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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


雷光寺

 薄明るい部屋の中で、電子の光が明滅する。それ自体はただの光であり、信号に過ぎないものが、ネットの世界では大量の情報となって氾濫し、混沌の海を形作る。
 尾神七重は、その光を顔に浴びながら、慣れた手つきでマウスを操作し、画面をスクロールさせた。が、ふとその手が止まる。

――――――――――――――――――――――――――――――――
◆助けて!

 うちの周りの怪奇スポットで、鬼が出るって有名な有名な雷光寺で、友達と5人で百物語したの。2周したところで、いつの間にか1人増えてて、「お前ら全員食うてやるぞ」って。
 びっくりして慌てて逃げてきたんだけど、次の日、そのうちの1人が転んで怪我して。それから次々みんな怪我するの。
 2人目は階段踏み外してねんざ。3人目は、バイクで転んで骨折。そして4人目は昨日、ひき逃げに遭って、まだ意識が戻らない。
 怪我がだんだんひどくなっていってるの! 次はあたし……?? このままじゃ、あたしはどうなるの?
 お願い、助けて、助けて!
――――――――――――――――――――――――――――――――

 よっぽど怯えているのだろう、その文章は乱れていて、お世辞にも整っているとは言えない。
「雷光寺……」
 七重は小さく呟いた。
 大手怪奇サイトゴーストネットOFFの掲示板に書き込まれた内容だ。必ずしも真実とは限らない。けれど、少なくとも緊急性は高そうだ。調査してみる価値はあるだろう。
 七重はサイトを切り替え、雷光寺の場所を調べた。どうやら今七重がいる自宅から、多少の距離はあるものの、さほど遠くはない。行き方と、ついでにその近くの郷土資料館の場所を調べて、七重はパソコンの電源を落とした。
 そして、今着ている制服から、白の半袖シャツにベージュのロングパンツに着替える。怪奇スポットに数えられるような寺だ。埃まみれになりそうなその場所に制服で行くわけにはいかなかった。

 電車で数駅と、バスで10分程。七重はまず、郷土資料館の前に立っていた。途中、電車に同乗し、あるいはすれ違う人々が何度か七重を物珍しそうに見つめてきた。おそらく、七重の灰色に近い銀髪と赤みの差した瞳を奇異に感じたのだろう。もはやそのような視線に慣れっこの七重は、気にも留めなかった。
 資料館につくと、七重はすぐに雷光寺の資料を探し始めた。
 雷光寺で百物語をしていたという書き込み主たちは、鬼が現れた時、何の話をしていたのだろうか。その内容が鬼を怒らせてしまったのかもしれない。だとしたら、雷光寺の由来にそのヒントが隠されているだろう。それに、鬼自体、寺を根城にしているはずだ。仮に当事者たちに害悪を与えに行くにしても、寺を中心に動いているのではないだろうか。どちらにせよ、対処するには相手を知らなければならない。鬼が怒りに我を忘れているなら、縁の品なりを探し出し、自分を思い出してもらう。それで鎮まればよし、鎮まらなければ……。
 七重はその瞳に、暗い決意のこもった光を浮かべた。もしもの場合には、尾神の血から受け継いだその力を行使して、鬼を「破壊する」ことも辞さない、それだけの覚悟を秘めて、調べものを始める。
 古い書物をひもとけば、小さいながらも雷光寺の由来についての記述が見つかった。
 今を遡ること約300年、時代は江戸の中期。夏も盛りのある日、空から雷様が降って来たのだという。日照りに苦しむ村人たちが、雷様に村にとどまってくれるよう懇願し、お堂を建てて祀ったのが雷光寺の謂れらしい。
「そういえば……、雷も『鬼』ですね」
 日に焼けた頁を繰り、それ以上の記述がないことを確認して、七重はその本を閉じた。
 他の資料をあたってみると、伝承を集めた本の中に、「雷光寺で『鬼さんお入んなさい』と言ってから百物語をすると、最後の1話は鬼が語る」という記述があった。当事者たちが百物語をしたのも、この言い伝えにのっとってのことだろう。決して感心できる行動ではないが。
 郷土資料館でわかることはこれくらいのようだ。七重は書物を元の場所に返すと、そこを後にした。

