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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


まおみん

●プロローグ

「余は未来の魔王なのじゃ!!」

 と、そのちっさなお子様は威張ってました。

 しかも秋葉原のど真ん中で。

 逃げてー! ショタなお姉様たちに食べられちゃうー!!

 ‥‥コホン。
 さて、その愛らしいご容姿に似合わず魔王さまは憎々しげな口調でおっしゃられます。
「そちに命じる! 余を世界一の魔王に育ててみよ!」
 育てるのですか? あなたさまを。
「そのとおりじゃ。余は魔王でありながら魔王のなんたるかをしらぬ。よって、余に魔王 についていろいろと教えるのじゃ」
 ですが、教えるといわれてもどのような事を‥‥。
「魔王たる者の相応しい知識、技、能力、理想の姿、振る舞いなどじゃ。そちの知る魔王についてのすべてをこの余に授けよ」
 おおせのままに。
 して魔王さま。褒美はいかほどでございましょう?
「ふん、余は魔王だぞ。望むままにあたえてやるのじゃ。しかし出世ばらいゆえしっかりと余を育てるがよいぞ!」

                      ☆

「――というヘンな子供がいるそうですよ。秋葉原に」
 剣の女神の巫女である鶴来理沙(つるぎ・りさ)の持ってきた怪しい噂話に、月刊アトラス編集長の碇麗香(いかり・れいか)は眼鏡をキラーンと光らせた。
「よくやったわ! 今月の特集はこれで決まりね!」
 はりきる麗香に不吉な予感を覚える理沙であった。


 ちなみに、魔王さまは学習力が高く魔力も膨大なので、砂が水を吸い込むようにあなたが教えたことを吸収し、成長を遂げることでしょう。
 ただし、魔王さまは純粋なハートの持ち主。
 くれぐれもおかしなことは教えなさいませぬように。


【シナリオ傾向 魔王さま育成/お礼は期待しないでください】

※尚、「魔王さま育成コース」と「勇者さま育成コース」(草間興信所)がございます。
 この両者のバトルが発生するかもしれません。


●まおみんと5人のコーチ!

  海原 みその(うなばら・みその) は、じーっと彼を見ていた。
 不思議タウン秋葉原にありながらなお周囲から浮いている小さな子供――――魔王様を。
 じー。‥‥。
 じー。‥‥。
 さらにじー。
「ええいっ! さっきからそちはなんだというのじゃっ!?」
「アキハバラに御方に迫るための衣装を買いに来ておりましたが、魔王様がいらっしゃるとは。流石、アキハバラですね」
 こともなげにさらりと答えて、みそのは礼儀正しくお辞儀をした。魔王は彼女の余裕が気に触ったのか、頬をふくらませながらキツクにらみつける。‥‥だが、なぜだかみそのは小さく手を打って喜んだ。
「愛らしいお姿‥‥御方へのいいお土産話になりそうです♪」
「むう、そちは余を恐れぬというのか。‥‥いい度胸をしておる。気に入ったぞ!」
「わたくしも魔王様を気に入ってしまいましたので。おあいこですね」
 変わらずムスッした魔王とニコニコ顔のみその。しかし、二人は心のどこかで分かり合えたようでもあり。
「しかし変わった着物を召しているな、そちは」
「はい♪ この衣装は漆黒のシンプルなエプロンドレスのメイドです。アキハバラの正装で、目立たない格好ですから」
「しかし余の観察するところ、察するに充分目立っておるように感じるのじゃが」
 たしかに秋葉原にメイドさんは多いが、みそのほど本格的なメイドさんオーラをかもし出しているメイドさんはやはりまれである。
「それはそれ、アキハバラですもので」
「なるほどのう。人間世界とは奥が深いものよな」
 感心したように魔王は頷いた。
 ――魔王様、それ、丸め込まれてますって!!
「気をつけたまえよ、魔王くん。この秋葉原はあやしい大人でいっぱいだからね」
 不思議な女性が魔王に声をかけた。
 体格に男女の特徴がなく中性的で、老人のような服装を粋に着こなしている。
 彼女は、 内山 時雨(うちやま・しぐれ) ――
 今までに何一つ偉業を成し遂げていない時間の浪費者であり、一見上品に見えるが、いい加減でちょっと下品な一面も併せ持つ不思議な人、それが時雨なのだ。
 そして、時間の消費者にとって秋葉原こそがまさに聖地! ――という妄言もいえなくはない。
「‥‥そち、人を装ってはいるがただものではないな?」
「ふっ、さすが魔王を名乗るだけはあるようだ」
 彼女は魔王の言うとおり、人を装って生きているが、正体は仏教流入以前から存在する非常に古いタイプの鬼である。――詩歌、双六、音曲等を好む芸術家肌で、和洋問わずよく嗜む。
「歓迎してあげるよ、魔王陛下。キミはなかなかに筋がいい」
 人当たりが柔和そうな外見に反して、奔放というかぞんざいな言葉遣いに魔王様は内心、驚かされる。なかなかに読めない人物のようだ。

