです。ありがとうございました。

ご意見等ありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。できるだけ真摯に受け止め、次回からの参考にさせて頂きたいと思います。

それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ、失礼致します。本当にありがとうございました。