 資料館から雷光寺までは、歩いて15分程だった。閑静な住宅街だったのが、しだいに古い民家が多くなり、時に手の入っていないような空家が混じる。そんな中に、忘れ去られたような一角があった。
 腰ほどの高さにまで茂った雑草の向こうに、古びたお堂が見える。どうやらこれが雷光寺らしい。知らずに前を通っても、寺とは思わないだろう。それほどまでに荒れ果てていた。ここが怪奇スポットになるのも納得がいく。
 皮肉な話だが、怪奇スポットになればかえって人は来るものらしく、お堂へと続く道は踏み固められて地面が露出していた。
「さて、どこから見て回りましょうか……というほど広くもなさそうですが」
 小さくひとりごちた七重は、ふとお堂へと続く木の階段の前に学生服に身を包んだ高校生らしい少年がいるのに気付いた。向こうもこちらの気配に気付いたらしく、振り返る。その顔にわずかに思案するような表情が浮かぶが、七重を前にしても、変に驚いたりとりつくろったりする様子はない。
「失礼ですが、このお寺の方ですか?」
 どこか老成さえ感じさせるような物腰で先に口を開いたのは、少年の方だった。
「……いいえ。インターネットの書き込みを見て来た者です」
「ひょっとしてゴーストネットOFFの?」
 七重の答えに、少年はさらに問いを重ねる。どうやらこの少年も七重と目的を同じくするらしい。七重が頷くと、少年は笑みを浮かべた。細身ながら、鍛え抜かれた雰囲気を持つ少年だ。
「鬼と対決するのですか?」
 七重が問い返せば、少年は軽く目を伏せた。
「俺は、できれば話をして説得したいと思っているけど、どうしてもダメなら……」
 もの静かながら、その口調には七重と同じ覚悟が伺える。
「僕も同じように思っています」
 どこか安堵ににたような感覚を覚えて、七重は軽く微笑んだ。

 少年は櫻紫桜(さくらしおう)と名乗った。聞けば、七重よりも1つ年上の高校生ということだった。七重が郷土資料館で調べたことを伝えながら、2人で寺の敷地内を探索する。とはいえ、どうもあるのは今にも崩れ落ちそうなお堂が1つだけらしい。その周りはただ草が茂り、空き缶やらお菓子のくずといったゴミが捨てられているくらいで、大したものは見つからなかった。
「やっぱり、お堂の方か……」
 一通り回った後で、紫桜が呟いた。
「そうですね」
 七重は相づちを打った。人の入らないような場所もじっくり時間をかけて見て回るつもりだったが、どうやら当てが外れたようだ。
 2人は腐りかけた木の段を注意深く上がり、お堂へと足を踏み入れた。天井のそこここに穴が空いているらしく、薄暗い建物の中に、幾筋かの光が差している。
「これは……」
 中を見て、紫桜が眉を寄せる。
「鬼が怒っても仕方ありませんね」
 七重も溜息をついた。
 お堂の片隅には、いくつものビールやチューハイといった酒類の空き缶や空き瓶、スナック菓子の袋やチョコレートの箱、そしてタバコの吸い殻が散乱して、悪臭を放っていた。
「これは、彼女たちが?」
 紫桜が注意深く空き缶の1つをつまみあげた。
「多分、そうだと思います。ここでいつ集まったのかは書いてありませんでしたが、そんなに前のことではないでしょう。ここ数日は雨が降っていましたから、その間、ここで宴会があったとは思えませんし」
 七重は、そう言って、雨漏りし放題の天井を見上げた。
「とりあえず、これは片付けておくか……。鬼と話をつけるにしても、これは掃除しておいた方がよさそうだ」
 紫桜の言葉に、なんだか割りきれない思いを感じつつも七重は頷いた。