「目立つ人の周りには人が集まっちゃうんですね‥‥」
 双眼鏡を片手に、少し離れた電柱の影から魔王様を観察もとい見守っていた鶴来理沙だが、魔王のカリスマに戦慄を隠せない。
 そんな中、また一人魔王の少年に近づく影が‥‥。
  木幡 陣七(きばた・じんしち) は自然な身振りで会話に入りこむ。
「ほう! これはかわいらしい方ですねー。これで魔王なんだ――」
 このとき、陣七の瞳が獲物を見つけたように輝いたことに魔王様は気づかなかった。
「うむ、余は魔王じゃ! いずれ世界を征服するものとして覚えておくがよか――」
 割り込むようにカーンと頭の中で鳴り響くゴングの音と共に、陣七の司会者スイッチがあざやかに入った!
「つまり魔王! 魔王様ですか! まごうことなき魔王! いーやーこれは驚きですねェ。ゲームやファンタジー世界だけの住人に思われていた魔王様がこの大都会東京に現われるなんて、しかも何を好き好んでかこんなイロモノ街の秋葉原を歩いているという謎――実にマーベラスに感動的瞬間に私たちは今、立ち会っているのでーありましょーか‥‥ああ、なんという感激、もはや語る言葉も持ちません――!!」
「‥‥おい、いや、そち‥‥! 少しは‥‥」
 感涙する陣七の言葉の大洪水を前にして、魔王様もたじたじだ。魔王はもはやハイテンション司会者のペースに巻き込まれまいと抵抗するので精一杯だった。
 見た目は二十代半ばの青年である陣七だが、その正体は実は鳥類オウム目インコ科のキバタンであった。普段からとにかく口数が多く常に喋っているマイペースな司会者ぶりに、人々は仕切りの神かはたまた戦うハイテンションマシンガントークなどと名づけているかどうかは不明であるが、とにかくそれくらいマイペースな青年なのだ。延々としゃべりつづける陣七を遠い目で眺めていると、その時、新たなる乱入者が魔王の少年と邂逅する。
「えっへん、師匠と敬え!」
 突然の声に魔王は反応した。
「む、なにやつじゃ!! 姿をみせよ!」
 しかし、いくら見回してもそれらしい人影は見えない。
「おい、こっちだってこっち! こらー!」
 魔王様は視界を下げられた。そこにはマントをつけてなにやら対抗している鼬が一匹――。
 鎌鼬三番手の 鈴森 鎮(すずもり・しず) が胸を張ってふんぞり返っていた。
 ‥‥いたちの姿で‥‥。
 ふっ。
「ああー! 今おまえ、俺のこと鼻で笑っただろー!!」
「チビ助など余は相手にせぬ」
「何だよなまいき、お前だってチビじゃないか!」
「なっ、よ、余はチビなどではないわ!」
「やーいチビ助〜」
「なにおっ! このなまいきな無礼者が!」
 ちびっ子ふたりが天下の往来でケンカをしているところに、ひょいと軽い足取りでやってくる眼鏡の男性。
 彼こそ都内某所のビルの一角にひっそりと存在している『門屋心理相談所』の所長、 門屋 将太郎(かどや・しょうたろう) その人だ。
「はぁ? こんなお子ちゃまが魔王?」
「お、お子ちゃまだとっ!?」
 ‥‥‥‥。
「ぎゃはははっ!!」
 あまりの不似合いさに笑いを堪えきれず、大笑いしてしまう将太郎。
 アトラス編集部で噂を聞きつけて秋葉原に来てみた将太郎だったが、魔王と名乗るお子様が――――本当にお子様だった。なんだか鼬とケンカをしているくらいに。
「な、何がおかしい! それに余はお子様などではないぞ、ばかものめがっ!!」
 あはははは!! と人目をはばからない将太郎の笑い声はつづく。
「はは‥‥ははっ!! けほけほ‥‥だってな‥‥おまえ、噂を聞いてみれば‥‥」
 もう一度しげしげと魔王様のお姿を見て、「‥‥ぷっ」と噴出した口元を押さえる。ツボにはまったようだ。
 背を向けて肩を振るわせる将太郎に冷たい視線をむけて「ふん」とそっぽを向く。どこかいじけたようにも見える。
「ははっ、しょうがない奴だな‥‥まあいいか。それでおまえさんの名前はなんて言うんだよ?」
「余の名前か? 名前ならば‥‥まだない」
 と、魔王を自称する男の子は答えた。
 魔王様の話によると、名前とは栄誉であり存在そのものを表すそうだ。男の子は魔王となる宿命を背負いこの世界に現われた。しかし、本当の魔王になったわけではなく、この小さな男の子が真の魔王になれたときに、初めて名前が与えられるのだという。
「そりゃま、難儀な運命に生まれてきたもんだな‥‥」
 将太郎は少しだけしんみりした。


●海原 みその編
 漆黒エプロンドレスのメイドは、魔王についてのレクチャーに入った。
「まずは魔王様の心構えとしては『支配』が基本になるかと」
「支配――うぬ、基本じゃな!」
 メモ帳を片手に頷く魔王様。
「はい。破壊を主体に行いますと『破壊神』とか言われかねません。ですから、生かさず殺さずが人間に対しては基本姿勢になるかと」
 メモをとる‥‥。
「力としては押さえておきたいのが『破壊』系でしょうか。殺すため破壊するためではなく、魔王様の強大さを見せつけるために必要かと」
 メモをとる――。
「あとは『精神洗脳』系や『動物変化』系などで人間の僕を増やすのもひとつの手かと」
 さらにメモをとる魔王様――。
「いい読みをしておるな。余は頼もしい参謀を得たようじゃ」
 そしてここで一呼吸おくと――みそのは、そっと声を潜めた。
「あとこれも基本ですが、勇者と戦う事」
 緊張する空気。
 そう、魔王であるならばけして避けては通れない壁――それが勇者!!
 だが、みそのの次の言葉は意外なものであった。
「でも、勝っても負けてもいけないかと」
「ぬ、しかしそれではどのように致せとそちは申すのじゃ?」

「最近の流行はライバル関係や恋愛関係になることが主流になるつつありますから、“寝技”も色々とお教えいたしましょうか♪」
 みそのの笑顔にすっと艶やかな影が差した。

 ‥‥ここから先の魔王様の特訓は、なかなか語り難うございます‥‥。

・獲得アビリティ:【破壊魔術】【下僕】【枕技】


●門屋 将太郎編
「一言言っておく。魔王だか何だか知らねぇが、それが人にものを頼む態度か?」
 将太郎と魔王様の師弟関係はいきなり一触即発だ。
「偉大な魔王ってのはな『余に魔王の何たるかを教えてください。お願いします』って言うもんだ。わかったか?」
「余、余にそのようなことを申せと――!?」
「世の中、魔王だろうが何だろうが礼儀ってのが大事なんだよ。後、知識について教えてやろう」
 偉そうに言う将太郎に、魔王様はうなるように睨み付ける。
「余、余に‥‥」
「ん〜? きこえんな〜?♪」
「ぐぅ‥‥余に魔王の何たるかを教えてくれ‥‥」
「お願いします、は?」
「お願い‥‥するのじゃ‥‥!」
 ほう、と将太郎は感心した。プライドが高くて生意気なのは認めるが、それでいて魔王は将太郎の言葉を守ったのだ。なかなかできるものではない。
「いいぜ、気に入った。魔王の何たるかを教えてやろう――それはだな‥‥他人の弱みを握り、いびり倒すことだ」
「いびりたおす、とな?」
「そうだ。読心術でもストーカー紛いなことでも何でもいい。握ったもの勝ちなんだよ」
 魔王様は考え込む。
「は? 理解できない? だったら俺がみっちり鍛えてやろう!」
「いや、おおよそ理解できた。つまり、そちのように振舞えばよいわけじゃな?」
 はっはっは! 大声で笑い合う将太郎と魔王様。
 空気が‥‥! 空気が重いんですけど‥‥!!
 いきなりまじめな表情になり、将太郎が魔王様を凝視した。
「よし、魔王らしくしてやろう。理想の姿は‥‥そうだな、某魔法使いのパパっぽいのでいいだろ。俺がヘアスタイルを整えてやる♪」
 ハードムースと櫛を鞄から取り出して、将太郎は魔王の髪型をいじりまくる。その姿はとても楽しそうだ。
「どだ? これで立派な魔王様になっただろう? な?」
 鏡を見た魔王様は‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ものすごく微妙な顔をした。