 怪奇事件の調査に来て、寺の掃除をしているというのも妙な話だ。七重と紫桜は、近くのコンビにで入手したゴミ袋と金ばさみを手に、まず本堂にちらかっていたゴミを拾った。一応、缶とプラは分けて袋に入れる。不思議なもので、一度腹を決めて拾い始めたら、お堂の中の分だけでは物足りない気分になってくる。
「ついでだから外のも拾うか」
 紫桜の言葉に、七重も頷いた。ゴミを拾いながらだと先ほど見落としていたものも見つかるかもしれない。
 腰まである草をかきわけ、ゴミを拾いながら、七重は制服で来なくてよかったとつくづく思った。
「……おや?」
 不意に、縁の下のゴミを拾おうと覗き込んでいた紫桜が声を上げた。七重もすぐに側に寄り、紫桜の指す先を覗き込む。
 寺の土台部分を支える板に大きな割れ目ができており、その向こうに「何か」がいるような気配がするが、暗くてよく見えない。けれど、耳を良く澄ませば、寝息のような音も聞こえる。
「床下ですね」
「上から回るか」
 2人は頷き合い、再びお堂に戻った。お堂の床板はところどころ腐って抜けかけ、穴も空いていたが、2人が入り込めるほどの大きさの穴はない。
「床板……、はがしても良いものでしょうか……。もっとも、そのための道具もないのですが」
「後で元通りはめれば許してもらえるんじゃないかな。道具なら……」
 小首を傾げた七重に紫桜は答えて、おもむろに両手を合わせた。それをゆっくりと離せば、まるで手の中から生え出たかのように、そこに抜き身の刀が現れる。透き通るような鋭さと危ういまでの美しさを持つ、見事な刀だ。
「それ……」
 ただの刀ではない。人の手から出て来たというだけで当然ただの刀ではないのだが、それだけではないような気配を感じる。七重の言わんとすることを悟ったらしく、紫桜がその先を引き取る。
「周囲の気を糧に切れ味を増す刀……。どうやら俺を鞘にしているらしい。だから俺が持っても全然切れない。気を吸うと言ってもある程度はコントロールできるから……」
 つまりは、床板を切るのは七重の役目ということだ。どうも刀を持った自分の姿というのは想像しにくいものがあるが、この際仕方がない。
 七重はおそるおそる刀を受け取ると、床に突き立てた。まるで水に差し入れたかのように抵抗なくその刃は沈んでゆく。そのまま刃を滑らせれば、実に羊羹でも切るかのように、容易く1メートル四方の穴が空く。
 役目を終えた刀は、紫桜が触れれば、再び彼の体内へと消えて行った。
「さて……」
 改めて、2人して穴を覗き込む。
「俺が行こうか」
 紫桜が言う。床下はさほど高さがなく、本来なら小柄な七重の方が良いのだろうが、あまり丈夫そうに見えない七重を思いやってくれたのだろう。運動神経に自身のない七重は、素直にその申し出に甘えることにした。
 紫桜はこなれた動きで穴に下りると、床下へと姿を消した。七重は、何かあった時にすぐ援護できるよう、神経を研ぎすませて待つ。
 しばらくの後に、ごちん、と間抜けな音がした。気を抜かずに待っていると、近くに空いた床の穴から、何かがもそもそと這い出てきた。穴の縁に小さな手がかかり、モスグリーンのもしゃもしゃしたものがちらりと覗く。次に小さな角が出て来たかと思うと、6、7歳くらいの子どもの顔がひょっこりと現れた。
「うんしょっと」
 のんきなかけ声とともに、それは足を縁にかけ、ごろりと転がるように床の上に身体を持ち上げた。あらわになった背中には、小さいながらも雷太鼓。いわゆる虎皮のパンツを身につけた雷小僧は、髪と同じモスグリーンの三白眼を七重に向けた。
「客は2人だけきゃ。少ないきゃ」
 生意気な口調で不満げに言うが、その顔には嬉しくてたまらないのを何とか隠そうとしているような気配がある。
「あなたが300年程前に落ちて来たという雷様ですか?」