・獲得アビリティ:【魔王的礼儀作法】【脅迫術】【魔王ヘア】


●鈴森 鎮編
 マントをつけて対抗している鼬が高い場所から、魔王に指示を下す。
「‥‥魔王といえば、手下の魔獣軍団は必須だ!」
「なるほど、それが魔王らしさなのじゃな」
 なんだか鼬の妙な思想のもと魔王様が洗脳されているように見えなくもない。
「でもくーちゃんや『わんこ』は別格の友達なので手下扱いしたら噛むぞ?」
「安心致せ。この世界はすべて丸ごと余の手下じゃ!」
「よーし、それじゃやってもらおうじゃないか。だったらまず、ご近所のわんこにゃんこを手なづけて軍団を作ってみるんだ! 世界が全部手下ならできるよな!」
「たやすいことを! 見ておるがよい!」
 こうして『魔獣軍団《わんこにゃんこ》』作戦は展開された。
「いざとなったら、ボスネコとの1対1の戦いで、実力でご近所ボスネコの座を奪う!」
「まかせておけっ!!」
 犬方面は‥‥飼い主さんたちから手なづけ(?)たり、野良の場合は実力を思い知らせたりするのだ。
 ‥‥ああ、なんて地道。
「でも地道なだけに、忠誠を勝ち得たらインスタントな手段でのパワーアップなんてメじゃない軍団ができあがるぞ〜」
 と炊きつけてみる。

 日がとっぷりと暮れようとしていた。
 肩で息をしながらそれでもやめようとしない魔王を、鎮が背中からその肩に手をおく。
 そっと何かを差し出した。
 ――――それは、一個のチョコレートだった。
 うん、と無言で頷いて、チョコレートを押し付けて休憩させると、鎮は代わりに出撃する。師匠としてへたばりそうな弟子のために。
 口だけ師匠では敬われないのだ。
 こうして、魔王は巨大な魔獣(犬やネコ)軍団を手に入れたのだった。

・獲得アビリティ:【魔獣軍団《わんこにゃんこ》】【調教術】【師匠の愛】


●内山 時雨編
「悪魔とは神に敵対するものに他ならない。神という絶対権力への反抗! それが君に出来るかね! ん!?」
 というわけで、時雨は特訓の方針として、ボクサーよろしくハングリーに魔王様を育てることにした。
 魔王様は恐らく負けず嫌いだろうと読み、そこをわざと煽る方向で特訓を行う。結果から言えば、この読みは見事に的中した。
 内山時雨――恐るべき勝負師だ。
「ハハ、その程度か。私ならこれくらいやるよ」
「な、なにおー! 余を侮辱するかっ!!」
 時雨の挑発という行為の中から、魔王様自身も自らを悪魔として、ひいては数多の悪魔を統べる存在として、冷酷さと部下を惹きつける魅力――特権階級としての嗜みを、時雨特有の美学に基づいて、テキトーに教えていく。
「なるほどな! まさに魔王的な美学だ!!」
 ‥‥半分くらい嘘かもしれないけれど‥‥。
 それはさておき、時雨は祈らずにはいられない。
(ミステリアスでトリッキーな、ロックスターのような魔王様に育ってくれますように!)
 時雨の魔王様での楽しみっぷりはただ事ではないようにも思われる‥‥。
 また、時雨は余裕を見て、プロレスを見に魔王様を連れて行った。悪役(ヒール)レスラーのやり方を思う存分学んでいただくためだ。
「パイプ椅子で殴る、レフェリーを突き飛ばす、サーベルを手に入場する、‥‥これらは悪の美学‥‥魔王に必須の感性だろう!?」
「うむ! うむ! たいへん勉強になるぞっ!!」
 魔王様はすっかりプロレスファンになってしまわれたようだった。