「そうきゃ。おいらは雷来(ライキ)。雷様きゃ」
 尋ねた七重に、雷小僧は満足げに胸を張った。
「……」
 これが怒りに我を忘れて人に危害を与える鬼だろうか。掲示板に書かれていた内容とのあまりの格差に、七重は反応に困ってただ雷来を見つめていた。
 遅れて、先ほど空けた穴から紫桜が戻り、身体中についた埃やクモの巣を払い落とす。
「2人とも、とりあえず座るきゃ」
 雷来が主人よろしく2人に座を勧めた。2人は顔を見合わせながらも、勧められるままに染みだらけの床に座った。
「聞きたいことがあるのですが」
 おもむろに紫桜が口を開く。
「数日前、ここで百物語をした女の子たちがいたと思うのですが、彼女たちに何かしましたか?」
「ん?『鬼さんお入んなさい』と言われたから入ったきゃ」
 雷来はこともなげにそう答えた。
「そうじゃなくて、怪我させたりとか、呪いをかけたりとか……」
「どうしてそんなことするきゃ?」
 続く七重の問いにも、雷来はきょとんとした顔をした。
「みんな喰ってやる、と言ったのは?」
「百物語は恐い話をするきゃ? 今までで一番怖がってもらえたきゃ」
「……」
 どうもこの雷小僧が嘘を言っているとも思えない。となると、あの百物語のメンバーが相次いで怪我をしたのは、「鬼」とは無関係ということになる。
 そういえば、最初の2人の怪我はごく日常的な不注意によるものだ。バイクにしても、ここ数日雨続きだったことを考えれば、事故が起こってもおかしくない。ひき逃げという大きな事件が不幸にして起こってしまったために、前3人の怪我をそれに結びつけてしまった、というのが真相なのだろう。
 2人が無言で考えを巡らせているのに構う風もなく、久しぶりに話し相手を得たらしい雷来は、空からうっかり落ちて来たこと、村人が自分のためにこのお堂を建ててくれたこと、最初は子どもたちがよく遊びに来ていたが、それもしばらくしてなくなったこと、いつの頃からか、ここで百物語をする人間が出て来たことを、次々に話した。
「そんなことより遊ぶきゃ。百物語するきゃ。今度は初めから入れるきゃ」
 ひとりはしゃぐ雷来に押されて、3人で車座になって座る。と、それぞれの前に鬼火が現れた。ろうそくの代わりということだろう。いつの間にか夕闇の迫って来ていたお堂の中に、鬼火に照らされた影がゆらゆらと妖しく揺れる。
 乞われるままに七重と紫桜が怪談をし、雷来の番になった。
「お前らみんな喰ろうてやるぞ」
 先日の時もこうしたのだろう、それまでのキンキン声とは打って変わり、地の底から響くような声で雷来が言う。それに合わせて鬼火が揺れ、お堂の壁に大きな鬼の影を映し出した。
 と、その時。
「いやああっっ!」
 突如、お堂の外から金切り声の悲鳴が上がる。紫桜も、七重も、思わずそちらに気を取られたその一瞬。2人の間を1つの人影が走り抜け、雷来に向かって拳を振るう。
「え?」
 咄嗟のことで、紫桜も七重も、そして雷来も動けなかった。
「ふぎゃっ」
 一瞬、驚いた顔をした闖入者は、自らの拳を止めようとしたようにも見えたが、その努力も虚しく、気合いの入った一撃をもらった雷来はお堂の床へと転がった。
「……」
 紫桜も、七重も、そして神聖都学園高等部の制服に身を包んだその闖入者も、言葉を失ってただ呆然とその場に固まっていた。時間が止まっていたかのようなその場に、今度は銀髪の小柄な少女が駆け込んでくる。それは七重にとっては既に顔見知りの海原みあおだった。
「あーっ。可愛いっ! 雷さんだぁ」
 みあおは、転がっている雷来を見て、実に嬉しそうな声をあげた。
「……痛いきゃ! いきなり何するきゃ!」
 やっとのことで起き上がった雷来が、キンキン声で文句を言う。
「ね、こっちおいでよ」
 そんな騒ぎに構うことなく、みあおはお堂の外に向かい、手招きをした。