・獲得アビリティ:【ハングリー精神】【冷酷な性格】【悪のカリスマ】【悪の美学】


●木幡 陣七編
「いやあ、先ほどは失礼したね! 興奮するとつい中継してしまうんだよ」
「そういう事情ならば了承した。気にいたすな」
 さすが魔王様、奇矯な行動も受け入れる深き懐は支配者の器だ。
「それは光栄だよ! それじゃー、本題の特訓だけど――」
「一応、魔王とはいえ余は教わる身だ。気がねなく思う所存を述べるがよいぞ。余もいろいろな技や知識に興味があるのじゃ」
「そーうだなぁー。魔王様といえば、世界規模の恐怖・独裁政治を施すモンだよね?」
「魔王が世界の頂点に君臨するは世の理じゃ」
 人間として生活を始めたばかりの頃、陣七も色々と苦労してきた。だからこそ、ちっこい魔王様に親近感と同情を抱いてしい、手を貸してしまいたくなるのだ。
 ――ただ、陣七本人もまだ人間社会をわかっていないところがあるので、かなりズレているふしもあるが‥‥。
「じゃあさ、まずは悪の手先を増やさなきゃ! まずはほーむぺーじでも作って、魔王様の部下を募集するといいと思うよ!」
「む。ほーむぺーじ?」
 聞きなれない単語に魔王は首をかしげた。《ほーむぺーじ》で部下を募集とは――告知板のようなものだろうか。
「あと、独裁者といえば民衆を扇動する見事な演説術は欠かせないよね!」
「全ての民草は世に心酔するのじゃ!」
「あと、やっぱお姫様を誘拐してお嫁さんにしなきゃ‥‥じゃない?」
「姫とは、余の前の支配勢力者の宝であるからな、それを差し出させるというのは正しい考えじゃな」
 魔王はいたく満足そうだ。
「‥‥お姫様‥‥っていうと、多分未婚の女性を指すんだよね。そうすると」

「――――碇編集長とか、どうだろう」
 一瞬、場の空気が凍りついた。
「ちょっと怖そうだけど。あとは‥‥うー‥‥んんん」
 眉間に皺を寄せて、真剣に悩んでいる。
「魔王様になるのって難しそうだね」

・獲得アビリティ:【悪の手先軍団】【大衆扇動術】【お嫁さん《候補・碇麗香》】



●バトル!!!! ‐BATTLE‐

 ――――その日は、突然やってきた。
 場所は芝浦公園、東京タワーのすぐ近くだ。魔王と勇者、お互いがお互いの存在を感じて、導かれるように対峙した。
 誰もこの決闘には、手を貸すことも、アドバイスさえ許されない。これは二人の戦いなのだ。
 そして、戦いが始まった――――!!


 勇者は叫んだ。
「私は‥‥私は、あなたにだけは負けられないから‥‥!!」
発動:【自分探し】

 魔王は全く動じない。それどころか圧倒的な威圧感で勇者を怯ませている。
 その崇高さ、美しいまでに溢れる気高きオーラは、何人たりとも寄せ付けない絶対性すら感じさせた。
発動:【悪のカリスマ】
発動:【悪の美学】
発動:【魔王ヘア】

「ふん、小娘ごときが笑止千万!」
 しかも、戦いを見守る人間たちからも、魔王ファンが出始める。その優雅な物腰に感化され始めているのだ!
発動:【大衆扇動術】
発動:【魔王的礼儀作法】
発動:【悪の手先軍団】
発動:【下僕】

「あなたを倒します――覚悟なさい、魔王‥‥!!」
 勇者は仲間を呼んだ!
 しかし、まだ仲間を見つけられてはいなかった。
発動:【仲間の助力】×2

 魔王は、魔獣軍団を呼んだ。
 調教された犬猫が勇者を襲った。その数は侮れない。
発動:【魔獣軍団《わんこにゃんこ》】
発動:【調教術】

 獣の群れに囲まれても勇者は冷静を保っている。
 勇者は、水魔法を使った。
 犬や猫を吹き飛ばし、一帯が水流に包まれる。
 勇者は水の中を自在に移動した。
 水流で魔王を攻撃する。
発動:【動じない精神力】×3
発動:【水魔法】
発動:【水泳】

 魔王は水流攻撃に耐えている。
「そうこなくてはな‥‥戦いはこうでなくては」
 魔王は何かを企んでいる!
発動:【師匠の愛】
発動:【ハングリー精神】
発動:【冷酷な性格】

 勇者は、師匠の言葉を思い出した。
「いいか。気や念は妖魔を倒す――術より気を込めて殴る方が早くて手軽だ」
 勇者は、気の強烈な波動を放った!
発動:【気法拳】×3

「おっと、その力を余に当てたられるかのう?」
 魔王は、破壊魔術で波動を吹き飛ばした。圧倒的な力の差だ。
発動:【破壊魔術】

「ふふ、これが才能の差だ‥‥勇者よ、お前のような天武の才に見捨てられたものがこの余には勝てんのじゃ」
 勇者は、力の差に愕然とした。あれだけ練習した気法拳も通用しなかったのだ。
「ここで潔く降伏するなら、余の妃として支配した世界で生かしてやろうぞ‥‥」
発動:【脅迫術】
発動:【枕技】

「妃って‥‥お嫁さん‥‥!?」
その時、アトラス編集部の麗香がくしゃみをした。
発動:【お嫁さん《候補・碇麗香》】

「私は‥‥たとえ弱くても、あなたの言いなりになんてならない‥‥!」
 勇者は、勇気を振り絞り魔王の誘惑を拒絶した。
「ならば、力の差をその身でしるがよい!」
 破壊魔術が次々と勇者を襲う!
発動:【勇気の力】×4

 勇者は、どうにか攻撃に耐えていた。
 交差した腕で身を守り、倒れないで立ちつづける。
発動:【基礎体力】×6

 ‥‥しかし、その体は破壊魔術によりぼろぼろだ。
 魔王の勝利は目前だ。

 その時、魔王はみその言葉を思い出した。
 ‥‥でも、勝っても負けてもいけないかと‥‥。
「ふっ、命拾いしたな‥‥今日は見逃してやろうぞ‥‥」
 ヨタヨタと立ちあがる勇者に一瞥をくれると、冷笑を残して魔王は立ち去っていった。

発動:【勇者と引き分ける隠し能力】


 バトルの結果は、表面上だけ見れば引き分けだった。
 しかし、限りなく勇者の敗北に近い引き分けであることは、当の勇者ちゃんが一番理解していて、悔しさで何度も拳を地面にたたきつけながら涙を流す。

 そして、勇者はさらなる成長を誓うのだった。



●魔王様、本日の獲得能力


【魔王ヘア】
【大衆扇動術】
【魔王的礼儀作法】
【破壊魔術】
【脅迫術】
【悪の手先軍団】
【下僕】
【魔獣軍団《わんこにゃんこ》】
【調教術】
【師匠の愛】
【ハングリー精神】
【冷酷な性格】
【悪のカリスマ】
【悪の美学】
【枕技】
【お嫁さん《候補・碇麗香》】
【勇者と引き分ける能力】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1388/海原 みその(うなばら・みその)/女性/13歳/深淵の巫女】
【1522/ 門屋 将太郎(かどや・しょうたろう)/男性/28歳/臨床心理士】
【2320/鈴森 鎮(すずもり・しず)/男性/497歳/鎌鼬参番手】
【5478/木幡 陣七(きばた・じんしち)/男性/100歳/司会者】
【5484/内山 時雨(うちやま・しぐれ)/女性/20歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。
 それと大幅なシナリオ作成の遅延をしてしまい申しわけありませんでした。遅れ馳せながら、ここに今回のノベルを納めさせていただきます。
 参加していただいた皆さんには申し訳なく思っています。本当にすみませんでした。

 あと、今回のノベルではいくらか普段とは違った趣向を凝らしてみました。結果としては、魔王様お強いですねェという感じになりました。時代は悪なのでしょうか。
 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。