 みあおに呼ばれてお堂に入って来たのは、どうやら今回の書き込み主らしい少女と、彼女を支えるように付き添っている金髪の青年、やはり七重とは顔見知りのモーリス・ラジアルだった。先ほど乱入してきた男子高校生は初めて見る顔だったが、早津田恒(はやつだこう)と名乗った。3人はやはりゴーストネットOFFの掲示板を見て、書き込み主とコンタクトをとり、ここに来たのだという。
 いきなり殴られてすっかりへそを曲げた雷来に代わり、七重と紫桜が事情を説明する。話を聞いて自分の早合点を悟った恒は、困惑顔で頭をかいた。
「じゃ、2周目の終わりってのは?」
 みあおの問いに、雷来はちらりと視線を戻し、膨れっ面のままで口を開いた。
「最近の人間は99までやらないきゃ。たまーに来たらいっつも2周で終わるっきゃ」
 確かに、怪談のネタなど2つもあれば良い方だろう、一般人にとっては。
「『喰ってやる』というのは、言ってみれば彼の持ちネタだそうです。さっきもそうですが、決して悪意はなかったはずですよ」
「でもっ! 次の日からみんな怪我して……」
 七重の言葉に、少女はうわずった声をあげた。
「ひき逃げに遭った友達には気の毒なことに不幸な事故だったと思うけど……。あとはみんなちょっとした不注意で起きた怪我じゃないかな? 怖い怖いと思っていると、つい注意がおろそかになって、本当に怪我してしまう。後ろめたいことがあるなら、なおさらね。ここでしてたのは百物語だけ?」
 紫桜が静かに言うと、少女は小さく息を呑む。やはり、あの酒類の缶やタバコの吸い殻は少女たちのものだったらしい。
「済んだことを今ここで責めるつもりはないけど、これから先、同じことを繰り返すのはやめた方がいいと思うけどね」
「……」
 紫桜の諭すような言葉に、少女は唇を噛んで俯いた。
「あー、久しぶりに入れたと思ったら、とんだ災難きゃ。おいらが人間に怪我さしてるなんていいがかりもいいとこっきゃ」
 横目でじっとりと恒を見ながら、雷来はぷんすか怒っている。
「わりぃ、わりぃ、この2人が襲われてるように見えたもんだから、つい……。俺が悪かった。すみませんでした、許して下さい」
 困惑顔で頭をかいた後で、恒は勢い良く頭を下げた。その清々しいまでの潔さに、雷来も責め手を失ったらしく、ぶつぶつ言いながらもそっぽを向く。
「でも、雷来さんは遊びのつもりでも、彼女たちが怖がってしまったのも事実です。やっぱり相手を選ぶなりしないと」
 七重は一応釘を刺しておいた。今回、うかつに雷来の領域に足を踏み入れたのは彼女たちの方だろう。けれど、今の世では、騒ぎになった時に居場所を失うのは、妖しであり、異端の方なのだ。
「……おいらだって遊びたいきゃ。めったに人が来ないのに、そんなのつまんないきゃ」
 雷小僧はふたたびぷうっとふくれて、口をへの字に曲げた。
「ね、お友達になろうよ」
 そんな雷来にみあおはにっこりと声をかけた。雷来は、驚いたような顔をしてみあおの顔を見る。
「みあお、また遊びにくるよ。だから、もう寂しくないよ、ね?」
 さらに微笑みかけるみあおに、雷小僧はこっくりと頷いた。
「じゃ、みんなで記念写真ね!」
 みあおはデジカメを取り出すと、少し離れたところでモーリスの横に呆然とたたずんでいる少女を手招いた。他の面々も、何となくみあおの言うままに固まる。
「はーい、タイマーかけたよ」
 全員が入るようにデジカメをセットし、みあおは列に加わった。数秒後、シャッターと共に、この人騒がせな事件の幕も下りた。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5432/早津田・恒/男性/18歳/高校生】
【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
【2557/尾神・七重/男性/14歳/中学生】
【2318/モーリス・ラジアル/男性/527歳/ガードナー・医師・調和者】
【5453/櫻・紫桜/男性/15歳/高校生】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。
この度は、『雷光寺』へのご参加、まことにありがとうございました。
そして、こんな軟派なオチで申し訳ないです……(汗)。OPで「バイクで事故」を「自転車で転んで○針縫う」くらいにしておけばよかった、とか雫に疑念の一言を言わせておけばよかったと密かに反省しております。
とはいえ、事件(?)の方は皆様のおかげで無事解決とあいなりました。ありがとうございます。
このお騒がせ小鬼、もしかしたらまたどこかで騒動を起こすやもしれません。またお会いすることがありましたら、よろしくお願い致します。

尾神七重さま

初めまして。この度はご発注をありがとうございました。
七重さんには、プロフィールから、事象に対する冷徹な眼差しと言いますか、生い立ちや出生を背後にした独特の凄みのようなものをお持ちの方かと思いました。
そのような面がうまく描けているかどうか、気がかりではありますが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

ご意見等ありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。できるだけ真摯に受け止め、次回からの参考にさせて頂きたいと思います。

それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ、失礼致します。本当にありがとうございました。